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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第24話 知らなくていいこと

「メイちゃん、聞いてくれ。いや、見てくれ」
「えっ?」


俺は分身を通して簡単に、手短に伝えられるだけ伝え、剣撃に備える。
「……どうだ? いけそうか?」
「いけなくても、やるしかないですっ」
「そう言うと思ってたよ。タイミング、気を付けて」
「はいっ」


俺はありったけの霊力で大剣を形作り、捕えられたメイちゃんを横薙ぎにしようとする一撃に合わせて、岩石の腕を斬り壊した。
『これで新川選手が解放されたぞーっ! しかし、その新川選手に"岩石の剛剣クレイモア"が襲いかかる!! これで終わってしまうのかぁ!?』


否、メイちゃんは解放されたと同時に、崩れた岩石の腕を足場に跳躍し、薙ぎ払うような大剣の一撃をかわして、その剣身に飛び乗った。そのまま滑るようにして、上代さんの方へ突っ込んでいく。
『新川選手、振り落とされずに食らいつく!』
『振り落とされないわよ。遠心力と逆向きに、霊力で自分の体を押せば、余計な力の干渉を防ぐことができるわ。……考えたわね』
その通り。メイちゃんは普段霊術を使わないけど、それは使える程実用的な霊術の知識がないから。だが、学園でも初期に学ぶ、霊脈の向きに指向性を持たせるような基礎的な術は、扱うことができるのだ。


「行かせないっ!」
小川さんの術式で、岩石の腕が再び地面から伸びてきたが、これは想定内。
「邪魔させるかっ!」
俺はそのことごとくを切り捨て、メイちゃんを援護する。


メイちゃんの一撃が来る前に、上代さんは剣から手を放し、カウンターに打って出るが、メイちゃんは宙返りでそれをかわしつつ背後にまわり、彼が振り向くと同時に、得意の逆風斬りを決め、そのまま袈裟に斬りつけた。
虎太郎に聞いたところ、この逆袈裟と袈裟の二連撃は、常人には一撃に見えるらしい。それほどの速さということだ。
それを避けることなどできずに食らった上代さんは、意識を失って倒れた。


『決まったーッ!! 閃光のような剣撃! 試合終了ですッ!!』
『あの子はホントにあの技が好きねぇ……。あれは九条流剣術中伝にある"飄風ひょうふう"っていう技で、あの子が初めて自分でアレンジした技なのよ~』
『なんか、お母さんみたいですね……』
こんな調子の解説のおかげで、メイちゃんがユイさんの妹だということは皆に知れ渡っている。もちろん、なぜ姓が違うかは言及されていないが。


俺はメイちゃんのところへ駆けつける。
「お疲れ、メイちゃん」
「なんとか……、勝てましたね」
少し疲れているみたいだ。……結構無理もさせちゃったし、当然か。



俺はメイちゃんを連れて控室に下がり、軽く治療してあげた。
「いつも前線で戦わせてばっかでごめんな……」
「そんな、私はそれしかできませんから……」
「でも、疲れるだろ? それに、さっきみたいに酷い采配をしてしまうこともあるし……」
「いいんですよ、私は颯太さんの駒なんですか。もっと頼ってください」
駒とは言いつつ、頼ってほしい、その言葉に偽りはないんだろう。その底抜けの笑顔がそう感じさせる。


「それじゃあ、今日はもうゆっくり休んで。明日の相手の分析はしとくから」
「……颯太さんも、休んでくださいよ?」
「そうはいっても、軍師の俺はここからが本領みたいなところだからな」
メイちゃんを駒として預かっている分、俺がもっともっといい作戦を考えて、もっともっとうまく使ってあげなきゃならない。


「ふふ、そうですか。では、任せます。……おやすみなさい」
「おやすみ、また明日な」
「はいっ」



その晩、俺が自室で今大会の動画を振り返っていると、来客があった。
「あ、先輩」
「こんばんは、颯太くん」
来客は先輩だった。夜ということで、落ち着いたワンピースにカーディガンという軽装で、湯上りなのか、まだほんのり髪が潤んでいる。


「明日の分析?」
「はい、どのペアと当たってもいいようにしておかないと……」
明日の組み合わせは再抽選なので、当日になってみないと分からない。


「明日は分身使うの?」
「使わないで済みそうならいいんですけど……。莉奈さんのペアは、使わないとキツそうですね」
「あの子は変則的だからね……。それよりは、パートナーの六条ろくじょうさんを攻めた方がいいって考えかしら?」
莉奈さんのパートナー、三年生の六条優空ゆらさんは、霊術の使い手で、どの試合でも後衛にまわっている。ということは、接近戦が得意でないということなのだろう、と推測したのだ。
「でも、それは読まれてるんじゃない? 戦術としては、普通、後衛の方を潰しにいくでしょ?」
「はい。だから分身に頑張ってもらうんですよ」
「……うまくいくといいけど」
そんな不吉なこと言わないでほしいな……。
だが、確かに、不安要素は残る。
そもそもメイちゃんの方が、莉奈さんの瞬間移動に対応しきれるかもわからない。メイちゃんはいくら素早いとはいえ、一瞬で動かれたのでは、反応できないかもしれない。


「その分、冰波くん達は新星杯で戦ったことがあるし、逢衣子のペアは、九条さんと鍛錬してきたから、そこまで心配はしてないのかしら?」
「二条さんに小手先の術は通用しないでしょうからね。それに……、できれば冰波とは当たりたくないですね」
あの"力"……。あれはそう易々と使っていいものではない。それを何故あいつは……。


「……どうして?」
「……先輩は、それを聞きに来たんですよね?」
「……うん、そうよ」
恐らく先輩なりに何か仮説を立てていて、その証拠集め、といったところだろうか。
きっかけは、新星杯中に起きた襲撃事件。今回冰波が使った"力"と、あの時先輩が口にしていた疑問は、簡単に繋がっただろう。それではなぜ俺に聞くのか。……もしかしたら、俺も"力"を持っていることに、何らかの形で気付いた、のか……?


「その口ぶりからすると、知っているみたいね。……教えてくれない?」
「……すみません」
理事長に止められていたのもあったが、このことに先輩を関わらせるべきじゃない、その思いから、言葉が口をついて出た。


「……どうして?」
「どうしてもというなら、……俺は先輩の弟子をやめます」
話してしまったら、壊れてしまう気がする。……また、壊してしまう気がする。今まで築いてきたこの関係も、先輩という人も……。


「何でそこまで……っ?」
「……先輩、……世の中には、知らなくていいことっていうのもあるんですよ?」
「……っ!?」
珍しく反抗した俺に、先輩は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに顔を背けて悔しそうに歯を食いしばった。


しかし、深く息を吐いて気を落ち着けたのか、再び俺に向き直る。
「そう……。……じゃあいいわ、別に」
その眼と声音には、全くと言っていいほど感情が感じられなかった。


「じゃあね……」
そう言って去る先輩の背に、俺は何も言葉を投げかけられなかった。

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