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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第3話 観覧杯 後編

白熱した準々決勝も終わり、観衆が帰路に立ち始めた。


俺も先輩を起こそうと体を揺するが、穏やかな息遣いだけが返ってくる。
その可憐な寝顔に吸い込まれそうになるも、どんどんと閑散としていく競技場を早々にあとにしなければと、もう少し激しく揺すってみた。
それでもやはり、目を覚ましてくれそうにはない。


「……じゃあ、失礼して」
仕方がないので先輩を背負った。
さすがに自分の部屋に連れ込むわけにはいかないし、先輩の部屋はそもそも何号室か知らない。となると、旧図書館しかない。


旧図書館には泊まり込みで作業することもあるため、実は家具や生活設備もある程度揃っている。
先輩をベッドに寝かせて、俺は彼女が目覚めるまで、旧図書館の蔵書を読みふけった。


ここにあるのは古代の霊術について書かれた本だ。そのため読むのは結構骨が折れるが、現代霊術の起源ともなる理論はなかなか興味深い。
いつもの作業をしてもよかったのだが、先輩がいないと、この広大な建物のどこに何を動かしていいのかわからなかった。


「ふわぁ……あれ……?」
「随分眠ってましたけど、疲れてたんですか?」
外には既に、太陽と代わるように月が高く昇っている。俺自身も、こんなに時間が経っていたとは思わなかった。


「ごめんね、こんな時間まで。どうせここには誰も来ないし、置いて帰ってくれてもよかったのに」
「そんなことできませんよ。万が一があったらどうするんですか」
俺があまりにも真剣な声で言ったため、先輩は少し照れくさそうに視線を逸らした。


「颯太くんも休みなよ? 今度は私が見守っててあげるから」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」


正直なところ、眠気を抑えるのも限界に達していたので、先輩に代わって俺がベッドに横になった。
ほのかに甘い、いい匂いがする……。先輩の温もりが、まだ残っている……。


「おやすみ、颯太くん……」
先輩に言葉を返す余裕もなく、俺の意識は眠りの世界へと沈んでいった。



気が付いたときには、眩しいくらいの朝陽が窓から目に刺さるようで、顔を逸らすと、愛らしいものを見るような慈愛に満ちた眼差しと目が合った。


「おはよう、颯太くん」
「お、おはようございます……」
なんだか落ち着かなくて、ついつい視線を逸らしてしまう。


「いつも敬語で疲れない? もっと砕けていいよ?」
そんなことを言いながら、エプロン姿の先輩はシステムキッチンの方へ戻っていった。


「もうすぐできるから、もう少し待っててね」
朝食まで作ってくれているようだ。何から何までお世話になってしまって、本当に申し訳なく思う。



「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」


先輩が作ってくれた朝食を平らげて、食後の皿洗いを引き受けた。
誰かに作ってもらう料理というのは格別美味しくて、活力が湧き上がってくる。それが先輩のような人なら尚更だ。


その間に、先輩は何やら電子生徒手帳で調べものをしているらしい。
「準決勝に残ったのはこの四人ね……」


旧図書館には電子生徒手帳を介して学園のメインコンピュータにアクセスできる設備がある。ただし、先輩の権限があってのことだが。
先輩はそれを使って昨日の試合を見ていた。


この学園には"決闘"という制度があるが、正規の手続きを踏んだ学園内での決闘は、すべて映像として記録され、学園のメインコンピュータに蓄積されているのだという。


「きれいに序列の上から四人が揃いましたね」
「まぁ、どうせ新堂寺しんどうじさんが優勝するんだろうけどね」


三年生の新堂寺朔也さくやさんは、圧倒的な序列最高位で、勝点抜きの総合評価も学園トップ。
二位以下はわりと僅差なのに対し、一位と二位の間には100ポイント以上の差があるのだ。


「先輩のおすすめは、やっぱり妹さんですか?」
莉奈りなは力業で押しきるタイプだから、颯太くんの参考にはならないわよ。そうね……、逢衣子あいこの試合は、観ておくといいんじゃない?」
二条にじょう逢衣子さんか……。確か、二年生にして総合評価が学園2位、なんでしたよね?」
「そうよ。でも、今後の大会で上位を目指していくなら、どの試合も観ておくといいと思うわ」


大会は月に一度、様々なレギュレーションで行われ、上位入賞者には賞金も出る。


「もし優勝したら、まず先輩になんでもご馳走しますよ」
「ふふっ、遠慮しないわよ?」
「いいですよ。もし優勝できたとしたら、きっとそれは、先輩の……、茉奈まなさんのおかげですから」


まだ出会って一ヶ月にも満たないが、先輩から学ぶことは多い。
圧倒的な知識の差から、たまに何を言ってるかわからないときもあるが。それでも、霊術の本質たる部分を知っていくことができる。


「嬉しいことを言ってくれるのね。……じゃあ優勝したら、私からもご褒美をあげるわ」
「ご褒美……」
女の子からご褒美と言われたら……期待してしまうのも仕方がない、よな……。


「ちょっと、変な期待しないでよ?」
「……はい、わかってます」
「本当にわかってる? たまに、私の見る目がなかったのかと心配になる時があるよ……」
「うぅ……すいません……。そもそも、何で先輩は俺を……?」
「……さぁ、何でかしらね」
先輩は俺と目も合わさずに、そんな素っ気ない返事をした。
実はずっと気になっていたのに、適当にはぐらかされてしまった……。



一度部屋に戻り、支度を整えてから、また昨日と同じ席で先輩と落ち合う。


「ふふっ、さっきぶりね」
「えぇ。毎日ずっと一緒にいたいくらいですけどね」
「……そういうことを軽々しく言うのはやめなさい?」
呆れたように溜め息をつくものの、彼女の頬はほのかに赤みを帯びている。
……昨日も似たようなことがあった気がする。


「でも、一緒にいて落ち着きますし、学ぶこともたくさんありますから」
「……そう」


第一試合の組み合わせは、序列四位の二年生、二条逢衣子さんと、序列三位の三年生、上代かみしろ真郷まさとさんだ。


「昨日観た感じだと、二条さんとは対極に、上代さんはパワータイプの印象ですね」
「……そうね。後先考えずに力に頼る奴よ」
先輩の視線は真っ直ぐに舞台上を見つめていて、しかしながら何かを思い出しているようでもあった。
珍しく少し険しい表情の先輩に、これ以上話題を振れず、この試合は黙々と観戦することになった。



「……どうだった?」
すべての試合が終了し、表彰が終わった後で、それまで口を開かずに、じっと舞台を見つめていた先輩から声を掛けられた。


「思わず震えましたよ。……あんなに活きている剣、初めて見ました」


惜しくも準優勝の二条さんは、前評判通りの剣の達人だった。
まるで剣が意思をもって生きているかのような剣捌き。そして何より、その斬撃の速さ。目にもとまらぬ、を体現したような鋭さだった。
そこから付いた異名は"刹那せつな夜叉やしゃ"だとか。


「楽しめたのなら良かったわ。来月の新星杯しんせいはいは新入生限定だから、軽く実力を見せつけてほしいわね」
「無茶言わないでくださいよ。でも、期待に応えられるように頑張りますよ!」

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