竜王は魔女の弟子
第25話 準決勝 第一試合 前編
『双葉杯準決勝、組み合わせが出そろいましたー!! 第一試合は、新川&牧野ペア対六条&天宮ペア!!』
「莉奈先輩のペアとですね……」
「……誰が相手でも、全力で相手するまでさ」
俺は正直、昨日の先輩のこと、そして、次の冰波の試合の方へ意識がいってしまっていた。
「……颯太さん? 颯太さん、聞いてますか?」
「…………あ、あぁ、何?」
「どうしたんですか? まったく……。しっかりしてくださいよ?」
……そうだった。今は俺一人じゃないんだ。まずは、目の前のことに集中しないと……。
「ごめん、考え事してた。でも、おかげでもう大丈夫だから」
今の俺は、取り繕った表情をしていないだろうか。メイちゃんに、余計な心配をかけたくはない。この子は、俺を信じてくれているんだから――。
『さぁ、選手の入場です! 東ゲート! 三年生、六条優空と、二年生、天宮莉奈!!』
割れんばかりの大歓声の中、二人はフィールドに姿を現す。
六条さんは序列5位、莉奈さんは序列2位と、経験も実力も桁違いの相手だ。だが、だからこそ、勝てれば大きい。
『西ゲートからは、一年生、新川メイと、同じく一年生、牧野颯太ー!!』
『今年は一年生ペアが二組も残ったのね。っていうか、勝ち残った三年生は優空ちゃんだけかぁ……。不甲斐ないわね……』
実況の声に呼ばれてフィールドに出ると、先輩方ほどではないが、歓声が沸いた。その声に、少しくらいは皆から期待されているのだと、少し嬉しくなった。
『試合開始ですッ!!』
その合図とともに、まずはいつも通りメイちゃんが先陣を切る。俺はその後に続きながらも、六条さんの霊術に注意を向ける。
彼女の霊術は千条のものではなく、現代一般的に使われているものがほとんどだが、その知識の多さと、術式を多重に展開できるほどの制御能力はかなり厄介だ。
そして言うまでもなく、莉奈さんもかなり厄介な相手と言っていい。瞬間移動を多用するので、思い切った攻撃には出にくくなる。また、接近戦での立ち回りは、その経験の豊富さを感じさせるほど変幻自在。
メイちゃんですら、一撃も当てられずにいる。しかし、メイちゃんの方も、瞬間移動を用いた不意の攻撃すらもかわして、一撃ももらっていない。
俺は霊脈の流れに意識を集中させる。……よし、まだ何も起こっていない。やられる前にやらなければ、今回ばかりは勝ち目がない。
まずは右手を柄にかけたまま、瞬間移動で六条さんの正面に移動し、そこですかさず分身を出す。
今回は分身に霊力の半分ほど授け、等身大で完全自立型のものを、彼女の背後に出現させる。そして前後から、二人同時に居合切りだ……!
『おぉっと?! 牧野選手が増えたっ?? この一撃が決まるか……!?』
『でも、優空ちゃんだってそう簡単にはやられないわ』
俺たちが切り裂いた場所には六条さんの姿はなく、彼女は霧のように姿を消してしまった。
と思いきや、彼女はもう少し離れたところに再び現れた。
「面白い術を使うんですねぇ。さすがは魔女っ娘の弟子です」
先輩……。上級生からはネタにされてるんですね……。
「今度、魔女のコスプレしてもらいたいですね」
「あっ、それいいですね!」
などと、場に不相応な話をするも、彼女がどうやって消えたのか、まだ俺には理解できていなかった。
恐らく、瞬間移動ではない。俺の剣が彼女の脇腹をかすめるまでは視認できていたので、あの時点で飛んだのでは無傷では済まないはずだ。
瞬間移動の可能性があるとすれば、莉奈さんが使っているような、簡略装置を用いた術式の展開。術式の展開工程を大幅に短縮できる簡略装置と呼ばれるあのアイテムを使えば、あのタイミングでも、ギリギリ間に合うかといったところ。
ただそれは、莉奈さんと同じくらいの反応速度だった場合だ。
別の術式である可能性を疑うのが妥当か……。だが、それが思いつかない。
俺は分身をいったん回収し、刀を構え直して再び六条さんに斬りかかる。
『おぉ、元に戻りましたね!』
