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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第6話 堅牢の魔女 後編

「もう少しだったか……。だが、負けは負けだ。約束の件は、理事長にも伝えておく」
「二条さん……」


「こ、こっちを見るな、バカ」
そのまま帰ろうとする二条さんを呼び止めたが、目が合ってしまい、何とも言えない空気になる。


「……その、服、直しますよ」
俺の方から沈黙を破り、二条さんの方を振り返らないようにして手だけを向け、目を閉じて意識を集中する。
二条さんの元々の服装をイメージし、霊脈を操作して再構成するのだ。


「……ありがとう、助かった」
その言葉で目を開けると、二条さんは出会ったときと同じ姿で俺の正面に立っていた。


「こんなところに寝かしておくわけにもいかないな。とりあえず運ぶか」
「はい。……じゃあ先輩、失礼しますね」


俺は先日に続いて先輩を背負い、旧図書館のベッドに寝かせた。
相変わらず可愛らしい寝顔をしていらっしゃる。
どこか幼さを感じるその寝姿が愛らしく、思わず頭をゆっくりと撫でるも、二条さんの咳払いに我に帰り、手を止めた。


「……お前は、こいつをどう思っているんだ?」
「どう……とは?」
「とぼけるな。……安心しろ、こいつには絶対に言わないさ」
視線は先輩に向けられているが、真剣そのものだった。からかっているわけではないらしい。


「とにかくすごい人、ですかね。正直、俺なんかじゃ弟子としてすら不足なんじゃないかって思うときもあります」
さっきの"決闘"を見ても、俺では一生かけて追いかけても、その背中を視界に入れることすらできないような気がする。


「…………つまらん」
「え……?」
「もっとこう……好き、とか、そういうのはないのか?」
二条さんは頬をほんのり赤く染め、その目は好奇心で輝いていた。


「ま、まぁ、かわいい人だとは……」
「ほう、参考までに、こいつのどの辺が可愛いんだ?」
などと身を乗りだし、微かに笑みも含んだその表情は、からかいよりも、純粋に会話を楽しんでいるようだった。
もしかしたら、出で立ちに似合わず、意外と乙女チックな話題を好むのかもしれない。


「表情、ですかね……」
「つまり顔か?」
俺の返答に、露骨につまらなそうな表情をされる。真剣に考えただけに、軽くショックだ。


「いえ、たしかに顔立ちも整っていますけど、一つ一つの表情に、こっちの気持ちまで動かされるようですよ」
「ふーん、そういうもんか……」


「あとは……、胸ですね」
「最低だな」
「男なので、こればっかりは仕方ないです」
「やはり、男というのは最低だな」
……返す言葉もない。
身長が低いのに膨らみが大きいというギャップは、正直息を飲むような破壊力がある。


「まぁ、性格は悪いが仲良くしてやってくれ。……本のこと以外でこいつがこんなに楽しそうにしているなんて、そうはお目にかかれないからな」
「そうだったんですか? てっきり、いつもこんな感じなのかと……」
確かに今日は毒舌成分二割増くらいにはなっているが、俺からすれば、いつも通りといった感じだ。


「次席で入学した去年の新星杯の初戦、こいつは圧倒的で他を寄せ付けない実力を見せつけた。しかし、……強すぎた。首席で入学した私ですらこの有り様だ。おかげで皆は、怯えるような目で彼女を見るようになり、初戦以降は全て棄権。大会にも出ていない」
「それで、ここに籠るようになってしまったんですか?ここだと、余計に他人との関わりが失われてしまいますよね……」


旧図書館は学園の敷地でも辺鄙なところにあり、人が訪れないどころか、その存在を知らない者すら少なくないという。


「それも目的の一つだったのかもしれないな。ま、当の本人は、大好きな古書に囲まれて幸せそうだがな」
「はは……、年頃の女の子とは思えないですね……」
「だから、こいつに言い寄る男なんて、余程の物好きか命知らずだよ。そんなこいつが弟子と認めたと聞いたもんだから、お前が少し気になったんだ。……正直、お前も面はいいとは思うぞ」
「それはどうも。……先輩は、どうして俺なんかを拾ってくれたんでしょうね……」
「私に聞かれてもな……」


先輩に聞いても、教えてくれない。
もしかしたら、大した意味なんてないのかもしれない。でも、何か期待されているのかもしれない。
そんなことを思わずにはいられない。先輩は、何の考えもなしに行動するような人ではないから……。


「……まぁそんなことがあって、こいつは"堅牢けんろうの魔女"なんて呼ばれてる」
"堅牢"は彼女の得意とする障壁術式のことと、彼女の閉じ籠りがちな性格を皮肉っているんだろう。


「俺はその呼び名、初めて聞きましたけどね」
「当然と言えばそうだが、気に入ってないみたいだからな、こいつは」


「……あの、先輩は学校にはちゃんと行ってるんですよね?」
心配になってつい聞いてしまう。話だけ聞くと、不登校になってもおかしくない。
「いや、実はこいつは、休み返上であらかた必要な単位は取り終えてるからな。来ても来なくてもいいんだ」
「休めっていうのはそういうことですか……」
普通は休みを返上したくらいでどうにかなるとも思えないが、それが先輩のすごいところなんだろう。


「さて、ここまで聞いてどうだ? 気が変わったか?」
「そんなわけありませんよ。むしろ、気持ちが固まりました」


俺は先輩をもっと知りたい。そして、力になりたい。支えたい。
俺では不足かもしれないけど、そう思わずにはいられない。


「それで……だな、やはり男としては、胸が大きい方がいいのか?」
恥ずかしそうに話題を戻す二条さんが、何だか可愛らしく見えてきた。狙っている男性でもいるのだろうか。


「大きさよりは、形や触り心地の方が大事かと思いますよ。……触ったことは、ありませんけど」


「……じゃあ、触ってみる?」
「えっ?!」


その言葉は、誰もいないはずの俺の隣から……のはずだったが、そこには、ほんのさっきまでベッドに寝ていたはずの先輩がいて、艶めかしい眼差しで俺を見つめていた。
しかし、俺の視線は先輩のそれとは交わらず、男を魅了する豊かな二つの膨らみに向いてしまう。

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