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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第17x話 パートナー

意識を取り戻した時、傍らには俺の手を握りながら、心配そうに、哀しそうに俺を見つめる莉奈さんの姿があった。
「莉奈……さん」
「おはよう。いい勝負だったよ」
莉奈さんの、優しさに溢れるその微笑みに、なぜだかこみ上げてくるものを抑えきれず、顔を背けてしまう。
すると莉奈さんは、俺の頬に手を伸ばし、抱き寄せてくれる。
俺は抵抗せずに、彼女の薄くも温かい胸に顔を埋めて、静かに感情を放出した。


しばらくして、落ち着きを取り戻すが、まだこのまま抱き締められていたい気分だった。
「勝ちたかった……」
「……自分に足りないもの、わかった?」
「あぁ。……これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
何もかもが足りなかった。今のままでは、あいつには到底敵わないだろう。
「……そうだ、莉奈さん。一つ、言っておこうと思ってたんだが」
「ん? なぁに?」
「莉奈さんって、いい匂いするよな」
「いやっ、ちょっとっ!?」
俺の一言を聞いたとたん、莉奈さんは瞬間移動で後退し、はわわ……、とあざとく顔を真っ赤にしている。
「何で逃げんの……?」
「……バカぁっ」
わざとらしく匂いを嗅ぐ仕草をすると、頭を軽くチョップされた。
「痛っ、褒めてんのに……」
「素直に喜べないよー……」



翌朝目が覚めると、美味しそうな匂いが鼻をつく。ここは俺の部屋のはずだが、何が起きている……?
「おはよー、凌太くん」
「おう……。……あ?」
「へ?」
莉奈さんは、さも当たり前のように朝食を準備していた。……相変わらずエプロンが似合わないな、この人は。
「何で?」
「まぁまぁ、ひとまずご飯にしようよ」
「それもそうだな」
莉奈さんの作ってくれた洋風の朝食に舌鼓を打ちつつ、再度質問する。
「それで、何しに来たの?」
「朝ごはん、作ってあげようと思って」
「ふーん……」
ふと視線を下げる。絶壁とは言わないが、丘陵と呼ぶには薄っぺらいそれは、間違いなく莉奈さんだ。偽者というわけではないらしい。
「ちょっとー、今失礼なこと考えなかった?」
「別に。……ほれ、あーん」
「えっ? あ、あーん……」
俺は自分の皿から、蒸してあるニンジンを莉奈さんの口へ運ぶ。
「ど、どうしたの?急に」
「……気が向いただけだ」
そして再びニンジンをフォークで刺し、莉奈さんに差し出す。
「あーん」
「……あーん。……あの……」
「何だ?」
莉奈さんは何も言わず、少し訝しげに俺を見つめている。
さすがに気づかれたか……?
「凌太くんも、はい、あーん」
「い、いや、俺はいいよ」
「何でー?」
顔は笑っているが、ピンポイントでニンジンをチョイスしてくるあたり、勘づかれているようだ。
「……ニンジン、嫌いなの?」
「……まぁ、はい……」
「ちゃんと食べなさい? あたしだって、栄養考えて作ってるんだよ?」
なんて家庭的な人なんだ。……見た目とは大違いだ。
確かに莉奈さんの料理は美味しいが、ニンジンは別だ。ニンジンというのは存在そのものがまず受け付けない。莉奈さんが作ったから大丈夫とか、そんなことは関係ない。
「じゃ、じゃあ、ちゃんと食べたら、その……、後でぎゅぅーってしてあげる……」
「よし、食おう」
俺は即答し、莉奈さんの皿からニンジンをかっさらって、涙を飲みつつ完食した。しかし、思ったより不味くはなかった。
「さて、約束だ。ぎゅぅーってしてもらおう」
「…………。ぎゅ、ぎゅぅーっ……」
莉奈さんは恥ずかしそうに、俺の胸にしがみついてくる。彼女の鼓動が加速し、体温が上がっていくのがわかる。
彼女の明るい茶色の髪を掻き撫でると、彼女からいい匂いが広がっていく。
「本当にいい匂いするな、莉奈さん」
「……どんな匂い?」
「俺を幸せにする匂い」
言ってて恥ずかしくなったが、他に言葉が浮かばなかった。言葉などでは到底表現できないような、そんないい匂いだった。
「ばか……」
その言葉には欠片も怒気はなく、俺の欲望を素直に受け止めてくれるような、そんな温かみを感じた。


「……なぁ、来月の双葉杯だけど」
「あー……、ごめん。あたし、もうペア決まってるんだ」
最後まで言う前に、断られてしまった。まぁ、莉奈さんがパートナーでいいか、なんて浅はかな考えだったのかもしれないが、味方だったら心強いことこの上ないのも事実だった。
「そ、そんな……。……お、男、か……?」
「なぁに? 嫉妬してるのー?」
そんなことを言いながら、わざとらしく挑発的な眼差しを送ってくる。
「……ただ気になっただけだ」
「心配しなくても、相手は女の子だよ」
なぜだか心底安心してしまう。別に、嫉妬しているわけじゃない……と思う。そもそも嫉妬するってことは、前提として、俺が莉奈さんに惚れてるってことだ。俺がこの人を女性として好きだなんて……、そんなことはないだろう。それこそ犯罪一歩手前だ。
「もしかして、凌太くんって、友達いないの?」
莉奈さんは、そんな残酷なことを平気な顔をして口走った。……無邪気っていうのは恐ろしい。
「悪かったな……」
「だったらこの機会に、友達作ったらいいと思うよ。……一人くらいは、いた方がいいだろうし」
そんな簡単に作れるなら、俺がいまだに友達がいないなんてことはないはずだ。自分に全く非がないとも思わないが、友達という存在に魅力を感じないというのもある。
だが、双葉杯に出場するなら、それなりに信頼できるパートナーが必要だ。力量で考えるなら、高月が理想的ではあるが、あいつは俺が倒すべき相手。立ちはだかってもらわなければ困る。となると……。

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