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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第17話 双葉杯

意識を取り戻したとき、腹の上にささやかな重みを感じた。
耳を澄ますと、先輩の穏やかな息遣いが聞こえる。
先輩を起こさないようにゆっくりと上体を起こし、先輩の背中をそっと撫でた。


気付けば霊力もかなり回復しており、先輩の手厚い看護があったこと、その代わりに先輩が疲れて眠ってしまったことが容易に推測できる。
「ん……颯太くん……?」
「おはようございます、先輩」
先輩が目を覚ましたので、恥ずかしくなって、慌てて手を離した。


「体調は、大丈夫?」
「おかげさまで」
「よかった。……頑張ったね」
先輩がその小さな身体を伸ばして、俺の頭を優しく撫でてくれた。
少し照れくさくて、ただでさえ近くにある先輩の顔をまともに見れない。


「それで、その……お願いって?」
そういえば、勝ったらお願いを一つ聞いてほしいって約束だったな。


「あの……、頭、撫でてもいいですか?」
「えっ……そんなこと……? 別に、そんなのいつでもしてくれていいのに……」
「いや、先輩、年上だし……、女の子だし……、失礼かと思って……」
先輩は何をお願いされると思っていたんだろう。
少しがっかりしたような顔をしたが、すぐにいつもの不敵な笑みを見せて、俺の膝の上に座った。


「せ、先輩!?」
「……この方が、撫でやすいでしょ?」
先輩も、少し恥ずかしいのか、視線を合わせてくれない。


「じゃあ……」
俺はまず、そっと先輩の頭に手を置いた。そしてそのまま、毛並みに沿って優しく撫でる。
時折、その柔らかくも芯のしっかりとした茶色の髪が指に絡み付いてきて、なんだか変な気分になってしまう。


すると、先輩は俺の方にさらに身を寄せてきて、抱き付くように俺の背に腕を回した。
しかし、俺は何も言わず、そのまま撫で続けた。先輩の心音が速くなっていくのを感じる。温かくて、柔らかい。


そのまましばらく言葉もないまま、幾らの時が経ったのか知れない。だが、心地よい沈黙だ。


「颯太くん。今回は新入生だけだったけど、来月からは全学年入り乱れての試合になるわ。……この程度で満足してもらっては困るわよ」
この程度っていうのは、結果のことでいいんだよな……。


「ついに、序列の上位やランクAの先輩たちと戦えるわけですね。来月の大会は……双葉杯そうようはい、でしたっけ?」
「そう。観覧杯と同じくトーナメント戦で、二人一組のタッグマッチ」
「それじゃあ、誰と組むかが鍵になりそうですね……」
幸い、俺は前衛で戦うことも、後衛でサポートすることもできる。パートナー選択の幅も広い。
本当は先輩と組めたら……とも思うが、いつも通り、先輩は出ないんだろう。


「先輩は……」
「私は出ないわ。ごめんね……」
最後まで言う前に、考えが読まれていたみたいだ。
……さっきのお願いで、組んでくれと頼めばよかったかもしれないな……。


「学年の垣根を越えたペアでもいいんですか?」
「もちろん、そんなのたくさんいるわよ。でも皆大体は、もうペア決まってるんじゃないかしら」
「そう、ですよね……」


そうすると、新入生同士でのペアになるわけか。しかし、それだと経験豊富な先輩方と比べ、戦力としては不安が残るな。
千条さんと組めば、お互いの術式の相乗効果が狙えるかもしれないな。
一条さんや新川さんと組んで、後衛に回るのもいい。
虎太郎は……。


とにかく、明日教室に行ってから、皆の話も聞いてみよう。
もしかしたら彼女らも、既にペアが決まっているかもしれないし。



翌朝、席に着くと、虎太郎と新川さんがやってくる。すっかりいつものメンバーとして定着してるな。
しかし今日に限っては、別の人物も俺の元へやって来た。


「……ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
特別怒っているのではなくて、この人はいつもこうなんだと、何となく察した。
「千条さん、もしかして……」
「あんたと組むつもりはないわ」
期待していただけに、軽く凹む。それでは、何の用があって来たというんだ。


「……あんた、何でうちの術式が使えるのよ」
あぁ……、その話、か……。
「子供の頃にちょっとかじってたというか、教わったというか……」
「バカにしないでよ! そんなんで奥義まで習得してるわけないでしょっ!」
感情的になり、声を荒げる千条さんに、隠しても仕方ないと、俺は本当のことを話す。


