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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第8話 ささやかな休日 前編

「お邪魔しまーす」
いつもの制服姿ではなく、少し胸元の開いたシンプルな白いブラウスに、水色の薄手のカーディガンを羽織り、下は膝上丈くらいの黒いスカートという、先輩らしい落ち着いた格好だった。
ブラウスの下の黒いキャミソールが透けているのは、どうしても扇情的な目で見ずにはいられない。


「何もない部屋ですみませんが」
「いいわよ。逆に、何かあった方が困るんじゃない?」
なんて、意味深な視線を送られ、きまりが悪くなって逸らしてしまう。


そのまま先輩はベッドに腰かけ、俺はテーブルを挟んで先輩と対峙するように床に座った。
その先輩の姿は、無機質で殺風景な俺の部屋に似つかわしくない、一輪の可憐な花のようで、俺は先輩には不釣り合いであることを、嫌でも感じてしまう。


「俺は、何すればいいですか……?」
「普段は何してるの?」
「旧図書館にいない時は、鍛練ですね」
「私は武術はさっぱりだしなぁ……。あとは?」
「…………」
再びきまりが悪くなって、視線を逸らしてしまう。


先輩が、せっかくだから俺の部屋に行きたいと言うので仕方なく従ったが……どうしたものか。
家柄のせいで厳しくされてきたので、娯楽の類いはほとんど嗜んだことがない。無論、女性経験などなく、ここに来るまでは母親くらいしかまともに話もしたことはなかった。


「そっかぁ……。私もあそこに籠ってるか、勉強してるかだしね。気にしなくてもいいと思うよ」
そう言って先輩は、ベッドから降りて、俺の向かいに座る。さっきよりも近い。


それにしても、今日は俺が何でも言うことを聞く日なのに、逆に慰められてしまった。


「あ、そうだ、今日は敬語禁止ね?」
「……守らないとどうなるんですか?」
「んー、破門しちゃうかも」
「わ、わかった……」
こんなことで破門されるのは御免だ。


「ついでに、先輩って呼ぶのも禁止」
「えっ、じゃあどうすれば……」
「私の名前、知らないの?」
「うぅ……茉、奈……」
何だか無性に恥ずかしい。今すぐ姿を隠してしまいたい気分だ。異性の名前を呼ぶのって、どうしてこんなにも緊張するのだろう……。


「ふふっ、可愛いなぁ、颯太くんは」
可愛いと言われるのもそうだが、異性に頭を撫でられるのも複雑な気分だ……。


それからしばらく、会話もなく、特にすることもないまま時間は過ぎていく。
正面に座っている先輩は、時々こっちをじっと見つめていたが、俺は恥ずかしくなって、先輩の横顔を見つめることしかできなかった。


「ふぅ……。……あのさぁ、颯太くん」
「な、何……?」
こんなことを続けていて、先輩でもしびれを切らさないわけない。
何を言われるとしても、俺は覚悟を決めて、先輩の方へ視線を向ける。


「私といて、つまんない……?」
先輩の目は怒っていなかった。むしろ、寂しさと不安が渦巻いているような、そんな哀しい目をしていた。
「俺は別に……一緒にいるだけで充分だけど、……茉奈は……つまんないんじゃないかな……」


「私も、こうしているだけで充分だよ。…………よかった」
心の底から安心に満たされたような先輩の柔らかい笑顔に、なぜだか内側から熱いものが込み上げてくる。それを、そっとまぶたを閉じて堪えるので精一杯で、先輩に声をかけてあげられない。


「さて、しんみりするのは終わり! 男の子の部屋に来たら、一度してみたいことがあったのよねぇ……」
そんなことを言いながら、唐突にベッドの下を漁り出す先輩。
スカートで膝立ちなんて……、無防備にもほどがある。見ないようにしつつもしかし、俺の視線は、ヒラヒラする境界に釘付けになってしまう。


「んー、やっぱりこんなわかりやすいところにはないか」
先輩が振り向いたので、慌てて視線を逸らす。
「ん? どうしたの?」
「いや、別に……。で、何かお探しで?」
なんとなくわかっているが、あえて聞く。


「男の子ってやっぱり、エッチな本とか持ってるんでしょ?どこにあるのかなぁって」
「そんなの知ってどうすんの……?」
「いや、その、興味があるというか……」
「エッチなことに?」
「ち、違うよ! 颯太くんが、どんなの見てるのかってこと」
先輩は好奇心も強いから、たぶん本当に純粋に知りたいだけなんだろう。


「でも残念なことに、この部屋にそんなものはない」
俺は勝ち誇ったように言い切ると、先輩はさも意外そうに、しまいには心配されてしまった。
「何でっ!? 無くて平気なの?」
「どういうことだよ……」
「莉奈が、男の子っていうのはエッチな本が無いと死んじゃう生き物だー、って言ってたよ」
「いやそれ間違ってるから……」
大体、莉奈さんはどこからそんな情報を仕入れたんだ……。それを鵜呑みにする先輩も先輩だが……。


