竜王は魔女の弟子
第27話 決勝戦
『さぁいよいよ双葉杯最後の戦いがやってまいりましたーっ!! まずは東ゲート! 一年生、新川メイ&同じく一年生、牧野颯太ー!!』
名を呼ばれた俺たちは、ゲートを通り、最後の戦いの場へと足を運ぶ。
『一年生ペアながらも、先輩方に負けず劣らず! このまま新たな伝説を築いていくのかー!?』
……すごい歓声だ。決勝まで上がってきた一年生ペアに、皆も新たな時代を期待してくれているのだろう。俄然、気持ちが滾ってくる。
『続いて西ゲート! 二年生、二条逢衣子&同じく二年生、石川隆久―!!』
やはり、俺達よりもものすごい数の声援が飛ぶ。だが、それは準決勝までも同じこと。今更こんなことでめげてもいられない。
『準決勝でも圧倒的な力の差を見せつけた剣豪二人!! この勢いのまま優勝してしまうのかー!?』
二条さんの戦いは何度も見て、その実力は充分に理解している。正直勝つ見込みは薄いとも思うが、やれることをする以外に、道はない。
『激闘を締めくくる最後の戦いを制するのは、一年生ペアか、はたまた二年生ペアか! 試合開始ーッ!!』
この二人のうち、なるべく相手にしたくないのは二条さんだ。ここは徹底的に邪魔して、メイちゃんに石川さんを破ってもらう。
まずは連携パターンを崩そうと、斬り込んできた石川さんの足元から拘束の術式を展開する。
俺はそのまま後ろの二条さんにも拘束の術式を掛けようとするが、これは読まれたようで、飛び退いてかわされてしまった。
だがこれは、あわよくば、と思ってのもの。
俺は暇を与えず瞬間移動で二条さんと石川さんの間に割り込み、勢いを抑えつつ袈裟に斬りかかった。
二条さんは、俺の刃を刀の腹を滑らせるようにして受け流し、すかさず反撃を入れてくる。
しかし、これは分身。そしてこの分身には、ある仕掛けを施してある。
二条さんが分身を切り裂いた直後、その足元から氷の檻が彼女を閉じ込めた。さらに、氷の檻の四隅から、氷の鎖が二条さんの四肢を拘束する。
千条式霊術第参拾六式"氷牢"。
『牧野選手、得意の氷の術式だぁ! 二条選手、どうする!?』
だが、これで終わりじゃない。
これだけでは破られるかもしれない。そう考えた俺は、"氷牢"の外に、もう一回り大きな"氷牢"を作り上げ、巨大な氷の壁でフィールドを二分した。
ここまでやれば、時間稼ぎには充分なはずだ。
『あらあら、徹底的にやるのね……。でも、これはやりすぎなんじゃ……』
メイちゃんの方を振り返ると、石川さんは俺の拘束を受けながらも、メイちゃんの剣撃を受けきっていた。
といっても、相変わらず拘束したのは足だけなので、不可能とは言えないのだが。
石川さんは、今日は大太刀を構えていたが、重量を感じさせないほど、流れるような剣捌きだ。
『新川選手、なかなか距離を詰められない!』
『脇差なんて使ってるから……。隆久みたいに、霊術で筋力を補えばいいのに……』
俺はメイちゃんに加勢しようと、彼女の元へ向かおうとしたが、不穏な気配にすぐにまた振り返った。
自らの術式が破られたかどうか、術者には感覚的にわかる。今のはまさに、その感覚だった。
二条さんが居合から抜刀すると同時に、二重の"氷牢"、そして氷壁までもが、一太刀にして切り裂かれてしまった。
さらに二条さんは、一呼吸の間に俺の目前に迫り、肩から腰に掛けて袈裟に斬り下ろした。
目で捉えたのは一撃だったが、感覚としては、三、四回ほど斬りつけられたように思う。
『なんと二条選手! 一瞬にしてあの厳重な包囲を突破っ!?』
俺は何とか意識を保つも、立ち上がるだけの気力は残っていない。
『逢衣子のあれを受けて意識が残ってるのもすごいわね……』
だが、二条さんは俺に止めを刺さず、俺はその姿を見失った。まさかと思って振り向けば、二条さんは今度はメイちゃんに斬りかかっていた。
瞬間移動なんか使っていない。何なんだ、この速さは……。
メイちゃんはその剣撃を受けようとするが、二条さんの刃と掠りもせずに、肩口を斬られてしまう。
メイちゃんですらも追えていなかった。
二条さんはそのままメイちゃんの脚を斬り、跪いたその背に止めの刺突を入れた。
『試合終了ー!! 新入生には負けられない! その実力の差を見せつけるような、圧巻の優勝ー!!』
メイちゃんが接近戦で負けるはずないと、思い込んでいた。
そんなに甘くはないってことか……。
倒れたメイちゃんの元へ向かうこともできずに俺の視界は暗転し、周りの音は遠退いていった。
気が付いたときは、一ヶ月ほど前に見慣れた天井が視界に広がっていた。いつものことながら、医務室に寝かされているみたいだ。
「おう、目ぇ覚めたか?」
