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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第26話 準決勝 第一試合 後編

俺は莉奈さんを狙うが、俺は囮で、その隙にメイちゃんが六条さんを狙うと思ったのか、警戒を続けたまま避けていく。そのため、少し反応が鈍い。メイちゃんが余計な挙動をすれば、尚更だ。
六条さんも六条さんで、メイちゃんの行動を封じようと、拘束術式を仕掛けてくるが、それはメイちゃんには通用しない。


俺がメイちゃんの元へ飛ばした分身は、俺の脳とリンクしているため、当然記憶している術式も同じ。ただ、それを使うだけの霊力がない。だったら、メイちゃんのに霊力を流し込んでもらえばいい。いわば、簡略装置と同じ働きをしているのだ。
俺が分身を通してメイちゃんにかけたのは、"罠外し"の術式。妨害系の術式をある程度無効化できる。


ここでメイちゃんは六条さんに斬り込みにいく。と、それに反応して六条さんを守りにいく莉奈さん。だが、狙いは六条さんではない。莉奈さんだ。
俺も莉奈さんを追いかけるようにして飛び、メイちゃんは剣の軌道を変えて、瞬間移動で戻ってきた莉奈さんを狙い撃つ。ある程度着地点がわかっていれば、メイちゃんにとってさほど難しいことじゃないはずだ。


『あぁーっと! 二人の狙いは天宮選手だー!!』
『なるほど、メイの方が囮だったのね』


しかし、さすがに序列2位。メイちゃんの剣撃を蹴りで逸らし、俺の剣撃は瞬間移動でわずかに動いてかわした。しかも、莉奈さんの蹴りは、メイちゃんの手元を狙っていて、メイちゃんの脇差は弾き飛ばされてしまった。


この好機を狙わないはずがない。莉奈さんはここぞとばかりに、丸腰のメイちゃんに正拳突きを繰り出すが、メイちゃんは逃げなかった。受けもしなかった。なんと、攻めたのだ!


向かってくる拳をギリギリまで引きつけて避けつつ、莉奈さんの背後にまわり、後ろから抱きつくようにして、莉奈さん共々背中から倒れた。
見ると、メイちゃんは左手にナイフを握り、莉奈さんの首元に当てている。さらに右手にもナイフを持ち、莉奈さんの腹部を深々と刺していた。


『こ、これは驚きました……! 新川選手、いつの間にかナイフに持ち替えていました!!』
俺も、いつ持ち替えたのか、どこから出したのかは見えなかった。
『……二条流暗殺術ね。あの子、いつの間にあんなものを……』
確かに、少し強引だが、あのまま喉元を切っていれば、致命傷だろう。


莉奈さんはいったん瞬間移動で拘束から逃れ、腹に刺さったナイフを引き抜いた。
瞬間移動は触れているものも任意で一緒に転移できるので、恐らくナイフだけを連れていったのだろう。メイちゃんから武器を奪うために。


そして莉奈さんは再びメイちゃんに拳撃を繰り出す。あくまで狙いはメイちゃんのようだ。
今度はメイちゃんも受けようと構えた。が、少し違う。似たような構えを、俺は見たことがあった。


『……ん? あれって、もしかして……』
『九条さん、どうかしたんですか?』
『まぁ見てなさい』


メイちゃんは莉奈さんの拳が当たる直前に身を翻し、その勢いをも利用して、霊力を込めた拳を叩き込む。
『あれは、一条流近接戦闘術の技。一条のはカウンター技が多いからねぇ。護身術みたいなものなのかな』
莉奈さんは瞬間移動を使ってそれを避けようとするが、メイちゃんは彼女を逃がさない。一撃の威力よりもスピード重視で、瞬間移動の展開を間に合わせない。そして、その分狙いは正確に――。


メイちゃんの拳が見事に莉奈さんの鳩尾に決まり、莉奈さんはそのまま吹っ飛ばされた。当然、地に打ち付けられる頃には、莉奈さんは意識を失っていた。


『し、試合終了ー!! なんと、一年生ペア! 優勝候補の六条、天宮ペアを下しました!!』


気が抜けたのか、メイちゃんはその場に座り込んでしまう。かなり疲れているのか、肩で大きく息をしている。
「メイちゃん!」
俺はメイちゃんの元へ駆け寄り、彼女の肩を担いで控室に下がった。



「大丈夫……?」
「はい……。少し、疲れただけです……」
そういえば、一条さんは疲れないとか言っていたけど、やっぱり実際には消耗の激しいものだったのだろう。何分、霊力を凝縮させてそのまま使っているんだから、元々霊力量のある人じゃないと無茶な使い方はできないのは当然だ。


「なんていうか、メイちゃんのおかげだな。……足引っ張ってばっかりでごめん」
この子はどこまでも俺の予想を超えている存在なんだな、と思わずにはいられなかった。"五条"の武術を三つもなんて、聞いたことがない。しかもメイちゃんのことだから、中途半端でなく、ある程度は極めているんだろう。
メイちゃんの並外れた体捌きも、様々な武術を学んでいるからこそなのだろうと納得がいった。