『あんなこともできるのね……』
『天宮選手と新川選手の方も、白熱していますね』
『メイは莉奈の動きによくついていけてるわねぇ。これはどっちが先にへばるかな……』
幾度となく斬りかかっても、六条さんは霧散して消えてしまう。何が起こっているというんだ……。
メイちゃんもメイちゃんで、瞬間移動を機動力とする莉奈さんに翻弄されている。
俺たちはいったん下がり、互いに背を預けるようにして構えたまま、互いの状況を整理する。
「颯太さん……っ、あの瞬間移動……っ、どうしたら……っ?」
メイちゃんすらも息が上がっていた。……長期戦になるのはマズい。
「……代わるか?」
「そう……ですね。一度、そうしてみましょうか」
俺たちは互いに背後に目配せして、再び相手の方へ突っ込んでいく。
「おー、そうきたか……」
「莉奈さん、今度は俺がお相手します!」
『新川・牧野ペア! 今度はさっきと入れ替わるようにして、分担を変えてきたー!』
俺の瞬間移動は術式が短いとはいえ、簡略装置としての働きをする指環をつけた莉奈さんと、ほぼ同速とみていい。それなら、まだやれるかもしれない。
俺はまず、袈裟の剣撃を繰り出してみる。多少体勢が崩れても、瞬間移動を使えば強引に逃げられる。ここは躊躇わない。
すると、莉奈さんは瞬間移動を使わずに避け、そのまま俺の腹部めがけて鋭い正拳突きを繰り出した。俺はすかさず瞬間移動で逃げてから、再び背後に飛ぶ。
しかし、読んでいたのか、莉奈さんはそのまま後ろに回し蹴りし、俺は少し後退して避けようとしたら、莉奈さんは回し蹴りの状態のまま俺の背後に瞬間移動してきた。俺はそれを避けることなどできずに、思い切り吹っ飛ばされてしまう。
「颯太くんの行動は読みやすくていいねー。回避も常に最善手でくるから、わざと甘くしとけば瞬間移動も使ってこないし」
莉奈さんは辛うじて立ち上がる俺に、わざとらしく挑発的に言った。
「……何かあったのかな? 試合に集中できてないよ、颯太くん」
「そんなこと……っ!」
……ないとは言えなかった。集中できてないところに、あんな術式で撹乱されて、まともな思考ができているわけなかった。
「ゆらちゃんのあの術だって、どんな仕掛けかわかってないんでしょ?」
そこまでバレてるのか……。
「いつもの颯太くんだったら、あれくらいは見抜けそうなもんだけどねー」
「……俺のことなんて、どうだっていいじゃないですか」
「よくはないよ、颯太くんはお姉ちゃんの弟子だからね」
先輩の話が出て、俺はまんまと反応してしまう。
「莉奈さんには、関係ないです」
「やっぱりお姉ちゃんのことなんだね……」
「……試合中ですよ?」
カウンセリングをしてくれるのは結構だが、俺はメイちゃんに負担もかけてられない。なんとかしてこの人を打ち負かさなければ……。
「……だって、こんな颯太くんとやってもつまんないしー」
俺は、問答はここまでと言わんばかりに結界を展開する。そういえば、この大会で使うのは初めてだな。
『ここで牧野選手! 結界術式を展開っ!』
『千条の術式ね。空間制御型結界術式の一つ、"雪月華"、だったかしら?』
だが、この結界を張ったことで、思わぬ効果が生まれた。
結界内の気温が下がったことで、メイちゃんの相手をしていた六条さんの姿が凍っていく。
『六条さんが一人、また一人……って、一体何人いるのっ?!』
『これが彼女の術式の正体……ね』
俺はここでようやくあの術式を理解した。気付けば単純明快だった。
……蜃気楼だ。部分的に温度や湿度、光度を調節して像を作っていたんだ。
そして同時に、その技術の高さに感心してしまう。温度、湿度、光度を調節するそれぞれの術式を、何ヶ所にも渡って制御していたのだから。
術の仕組みがバレてしまった六条さん本体の元に、守護するように莉奈さんが戻ってくる。
俺は結界を解いて、指令用の分身をメイちゃんの元へ飛ばし、いったん退かせた。彼女と入れ替わるように、今度は俺が莉奈さんに斬り込んでいき、その間に分身を通じてメイちゃんに作戦を説明する。もちろん、手短に、だ。
