竜王は魔女の弟子
第20話 初々しい二人 後編
二人は俺の提案を了承してくれ、俺とメイちゃんがお姉さんと向かい合うようにして席に着く。
「デートの邪魔しちゃって悪いわねぇ」
「い、いや、デートだなんて……」
言われて思い返せば、今日のことは確かにデートと言えなくもないのかもしれない。
「……デートなのか?」
デリカシーの欠片もない俺は、メイちゃんにそんなことを聞いてしまう。
するとメイちゃんは答えてくれず、代わりに、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。
「君、……颯太君、だっけ?」
「あ、はい」
「彼氏じゃないなら、メイの何なの? ……答えによっては、首を撥ねるけど」
表情はさっきからほとんど変わらない、愛想のいいままだ。
おいおい物騒だな……。そういやメイちゃんの姉ってことは、この人も九条本家の人なのか……。
「俺はメイ……さんと、双葉杯に出るんですよ」
「それで、なんでデートしてるの? 関係なくない?」
その声音には、怒気や責め立てるものは感じられない。からかいか、好奇心に近いものではないかと思う。
「それは、メイ……さんに誘われたからで……」
「へぇ~……」
お姉さんがメイちゃんに視線を向けると、メイちゃんはきまりが悪そうにそれを逸らした。
「颯太君は、メイのことは聞いてるの?」
「……家のしきたりを破った、ってやつですか?」
「……そっかぁ、よっぽど信頼されてるんだねぇ」
俺が再び視線を隣に向けると、恥じらいながらも、俺を捉えて離さない視線と交わった。
そして、そのままメイちゃんは柔らかい笑顔を浮かべる。
それは、お姉さんの言葉への肯定と取っていいのだろうか。
「あの、当たり前のことだと思うんですけど、お姉さんも、九条の人なんですよね?」
「お姉さんだなんて……、ユイって呼んでいいわよ」
「ユイ……さん」
俺が少し恥ずかしそうに言うと、メイちゃんは少し不機嫌になる。
女の子って、なんて扱いが大変なんだ……。
「そうよ。当たり前のことだけどね」
俺は少し思うところがあって、もう少し深く切り込んでいく。
「もう卒業されてるんですよね?」
「年齢を聞くなんて、デリカシーに欠けるんじゃなくて?」
「年齢は聞いてませんよ?」
俺の切り返しがおかしかったのか、ユイさんは笑みを見せた。これまでの愛想のいい笑みではなく、思わずこぼれた、というような笑みだった。
「うん、もう卒業してるわ。去年ね」
「年齢はいいですよ、別に」
「あら、残念。……それで? 何かあるんでしょ?」
さすが、察しがいい。隣のメイちゃんはきょとんとしているが、俺にはある考えが浮かんでいた。
「少しばかり、俺たちの特訓に付き合ってもらえませんか?」
俺は頭を下げて、真剣に頼み込む。それをこの人は……。
「……いいの? 愛の特訓の邪魔しちゃって」
「そういうんじゃないですってば。双葉杯に向けての特訓です」
「颯太さん、でも、姉さんじゃ強すぎますよ……」
メイちゃんがそこまでいうなら、尚更練習相手になってほしい。これは半ば、俺のわがままでもあった。
「弱いよりは強い方がいいに決まってるよ。それに、純粋に興味が湧いたんだ」
俺の言葉を聞いて、メイちゃんは再び口籠った。
「……メイを大事にしてくれるんなら、引き受けてもいいよ?」
「……大事に、とは?」
「どうしてほしいのかは、メイに聞いて?」
と、丸投げされたメイちゃん。呆気にとられ、明らかに困り果てている。
「まったく……じゃあ今回は、一つ貸しってことでいいわ。時が来たら、また同じことを聞くからね?」
「わかりました。ありがとうございます」
それから、とユイさんは頭を下げる俺を気にせず続ける。
「これは姉としてのお願いなんだけど……、もっとメイのこと、見てあげてね」
「え……? それはどういう……?」
「それじゃあ、あとはごゆっくり」
と、俺の質問には答えず、お金を置いて、満足そうにユイさんは帰っていった。
っていうか、どう見ても多いんだけど……。
日も傾いて帰るころには、すっかりメイちゃんの機嫌も元通りになっていた。
行きよりも、少し距離が近い気がする。
