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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第4話 堅牢の魔女 前編

観覧杯から約一週間は、俗にゴールデン・ウィークと呼ばれる連休で、それが終わるとすぐに新星杯が始まる。


新星杯はトーナメント形式の観覧杯とは違い、二十戦の戦績を競うレーティング形式。
このレーティングの特徴は、自分よりも高いレートの者に勝てば大幅にレートが上がり、自分よりも低いレートの者に負ければ大幅にレートが下がるところにある。
つまり、勝率が同じでもレートに差が出るということである。



連休とはいえ、大してすることがないというのも複雑な気分だ。
どうも落ち着かなくて、気が付いたら自然に旧図書館に足が向かっていた。


「おはようございます」
「あれ、颯太くん。今日はお休みよ?」
と言いつつ、先輩もしっかり制服を着用して作業を始めている。
「わかってますよ。でも、ここの方が落ち着きますから」


「そう? せっかくのお休みなのに、私なんかに時間を割いてくれなくてもいいのよ?」
話しながらも、先輩は作業の手を緩めない。
「先輩こそ、休みなんですから少しは休んでくださいよ?」
「考えておくわ」


それ以降は何だかんだで、いつも通り他愛のない会話をしながら、時間を気にせず作業に没頭していく。
ここの古書の選別というのも、同じことの繰り返しではあるが、数が尋常ではないため、なかなか終わりが見えてこない。


そんな中、不意に旧図書館のドアが開く。俺と先輩以外にここに人が現れるのはかなり珍しい。


天宮あまみやー、いるかー?」
「いるわよー」


ちょうど姿が見えないが、どこか力強さを感じさせる凛々しい声の主は、どうやら先輩に用事があるようだった。


「昨日は残念だったわね。何か用かしら?」
セリフを読んでいるかのように取り繕った、まるで心のこもっていない先輩の声が聞こえた。


「ふん、最初から勝てると思ってなかったくせに、よく言う。お前に依頼が来ている」
「わざわざ私に? 何の依頼?」


「……そこの奴に聞かせてもいいのか?」
聞き耳を立てているのに気づいていたのか、鋭い声が向けられる。
この雰囲気と会話の内容から、恐らく来客は二条さんだと思われる。


「あの子は私の弟子だから、問題ないわ」
「へぇ、お前の……」
「颯太くんも、こっちに来たら?」
「は、はい」


作業を止めて先輩の元へ向かうと、やはり予想通り。
猛々しさにあふれつつも、女性らしい細く丸みを帯びたシルエットに、長く艶のある漆黒の髪、鋭く真っ直ぐとした力強い目付き、腰に差した打刀。
その姿は、昨日見た二条逢衣子さんと何ら変わらない。


「……何だ?」
「見とれてたんじゃないの?」
思わず見入ってしまっていた俺に、若干不機嫌そうに、先輩が目を細める。


「あ、いや、……すいません」
「っ……!」
俺の肯定を示す返答に、二条さんはわずかに頬を紅潮させて目を逸らした。
暫し沈黙が二人の間を支配したが、先輩がそれに割って入る。


「……それで、依頼が何ですって?」
「理事長からだ。"休め。この連休は登校を禁ずる"、とのことだ」


「……はぁ? 了承できかねるわね」
依頼の内容も耳を疑うものだが、理事長からの依頼にそんな言葉を返せる先輩も先輩だ。
正直、まったくついていけない。


「熱心なのは構わないが、働きすぎだ。ただでさえお前は、その……」
言いかけて、二条さんはこちらを一瞥した。すぐに先輩に向き直るも、明らかに、何か俺に対して言いにくいことがあるという素振りで間違いない。
先輩についてはわからないことだらけだが、わざわざ隠そうとするほどの事情があるというのか。


「とにかく、休め」
「…………」
先輩は納得できないようで、口を開かずに目で抵抗する。


「……おい、お前からもわからず屋の師匠に何か言ってやれ」
二条さんが俺にそう言っても、先輩は俺と視線を合わせようともしない。


「先輩……、俺は先輩に休んでほしいです。何があったかは知らないですが、心配なものは心配です」
「……わかったわよ。休めばいいんでしょ」


「ほう、これからはお前を介して依頼することにしよう」
などと、二条さんに意味ありげに肩を叩かれる。正直、それでも折れてくれるか不安はあったので、少し意外でもあった。


「ただし、条件があるわ」
「何だ?」
「私が逢衣子に勝ったら、休むのは半分の三日だけよ。……それから颯太くんにも、私の言うことを何でも聞いてもらう日を一日設けます」
「何で俺まで……」
「……嫌なの?」
「……嫌じゃないです」


先輩がそんなことを言い出すなんて、本当に何もかも意外だ。
いや、俺が先輩を全然理解していなかっただけなのかもしれない。


「いいのか? これでも私は序列四位だ。弟子の前で恥はかきたくないだろう?」


先輩には勝ってほしいが、正直、心配で仕方がない。
先輩が戦っているところは見たことがないけれど、二条さんの戦いは昨日見ている。それに、先輩は大会に出てもすぐに負けてしまうから出ないと言っていた。
しかし、先輩は力量を量り違えるような人だとも思えない。何なんだ、この食い違いは……。


「序列なんて大して意味のないことは、あなたもよくわかっていると思うけど?」
「……ふん、後悔するなよ?」
「交渉成立ね」


俺は、呆然とこのやりとりを眺めていることしかできなかった。


「颯太くん、私の戦い、見てみたいって言ってたわよね? ……それとも、相手が"刹那の夜叉"じゃ不足かしら?」
「まさかそんな! ……勝算はあるんですか?」
どうしても、そう聞かずにはいられない。


「……ないこともないわ。この前見つけたものをちょっと改良したから、できたら試してみようと思うわ」
「あの……頑張ってください!」
そんな言葉しか絞り出せない俺に、先輩は温かい微笑みで返す。
「ふふっ、ありがと」

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