竜王は魔女の弟子
第20x話 特訓
そして翌朝、目を覚ますと、既視感のある状況に遭遇する。
「あ、おはよー」
「お、おう……。何してんの?」
「見てわかんないかなー」
昨日同様、莉奈さんは朝食を用意してくれていた。
とりあえず食べる。話はその後だ。
「で、何で今日もまた……?」
「だって、ほっといたら好き嫌いするでしょー?」
たしかに、今日も当てつけのようにニンジンが入っていた。
「パートナーは見つかったの?」
「まぁな」
「おー、早いねぇ。もっとかかるかと思ってたよー」
心底安心したような顔をされる。今日は心配で来てくれたのかもしれない。
「それで、莉奈さんに頼みがあるんだが」
「匂い嗅ぐのはダメっ!」
と、胸元で腕をバッテンにして見せる。
「えー……。って、そうじゃなくて、今大会は敵同士だけど、変わらず俺に稽古をつけてほしいんだ」
匂いは嗅ぎたいが、まずはこっちが優先だ。
「なんだよかったぁ……。別にいいけど、個人的にってこと?」
「あぁ。今俺に一番必要なのは、武術とか体術、戦闘能力そのものだから」
今は霊術はいらない。竜脈の力を使えば、そもそも霊術は使えないからな。
「んー、でも放課後は、あたしもペアのトレーニングがあるし……。朝練だったら付き合うよ?」
「わかった。じゃあ明日の朝から頼むよ」
「はいはーい。じゃあ、またねー」
そろそろ時間とみて、莉奈さんは瞬間移動で行ってしまった。
そのまま教室に行くと、つかつかとこちらに歩み寄ってくる不機嫌そうな女が一人。
「……おはよう」
「おはよう。……お前、なんでいつも不機嫌なの?」
「別に、不機嫌じゃないけど……」
驚いたように目を見開いてから、少し哀しいような、でもやっぱり不機嫌そうな、そんな表情をされる。
まさかこいつ、素であんな不機嫌そうな顔なのか……。
「もっと構えずに、柔らかくいた方がいいんじゃないか?そっちの方が、見栄えもいいだろ」
「う……、別に、あんたには関係ない」
「そうかよ、……かわいくねぇな」
雰囲気が悪くなり、お互い目も合わせないまましばらくの沈黙。しかし、こいつは立ち去ろうとしない。……ここは俺の席なのに。
面倒になり、俺の方から沈黙を破る。
「それで、何か用か?」
「……牧野のペアの相手、新川メイだって」
「え……それはマズいな……」
千条は新川に勝っているが、俺はどちらにも負けている。そうでなくとも、竜脈を使う上で、新川は非常に厄介な相手だ。
「何でよ? 確かに彼女は強いけど、昨日の力を使えば……」
「アホか。お前、新川の試合見てないのかよ?」
「見たけど?」
ホントにアホだった。どうしような、こいつ……。
「はぁ……。新川は霊術をほとんど使わない。よって、竜脈の力を使ったからってどうにかなる相手じゃない」
牧野は霊術を封じれば、奴の戦術そのものを覆せる可能性すらあるが、新川は素の戦闘能力が高すぎる。今のままではとても敵わない。
「お前も、少しは頭使ってくれよ……」
「っ…………」
千条は何か言い返そうとしたが、開いた口から言葉は出てこなかった。
翌早朝、莉奈さんの案内で適当な空き地に飛び、トレーニングを始める。
莉奈さんに打ち込んでもらっての防御訓練。続いて回避演習。そして最後に俺が打ち込みをさせてもらう。
「ど、どうですかね……」
朝は時間がないとはいえ、かなり密度の濃い鍛錬になり、さすがに息が上がってしまう。
「んー、なんていうか、単調かなー。回避も打ち込みも」
一方の莉奈さんは、全くと言っていいほど疲労の色が見えない。初めて会った時もその力強さに驚かされたが、なんて人だ……。
「単調……?」
「同じような動きばっかりで、変化がないから読まれやすいよ?」