「そんな……! 私も……慣れないことを……、してみたくなっただけです」
「とりあえず、今は休んでくれ。今日はまだ、もう一戦あるしな」
「……はいっ」
決勝は昼を挟んで午後だ。その間に、俺も気持ちを整理しておこう。
この試合、俺が集中していなかったせいで、メイちゃんに余計な手間をかけさせてしまった。結果として勝てたからよかったものの、役立たずどころか足手まといになるのはごめんだ。次は、ちゃんと集中して臨まないと……。
そうは思うも、次の相手がどちらになるか、不安で仕方がなかった。


そんな時、不意にメイちゃんが俺に向き直る。
「……颯太さん、お聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「……質問によるかな」
やはりメイちゃんも、先輩が聞いてきたのと同じことが気になるのかもしれない。だが、メイちゃんであろうと同じこと。話すわけにはいかない。だけど……。


「試合中、莉奈先輩と何を話していたんですか?」
「えっ、それは……えっと……」
メイちゃんの予想外の質問に、狼狽えてしまう。
しかし、俺を真っ直ぐ見つめる彼女の眼は真剣そのものだ。確かに、メイちゃんが頑張っている中、相手とのん気に話していたとなれば、怒るのは当然だ。


「……私には、言えないことなんですか……?」
「そんなことないよ。……集中してないって言われたんだ。それは、俺自身でも気付いてた。本当にごめん……」
俺は素直に頭を垂れた。
メイちゃんは普段から怒ることは少ない。けれど、今回のことは明らかに俺が悪い。俺のせいで負担をかけたんだ。だからこそ、きちんと謝るのが筋というものだ。


「あ、謝らないでくださいよっ。別に怒ってませんし、手こずってしまった私にだって、非はありますから……」
彼女の言葉に、俺が恐る恐る顔を上げると、彼女はゆっくりと口を開いて、その続きを話し始めた。
「その……、何を話していたのか、気になっただけですから……」
「そ、そうか……。……別に、大した話はしてないよ」
そう口にした後で、視線を外してしまったことに気付いた。


「……嘘ですね」
「……昨日先輩と少し言い合って、それを見透かされたんだ」
「茉奈先輩と? ……珍しいですね」
確かにそうだ。俺は基本、師である先輩に盾突くことはせず、常に彼女に従ってきた。それは、師だからとかではなく、純粋に先輩の言うことが正しいと思っていたからだ。
だが、昨日のことだけは、譲るわけにはいかなかった。


「何のことで言い合ったんです?」
「…………。……メイちゃん」
俺は迷いを振り切り、俺の中の悶々とした思いを打ち明けることにした。
「決勝で冰波と当たるなら、俺は……棄権したい」
「なっ、何でですかっ!? ……あの"力"と、何か関係があるんですか?」
メイちゃんは何かを思い出すように視線を外し、彼女にも、何か思うところがあるような様子だった。


「……あれと同じような"力"が、俺にもある。もし共鳴して暴走でもしたら、……どうなるかわからない」
「その"力"って……、"竜脈りゅうみゃく"……ですか?」
まさか、彼女の口からその単語を聞くとは思わなかった。父さんによれば、竜の力は各国でも最高機密とされているらしいのだが。


「知っているのか?」
「ええ、本家にいたとき、少しだけ聞いたことがあります」
あぁ……そういえば彼女は、九条本家の娘だったな。
この国における竜に関するすべての権限は"五条"にある。そのトップともいわれる九条家の者なら、知らされていても不思議はない。


「私は"力"を扱えないのでわかりませんが、颯太さんがそう思うのであれば、私もそれに従いたいと思います」
「ありがとう、メイちゃん。でも、確証があるわけじゃないんだ。……今の俺なら、竜の力に飲み込まれずに済むかもしれない……」
一度、共鳴によって暴走させてしまったことがある。だがあの時は未熟で、精神的にも参っていた時だった。
……今なら、今の俺なら、耐えられるかもしれない。そうも思っていた。


しかしメイちゃんは、俺のその危険な思い込みを一蹴した。
「ダメですっ。危険な可能性が残るなら、棄権した方がいいです! ……今度は私の言うことを聞いてもらいますよ?」
そう言われて、俺は新星杯の時のことを思い出した。
俺はあの時、問答無用でメイちゃんを逃がした。今度は逆に、問答無用で俺を棄権させるってか……。


「わかった。決勝の相手次第では、棄権する」
「はい。……私は颯太さんとここまで来れて、楽しかったですからね。変に気にしないでくださいよ?」
どうやら見透かされていたようだ。


「俺も、メイちゃんと組めて楽しかったよ。ありがとう、組んでくれて」
「そんな、こちらこそ……。ありがとうございます」


試合終了の合図が控室に響いた。どうやら、相手が決まったようだ。

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