「今日は楽しかったよ。ありがとう」
「こちらこそです。途中、いろいろありましたけど……」
苦笑いしつつも、久しぶりにお姉さんと会えたんだ。メイちゃんも、嬉しくないはずはなかっただろう。
「……なぁ、メイちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと、目瞑ってくれない?」
「えっ? は、はいっ」
俺はかばんに手を伸ばし、今日こっそりと買ったそれを、メイちゃんの首にかけてやる。
「もういいぞ」
「わぁ……! これは?」
三日月のチャームがついたネックレス。
女の子がどんなものを喜ぶのかわからなかったので、よく母の誕生日に買っていたアクセサリーにしたのだ。
「今日のお礼というか……、その……、プレゼント、だよ」
彼女を視界の端に残しつつも、照れくさくて、真っ直ぐに見つめることはできない。
母の誕生日にあげるのとはわけが違う。同じ年頃の女の子にプレゼントを贈るなんて、生まれて初めての経験だった。
「ありがとう……! でもこれ、高かったんじゃないですか?」
「あぁ、うちはほら、わりと裕福だから……。それに、金額よりも気持ちが大事って、母さんに教わったから、金額は気にしなかったよ」
値段が高いとか、気にしたこともなかったな……。
「ごめんなさい、私は何も用意していなくて……」
「いや、いいんだよ。俺が個人的に渡したかっただけだから」
「でも……。……こんなものしかあげられませんが……」
目を合わせられない俺の頬に、メイちゃんの柔らかく瑞々しい唇がそっとふれる。
「ありがとう、メイちゃん……」
俺はついついその愛らしい頭に手を伸ばして、撫でてしまう。
恥ずかしさのあまり泣きそうになるも、俺から視線を離さないメイちゃんのその姿に、俺はその衝動を止められなかった。
「……それじゃ、また明日、学校でな」
「はいっ、おやすみなさい」
俺たちは寮の入り口で別れ、それぞれの部屋へ戻っていく。
名残惜しいが、ずっとこうしているわけにもいかない。切り替えて、双葉杯にも意識を向けていかないと……。
「デートの邪魔しちゃって悪いわねぇ」
「い、いや、デートだなんて……」
言われて思い返せば、今日のことは確かにデートと言えなくもないのかもしれない。
「……デートなのか?」
デリカシーの欠片もない俺は、メイちゃんにそんなことを聞いてしまう。
するとメイちゃんは答えてくれず、代わりに、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。
「君、……颯太君、だっけ?」
「あ、はい」
「彼氏じゃないなら、メイの何なの? ……答えによっては、首を撥ねるけど」
表情はさっきからほとんど変わらない、愛想のいいままだ。
おいおい物騒だな……。そういやメイちゃんの姉ってことは、この人も九条本家の人なのか……。
「俺はメイ……さんと、双葉杯に出るんですよ」
「それで、なんでデートしてるの? 関係なくない?」
その声音には、怒気や責め立てるものは感じられない。からかいか、好奇心に近いものではないかと思う。
「それは、メイ……さんに誘われたからで……」
「へぇ~……」
お姉さんがメイちゃんに視線を向けると、メイちゃんはきまりが悪そうにそれを逸らした。
「颯太君は、メイのことは聞いてるの?」
「……家のしきたりを破った、ってやつですか?」
「……そっかぁ、よっぽど信頼されてるんだねぇ」
俺が再び視線を隣に向けると、恥じらいながらも、俺を捉えて離さない視線と交わった。
そして、そのままメイちゃんは柔らかい笑顔を浮かべる。
それは、お姉さんの言葉への肯定と取っていいのだろうか。
「あの、当たり前のことだと思うんですけど、お姉さんも、九条の人なんですよね?」
「お姉さんだなんて……、ユイって呼んでいいわよ」
「ユイ……さん」
俺が少し恥ずかしそうに言うと、メイちゃんは少し不機嫌になる。
女の子って、なんて扱いが大変なんだ……。
「そうよ。当たり前のことだけどね」
俺は少し思うところがあって、もう少し深く切り込んでいく。
「もう卒業されてるんですよね?」
「年齢を聞くなんて、デリカシーに欠けるんじゃなくて?」
