竜王は魔女の弟子
第9話 ささやかな休日 後編
翌日、せっかくなので、最近サボっていた鍛練をすることにした俺は、寮の中庭から近くの森の方へ入っていった。
少し歩くと開けたところに出たが、どうやら先客がいたようだ。
別の場所を探そうかと思ったが、俺は彼女の一振りに釘付けにされてしまった。
振り乱される長い黒髪は、ところどころ陽の光を浴びて茶色く輝いている。
小柄で可憐な姿とは裏腹に、その鋭い太刀筋は、二条さんのそれに通じるものがあった。
相当の手練れであることが、端から見ているだけでひしひしと感じられる。
「え……?」
「あ……」
思わずじっと見入ってしまっていると、それに気づいた彼女と視線が交わった。
「いや、その……、すごいですね……!」
俺の口から出たあまりにも稚拙な称賛の言葉に、彼女は思わず笑みをこぼした。
それによって、張りつめた空気が一変する。
「ん、ふふ、……そんなにすごいですか?」
「うん、すごい。見てるだけでもわかるよ」
「あの、私、一年の新川メイと言います。よければ、ご一緒しませんか?」
こんなところ、トレーニングする以外ではまず来ない。だから、俺もトレーニングをしに来たのは彼女にも明白で、彼女も彼女で相手がほしかったのだろう。
俺に断る理由はないので、快くその申し出を受ける。
「同じく一年の牧野颯太だ。もちろん、こちらからお願いしたいくらいだよ」
「よろしくお願いしますっ」
とりあえず、軽く剣を合わせるが、やはり只者ではない。
刃が空を斬る際に、音がしない。
そして、リーチの短い脇差を使っているが、それを補って余りある身のこなし。剣捌きもそうだが、体重移動や体捌きが完璧すぎて、全く隙が生まれない。
体勢を崩そうとしても、すぐに次の構えに移られてしまう。それだけ型も豊富ということだ。
俺の一撃を難なく避けた新川さんは、不意に少し間合いを空けて、中段に構えた。
「……颯太さん、意地悪ですね」
「え……っ?」
言われてみれば、軽くのつもりが、いつの間にか厳しく攻めていってしまっていた。
「今度は、こっちの番ですよっ」
そう言い放つと、新川さんは居合の構えのままこちらに迫ってくる。
その圧倒的な気迫に一瞬肝が冷えるが、すかさず防御姿勢を取り、受けようとするも、彼女は居合とは思えないほど間合いを詰めてくる。
彼女の構えから頭にちらついていた二条さんのあの居合斬りから、もう少し手前でくると思っていたため、完全に不意を突かれたが、それでも体勢を整えて、今度はもう少し刀身を立てて構え直す。
すると、新川さんはその小さな身体をさらに縮めるようにして、俺の足元から逆風に斬り込んできた。
しかもその狙いは俺ではなく、剣を持っている手元。鍔元を物凄い速さの一撃で叩かれ、思わず取り落としてしまう。
そしてそのまま袈裟斬りに取られ、刃は俺の首筋で止まる。
「……やっぱり、すごいな」
「颯太さんが意地悪するからですよ」
完敗の意を示した俺に、彼女は少し拗ねたように返した。
「颯太さん。最後、何で受けようと思ったんですか?」
「受けられると思ったんだ。それに君の一撃は、避けるのは厳しいと思ってさ」
二条さんの一撃も、先輩は受けきっていた。
あれは障壁術式を使ってはいたが、あの位置に正確に障壁を張れたのは、二条さんの太刀筋を見切っていたからだ。
……俺にも、できると思っていた。
「でもやっぱダメだ。誰かの真似をしようとしても、上手くいかないもんだな」
「誰かの真似をしようとしたんですか?」
「まぁね。……少し休んだら、続きしようか」
「はいっ」
体力というより、気力が疲れた。
霊術を使わずに、純粋な技量だけであんなに集中力を要する組手を久しぶりにした気がする。……父さんとやったとき以来だ。
それからしばらく日が暮れるまで、鍛練に付き合ってもらい、寮の入り口で新川さんと別れた。
「今日はありがとう。色々と勉強になったよ」
「こちらこそ、ありがとうございましたっ」
「それじゃあ、また会えたらその時は、またお願いするよ」
「はいっ」
この眩しいほど屈託のない笑顔を見ると、剣を交わしているときの彼女とはまるで別人に見えるな。
あの時の彼女から感じた氷雪のような冷たい気配は、今の彼女からは感じられなかった。
