竜王は魔女の弟子
第21x話 姉という存在
それにしても瞬間移動は便利だ。
ほんの一瞬前は空き地にいたのに、すぐに自室に戻ってこれる。歩くのが億劫になってしまいそうだ。
俺がシャワーを浴びて出てくるころには、もう莉奈さんも、いつものように朝食の準備をしてくれていた。
もはやこの光景が当たり前のようになってきてしまっている。
莉奈さんはそのことについて、どう思っているんだろうか。彼女のことだから、厚意でやってくれているんだろうけど、改めて思うとなんだか申し訳ないな。
「莉奈さん、いつもありがとうな」
「えっ!? な、なに? 突然……」
莉奈さんは予期せぬ言葉に驚き、赤面して落ち着きをなくしてしまう。
「……嫌だったら、しなくてもいいんだからな?」
「いいんだよ。あたしもなんだか当たり前になっちゃったから、しないと逆に落ち着かなくてねー」
「……莉奈さんは、どうして俺にここまでしてくれるんだ?」
聞かずにはいられなかった。いつか聞こうと思っていたことだし、必ず聞いておきたかったことでもある。
俺のこの問いには、真面目モードの莉奈さんが答えた。
「……ホントのことを言うとね、自己満足みたいなとこもあるんだ」
「自己満足……? どうして?」
思いもしない言葉が莉奈さんの口から飛び出し、俺は続きを催促する。
「弟子にしてくれって言われたとき、すごい嬉しかったんだよ。双子とはいってもあたしは妹だから、ずっとお姉ちゃんに守ってもらって、助けてもらって、頼りにさせてもらったの」
「じゃあ、莉奈さんの守りたい大切な人っていうのは……」
「そう、お姉ちゃんのこと」
そのために強くなるって、あの時も言っていたな。
今でも充分強いと思うけど、守りたい人があの人なら、確かにもっともっと上を目指したくなるのもわかる。
「だから、誰かに頼りにしてもらえるのが嬉しかったの。……それに凌太くんは、ちょっと手のかかる弟みたいな感じだったからねー」
真面目な雰囲気を纏ったまま、莉奈さんは優しげに眩しい笑顔を見せる。
「要は、姉に憧れてたのか?」
「まー、簡単に言うとそうかもね。あ、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」
……見た目は妹の方が相応しい気がするけどな。
「呼ばねぇよ。莉奈さんのしてることは、どちらかというと嫁さんだろ?」
「い、いやいや、あ、姉だって、料理くらいするでしょ?!」
あからさまに動揺する。……本当に純情なんだな。
普段はちょっと残念なところもあるけど、頼りになるといえば、それは間違いない。そういう意味で、確かに俺にとっても姉と呼べる存在なのかもしれないな。
「俺は姉いないからわかんねぇよ……」
「……凌太くんも、あたしのお節介が嫌だったら言ってね?」
「嫌じゃねぇよ、全然。むしろ、その……助かってるし」
「あはっ、ありがとう」
その屈託のない笑顔に、不覚にも魅了されてしまう。
「というわけで、莉奈さん」
「な、何かな……?」
莉奈さんは俺の言葉の続きを察したのか、すぐに身構えた。
「湯上りだよな?」
「えっと、シャワーだけどね?」
「うん。だから、いいよな?」
「なにが、だから、なのかわからないんだけど?」
「お願いできないかな……、お姉ちゃん」
俺のプライドを捨てた会心の一撃に、莉奈さんは悔しそうに、しかしながらやや満足そうに折れる。
「しょうがないなぁ……少しだけね?」
「ありがとう、お姉ちゃん」
俺は莉奈さんをそっと抱き寄せて、まだ少し潤いの残る髪に触れ、優しく撫でる。
いつもの莉奈さんよりも、少し甘ったるいような感じがする。これはおそらくシャンプーの匂いなんだろう。
そうではなくて、俺が吸い込みたいのは莉奈さん自身の匂い。ここではダメとなると……。
「ちょっ、ちょっと、凌太くんっ?! くっ、くすぐったいよっ……」
俺は身を屈めて、莉奈さんの首筋に顔を突っ込む。
すると、さっきよりも甘さ控えめで、どこか切なくなるような、それでいて優しく包み込んでくれるような、そんな匂いが俺の鼻腔を伝って、俺の中に入り込んでくる。
そう、この匂いだ。やはり首の付け根の辺りが一番いい匂いがするな。
「……凌太くん、そろそろ……」
思いのほか時間は過ぎていて、登校時間も迫っていた。
「本当にありがとうな、莉奈さん」
「……どういたしまして」
そういえば、明日は休日か……。千条とトレーニングの約束があったな。
「莉奈さん、明日はパートナーとの練習があるから、朝練はパスでいいか?」
