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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第28話 竜

* * * *


私は学園一帯を覆うように、特殊な結界を展開する。
どうやらあの"力"には、霊力を打ち消す効果があるらしいことは、冰波くんの試合を見てわかっている。だから、この結界に綻びが生じた時、その場所で"力"が使われたことがすぐにわかるはず。


予想通り、展開してすぐに反応があった。
あの場所は……医務室ね。


瞬間移動ですぐに向かおうとするも、着いた場所は目的地とは違った。座標が大きくズレている。
何度も調整を重ねて、ほぼ誤差がないくらいにまでしたのに、何でこんなときに……。


急いで再び反応を探し直す。すると、反応はこちらに向かってきていた。これは好都合。
とりあえず足止め用に、いくつか罠として術式を設置しておく。霊力を打ち消すというのが、どれほどのものなのかも興味がある。


しかし、何の反応もないまま、私の肩に大きな傷が開いた。
恐らく、斬られたのだ。新星杯の時のように透過を使っているみたい。あの時は多少なりとも霊術が使えたはずなのに、今はまったく機能しない。
それもそのはず、意識を変えて見てみると、霊脈の流れがほぼ停止していた。


「……お前、あの時邪魔した魔女か」
そう呟く声が聞こえて目を凝らすと、その姿が段々ぼんやりと視認できるようになっていく。
恐らく上級生の男子生徒。その身に纏っている"薄緑"のオーラのようなものは、腕や翼を形作っていた。まるで、霊術で武器を形作るのに似ている。


「何なの……? その"力"は……」
「……どうせここで死ぬんだ。知ってどうなる?」
「どうせ死ぬなら、むしろ教えてほしいわね」
私は傷口を押さえながらその場に座り込んでしまう。
私の唯一の武器である霊術を封じられたこの状況では、私を生かすも殺すもこの男次第だ。
時間稼ぎだけでなく、"力"について知れば、何か打開策が浮かぶかもしれない。そんな淡い期待もあった。


「ふむ、確かにただ殺すのはつまらないな。もう少し楽しんでからでもいいだろう」
楽しむ……。嫌な響きだった。男が女で楽しむというのは、もしかしなくてもそういうことだろう。
「エッチなことは勘弁してほしいかな……」
「俺みたいな生き物は、そんなことじゃ満足しない。苦しみ、傷付いて、恐怖し、絶望する。そんな姿が大好物なんだよ」
余計に嫌な予感しかしない……。


「"俺みたいな生き物"って、あなたは人間じゃないの?」
「人間みたいな下等な奴らと一緒にするな。俺は、より高位の存在、"竜"へと進化する途中なのさ」
「"竜"……?」
私の知る竜は、トカゲのようなものや、ヘビのようなもの。人間がそうなると言うのだろうか。
研究者の性なのだろうか、こんな状況なのに、俄然興味が湧いてきてしまう。


「……ちょうどいい。見てみるか?」
「えっ……?」


血のように赤い湖を見つめて、男はおもむろに私をその湖に放り投げた。
さっき肩を斬られたせいで、思うように泳げない。
それにこの緋色の水、やたらと重く感じる。もしかしたら、ただの水ではないのかもしれない。


すると、湖の底から何かが迫ってくる。それは私には目もくれず、水上へと飛び出していった。
私はその勢いで水面に押し上げられ、彼が"竜"と呼んだその姿を見て愕然とした。


その姿は、どう見ても人間。
ただ違うとすれば、その身に纏う"緋"のオーラと、その背筋が凍り付くほどのおぞましい気配だった。


「貴様か……。わらわを目覚めさせたのは……」
なんとか陸に上がると、“緋”に包まれた少女は同じく“緋”の刀身の剣を男に向けていた。


「俺と契約しろ、スカーレット!」
男はさらに力を引き出したのか、“薄緑”のオーラはどんどんと鮮烈さを増していく。


「断る。貴様はそれだけの器ではない」
「何だと……っ!」


すると、少女は辺りを見回し、私を視界にとらえるなり剣を向けた。
「人間風情め……。まずはお前からだ」
霊術は使えないし、私には莉奈のような戦闘の技術もない。それどころか、そろそろ霊力も切れてしまう。
まさに、絶体絶命の窮地だった。


しかし、都合のいいことに、そういうときには決まってヒーローが助けに来てくれるのだ。
「待てっ!」
その聞き慣れた声に振り向くと、やはりそれは私のヒーロー、颯太くんだった。
来ないで、と言っても来るのだと思っていた。彼はそういう人だ。


そして私が予想していた通り、彼にも同じ“力”があるようだった。
彼はスカーレットと呼ばれた少女よりも、暗く、深い、“深緋”のオーラをその身に纏っていた。
「先輩、ここは俺が引き受けますから、その間に逃げてください」
「そうしたいところだけど、もう身体が動かないの……」
それだけではなく、本心ではこの戦いの行方を見届けたい思いもあった。


「……わかりました。なんとか守ってみせます」
それだけ言って、颯太くんは刀を抜き、少女に向かって構えた。
「ほう……。なら、お前からにしてやろう」
少女が颯太くんに斬りかかるが、そこに、男が割って入った。


「邪魔をするな! これは俺のモノだ!」
“薄緑”のオーラを纏った彼だ。彼は少女の剣と切り結ぶも、一瞬にして左腕を切り落とされてしまった。
「お前はそれだけの器ではない。そう言ったはずだ」
彼は悔しそうに少女を睨み付けるも、逃げるようにして森の中へ走り去った。


「……さて、始めようか。少年」
彼女は再び颯太くんに向き直る。
私から見てもわかる。彼女の剣の腕は本物だ。逢衣子やユイさんよりも格段に上の実力。


「大丈夫なの……?」
「先輩、この前はごめんなさい。それから、守れなかったら……ごめん」
颯太くんはそれだけ言って、彼女に向かっていった。

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