「……俺の母さんは、千条の分家の生まれなんだよ。その母さんから教わったんだ」
「分家……? なんで分家ごときが奥義まで……っ」
……これだから本家の人間は嫌なんだ。黙っていればよかったかもと、早くも後悔にさいなまれる。


「でも、千条さんは色んな式を使えるんだろ? 俺は"冷"属性の術式しか使えないんだぜ?」
「だからって……! 私だって奥義なんて……」
「……なぁ、……もういいだろ」
「颯太、気持ちはわかるが今は……」
千条さんの態度に、俺の機嫌がどんどん悪くなっていくのを感じた虎太郎が、俺のスイッチが入るのを止めてくれた。


「愛璃亜ちゃんも……、奥義なんかよりバストアップに勤しんだ方が、いいんじゃないかい?」
「っ……!!」
千条さんは怒りで顔を真っ赤にし、虎太郎の頬を一発叩いて去っていった。
「ありがとな、虎太郎。……やり方は最悪だったが」
「いいってことよ」
虎太郎は叩かれた頬をさすりながらも、少し顔をほころばせている。
こいつ、まさか……いや、考えるのはやめておこう。


「颯太さんも、複雑な家庭だったんですね……」
「"も"ってことは、新川さんも?」
「ええ、まぁ……。……私の場合は、私のせいですけどね……」
あんまり気乗りする話でもなさそうなので、これ以上は触れないようにして、話題を変える。


「虎太郎はペア決まってるのか? どうしても相手が見つからないってんなら、俺が組んでやってもいいぜ?」
こいつとは腐っても幼馴染ではあるからな。それに、さっきは助けてもらったし。
だが、その虎太郎から、予想もしていない言葉が返ってくる。


「残念だが、もう決まってるんだ。悪かったなぁ、組んでやれなくて」
「なん……だと……!? お前を欲する奴がいるのか……」
「失礼なこと言うなよ! これでも一応、順位は半分より上だったんだぞ!」
そうだったのか……。そうすると、最後の希望は新川さんになるわけだが……。恐る恐る聞いてみる。


「新川さんも……決まってるのか?」
「いえ、私はまだ決まってませんよ?」
その笑顔からは、俺を救ってくれる女神のような神々しさを感じた。
新川さんと組むしかない。どうにかしてその気にできなければ、今大会は辞退してもいい。
それくらい、頭の中は切羽詰まっていた。


「颯太さん、私と組んでくれませんか?」
「新川さん、俺と……え?」
先手を打たれた。しかし、これは願ったり叶ったりの展開だ。


「もちろん、ぜひ組んでほしい!」
「よかったですっ。断られたらどうしようって思ってたから……」
「だけど、何で俺と?」
新川さんはランクBで、先輩方からもお声がかかっていそうなのに、俺なんかをわざわざ選ぶなんて……。


「一番戦いたくない相手と組みたかったから……です」
そういえば前にも、二連戦なら二回目はたぶん勝てないなんて言っていた。買いかぶりすぎじゃないか……?


「たぶん、純粋な技術だけなら私の方が上です」
「俺もそう思う」
ん……? ということは、戦闘面では期待されていないのか?


「でも、戦術の面ではとても敵いそうにありません……。颯太さんの試合を見ていて思いました。私みたいに一瞬一瞬に集中するのではなくて、大局を見据えた立ち回り……」
「……そうだったのか?」
「お前と話すの疲れるから間に入ってこないでくれない?」
俺は新川さんとの間に入って邪魔をする虎太郎を押しとどめて、新川さんの話の続きを待つ。


「だから、私を上手く使ってくださいっ。私を……、颯太さんに預けます!」
その強い眼差しは、本当に眩しいくらいに真っ直ぐで、この世のものとは思えないほど美しかった。


「新川さん……。君は本当にすごいな……。なんていうか、それしか言葉が出てこないよ」
ここまで的確に相手の技量、その本質を量った上で、自分を駒として預けようだなんて、……千条さんのような、プライドの塊みたいな人には決してできないことだろう。
「でもメイちゃん、今のはエロい意味にも取れるから気をつけなよ?」
虎太郎が余計な茶々を入れるが、実は俺も少し思ってしまった。


「そ、そうなんですか……っ。で、でもっ、そんなつもりじゃなくてっ!」
茹で上がったように顔を真っ赤にして慌てるその姿は、小動物のようで、本当に可愛らしい。
「わかってるよ。このバカの相手はしなくていいから」


「で、では、その……今度、また一緒に鍛錬しませんか?」
「もちろんだ。パートナーの力量はしっかり把握しておきたいしね」
「はいっ、よろしくお願いしますっ」

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