竜王は魔女の弟子
第11話 新星杯 中編
翌日、しっかりと手入れされているだろう美しい黒髪の少女が教室に入るのを見るなり、早速試合を申し込みに行く。
「あの、今日、俺と試合してもらえませんか?」
「いいですよ。放課後でいいですよね?」
思ったより簡単に受諾してもらえた。
「はい、お願いします」
自席に戻ると、虎太郎がやってくる。
「なんだよ……、もう決闘はいいだろ?」
「そ、そうじゃねぇよ!」
こいつはずっとしつこかったからな。昨日のでさすがに懲りたか。
「……お前、本気なのか? 確かに、昨日先輩に言われてた条件を満たすには適役だろうけどさ……」
「まぁ、遅かれ早かれ申し込むつもりだったしな。優勝を目指すには、避けては通れないだろ。……新入生首席は」
一条美鳳。名家、一条家の御息女で、新入生首席。そして、新入生でも三人しかいないランクBの一人。
ランクが一つ違うだけでもかなりの差が出ることは、昨日俺が身をもって証明済みだ。極端に言えば、向こうにハンデがあっても負けるかもしれない。
「……お前ならもしかしたら、とか思ってもいいのか?」
「期待するのは勝手だが、正直やってみないとなんとも言えないな」
「でも、私ともやりあえるんですから、いい勝負できると思いますよ」
横から割って入ってきたのは新川さんだった。
あの鍛練の後に知ったことだが、なんと彼女も三人しかいない新入生のランクBだった。
「しかし成績をみると、ほぼどの項目も安定して七割以上の評価を得てるんだよなぁ」
「ホントだ、バランスいいな……。162センチだってよ」
「お前は何の話をしてるんだ……?」
まぁ、確かにスタイルも顔もいいけど、俺は先輩みたいな……いや、そういう話じゃなくて。
「新川さんみたいに偏ってると、付け入る隙もあるんだけどな……」
「偏ってるか? 上から下までストンって感じだけどな」
これには穏やかな新川さんでも思わず手が出てしまう。……正しい反応だけども。
「ご、ゴメン……」
虎太郎は顔の右側を腫らしながら謝るも、新川さんは許していないようだ。
「失礼な奴だな、本当に……」
らしくないことをして、少し決まりが悪いのか、新川さんは恥ずかしそうに咳払いする。
「……こほん。佑馬さん、こういうバランスのいい人を相手にする時は、より自分の長所が際立つんですよ」
「なるほど……」
ここで定刻を知らせるチャイムが鳴り、それぞれ席に戻った。
放課後、約束の場所へ向かう。場所は屋外競技場。開けているし、こちらとしても不都合はない。
「お待たせしました」
「大丈夫です。まだ約束の時間の前ですから」
「随分と人気なんですね」
競技場の観客席には、結構な人数が観覧に来ている。その中には、虎太郎や新川さん、さらには先輩と二条さんの姿もあった。
これはちょっと、無様な負け方は許されないな……。
しかしながら、観客のほとんどは、この新入生首席が目当てだ。
「騒がしいと、集中できませんか?」
「いや、別にいいさ。どうせ始まったら、目の前の相手しか見えないだろうから」
「それなら良かったです。……そろそろ始めましょうか」
決闘結界が展開され、電子生徒手帳を"決闘"モードで起動すると、開始の合図が鳴り、俺は槍を構える。
普段は刀を扱うが、家では様々な武具の扱いについて学んだ。
今日槍を選んだのは、名家“五条”一つ、一条の家は、近接戦闘術の名門だからだ。
間合いを詰められたら、勝ち目が極端に薄くなる諸刃の戦術でもあるが、クロスレンジでは元々こちらは分が悪い。どうにか近づけないように立ち回る……!