「年齢は聞いてませんよ?」
俺の切り返しがおかしかったのか、ユイさんは笑みを見せた。これまでの愛想のいい笑みではなく、思わずこぼれた、というような笑みだった。
「うん、もう卒業してるわ。去年ね」
「年齢はいいですよ、別に」
「あら、残念。……それで? 何かあるんでしょ?」
さすが、察しがいい。隣のメイちゃんはきょとんとしているが、俺にはある考えが浮かんでいた。
「少しばかり、俺たちの特訓に付き合ってもらえませんか?」
俺は頭を下げて、真剣に頼み込む。それをこの人は……。
「……いいの? 愛の特訓の邪魔しちゃって」
「そういうんじゃないですってば。双葉杯に向けての特訓です」
「颯太さん、でも、姉さんじゃ強すぎますよ……」
メイちゃんがそこまでいうなら、尚更練習相手になってほしい。これは半ば、俺のわがままでもあった。
「弱いよりは強い方がいいに決まってるよ。それに、純粋に興味が湧いたんだ」
俺の言葉を聞いて、メイちゃんは再び口籠った。
「……メイを大事にしてくれるんなら、引き受けてもいいよ?」
「……大事に、とは?」
「どうしてほしいのかは、メイに聞いて?」
と、丸投げされたメイちゃん。呆気にとられ、明らかに困り果てている。
「まったく……じゃあ今回は、一つ貸しってことでいいわ。時が来たら、また同じことを聞くからね?」
「わかりました。ありがとうございます」
それから、とユイさんは頭を下げる俺を気にせず続ける。
「これは姉としてのお願いなんだけど……、もっとメイのこと、見てあげてね」
「え……? それはどういう……?」
「それじゃあ、あとはごゆっくり」
と、俺の質問には答えず、お金を置いて、満足そうにユイさんは帰っていった。
っていうか、どう見ても多いんだけど……。
日も傾いて帰るころには、すっかりメイちゃんの機嫌も元通りになっていた。
行きよりも、少し距離が近い気がする。
「今日は楽しかったよ。ありがとう」
「こちらこそです。途中、いろいろありましたけど……」
苦笑いしつつも、久しぶりにお姉さんと会えたんだ。メイちゃんも、嬉しくないはずはなかっただろう。
「……なぁ、メイちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「ちょっと、目瞑ってくれない?」
「えっ? は、はいっ」
俺はかばんに手を伸ばし、今日こっそりと買ったそれを、メイちゃんの首にかけてやる。
「もういいぞ」
「わぁ……! これは?」
三日月のチャームがついたネックレス。
女の子がどんなものを喜ぶのかわからなかったので、よく母の誕生日に買っていたアクセサリーにしたのだ。
「今日のお礼というか……、その……、プレゼント、だよ」
彼女を視界の端に残しつつも、照れくさくて、真っ直ぐに見つめることはできない。
母の誕生日にあげるのとはわけが違う。同じ年頃の女の子にプレゼントを贈るなんて、生まれて初めての経験だった。
「ありがとう……! でもこれ、高かったんじゃないですか?」
「あぁ、うちはほら、わりと裕福だから……。それに、金額よりも気持ちが大事って、母さんに教わったから、金額は気にしなかったよ」
値段が高いとか、気にしたこともなかったな……。
「ごめんなさい、私は何も用意していなくて……」
「いや、いいんだよ。俺が個人的に渡したかっただけだから」
「でも……。……こんなものしかあげられませんが……」
目を合わせられない俺の頬に、メイちゃんの柔らかく瑞々しい唇がそっとふれる。
「ありがとう、メイちゃん……」
俺はついついその愛らしい頭に手を伸ばして、撫でてしまう。
恥ずかしさのあまり泣きそうになるも、俺から視線を離さないメイちゃんのその姿に、俺はその衝動を止められなかった。
「……それじゃ、また明日、学校でな」
「はいっ、おやすみなさい」
俺たちは寮の入り口で別れ、それぞれの部屋へ戻っていく。
名残惜しいが、ずっとこうしているわけにもいかない。切り替えて、双葉杯にも意識を向けていかないと……。
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