「莉奈先輩のペアとですね……」
「……誰が相手でも、全力で相手するまでさ」
俺は正直、昨日の先輩のこと、そして、次の冰波の試合の方へ意識がいってしまっていた。
「……颯太さん? 颯太さん、聞いてますか?」
「…………あ、あぁ、何?」
「どうしたんですか? まったく……。しっかりしてくださいよ?」
……そうだった。今は俺一人じゃないんだ。まずは、目の前のことに集中しないと……。
「ごめん、考え事してた。でも、おかげでもう大丈夫だから」
今の俺は、取り繕った表情をしていないだろうか。メイちゃんに、余計な心配をかけたくはない。この子は、俺を信じてくれているんだから――。
『さぁ、選手の入場です! 東ゲート! 三年生、六条優空と、二年生、天宮莉奈!!』
割れんばかりの大歓声の中、二人はフィールドに姿を現す。
六条さんは序列5位、莉奈さんは序列2位と、経験も実力も桁違いの相手だ。だが、だからこそ、勝てれば大きい。
『西ゲートからは、一年生、新川メイと、同じく一年生、牧野颯太ー!!』
『今年は一年生ペアが二組も残ったのね。っていうか、勝ち残った三年生は優空ちゃんだけかぁ……。不甲斐ないわね……』
実況の声に呼ばれてフィールドに出ると、先輩方ほどではないが、歓声が沸いた。その声に、少しくらいは皆から期待されているのだと、少し嬉しくなった。
『試合開始ですッ!!』
その合図とともに、まずはいつも通りメイちゃんが先陣を切る。俺はその後に続きながらも、六条さんの霊術に注意を向ける。
彼女の霊術は千条のものではなく、現代一般的に使われているものがほとんどだが、その知識の多さと、術式を多重に展開できるほどの制御能力はかなり厄介だ。
そして言うまでもなく、莉奈さんもかなり厄介な相手と言っていい。瞬間移動を多用するので、思い切った攻撃には出にくくなる。また、接近戦での立ち回りは、その経験の豊富さを感じさせるほど変幻自在。
メイちゃんですら、一撃も当てられずにいる。しかし、メイちゃんの方も、瞬間移動を用いた不意の攻撃すらもかわして、一撃ももらっていない。
俺は霊脈の流れに意識を集中させる。……よし、まだ何も起こっていない。やられる前にやらなければ、今回ばかりは勝ち目がない。
まずは右手を柄にかけたまま、瞬間移動で六条さんの正面に移動し、そこですかさず分身を出す。
今回は分身に霊力の半分ほど授け、等身大で完全自立型のものを、彼女の背後に出現させる。そして前後から、二人同時に居合切りだ……!
『おぉっと?! 牧野選手が増えたっ?? この一撃が決まるか……!?』
『でも、優空ちゃんだってそう簡単にはやられないわ』
俺たちが切り裂いた場所には六条さんの姿はなく、彼女は霧のように姿を消してしまった。
と思いきや、彼女はもう少し離れたところに再び現れた。
「面白い術を使うんですねぇ。さすがは魔女っ娘の弟子です」
先輩……。上級生からはネタにされてるんですね……。
「今度、魔女のコスプレしてもらいたいですね」
「あっ、それいいですね!」
などと、場に不相応な話をするも、彼女がどうやって消えたのか、まだ俺には理解できていなかった。
恐らく、瞬間移動ではない。俺の剣が彼女の脇腹をかすめるまでは視認できていたので、あの時点で飛んだのでは無傷では済まないはずだ。
瞬間移動の可能性があるとすれば、莉奈さんが使っているような、簡略装置を用いた術式の展開。術式の展開工程を大幅に短縮できる簡略装置と呼ばれるあのアイテムを使えば、あのタイミングでも、ギリギリ間に合うかといったところ。
ただそれは、莉奈さんと同じくらいの反応速度だった場合だ。
別の術式である可能性を疑うのが妥当か……。だが、それが思いつかない。
俺は分身をいったん回収し、刀を構え直して再び六条さんに斬りかかる。
『おぉ、元に戻りましたね!』
『あんなこともできるのね……』
『天宮選手と新川選手の方も、白熱していますね』
『メイは莉奈の動きによくついていけてるわねぇ。これはどっちが先にへばるかな……』