少し歩くと開けたところに出たが、どうやら先客がいたようだ。
別の場所を探そうかと思ったが、俺は彼女の一振りに釘付けにされてしまった。
振り乱される長い黒髪は、ところどころ陽の光を浴びて茶色く輝いている。
小柄で可憐な姿とは裏腹に、その鋭い太刀筋は、二条さんのそれに通じるものがあった。
相当の手練れであることが、端から見ているだけでひしひしと感じられる。
「え……?」
「あ……」
思わずじっと見入ってしまっていると、それに気づいた彼女と視線が交わった。
「いや、その……、すごいですね……!」
俺の口から出たあまりにも稚拙な称賛の言葉に、彼女は思わず笑みをこぼした。
それによって、張りつめた空気が一変する。
「ん、ふふ、……そんなにすごいですか?」
「うん、すごい。見てるだけでもわかるよ」
「あの、私、一年の新川メイと言います。よければ、ご一緒しませんか?」
こんなところ、トレーニングする以外ではまず来ない。だから、俺もトレーニングをしに来たのは彼女にも明白で、彼女も彼女で相手がほしかったのだろう。
俺に断る理由はないので、快くその申し出を受ける。
「同じく一年の牧野颯太だ。もちろん、こちらからお願いしたいくらいだよ」
「よろしくお願いしますっ」
とりあえず、軽く剣を合わせるが、やはり只者ではない。
刃が空を斬る際に、音がしない。
そして、リーチの短い脇差を使っているが、それを補って余りある身のこなし。剣捌きもそうだが、体重移動や体捌きが完璧すぎて、全く隙が生まれない。
体勢を崩そうとしても、すぐに次の構えに移られてしまう。それだけ型も豊富ということだ。
俺の一撃を難なく避けた新川さんは、不意に少し間合いを空けて、中段に構えた。
「……颯太さん、意地悪ですね」
「え……っ?」
言われてみれば、軽くのつもりが、いつの間にか厳しく攻めていってしまっていた。
「今度は、こっちの番ですよっ」
そう言い放つと、新川さんは居合の構えのままこちらに迫ってくる。
その圧倒的な気迫に一瞬肝が冷えるが、すかさず防御姿勢を取り、受けようとするも、彼女は居合とは思えないほど間合いを詰めてくる。
彼女の構えから頭にちらついていた二条さんのあの居合斬りから、もう少し手前でくると思っていたため、完全に不意を突かれたが、それでも体勢を整えて、今度はもう少し刀身を立てて構え直す。
すると、新川さんはその小さな身体をさらに縮めるようにして、俺の足元から逆風に斬り込んできた。
しかもその狙いは俺ではなく、剣を持っている手元。鍔元を物凄い速さの一撃で叩かれ、思わず取り落としてしまう。
そしてそのまま袈裟斬りに取られ、刃は俺の首筋で止まる。
「……やっぱり、すごいな」
「颯太さんが意地悪するからですよ」
完敗の意を示した俺に、彼女は少し拗ねたように返した。
「颯太さん。最後、何で受けようと思ったんですか?」
「受けられると思ったんだ。それに君の一撃は、避けるのは厳しいと思ってさ」
二条さんの一撃も、先輩は受けきっていた。
あれは障壁術式を使ってはいたが、あの位置に正確に障壁を張れたのは、二条さんの太刀筋を見切っていたからだ。
……俺にも、できると思っていた。
「でもやっぱダメだ。誰かの真似をしようとしても、上手くいかないもんだな」
「誰かの真似をしようとしたんですか?」
「まぁね。……少し休んだら、続きしようか」
「はいっ」
体力というより、気力が疲れた。
霊術を使わずに、純粋な技量だけであんなに集中力を要する組手を久しぶりにした気がする。……父さんとやったとき以来だ。
それからしばらく日が暮れるまで、鍛練に付き合ってもらい、寮の入り口で新川さんと別れた。
「今日はありがとう。色々と勉強になったよ」
「こちらこそ、ありがとうございましたっ」
「それじゃあ、また会えたらその時は、またお願いするよ」
「はいっ」
この眩しいほど屈託のない笑顔を見ると、剣を交わしているときの彼女とはまるで別人に見えるな。
あの時の彼女から感じた氷雪のような冷たい気配は、今の彼女からは感じられなかった。
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