横には虎太郎が退屈そうに座っていた。
よりにもよってこいつに治療してもらったのか……。
「虎太郎か……。メイちゃんは?」
「お隣でまだぐっすりだぜ」
言葉通り、その顔は安らかで、気絶というよりは、眠っている方が近いようだ。
「……てめぇ、変なことしてねぇだろうな?」
「しねぇよ。俺は巨乳派なんだ」
「知るか」
二人揃ってここにいるってことは、やっぱり負けてしまったんだな。
メイちゃんとなら優勝できるかもしれない。本気でそう思っていただけに、予想以上の悔しさを覚えた。
「そういえば、先輩から伝言を預かってるぜ?」
「先輩から……?」
直接言いに来ないということは、やはり、あの時のことを気にしているんだろう。
「何でも、二条先輩の最後の技のことらしいけど、あれはお前がバカやったみたいだぜ?」
「……どういうことだよ?」
「あの技は霊術から霊力を吸収して、自分の身体能力を爆発的に向上させるものらしい」
「……なるほど。だから準決勝の時も……」
冰波が負けた試合。あの試合でも、明らかに異常な反応速度を出していた。あれは、千条さんの莫大な霊力を吸収していたからなのか……。
そんなところへ、慌てた様子で二条さんが医務室に駆けこんできた。
「天宮は来てないか?」
かなり急いでいるのか、少し苛立ちも感じられる。
「天宮茉奈先輩なら、少し前に来ましたよ?」
「そうか……」
……先輩に何かあったのだろうか。
俺が何か言う前に、二条さんは俺にメモ用紙を差し出した。
『二つ目の命令。私にもしものことがあったら、莉奈と佑馬くんをよろしくね。茉奈』
このしっかりとした筆跡は、間違いなく先輩の字だ。もしものことって、まさか……。
「私はあのバカを探す。……お前は、好きにしたらいい」
それだけ伝えると、二条さんは足早に出ていった。
言われなくても、好きにさせてもらう。
俺には心当たりがあった。さっきからぴりぴりと感じているこの気配……竜脈だ。昨日のこともあり、自分自身で知ろうとする可能性は充分に考えられる。
やむを得ず、俺も竜脈を刺激して力を使う。久しぶりなので、上手く抑えられるかはわからないが、今はそう言ってもいられない。
「虎太郎、メイちゃんを頼んだ」
「お、おう。……お前も、気を付けろよ」
「……わかってる」
俺は医務室を飛び出して、竜脈の流れを辿った。
最悪の事態だけは避けられればいい。俺の向かう先に、先輩がいなければ、何よりなんだ。
そんなことを思っていた。
名を呼ばれた俺たちは、ゲートを通り、最後の戦いの場へと足を運ぶ。
『一年生ペアながらも、先輩方に負けず劣らず! このまま新たな伝説を築いていくのかー!?』
……すごい歓声だ。決勝まで上がってきた一年生ペアに、皆も新たな時代を期待してくれているのだろう。俄然、気持ちが滾ってくる。
『続いて西ゲート! 二年生、二条逢衣子&同じく二年生、石川隆久―!!』
やはり、俺達よりもものすごい数の声援が飛ぶ。だが、それは準決勝までも同じこと。今更こんなことでめげてもいられない。
『準決勝でも圧倒的な力の差を見せつけた剣豪二人!! この勢いのまま優勝してしまうのかー!?』
二条さんの戦いは何度も見て、その実力は充分に理解している。正直勝つ見込みは薄いとも思うが、やれることをする以外に、道はない。
『激闘を締めくくる最後の戦いを制するのは、一年生ペアか、はたまた二年生ペアか! 試合開始ーッ!!』
この二人のうち、なるべく相手にしたくないのは二条さんだ。ここは徹底的に邪魔して、メイちゃんに石川さんを破ってもらう。
まずは連携パターンを崩そうと、斬り込んできた石川さんの足元から拘束の術式を展開する。
俺はそのまま後ろの二条さんにも拘束の術式を掛けようとするが、これは読まれたようで、飛び退いてかわされてしまった。
だがこれは、あわよくば、と思ってのもの。
俺は暇を与えず瞬間移動で二条さんと石川さんの間に割り込み、勢いを抑えつつ袈裟に斬りかかった。
二条さんは、俺の刃を刀の腹を滑らせるようにして受け流し、すかさず反撃を入れてくる。
しかし、これは分身。そしてこの分身には、ある仕掛けを施してある。
二条さんが分身を切り裂いた直後、その足元から氷の檻が彼女を閉じ込めた。さらに、氷の檻の四隅から、氷の鎖が二条さんの四肢を拘束する。
千条式霊術第参拾六式"氷牢"。
『牧野選手、得意の氷の術式だぁ! 二条選手、どうする!?』
だが、これで終わりじゃない。
これだけでは破られるかもしれない。そう考えた俺は、"氷牢"の外に、もう一回り大きな"氷牢"を作り上げ、巨大な氷の壁でフィールドを二分した。
ここまでやれば、時間稼ぎには充分なはずだ。