幾度となく斬りかかっても、六条さんは霧散して消えてしまう。何が起こっているというんだ……。
メイちゃんもメイちゃんで、瞬間移動を機動力とする莉奈さんに翻弄されている。
俺たちはいったん下がり、互いに背を預けるようにして構えたまま、互いの状況を整理する。
「颯太さん……っ、あの瞬間移動……っ、どうしたら……っ?」
メイちゃんすらも息が上がっていた。……長期戦になるのはマズい。
「……代わるか?」
「そう……ですね。一度、そうしてみましょうか」
俺たちは互いに背後に目配せして、再び相手の方へ突っ込んでいく。
「おー、そうきたか……」
「莉奈さん、今度は俺がお相手します!」
『新川・牧野ペア! 今度はさっきと入れ替わるようにして、分担を変えてきたー!』
俺の瞬間移動は術式が短いとはいえ、簡略装置としての働きをする指環をつけた莉奈さんと、ほぼ同速とみていい。それなら、まだやれるかもしれない。
俺はまず、袈裟の剣撃を繰り出してみる。多少体勢が崩れても、瞬間移動を使えば強引に逃げられる。ここは躊躇わない。
すると、莉奈さんは瞬間移動を使わずに避け、そのまま俺の腹部めがけて鋭い正拳突きを繰り出した。俺はすかさず瞬間移動で逃げてから、再び背後に飛ぶ。
しかし、読んでいたのか、莉奈さんはそのまま後ろに回し蹴りし、俺は少し後退して避けようとしたら、莉奈さんは回し蹴りの状態のまま俺の背後に瞬間移動してきた。俺はそれを避けることなどできずに、思い切り吹っ飛ばされてしまう。
「颯太くんの行動は読みやすくていいねー。回避も常に最善手でくるから、わざと甘くしとけば瞬間移動も使ってこないし」
莉奈さんは辛うじて立ち上がる俺に、わざとらしく挑発的に言った。
「……何かあったのかな? 試合に集中できてないよ、颯太くん」
「そんなこと……っ!」
……ないとは言えなかった。集中できてないところに、あんな術式で撹乱されて、まともな思考ができているわけなかった。
「ゆらちゃんのあの術だって、どんな仕掛けかわかってないんでしょ?」
そこまでバレてるのか……。
「いつもの颯太くんだったら、あれくらいは見抜けそうなもんだけどねー」
「……俺のことなんて、どうだっていいじゃないですか」
「よくはないよ、颯太くんはお姉ちゃんの弟子だからね」
先輩の話が出て、俺はまんまと反応してしまう。
「莉奈さんには、関係ないです」
「やっぱりお姉ちゃんのことなんだね……」
「……試合中ですよ?」
カウンセリングをしてくれるのは結構だが、俺はメイちゃんに負担もかけてられない。なんとかしてこの人を打ち負かさなければ……。
「……だって、こんな颯太くんとやってもつまんないしー」
俺は、問答はここまでと言わんばかりに結界を展開する。そういえば、この大会で使うのは初めてだな。
『ここで牧野選手! 結界術式を展開っ!』
『千条の術式ね。空間制御型結界術式の一つ、"雪月華"、だったかしら?』
だが、この結界を張ったことで、思わぬ効果が生まれた。
結界内の気温が下がったことで、メイちゃんの相手をしていた六条さんの姿が凍っていく。
『六条さんが一人、また一人……って、一体何人いるのっ?!』
『これが彼女の術式の正体……ね』
俺はここでようやくあの術式を理解した。気付けば単純明快だった。
……蜃気楼だ。部分的に温度や湿度、光度を調節して像を作っていたんだ。
そして同時に、その技術の高さに感心してしまう。温度、湿度、光度を調節するそれぞれの術式を、何ヶ所にも渡って制御していたのだから。
術の仕組みがバレてしまった六条さん本体の元に、守護するように莉奈さんが戻ってくる。
俺は結界を解いて、指令用の分身をメイちゃんの元へ飛ばし、いったん退かせた。彼女と入れ替わるように、今度は俺が莉奈さんに斬り込んでいき、その間に分身を通じてメイちゃんに作戦を説明する。もちろん、手短に、だ。
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