話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第18話 トレーニング

その週末、俺は約束通り、新川さんと朝から鍛錬に励む。場所は、彼女と最初に出会った森の広場だ。


「颯太さんは、誘いと崩しがお上手ですよね。やっぱり、事前に相手の情報はしっかり集めるんですか?」
「そうだな。相手によって誘いの方法は変わるし、そもそも崩しが通用しないような奴もいるからな」
「瞬間移動を使う凌太さんや、カウンター狙いの美鳳さんなんかがそうでしょうか?」
「あぁ。でも、もう彼らの対策は考えてあるから問題ないよ。ただ不安要素になるとしたら、誰と誰が組むのかってところだ。二人同時に崩すってよりも、まずは連携を崩していかなきゃならないからな」


タッグバトルにおいて、チームワークや連携の欠如は、個人個人で戦うよりも戦力が落ちる。
片方が片方の邪魔になったり、足を引っ張るからだ。それを狙えれば、楽に攻められるというものだ。


「じゃあ参考までに……、私を崩すとしたら、どうしますか?」
新川さんは俺に、少し挑戦的な眼差しを向けて言った。
「新川さんは脇差をメインに使うから、やはりそのリーチの短さこそが付け入る部分だと思ってる。だけど、生半可な距離の取り方じゃ、簡単に間合いを詰められてしまう。だったら、攻めに移らせず、常に動かせばいい」
「……どういうことです?」
「じゃあ実際にやってみるか。ちょうど試してみたいものもあるし」
「はいっ」


新川さんは脇差を抜き、中段に構える。俺は霊力で刀を形作り、いきなり式を展開する。
今回試してみたい術式は、先輩直伝の古代霊術"金剛吹雪ダイヤモンドダスト"。


まずは霊脈を操作し、俺の頭上に雲を作り出す。ここから針のような氷の粒を無数に射出するのだが、それだけでは"雪華繚乱"の劣化に過ぎない。
この術式の特徴は、無数の氷の粒が霊脈の流れに沿って飛んでいくところにある。
つまり、あらかじめ相手に向かって霊脈が流れ込むようにしておけば、追尾性能が加わるということである。


「本当にっ、氷の術式がお好きですねっ」
そして、その速度も尋常ではないため、避けるのは至難の業。いくら新川さんでも、その表情に余裕はない。
絶え間なく続く攻撃を、常に受けるかかわすかし続けなければならない中で、こうしたらどうなるだろう。


俺は瞬間移動で彼女の背後に移動するなり、素早く斬りつけようとする。
正面からの氷の針と、背後からの剣撃。受けに回れば、どちらかを直撃することになる。
上に避ければそのまま追尾され、さらにその状態では、逆袈裟に取られたときに対応できない。したがって、左右どちらかに避けるしかないのである。
だが、もし剣撃が水平だったとしたら、左薙ぎか右薙ぎかで、退路は左右のどちらかに絞られることになる。


そして意地悪したくなった俺は、右薙ぎの構えを見せて、瞬間移動で右面に移動する。
すると、身を屈めて俺の右薙ぎを掻い潜ろうとした新川さんの正面を捉えることができる。
当然、新川さんは体勢も悪い。間違いなくここからの一撃は決まるだろう。


ここまでで術式を解くと、新川さんは気が抜けたように、思わずその場に座り込んだ。
「……驚きました。息が止まりそうでしたよ……。やっぱり颯太さんには、もう勝てそうにありませんね……」
「でも、その俺は今回は味方だ。俺も、新川さんが味方でよかったって思ってるよ。あの一瞬で、よくあんな最善の判断ができるよな」
「ふふ、お互いさまなんですね」
「そうだな」
俺たちは笑いあいながら、少し休憩を挟む。