対する一条さんは短刀を弓手に構え、俺と対峙する。
俺は試しに、霊術を用いて霊脈を操作し、一条さんの足元を崩してみる。
そこに繰り突きを入れようとするも、彼女は後退して構え直した。受け流してそのまま間合いを詰めるつもりだろう。
俺はすんでのところで踏みとどまり、すぐに距離を取った。
「いい判断ですね」
「それはどうも」
意外そうにしているが、まだまだその表情には余裕の色が浮かんでいる。
今の一撃から見ると、体捌きなら新川さんの方が上だと思う。
だが一条さんの場合、受けきって近接戦に持ち込もうとするだろうから、かわすことを前提にしないかもしれない。
なんて、近づくことを躊躇っていると、背後から何かに押されたように、一条さんの元へ突っ込んでいってしまう。
恐らく、彼女も霊脈を操作したのだ。俺が突っ込む先には、霊力を込めた右拳を構えた一条さんが立っている。
本来なら、槍を構えて突き出し、相討ち狙いが妥当だが、避けられた場合、決定的な隙になりかねない。
できるかわからないが、あれを試してみるしかない。あれが通用するなら、戦術の幅はかなり広がるはずだ。
俺は槍を構え、後ろからの力に逆らわずに、一条さんの右手に吸い込まれていく。
予想通り、一条さんは槍が突き刺さる直前に左に身を翻し、身体に捻りを加えて俺の側身に拳を打ち付ける。
しかし、その拳は俺には届かなかった。
「……"堅牢の魔女"の弟子、でしたね。あなたは」
「……まだまだ見習いだけどな」
とにかく、先輩から教わっていた障壁術式は、未完成ながらも通用することがわかった。これなら、無茶して突っ込むこともできる。
これこそが、現状での俺のアドバンテージ。
全力を出すなら短期決戦になる。まずは布石だ。
俺は槍で小突いては退き、フィールドを駆け回る。一条さんは、それに律儀に反応して反撃してくる。
「ちょこまかと……スタミナ切れ狙いですか?」
……勘違いしてくれるなら、大いに利用させてもらおう。
「その技は結構霊力使ってるっぽいからな。……少しは疲れてきたか?」
「この程度で疲れるなら、こんな技使いませんよ」
「それは残念だ。でも、そろそろ終幕にしようぜ……!」
「あの、今日、俺と試合してもらえませんか?」
「いいですよ。放課後でいいですよね?」
思ったより簡単に受諾してもらえた。
「はい、お願いします」
自席に戻ると、虎太郎がやってくる。
「なんだよ……、もう決闘はいいだろ?」
「そ、そうじゃねぇよ!」
こいつはずっとしつこかったからな。昨日のでさすがに懲りたか。
「……お前、本気なのか? 確かに、昨日先輩に言われてた条件を満たすには適役だろうけどさ……」
「まぁ、遅かれ早かれ申し込むつもりだったしな。優勝を目指すには、避けては通れないだろ。……新入生首席は」
一条美鳳。名家、一条家の御息女で、新入生首席。そして、新入生でも三人しかいないランクBの一人。
ランクが一つ違うだけでもかなりの差が出ることは、昨日俺が身をもって証明済みだ。極端に言えば、向こうにハンデがあっても負けるかもしれない。
「……お前ならもしかしたら、とか思ってもいいのか?」
「期待するのは勝手だが、正直やってみないとなんとも言えないな」
「でも、私ともやりあえるんですから、いい勝負できると思いますよ」
横から割って入ってきたのは新川さんだった。
あの鍛練の後に知ったことだが、なんと彼女も三人しかいない新入生のランクBだった。
「しかし成績をみると、ほぼどの項目も安定して七割以上の評価を得てるんだよなぁ」
「ホントだ、バランスいいな……。162センチだってよ」
「お前は何の話をしてるんだ……?」
まぁ、確かにスタイルも顔もいいけど、俺は先輩みたいな……いや、そういう話じゃなくて。
「新川さんみたいに偏ってると、付け入る隙もあるんだけどな……」
「偏ってるか? 上から下までストンって感じだけどな」
これには穏やかな新川さんでも思わず手が出てしまう。……正しい反応だけども。
