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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第13x話 十六夜

莉奈さんは少し考え込んでいるようで、なかなか返事をもらえない。


「……あたしで、本当にいいの?」
「莉奈さんの元で、俺は強くなりたい。強くなりたいんだ……」
「……いいよ」
顔を上げると、そこには莉奈さんがさっき見せた、すべてを包み込んでくれるような、温かな微笑みがあった。


と思いきや、普段の調子に戻る。
これじゃあ、どっちが素なのかわかんないな……。


「凌太くんは今、新星杯の成績はどんな感じなの?」
「十六勝一敗だ」
「わー、結構優秀なんだねぇ。あと三戦かぁ……」
莉奈さんはおもむろに電子生徒手帳を取りだし、現在のランキングを調べ始めた。


「この辺りでどう……?」
そう言って俺に見せた三人は、現在の一位、二位、五位だった。俺は三位だから、妥当と言えばそうだ。


「ちなみに、一敗は誰に?」
「新川メイだ。……あいつには、十戦やっても一度も勝てる気がしない」
「あはは、あの子は強いよねー。かわいいし」
「可愛いかどうかは関係ないだろ……」
たしかに、可愛くないとは言わないが。


「じゃあ、明日はまず手始めに、二位の愛璃亜ありあちゃんにしよっか」
「一位からじゃないのか」
「んー、美鳳ちゃんはしっかり対策しないと厳しいだろうからねー。愛璃亜ちゃんの方がまだ隙があるし、対策法も考えてあるから」
幼い口調ながら、その冷静な分析に、思わず閉口してしまう。


「……ちゃんと頭使ってるんだな」
「むぅ……失礼な後輩ね。あと、先輩には敬語使うようにした方がいいよ? あたしにはいいけどさぁ」
よく言われるが、たかが一つや二つ歳が違うからなんだって言うんだ、と思っているので、改めようとは思わない。
現にこうやって、年上なのに年下みたいな人もいるしな。


「はいはい。……覚えてたらな」
「あ、ちょっとっ、もぅーっ!」
時間も遅くなっていたせいか、俺は堪えきれず、眠りの世界へいざなわれていった。



翌朝目が覚めると、俺はまたベッドの中にいた。
……莉奈さんには、再三に渡って世話になってしまったな。


起き上がって見わたすと、莉奈さんはテーブルに突っ伏して眠っていた。本当に申し訳ない……。
その小さな背中に、俺はそっと毛布をかけてやる。


あどけない子供みたいな寝顔に少し見とれていたら、内なる衝動に駆られ、俺はふと、彼女の首筋に顔を近づける。息を吸い込むと、俺の鼻腔には、優しい甘ったるさと柔らかさの中に、どこか切なさが混じる香りが広がった。
やっぱり彼女はいい匂いがする。


俺は書き置きを残して、起こさないように静かに部屋をあとにした。



放課後になって、二位の千条愛璃亜に試合を申し込むと、彼女はあっさりと受諾した。


"決闘"の準備を整え、開始の合図が鳴る、と同時に、辺りに夜の帳が下りたように、決闘結界内が急に暗くなる。


恐らくこれが、昨日莉奈さんから聞いた、千条式霊術第拾六式"十六夜いざよい"。
相手の視覚に干渉し、認識できなくさせ、さらに霊脈の流れから認識しようとしても、辺り一帯に霊力が充満していて感知できない。


千条愛璃亜は、名門、千条家の跡取り娘で、千条式霊術の使い手だという。
その中でも、空間制御型結界術式と呼ばれるタイプの術式には注意しなければならず、その一つが、この"十六夜"だという。


つまりは暗くなったと思っているのは俺だけで、こちらからは、千条の姿が見えない。
だが、向こうからは、普通に俺の姿が捉えられている。そういう術式らしい。


俺は短刀を構え、どこからくるかわからない攻撃に備えた。
すると、左腕に痛みが走る。どうやら刺されたらしい。


これも莉奈さんの言っていた通りだ。彼女は霊術の使い手だが、この空間内の霊力を無闇に使えば居場所が簡単に感知されてしまう。故に、攻撃は武器を用いた接近戦。
そして、攻撃されたその瞬間は彼女の居場所が特定できる。つまり、カウンターによる一点突破だけが、今の俺にできる、彼女を打ち破る唯一の術である。


俺は身体中の感覚を研ぎ澄ませ、千条の次の攻撃に備える。
再び痛みを感じる、その場所は……右脇腹!
「そこだ!」
「っ……?!」
俺はすかさず右脇腹に手を伸ばし、そこにいる千条を捕らえることに成功した。
しかし、俺はその手応えに違和感を感じていた。
……柔らかい。まさか軟体動物というわけでもあるまいし……。


「は、離してよっ! この、バカっ」
俺は考えた末、ある結論に思い至った。
俺の左手が掴んでいるこれは、恐らく千条愛璃亜の胸である、と。
だが、彼女の胸は掴めるほどあっただろうか。
見た目では、膨らみなどに意識がいかない程度のものだったはず。となると、俺の考えは違うのかもしれない。
何にせよ、せっかく捕らえたんだ。再び闇の中に、逃がしはしない。


「あっ、ちょっと、強く揉まないでよ! 痛いってば!」
「は……?」
俺は彼女の足があるであろう場所を払い、押し倒す。その上で、空いている右手で彼女の身体の輪郭をなぞる。
間違いない。左手のある位置は、千条愛璃亜の胸だ。


「……悪いことは言わん。降参しろ」
「っ!? ……ふっざけんなぁっ!」
俺の言葉に、彼女は怒り狂い、辺りを満たす霊力を使いきるように、巨大な炎を巻き上げる。
と同時に視界が晴れて、俺は炎を避けるようにして、彼女から飛び退いた。
しかし、読まれていたのか、着地する前に背後に回られ、体勢を整える前に、彼女の一撃が飛んでくる。


「よくも私を……! この身を穢してくれたなっ!」
光の矢のように物凄いスピードで突っ込んでくる彼女を避けることもできず、俺の腹部はその剣で貫かれた。
さらに、俺の腹から引き抜いてもう一撃。地面に叩きつけるように斬りつけられる。
受け身を取ることもできずに、地に打ち付けられた俺の意識はここまでだった。

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