「なるほど……」
たとえば、と莉奈さんは実際に見せてくれる。
「右からきた攻撃はその右に避ける、っていうのは、次の攻撃もそのまま回避しやすいからいいと思うけど……」
莉奈さんは俺の左腕を動かして、自分に拳を向けさせる。
「ここで右に避けたとき、相手がそのまま回し蹴りしてきたら、体勢も整えつつ、こっちに向き直られちゃうよね」
だけど、と莉奈さんは俺の右の拳を握らせる。
「ここであえて紙一重で懐に飛び込み、追撃としてきそうなこの右の拳を押さえたら、どうかしら?」
俺の右拳は莉奈さんの左手によって押し込まれ、前に押し出すことすらできない。さらに左腕は空振って伸びきってしまっている。
莉奈さんの右腕はフリーだから、絶好の攻めどころと言えるだろう。
……っていうか、近い。
汗の滴るその健康的な姿に、ついつい嗅覚を研ぎ澄ませたくなってしまう。
「ま、実際には霊術も絡んでくるから、そううまくはいかないけどねー」
そんな俺の思いを直観的に察したのか、莉奈さんは離れてしまった。
「回避っていうのは、ただ避けるだけじゃないの。攻撃に繋げる一歩目だと思って。そのためには、余裕をもってかわしているだけじゃダメ。こういう紙一重の回避も、できるようにならないとね」
「攻撃に繋げる、か……」
確かに、とにかく避ける、そればかりに意識がいっていたかもしれない。
ふと、牧野との試合を思い返してみる――。
あいつは確かに、避けながら、俺の攻撃の癖、間合いを測っていた。そしてそれが、決定打に繋がってしまった。
「じゃあ、今日はここまでね。あたしはシャワー浴びてくるから、凌太くんも浴びときなよ?」
「あ、莉奈さん、その前に!」
「匂い嗅ぐ以外のこと?」
「い、いや……ごめん」
バレてましたか……。汗だくの状態の莉奈さんの匂いも嗅いでおきたかったんだけど、仕方ないか……。
「あ、おはよー」
「お、おう……。何してんの?」
「見てわかんないかなー」
昨日同様、莉奈さんは朝食を用意してくれていた。
とりあえず食べる。話はその後だ。
「で、何で今日もまた……?」
「だって、ほっといたら好き嫌いするでしょー?」
たしかに、今日も当てつけのようにニンジンが入っていた。
「パートナーは見つかったの?」
「まぁな」
「おー、早いねぇ。もっとかかるかと思ってたよー」
心底安心したような顔をされる。今日は心配で来てくれたのかもしれない。
「それで、莉奈さんに頼みがあるんだが」
「匂い嗅ぐのはダメっ!」
と、胸元で腕をバッテンにして見せる。
「えー……。って、そうじゃなくて、今大会は敵同士だけど、変わらず俺に稽古をつけてほしいんだ」
匂いは嗅ぎたいが、まずはこっちが優先だ。
「なんだよかったぁ……。別にいいけど、個人的にってこと?」
「あぁ。今俺に一番必要なのは、武術とか体術、戦闘能力そのものだから」
今は霊術はいらない。竜脈の力を使えば、そもそも霊術は使えないからな。
「んー、でも放課後は、あたしもペアのトレーニングがあるし……。朝練だったら付き合うよ?」
「わかった。じゃあ明日の朝から頼むよ」
「はいはーい。じゃあ、またねー」
そろそろ時間とみて、莉奈さんは瞬間移動で行ってしまった。
そのまま教室に行くと、つかつかとこちらに歩み寄ってくる不機嫌そうな女が一人。
「……おはよう」
「おはよう。……お前、なんでいつも不機嫌なの?」
「別に、不機嫌じゃないけど……」
驚いたように目を見開いてから、少し哀しいような、でもやっぱり不機嫌そうな、そんな表情をされる。
まさかこいつ、素であんな不機嫌そうな顔なのか……。
「もっと構えずに、柔らかくいた方がいいんじゃないか?そっちの方が、見栄えもいいだろ」