「うん、わかったよ」
「また週明けから頼むよ」
ほんの一瞬前は空き地にいたのに、すぐに自室に戻ってこれる。歩くのが億劫になってしまいそうだ。
俺がシャワーを浴びて出てくるころには、もう莉奈さんも、いつものように朝食の準備をしてくれていた。
もはやこの光景が当たり前のようになってきてしまっている。
莉奈さんはそのことについて、どう思っているんだろうか。彼女のことだから、厚意でやってくれているんだろうけど、改めて思うとなんだか申し訳ないな。
「莉奈さん、いつもありがとうな」
「えっ!? な、なに? 突然……」
莉奈さんは予期せぬ言葉に驚き、赤面して落ち着きをなくしてしまう。
「……嫌だったら、しなくてもいいんだからな?」
「いいんだよ。あたしもなんだか当たり前になっちゃったから、しないと逆に落ち着かなくてねー」
「……莉奈さんは、どうして俺にここまでしてくれるんだ?」
聞かずにはいられなかった。いつか聞こうと思っていたことだし、必ず聞いておきたかったことでもある。
俺のこの問いには、真面目モードの莉奈さんが答えた。
「……ホントのことを言うとね、自己満足みたいなとこもあるんだ」
「自己満足……? どうして?」
思いもしない言葉が莉奈さんの口から飛び出し、俺は続きを催促する。
「弟子にしてくれって言われたとき、すごい嬉しかったんだよ。双子とはいってもあたしは妹だから、ずっとお姉ちゃんに守ってもらって、助けてもらって、頼りにさせてもらったの」
「じゃあ、莉奈さんの守りたい大切な人っていうのは……」
「そう、お姉ちゃんのこと」
そのために強くなるって、あの時も言っていたな。
今でも充分強いと思うけど、守りたい人があの人なら、確かにもっともっと上を目指したくなるのもわかる。
「だから、誰かに頼りにしてもらえるのが嬉しかったの。……それに凌太くんは、ちょっと手のかかる弟みたいな感じだったからねー」
真面目な雰囲気を纏ったまま、莉奈さんは優しげに眩しい笑顔を見せる。
「要は、姉に憧れてたのか?」
「まー、簡単に言うとそうかもね。あ、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」
……見た目は妹の方が相応しい気がするけどな。
「呼ばねぇよ。莉奈さんのしてることは、どちらかというと嫁さんだろ?」
「い、いやいや、あ、姉だって、料理くらいするでしょ?!」
あからさまに動揺する。……本当に純情なんだな。
普段はちょっと残念なところもあるけど、頼りになるといえば、それは間違いない。そういう意味で、確かに俺にとっても姉と呼べる存在なのかもしれないな。
「俺は姉いないからわかんねぇよ……」
「……凌太くんも、あたしのお節介が嫌だったら言ってね?」
「嫌じゃねぇよ、全然。むしろ、その……助かってるし」
「あはっ、ありがとう」
その屈託のない笑顔に、不覚にも魅了されてしまう。
「というわけで、莉奈さん」
「な、何かな……?」
莉奈さんは俺の言葉の続きを察したのか、すぐに身構えた。
「湯上りだよな?」
「えっと、シャワーだけどね?」
「うん。だから、いいよな?」
「なにが、だから、なのかわからないんだけど?」
「お願いできないかな……、お姉ちゃん」
俺のプライドを捨てた会心の一撃に、莉奈さんは悔しそうに、しかしながらやや満足そうに折れる。
「しょうがないなぁ……少しだけね?」
「ありがとう、お姉ちゃん」
俺は莉奈さんをそっと抱き寄せて、まだ少し潤いの残る髪に触れ、優しく撫でる。
いつもの莉奈さんよりも、少し甘ったるいような感じがする。これはおそらくシャンプーの匂いなんだろう。
そうではなくて、俺が吸い込みたいのは莉奈さん自身の匂い。ここではダメとなると……。
「ちょっ、ちょっと、凌太くんっ?! くっ、くすぐったいよっ……」
俺は身を屈めて、莉奈さんの首筋に顔を突っ込む。
すると、さっきよりも甘さ控えめで、どこか切なくなるような、それでいて優しく包み込んでくれるような、そんな匂いが俺の鼻腔を伝って、俺の中に入り込んでくる。
そう、この匂いだ。やはり首の付け根の辺りが一番いい匂いがするな。
「……凌太くん、そろそろ……」
思いのほか時間は過ぎていて、登校時間も迫っていた。
「本当にありがとうな、莉奈さん」
「……どういたしまして」
そういえば、明日は休日か……。千条とトレーニングの約束があったな。
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