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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第16話 VS冰波凌太

翌日、屋外競技場での最終戦。
同じ頃、一条さんと千条さんの試合が屋内競技場で行われているためか、観客はほとんどいない。


試合の前、控え室には珍しく、先輩が来てくれた。
「颯太くん、大丈夫?」
「大丈夫です。相手が誰であれ、いつも通りやるだけですよ」
昨晩聞いたが、冰波凌太は、先輩の妹、莉奈さんの弟子なのだという。それで先輩も、少しいつもよりも気持ちの入り方が違うみたいだった。


「ふふっ、君はそういう人だったね。……健闘を祈ってるわ」
「はい。行ってきます」
いつもとは違ったぎこちないその表情から、先輩も自分のことのように緊張しているのが感じられた。


「あの、先輩」
行く前に振り返って、もう一度その愛らしい姿を捉える。


「何? 颯太くん」
「もし、勝って戻ってきたら……、一つ、お願い聞いてもらっていいですか……?」
「お願い……って?」
「今は、その……、まだ言えません」
「……わかった。ものにもよるけど、できる限り聞いてあげるわ」
「ありがとう……、茉奈」
「そ、颯太くんっ!?」
唐突な俺の物言いに、頬を染めながら慌てる可憐な先輩の姿をしっかりと焼き付けて、俺は戦いに臨む。
……失礼なことをしてしまったのは、後で謝ろう。



俺はフィールドに移動して、相手が現れるのを待つ。といっても、俺がフィールドに出てすぐに、冰波凌太は現れた。


「さて、じゃあ始めようか」
決闘結界を展開し、電子生徒手帳を"決闘"モードで起動する。


ここまでの試合をみると、彼は小回りのきく、小さくて軽い武器を多用していたが、今回は昨日同様、打刀をその手に構えていた。
恐らく、瞬間移動で機動力を補うつもりなのだろう。


俺はまず、出方をうかがいに、刀で斬りかかる。相手も様子見なのか、刀の腹で弾き、そのままこちらに斬りかかってくる。
俺はそれをかわし、少し間合いを詰めて、素早く刺突を続けて入れる。彼はそのことごとくを避け、後ろに下がったが、次の瞬間には俺の背後にいた。
これが彼の瞬間移動……。
詠唱ではなく思念で展開しているようで、発動のタイミングはわからなかった。


俺はすかさず背に障壁を張り、彼の一撃に備えつつ、素早く振り返って左薙ぎに斬る。
彼は瞬間移動でかわし、再び俺の背後に移動するも、それを読んでいた俺は、回転斬りの要領でそのまま背後まで斬りかかる。
冰波は咄嗟に刀を立てて盾代わりにするが、受けきれずに押し飛ばされた。


冰波は立ち上がると、打刀を構えたままこちらに走り迫ってくる。と、その途中で彼の姿を見失った。恐らく瞬間移動で移動したのだろう。
すぐに正眼に構え直して背後に意識を向けるも、そこに彼の気配は感じられない。
不意に影が近付いたのに気付いて、剣を構えるが早いか、彼は俺の頭上から思い切り剣を振り下ろした。
その気迫のこもった重い一撃を、刀の棟を支えながら受け止める。
なんて圧力だ……。刃先を霊力で覆っていなければ、間違いなく刃こぼれしていただろう。


さらにここで、彼は瞬間移動で俺の懐に入り込み、素早く逆袈裟に切り裂いた。
しかし、咄嗟に障壁を張って直撃は防いだため、力で後ろへ押し飛ばされただけで済んだ。
……今までの相手より格段に手強い。崩しても、一瞬で立て直されてしまうのでは意味がない。
ちょっと出し惜しみもしてられないな……。


俺は霊脈を操作し、周囲の気温を一気に下げる。すると、辺りの水蒸気は凝縮されて、氷の結晶が無数にできる。
だが、今回はそれでは終わらない。千条式霊術第参拾式"雪月華"を展開し、さらに氷の結晶を増やし、さっき作ったものは強度を高める。