「う……、別に、あんたには関係ない」
「そうかよ、……かわいくねぇな」
雰囲気が悪くなり、お互い目も合わせないまましばらくの沈黙。しかし、こいつは立ち去ろうとしない。……ここは俺の席なのに。
面倒になり、俺の方から沈黙を破る。
「それで、何か用か?」
「……牧野のペアの相手、新川メイだって」
「え……それはマズいな……」
千条は新川に勝っているが、俺はどちらにも負けている。そうでなくとも、竜脈を使う上で、新川は非常に厄介な相手だ。
「何でよ? 確かに彼女は強いけど、昨日の力を使えば……」
「アホか。お前、新川の試合見てないのかよ?」
「見たけど?」
ホントにアホだった。どうしような、こいつ……。
「はぁ……。新川は霊術をほとんど使わない。よって、竜脈の力を使ったからってどうにかなる相手じゃない」
牧野は霊術を封じれば、奴の戦術そのものを覆せる可能性すらあるが、新川は素の戦闘能力が高すぎる。今のままではとても敵わない。
「お前も、少しは頭使ってくれよ……」
「っ…………」
千条は何か言い返そうとしたが、開いた口から言葉は出てこなかった。
翌早朝、莉奈さんの案内で適当な空き地に飛び、トレーニングを始める。
莉奈さんに打ち込んでもらっての防御訓練。続いて回避演習。そして最後に俺が打ち込みをさせてもらう。
「ど、どうですかね……」
朝は時間がないとはいえ、かなり密度の濃い鍛錬になり、さすがに息が上がってしまう。
「んー、なんていうか、単調かなー。回避も打ち込みも」
一方の莉奈さんは、全くと言っていいほど疲労の色が見えない。初めて会った時もその力強さに驚かされたが、なんて人だ……。
「単調……?」
「同じような動きばっかりで、変化がないから読まれやすいよ?」
「なるほど……」
たとえば、と莉奈さんは実際に見せてくれる。
「右からきた攻撃はその右に避ける、っていうのは、次の攻撃もそのまま回避しやすいからいいと思うけど……」
莉奈さんは俺の左腕を動かして、自分に拳を向けさせる。
「ここで右に避けたとき、相手がそのまま回し蹴りしてきたら、体勢も整えつつ、こっちに向き直られちゃうよね」
だけど、と莉奈さんは俺の右の拳を握らせる。
「ここであえて紙一重で懐に飛び込み、追撃としてきそうなこの右の拳を押さえたら、どうかしら?」
俺の右拳は莉奈さんの左手によって押し込まれ、前に押し出すことすらできない。さらに左腕は空振って伸びきってしまっている。
莉奈さんの右腕はフリーだから、絶好の攻めどころと言えるだろう。
……っていうか、近い。
汗の滴るその健康的な姿に、ついつい嗅覚を研ぎ澄ませたくなってしまう。
「ま、実際には霊術も絡んでくるから、そううまくはいかないけどねー」
そんな俺の思いを直観的に察したのか、莉奈さんは離れてしまった。
「回避っていうのは、ただ避けるだけじゃないの。攻撃に繋げる一歩目だと思って。そのためには、余裕をもってかわしているだけじゃダメ。こういう紙一重の回避も、できるようにならないとね」
「攻撃に繋げる、か……」
確かに、とにかく避ける、そればかりに意識がいっていたかもしれない。
ふと、牧野との試合を思い返してみる――。
あいつは確かに、避けながら、俺の攻撃の癖、間合いを測っていた。そしてそれが、決定打に繋がってしまった。
「じゃあ、今日はここまでね。あたしはシャワー浴びてくるから、凌太くんも浴びときなよ?」
「あ、莉奈さん、その前に!」
「匂い嗅ぐ以外のこと?」
「い、いや……ごめん」
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