「そういえば、新川さんは敬語なのに、何で下の名前で呼ぶんだ?」
「家にいた時の癖なんです。颯太さんも、メイ、と呼んでくださっていいですよ?」
「じゃあ、メイ……ちゃん」
「はいっ、なんでしょう?」
試しに呼んでみると、彼女は満足げな笑みを見せた。


「家にいた時の癖っていうのは……?」
「…………。……颯太さんになら、話してもいいですね……」
彼女は少し間を置いてから、誰に言うでもなくそう小さく呟くと、寂しげな表情で続けた。


「私は……本当は九条本家の生まれなんです。ですが、家のしきたりを破ったために、家を出されて……」
確かに九条のような広い家にいたら、周りはみんな九条だもんな……。名前で呼ぶようにもなるか。


「家のしきたり?」
「…………。私は……九条の剣術で、……人を、殺めてしまったんです」
「え……? そんなまさか……」
メイちゃんはどう考えても、そんなことをするような人じゃない。結果としてはそうだとしても、それは仕方のないことだったのかもしれない。


仕方のないこと……。
ふと、あの日のことが脳裏をよぎる。母を失ったあの日のことが……。


「理由はどうあれ、家のしきたりを破った。それは事実です。九条は殺人剣ではありませんしね……」
「……先に言っておくが、こんなことを聞いたからって、メイちゃんのことが嫌いになったりなんかしないからな」
「颯太さん……。お優しいんですね……」
俺を見上げるその眼には、大粒の滴を湛えていた。
だが、泣き崩れたりはしない。強く俺を見据えたままだ。


「でもそうすると、メイちゃんはなぜこの学園に? 九条を憎んでいるとか、そんなことはないんだろ?」
この学園に来る者は、たいてい何かしらの目的や意味をもって、強さや力を追い求めている。
例外として、"五条"の者は必ずここに通う義務があるそうだが、メイちゃんはもう"五条"の者ではない。なら、ここに来ることも強制されないはずである。
メイちゃんはその眼に湛えた涙を拭って、俺の問いに答える。


「はい。……私がここにいるのは、私のわがままなんです。どうしても九条の剣を捨てられなくて……、この剣で、どこまでも高みを登っていきたい……。ただそれだけなんです」
「ははっ、メイちゃんは本当に、純粋で真っ直ぐで……、俺とは別の世界に生きてる人みたいだ」
「そんなこと……っ」
俺の言葉を強く否定するように、訴えようとした眼が俺の瞳を捉えると、メイちゃんは言葉を止めてしまった。
……俺の眼は、彼女にはどんな風に映ったのだろう。


それからしばらく、会話もないまま軽く打ち込み、寮の玄関で別れる。
「あの、颯太さん……、今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ。パートナーなんだし、上手く連携が取れるように、もっと一緒に練習しような。できれば練習相手とかいればいいんだけど……」
さっきまでの雰囲気をかき消そうと、少し無理に明るく振る舞ってみる。


正直、メイちゃんの気持ちはわからないわけじゃない。
だからこそ、下手に何かをしてやるべきでもないと思った。このままいつも通りを続けていけば、それで大丈夫だと、そう思っていた。


「颯太さん、明日、なんですけど……」
なんだか言い出しづらそうにしている。今日のこともあって、気後れしているのだろうか。
「あぁ、明日も鍛錬か? もちろん付き合うよ」
「いえ、そうではなくて……、明日、街の方に、出てみませんか?」
街、か……。家にいた頃は、ほとんど出してもらえなかったから、実は街に出たことはあまりないのだ。


「いいけど、何するんだ?」
「あ、その……買い物、とか……」
俺の質問が予期せぬものだったのか、少し呆気にとられたように、メイちゃんは言葉を絞り出した。
「わかった。じゃあまた明日、ここで待ち合わせにしようか」
「はいっ」
休憩を挟んでから俯きがちだったメイちゃんは、ようやく笑顔に戻った。感情に素直というか、喜怒哀楽の忙しい子だな。

「竜王は魔女の弟子」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く