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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第10話 新星杯 前編

先輩にもゆっくり休んでもらって、連休明け。今日からついに新星杯が始まる。
この学園に入ってから初めての大会だ。どこまでやれるんだろうという期待と、純粋に猛者との勝負を楽しみたいという高揚感に包まれる。


「おい、颯太。初戦の相手はこの俺だよな?」
そういえば、こいつは俺と決闘したがっていたな。ちょうどいい。


「いいぜ。肩慣らしにちょうどいい」
「言ってくれるじゃねぇか……」
本当に呆れるくらい煽り耐性の無い奴だ……。


いつもなら挑発しても余裕をもって勝てるだろうが、今日はそうはいかない。
先輩から、"霊術を使わずに純粋な技量で勝ってきなさい"、と言われているのだ。
一つだけ許可されたのは、"頭を使う"こと……。


校庭の隅で決闘結界を展開し、電子生徒手帳の"決闘"モードを起動させる。
「それじゃ、始めようか」
俺は刀を正眼に構え、対する虎太郎こたろうは素手で構える。


電子生徒手帳の合図とともに、先に仕掛けたのは虎太郎。
その両拳に霊力を纏い、乱暴に振り回す。
どうやら腕や脚の筋力も霊力で強化し、身体能力を大幅に向上させているようだ。一撃でも当たったら、間違いなくただでは済まない。


「おらおらァ、逃げてばっかじゃ勝てねぇぞ!」
触れなくても衝撃を感じるその拳圧は少々厄介だが、スピードは新川さんの剣に比べれば大したことはない。余裕をもってかわしていける範囲だ。


「随分と雑だな……」
「何ィ……っ!?」
普通にやっても当たらないと踏んだ虎太郎は、地面を思い切り殴り付け、砕き割って足場を崩した。
場所を選ばなければならない俺とは対照的に、足場など関係なく突っ込んでくる。
それでもギリギリでなんとか避けきっていたが、脆くなった地面に足をとられて、体勢を崩してしまった。


「しまっ……!」
そんな好機を逃すはずは無い。腹部に振りかぶった一撃をもらい、結界の端まで思い切り吹っ飛ばされる。
なんとか急所は避けたものの、あまりの激痛に立ち上がれない。


「……おい。お前、なんで霊力を使わない?」
「今日は……そういう……約束……だからさ。……先輩……との」
「……そうかよ。手加減しねぇけど、死ぬんじゃねぇぞ」
「ったりめぇだ……。負けるつもりも……ない……!」


この状況での一番の勝ち筋は、虎太郎を挑発して、俺のその減らず口を潰させること。
あいつの性格なら、正面から正々堂々止めを刺しにくるはずだ。
……チャンスは一度きり。気づかれたらそれまでだ。一瞬のカウンターで決める……!


「この状況でまだ勝てるとか思ってんのか?」
「当たり……前だろ。俺は、お前より……格上なんだぞ……。負ける要素が……ねぇよ」
こうしている間に、だいぶ痛みもひいた気がする。


「格上……だと? 上等だぜこの野郎ォッ!」
いい感じに煽れたみたいだ。


限界まで引き付けて……、その拳の勢いも使わせてもらうとしよう。
身体を支えるために立てている刀を微妙に奥にズラし、居合いの要領で勢いよく逆袈裟に引き抜いた。


完全に意表を突いたときの攻撃は、通常のそれとはダメージの入り方に大きく差が出る。
そして時には、演技で虚勢を張るのも有効。


「何度やっても同じだが、……まだやるか?」
本当は立ち上がるのも辛いが、表情に出さずに、倒れこんだ虎太郎に剣先を突きつける。


「……俺の……負けだ」
項垂れた虎太郎のその宣言とともに結界が解除され、俺の生徒手帳に記念すべき一勝が刻まれる。
すべてが終わって気が抜けたのか、俺の意識はここで途切れた。



目を覚ました時は、ベッドに寝かされていて、傍らには、なぜか新川さんがいた。
「あれ……何で?」
「私が運んだんですよ。……本当に、無茶な人ですね」


「あいつは……?」
自分でやっておいてなんだが、虎太郎も結構な傷を負っていたはずだ。
「虎太郎さんなら、お隣のベッドにいますよ」
「ふん……、ハンデ付きの奴に負けるなんてな……。ランクの差ってのは思ったより大きかったみたいだぜ」
隣から、悪態とも開き直った称賛ともとれる声が聞こえた。


虎太郎のランクはD。俺はC。基本的には総合評価で決まるのだから、当たり前と言えばそうなのだが。


そこに、聞き慣れた声が現れる。
「私も、まさかその条件で本当に勝つとは思ってなかったわよ。頭は使ったみたいだけどね」
「先輩……ひどいですね」


「この人が、お前の言う先輩か……」
「なんだよ?」
「いや、てっきり口実のための作り話だと思ってたぜ」
「そんなわけないだろ……」
事情を知らない先輩は、俺と虎太郎の話についていけず、小首を傾げている。


「颯太くん。明日の試合は、今日とは逆に、全力でやってみて。いい? 霊力を全部使いきるつもりでやるのよ?」
「わかりました」
「今日は手伝いはお休みでいいから、ゆっくり休んで。また明日ね」
そう微笑みかけて、先輩は行ってしまった。


「今の、天宮茉奈先輩ですよね?」
「新川さん、知ってるの?」
「はい。すごい人らしいです」
俺と初めて会ったときの印象からか、新川さんはすごいと表現することが多いような気がする。


「そんなすごい人と、佑馬さんとはどういう関係なんですか?」
「先輩は、俺の師匠なんだよ」
「じゃあ今日のハンデも、修行の一環とかなのか?」
「さあ、詳しくは聞いてないんだ。……聞いても教えてくれる人じゃないしね」
「そうなのか……」
先輩なりに何か思うところがあるような口ぶりではあったが、そういう時は大体教えてくれない。


「頭を使った、っていうのはどういうことなんです?」
「あぁ、霊術を使うなとは言われたけど、頭は使っていいって言われてたんだ。俺は思考力を強化する術式を使えるからな」
「その小賢しい策に、俺はまんまとやられたってわけだ。腹立たしい限りだぜ……」
なんて言いながら、虎太郎の表情はどこか清々しかった。


霊脈を使えば、傷の治療も大して手間取らない。少し療養したら部屋に戻り、次の相手を検討する。


新星杯では自由に試合を申し込める。
もちろん断られることもあるみたいだが、普通はそのまま受けてくれるらしい。
そして、試合は一日一回限りで、計二十戦。一年は五十一人だから、戦えるのは半分以下となる。そのため、相手を選ぶということもかなり重要になる。


しかも明日は、霊力を使いきるほど全力で、という条件付きだ。
考えてみれば、全力で、というのも逆に難しいかもしれないな。
やはり、この人にするしかないか……。

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