『あらあら、徹底的にやるのね……。でも、これはやりすぎなんじゃ……』
メイちゃんの方を振り返ると、石川さんは俺の拘束を受けながらも、メイちゃんの剣撃を受けきっていた。
といっても、相変わらず拘束したのは足だけなので、不可能とは言えないのだが。
石川さんは、今日は大太刀を構えていたが、重量を感じさせないほど、流れるような剣捌きだ。
『新川選手、なかなか距離を詰められない!』
『脇差なんて使ってるから……。隆久みたいに、霊術で筋力を補えばいいのに……』
俺はメイちゃんに加勢しようと、彼女の元へ向かおうとしたが、不穏な気配にすぐにまた振り返った。
自らの術式が破られたかどうか、術者には感覚的にわかる。今のはまさに、その感覚だった。
二条さんが居合から抜刀すると同時に、二重の"氷牢"、そして氷壁までもが、一太刀にして切り裂かれてしまった。
さらに二条さんは、一呼吸の間に俺の目前に迫り、肩から腰に掛けて袈裟に斬り下ろした。
目で捉えたのは一撃だったが、感覚としては、三、四回ほど斬りつけられたように思う。
『なんと二条選手! 一瞬にしてあの厳重な包囲を突破っ!?』
俺は何とか意識を保つも、立ち上がるだけの気力は残っていない。
『逢衣子のあれを受けて意識が残ってるのもすごいわね……』
だが、二条さんは俺に止めを刺さず、俺はその姿を見失った。まさかと思って振り向けば、二条さんは今度はメイちゃんに斬りかかっていた。
瞬間移動なんか使っていない。何なんだ、この速さは……。
メイちゃんはその剣撃を受けようとするが、二条さんの刃と掠りもせずに、肩口を斬られてしまう。
メイちゃんですらも追えていなかった。
二条さんはそのままメイちゃんの脚を斬り、跪いたその背に止めの刺突を入れた。
『試合終了ー!! 新入生には負けられない! その実力の差を見せつけるような、圧巻の優勝ー!!』
メイちゃんが接近戦で負けるはずないと、思い込んでいた。
そんなに甘くはないってことか……。
倒れたメイちゃんの元へ向かうこともできずに俺の視界は暗転し、周りの音は遠退いていった。
気が付いたときは、一ヶ月ほど前に見慣れた天井が視界に広がっていた。いつものことながら、医務室に寝かされているみたいだ。
「おう、目ぇ覚めたか?」
横には虎太郎が退屈そうに座っていた。
よりにもよってこいつに治療してもらったのか……。
「虎太郎か……。メイちゃんは?」
「お隣でまだぐっすりだぜ」
言葉通り、その顔は安らかで、気絶というよりは、眠っている方が近いようだ。
「……てめぇ、変なことしてねぇだろうな?」
「しねぇよ。俺は巨乳派なんだ」
「知るか」
二人揃ってここにいるってことは、やっぱり負けてしまったんだな。
メイちゃんとなら優勝できるかもしれない。本気でそう思っていただけに、予想以上の悔しさを覚えた。
「そういえば、先輩から伝言を預かってるぜ?」
「先輩から……?」
直接言いに来ないということは、やはり、あの時のことを気にしているんだろう。
「何でも、二条先輩の最後の技のことらしいけど、あれはお前がバカやったみたいだぜ?」
「……どういうことだよ?」
「あの技は霊術から霊力を吸収して、自分の身体能力を爆発的に向上させるものらしい」
「……なるほど。だから準決勝の時も……」
冰波が負けた試合。あの試合でも、明らかに異常な反応速度を出していた。あれは、千条さんの莫大な霊力を吸収していたからなのか……。
そんなところへ、慌てた様子で二条さんが医務室に駆けこんできた。
「天宮は来てないか?」
かなり急いでいるのか、少し苛立ちも感じられる。
「天宮茉奈先輩なら、少し前に来ましたよ?」
「そうか……」
……先輩に何かあったのだろうか。
俺が何か言う前に、二条さんは俺にメモ用紙を差し出した。
『二つ目の命令。私にもしものことがあったら、莉奈と佑馬くんをよろしくね。茉奈』
このしっかりとした筆跡は、間違いなく先輩の字だ。もしものことって、まさか……。
「私はあのバカを探す。……お前は、好きにしたらいい」
それだけ伝えると、二条さんは足早に出ていった。
言われなくても、好きにさせてもらう。
俺には心当たりがあった。さっきからぴりぴりと感じているこの気配……竜脈だ。昨日のこともあり、自分自身で知ろうとする可能性は充分に考えられる。
やむを得ず、俺も竜脈を刺激して力を使う。久しぶりなので、上手く抑えられるかはわからないが、今はそう言ってもいられない。
「虎太郎、メイちゃんを頼んだ」
「お、おう。……お前も、気を付けろよ」
「……わかってる」
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