「じゃあ何か、代替物があるのね……」
などと、先輩は捜索を再開した。
「まさか、これの中に保存されてるなんてことはないわよね?」
先輩が手にしたのは、机に置いてあった俺の電子生徒手帳。当たり前のようにロックを解除し、中を探り始める。


「茉奈っ、それはちょっと」
「おっと、急に慌て始めたわね。……正解ってことかしら?」
「返してくれ。いや本当に」
少し強引に奪いにいくも、先輩は抵抗して離さない。と、バランスが崩れてそのまま床に転げ倒れてしまった。
「あ、なんか画像が入ってるフォルダがあるわね」


俺が先輩に覆い被さるような体勢になってしまっているが、先輩は気にした様子もなく、その手を俺の背にまわして生徒手帳をいじっている。
残念ながら柔らかい感触を味わっている余裕もなく、生徒手帳を取り戻すことだけに集中する。


「茉奈、お願いだ。それだけは、見ないでくれ」
俺はなんとか画面と先輩の間に割り込み、懇願する。あのフォルダだけは、見られるわけにはいかない。


「どうして? エッチな画像で恥ずかしいから?」
「エッチな画像じゃないけど、恥ずかしいものだから」
「……何が入ってるの?」
「お願いだよ、茉奈……」


「……わかった。見ないわよ。……だから、降りてもらっていいかしら?」
「ご、ごめんっ。それから、ありがとう……」
先輩から生徒手帳を受け取り、ポケットにしまう。
「でも、何が入ってたのか教えてよ」
何が入っているか……。先輩の画像が入っているなんて、とても言えるわけがない。
「そのうち、教えるよ」
俺の返答に、あからさまに不機嫌な表情をされるが、俺が頑なに教えないとみて、先輩はやがて、またいつもの調子に戻ってくれた。


「そういえば、さっきさらっとロック解除してたけど、俺のパスワード知ってたのか?」
「知らないわ。あれは、強制解錠コードを入力したのよ」
「な、なんだよそれ……。それもまた、権限がどうとかってやつか。何者なんだよ、茉奈は……」
「まぁ、私は"魔女"ですから」
そのすべてを掌握したような不敵な笑みに、俺も漏れなく魅了されてしまう。


「冗談はさておき……、詳しいことは言えないんだけど、颯太くんは、"王の右手ライトハンド"って知ってる?」
「……いや、知らない」
「この学園の機密や安全を守るため、学園における最高の権力を与えられた五人の生徒のことよ。序列やランクで決まるわけではなくて、最も信頼できると理事長が判断した者が選ばれるの」
信頼っていうのは、人間的にも実力的にもってことなんだろう。


「茉奈はその一人ってことか……。"右手"ってことは、"左手"もいるのか?」
「うん。颯太くんは、"王の左手レフトハンド"の一人に選ばれてるよ」
「じゃあ、俺もなんか権限があるのか!?」
「残念だけど、"右手"とは反対に"左手"は、最要注意人物の五人のことよ」
「最要注意人物って、俺が……?」
何かやらかしたんだろうか……。まるで身に覚えがないのだが。


「……茉奈は、俺の監視役ってことなのか?」
「違うわ。私はあくまで個人的に仲良くしてるのよ。……でも、危険と判断されたら、そうなるかもね……」
即答してくれて嬉しかった。
先輩が俺を選んだ理由を教えてくれないから、こういうことなのかと疑ってしまった自分が恥ずかしい。


「そうは言われても、心当たりはないしなぁ……」
「私も、何で要注意なのかは知らされてないの……。たぶん、他の"右手"の人達もね」
「そっか……」
まぁ何にせよ、問題を起こさないようにすればいいんだろう。


「…………。ねぇ、颯太くん。そろそろお腹空いたかな」
「……わかったよ」
気づけばもう空は茜に染まっていた。
それに、先輩なりに話題を変えようとしてくれたのだろう。その心遣いだけでも嬉しかった。



晩御飯をご馳走して、先輩を部屋まで送る。これで今日の任務は完了だ。
「明日もですからね? しっかり休んでくださいよ?」
「む、今日はまだ敬語禁止よ」
「あ……ごめん。破門は勘弁してくれ……」


「ふふっ、今日はありがとうね。本当に……」
「こちらこそ。あ、それから、その……私服も、結構似合っててかわいいよ」
「っ……!? そ、そういうのは、会ったときに言いなさいっ」
先輩は顔を赤くしていたが、当然のごとく、怒られてしまった。
会った時は見惚れてしまい、言うタイミングを逃してしまったのだが、言わずにいるわけにもいかないと思ったのだ。
「ごめん……」
「もう……。おやすみ、颯太くん」
「おやすみ、茉奈」
明日もちゃんと休んでくれるといいんだけどな……。

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