「ご、ゴメン……」
虎太郎は顔の右側を腫らしながら謝るも、新川さんは許していないようだ。
「失礼な奴だな、本当に……」
らしくないことをして、少し決まりが悪いのか、新川さんは恥ずかしそうに咳払いする。
「……こほん。佑馬さん、こういうバランスのいい人を相手にする時は、より自分の長所が際立つんですよ」
「なるほど……」
ここで定刻を知らせるチャイムが鳴り、それぞれ席に戻った。
放課後、約束の場所へ向かう。場所は屋外競技場。開けているし、こちらとしても不都合はない。
「お待たせしました」
「大丈夫です。まだ約束の時間の前ですから」
「随分と人気なんですね」
競技場の観客席には、結構な人数が観覧に来ている。その中には、虎太郎や新川さん、さらには先輩と二条さんの姿もあった。
これはちょっと、無様な負け方は許されないな……。
しかしながら、観客のほとんどは、この新入生首席が目当てだ。
「騒がしいと、集中できませんか?」
「いや、別にいいさ。どうせ始まったら、目の前の相手しか見えないだろうから」
「それなら良かったです。……そろそろ始めましょうか」
決闘結界が展開され、電子生徒手帳を"決闘"モードで起動すると、開始の合図が鳴り、俺は槍を構える。
普段は刀を扱うが、家では様々な武具の扱いについて学んだ。
今日槍を選んだのは、名家“五条”一つ、一条の家は、近接戦闘術の名門だからだ。
間合いを詰められたら、勝ち目が極端に薄くなる諸刃の戦術でもあるが、クロスレンジでは元々こちらは分が悪い。どうにか近づけないように立ち回る……!
対する一条さんは短刀を弓手に構え、俺と対峙する。
俺は試しに、霊術を用いて霊脈を操作し、一条さんの足元を崩してみる。
そこに繰り突きを入れようとするも、彼女は後退して構え直した。受け流してそのまま間合いを詰めるつもりだろう。
俺はすんでのところで踏みとどまり、すぐに距離を取った。
「いい判断ですね」
「それはどうも」
意外そうにしているが、まだまだその表情には余裕の色が浮かんでいる。
今の一撃から見ると、体捌きなら新川さんの方が上だと思う。
だが一条さんの場合、受けきって近接戦に持ち込もうとするだろうから、かわすことを前提にしないかもしれない。
なんて、近づくことを躊躇っていると、背後から何かに押されたように、一条さんの元へ突っ込んでいってしまう。
恐らく、彼女も霊脈を操作したのだ。俺が突っ込む先には、霊力を込めた右拳を構えた一条さんが立っている。
本来なら、槍を構えて突き出し、相討ち狙いが妥当だが、避けられた場合、決定的な隙になりかねない。
できるかわからないが、あれを試してみるしかない。あれが通用するなら、戦術の幅はかなり広がるはずだ。
俺は槍を構え、後ろからの力に逆らわずに、一条さんの右手に吸い込まれていく。
予想通り、一条さんは槍が突き刺さる直前に左に身を翻し、身体に捻りを加えて俺の側身に拳を打ち付ける。
しかし、その拳は俺には届かなかった。
「……"堅牢の魔女"の弟子、でしたね。あなたは」
「……まだまだ見習いだけどな」
とにかく、先輩から教わっていた障壁術式は、未完成ながらも通用することがわかった。これなら、無茶して突っ込むこともできる。
これこそが、現状での俺のアドバンテージ。
全力を出すなら短期決戦になる。まずは布石だ。
俺は槍で小突いては退き、フィールドを駆け回る。一条さんは、それに律儀に反応して反撃してくる。
「ちょこまかと……スタミナ切れ狙いですか?」
……勘違いしてくれるなら、大いに利用させてもらおう。
「その技は結構霊力使ってるっぽいからな。……少しは疲れてきたか?」
「この程度で疲れるなら、こんな技使いませんよ」
「それは残念だ。でも、そろそろ終幕にしようぜ……!」
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