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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第15話 千条式霊術 後編

俺の展開した空間制御型結界術式により、辺りは急速に冷えていく。
熱せられた空気が急に冷やされたらどうなるか。空気が圧縮され、気圧が下がり、真空に近い状態が生まれるのだ。


「あ……ぅ……っ!!」
千条さんは一瞬目を見開き、吐血するも、あえて霊脈のエネルギーを自分にぶつけることで圧力を維持し、なんとか意識を保った。


しかし、急激な温度変化に耐えられなかった千条さんの槍は砕け散っている。
もう降参するかと思ったが、向こうにも意地というものがあるようで、立ち上がって俺を見据える彼女の、その目に宿る闘志の火までは消しきれなかった。


「あんた……、殺す気……?」
「あのくらいじゃ死にはしないだろ。血まみれになって、意識は飛ぶだろうけど」
「ふふ……、千条式霊術……第参拾式"雪月華せつげつか"とはね……。やるじゃない……!」


しかし、この結界の副産物は容赦なく彼女に襲いかかる。
彼女を取り囲むように、氷柱が大地から突き上がってくる。
さらにその氷柱から、枝が伸びるように、細かい氷棘ひょうきょくが突きだす、千条式霊術第参拾壱式"氷荊ひょうけい"。


「この程度、こうして……!」
千条さんは霊力を固めて剣を形作り、迫り来る氷柱をことごとく斬って砕く。
だが、この状況こそが、俺の本領。砕け散った氷片は、地に落ちることなく、そのまま宙を漂う。
新川さんには通用しなかったが、千条さんには通るはず……!


「これって、まさか……、千条式奥義其ノ参……"雪華繚乱せっかりょうらん"……!?」
逃げ道は作らない。全方位から鋭い氷片が襲い、とどめに"凍刃"の一撃。
倒れ臥した千条さんの意識はなく、俺の勝ちだ。



屋内競技場の控え室に下がると、新川さんと虎太郎が出迎えてくれた。
「颯太さん、お見事でしたっ」
「ふっ、治療してやるから座れよ」
俺は言われるまま腰かけるも、少し遅れて違和感に反応する。


「何だよ、気持ち悪いな。お前が治療とか似合わねぇから」
「まぁそう言うなよ、せっかく勉強したんだから」
確かに、傷が塞がっただけでなく、体の疲れも取れた気がする。
「外の霊脈を流し込んでやったから、使っちまった霊力も快復したろ?」
「あぁ、先輩が使ってるやつか……」


そこへ、一人の男子生徒が現れた。話したことはないが、知っている。現在ランキング三位の、冰波凌太。


「おい、明日の最終戦……、俺と試合しろ」
「……わかった。こっちから申し込む手間が省けたぜ」
「ふん……」
それだけ告げると、彼は立ち去っていった。


「あいつか……」
「虎太郎、知ってるのか?」
「一回試合しただけだ。瞬殺されちまったけどな」
「新川さんはどうだ?」
「俺の話も聞けよ!」
まぁ、虎太郎が敵うレベルの相手じゃないというのはわかった。


「私も一度試合しました。その時は勝ちましたけど、十回やったら、三回は負けそうな気がします……」
新川さんがそう言うなら、結構な手練れみたいだな。っていうか、七回は勝てるんだな……。


「ちなみに、新川さんは俺と十回試合したら、何回くらい勝てそう?」
「半分勝てれば……という感じです。二連戦なら、二戦目はたぶん勝てないです」
「随分買われてるんだな、お前」
それは俺も思ったが、新川さんがそう言うなら、そうなんだろう。
そうすると、あと気になるのは、戦闘スタイルの相性か……。



寮に戻ると、俺の部屋のドアに、もたれるように背を預け、どこか寂しそうに足元を見つめている少女の姿があった。
その姿は、こちらの心まで痛むような悲哀を纏い、抱き締めたくなるような愛おしさを感じさせる。


「先輩」
「あ、颯太くん」
さっきまでの表情が嘘のように、いつもの不敵で可憐な先輩に戻った。
どちらが本当の先輩なんだろう。無理していないといいんだが……。


「さ、どうぞ」
俺は電子ロックを開けると、中に先輩を通す。
「先輩なら、カギ開けられるんじゃないですか?」
「それはさすがにまずいかと思ってね……」
否定しないってことは、できるのか……。まぁ、確かに権限の濫用と言われればそれまでだしなぁ。


「明日の相手、もう決まってるみたいね」
「情報早いですね……」
さっき話をつけたところなのに、いつの間に……。


「彼のスタイルは防御を無視した攻撃一辺倒のもの。動きも素早いわ」
「守るくらいなら攻めるっていうタイプですか……。でも、それならカウンターで振りきれますね」
「いえ、それは読まれるわ。今までそのやり方で通してきてるしね」
なんか、先輩の分析もやけに気合いが入っている気がする。


「それからこれを見てちょうだい。さっきの彼の試合よ」
相手はあの一条さんだ。しかし、近接戦に持ち込んだ上で勝利している。だが、この動きの速さは……。


「これ、前に先輩が使って見せた、瞬間移動の術式ですか?」
「あの時のは古代の未完成のものよ。かなり簡易な式だったから試しただけ。現代では既に、別の瞬間移動術式が考案されているわ」
そうだったのか……。だが、同じ現象を引き起こす式なら、簡易な方がいいに決まっている。


「この術式、見たことない?」
「えっと……」
なかなか思い出せない俺に、先輩は呆れたようにヒントをくれる。
「観覧杯で……」
「あ、莉奈さんの!」
「そう。あの子の使ってるやつよ」
莉奈さんは受けをほとんどしない。この瞬間移動による回避で、攻撃を流す。
瞬間移動使いを相手にすると、空振りがどうしても増え、隙ができやすくなると、あの時先輩も言っていた。


「瞬間移動を相手にするときは、どうしたらいいと思う?」
「移動先を予測、勢いを付けずに機動力重視、あとは、広範囲攻撃ですかね」
「一瞬で動けるなら、予測しても追い付けないわよ。機動力重視も同じこと」
「じゃあ、広範囲攻撃か……」
だが、彼は千条さんの千条式霊術第壱拾六式"十六夜"を破っている。千条式霊術は、力づくで破られる可能性がある。


「もう一つあるわ。……こっちも瞬間移動を使えばいいのよ」
「でも、試合は明日ですよ? 今からじゃ間に合いませんよ……」
「間に合わせるのよ。それに、これは恐らく、相手の盲点だろうしね……」

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