「千条の結界術式か……。同じものとは芸がないな」
「千条さんとは違って、俺は専門じゃないんでな。だが……、奥義の真髄ってやつを見せてやるよ」


この冷えきった空間に浮かぶ無数の氷晶。そのすべてに霊力を流し込み、一つを動かすと、一斉に力が伝わって、風を切るような物凄いスピードで辺りを飛び回る。
結界の端にぶつかった氷晶は跳ね返り、再び空間を横切っていく。


俺は刀で斬りつけてまわるが、冰波は瞬間移動を使って逃げまわり、俺の斬撃は届かない。
しかし、この結界内に安全な場所などない。下手に動けば、鋭利な氷の花弁がその身を抉る。
これが、千条式奥義其ノ参"雪華繚乱"の本来の型。
そして今度は……直撃を狙いにいく!


俺は先輩から教わった瞬間移動術式で、彼の背後に移動し、その背を肩口から思い切り袈裟に斬りつけた。
その予想もしていなかったであろう攻撃に反応できなかった冰波は、一歩遅れてから瞬間移動し、結界の端まで下がった。
背後を取らせないつもりだろう。しかし、手応えからして避けきれてはいないはずだ。


俺は無造作に動かしていた氷晶を、個々に操り、冰波を狙って誘い出す。
この氷晶を使いきってでも、彼の移動パターンを把握する。一手ずつ詰めていき、最後に確実に仕留めるために。


直撃は取れなくても、次に動く場所が段々とわかってくると、より厳しい場所に撃ち込めるようになっていく。
氷晶を使いきると、結界も消えてしまった。
結界を維持していた俺の霊力が弱ってきている証拠だ。早めにケリをつけないと、先にこっちがバテてしまう。


「……そろそろ疲れてきたんじゃないか?」
そんな俺の対面で、冰波が冷ややかに笑った。
まさか、彼は最初からこれを狙っていたのか……!?


その一言を皮切りに、冰波の猛反撃が始まる。
瞬間移動で撹乱しながら、疲れきった俺の反応を上回る一撃を次々に浴びせていく。


障壁や瞬間移動も、使用を最小限に抑えていかなきゃならない中で、さらに、まだこちらが相手の移動パターンを見切ったことを悟らせたくない。何としてでも受けきる。
そして狙うのは、動きを見切った上でのカウンター。
一撃で終わらせる……!


刀では小回りがきかないので、腰に提げておいた短刀に持ち替え、冰波の攻撃を受け流しつつ、隙を探る。
俺が受けきれているとみるや、冰波も打刀を手放し、霊力を固めて短刀を形作った。これで機動力は互角になってしまう。
だが、こっちは霊力の消耗と引き換えに、彼の移動パターンを見切っている。次にどこから来るかあらかじめわかっていれば、避けるのもさほど難しくない。


そして、ついに好機が訪れる。消耗していたのか勝負を焦った冰波は、力を込めて少し大振りになり、隙ができる。
俺は瞬間移動で、その刃の軌道から外れ、その振り下ろす勢いをも利用して、彼の腹部に痛烈な一撃を決めた。
そのまま一気にケリをつけようと、短刀をすぐに引き抜いて、再度突き刺そうとするも、冰波は瞬間移動で距離を取った。


しかし、俺は移動を視認してからでも彼の背後に瞬間移動できる。
彼はその後も、何度も瞬間移動で逃げ回ったり、攻め込んでくるが、俺は一度も先手を取らせず、先回りする。
それもそのはず。俺が先輩から教わった術式は、現在一般的に使われているものより遥かに式が短く、展開に時間がかからない。
数センチほどの誤差は生じるようだが、その程度なら、俺の体捌きで修正できる。


そしてついに、彼は瞬間移動をもってしても、俺の短刀から逃れられなくなり、俺は背後から、深々と脇腹を貫いた。
その一撃に膝をついた彼は、とうとう降参を宣言した。
「俺の……負けだ」


そのまま彼は意識を失って倒れ込み、俺もなんとか控え室に戻ろうとするも、体力が限界に達し、途中で倒れてしまった。

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