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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第5話 堅牢の魔女 中編

外に出て、先輩が地面に式を書く。
結界術式の一種で、"決闘"用に考案された簡単な術式だ。新入生が最初に習う、一番基本的な式でもある。


「観覧杯とルールは同じでいいな?」
「ええ」


二人は距離を取り、電子生徒手帳の"決闘"モードを起動させ、電子生徒手帳から開始の合図が鳴る。


「では、始め!」


"決闘"における絶対的なルールは二つ。
一つは、降参や続行不能と判断された場合、敗北とする。
もう一つは、致命傷や、即死攻撃などの命に関わる行為の禁止。
これは校則で定められている。


「いくぞっ!」
最初に仕掛けたのは二条さんで、どの試合も最初の一撃は居合状態から繰り出される閃光のような剣撃だった。そして並大抵の相手では、この一撃で勝敗がつく。


しかし、これで決まるはずがない。
先輩は、剣を受け止めるように右手を突きだすと、本当に剣が先輩の脇腹手前で止まる。
目を凝らすとうっすら見えた。霊脈を操作して障壁を作っているようだ。
あの一瞬の間に、これだけ強固で、しかも座標も正確なものが作れるとは……。さすがは先輩だ。


一旦身を退いて、二条さんは再び先輩に迫り、無数の剣撃を浴びせる。
刃が日の光を反射して、所々白く煌めいている様子でしか、剣の存在を捉えられないほどに、速い――!


だが、驚いたことに、先輩は傷一つ無いどころか、その場から動かずに全て受けきっている。
意識を変えて、霊脈の流れを視ると、辺りの流れが一気に先輩に集束していっていた。


「さすがは"堅牢の魔女"……。一撃も通らないか」
「……次はこちらからいかせてもらおうかしら」
そう言うと、先輩が何やら詠唱を始めた。
先輩の詠唱速度も半端なものではない。本人に聞いたところ、十秒で辞典一冊分の情報量を詠唱できると言っていた。
聞き取れたところだけでも、まるで聞いたこともない術式だ。


二条さんはすぐに退いて、剣を正眼に構え、先輩の攻撃に備えた。


すると突然、決闘結界内に霧が立ち込める。さらに二条さんを襲うように風が吹き荒れ始めた。そして急激に、結界内の気温が下がる。
この一連の流れはほぼ一瞬の出来事で、今二条さんがさらされている状況は想像に難くない。


霧の一粒一粒が小さな氷の刃となって、強風に煽られて二条さんに襲い掛かる。
それを、気温が下がって身動きが取り辛い状況でかわすことはおろか、受けきることさえほぼ不可能といっていい。


そして先輩は、唯一の打開策すらも、既に二条さんから奪っていた。
先輩が展開した術式にはまだ続きがあったのだ。確実に相手を仕留める最後の仕掛けが。


それは霊脈の遮断。
辺りの霊脈は、二条さんを避けるようにして流れている。これでは先輩が二条さんの剣撃を受け止めたような障壁は使えない。生身でこの猛攻を凌がなければならないのだ。


風が止んで視界が晴れた時、二条さんは片膝をつき、剣にすがり付くようにして、辛うじて意識を保っていた。
呼吸も整っていないものの、強い眼差しで真っ直ぐ先輩を見据えている。
露出した白い肌や、切り裂かれた服の隙間には、無数の切り傷が見てとれた。
その姿は痛々しくも、扇情的で、俺は咄嗟に視線を逸らしてしまう。


「まだまだっ」
二条さんはそれでも諦めずに、威勢よく立ち上がる。


「……あんまり動くと、見えちゃうわよ? ねぇ、颯太くん?」
「っ!? お、おい、見るなっ」
「み、見てないですよ!?」
その先輩の言葉に、二条さんも俺も、明らかに動揺してしまう。


「ダメよ、颯太くん。公平なジャッジをしてくれないと困るんだから、しっかり、じっくり見ないと」


恐る恐る視線を二条さんの方へ向けると、破れた服を押さえるようにしてその場に座り込んでしまっている。時折風で煽られるのが、また何とも情欲をそそる。
先輩の狙いは最初から、こうして彼女の戦意を削ぐことだったのかもしれない。


「くっ……、魔女め……。わかった、降参でいい……」
「潔くて……助かるわ」
二条さんの降参宣言で気が抜けたのか、先輩の体が崩れ、俺はすかさず支えに駆け寄る。


「あはは……ギリギリだったね」
「先輩……っ」
「ごめん……、あと、よろしく……」
それだけ言い残して、先輩は俺の腕の中で、意識を落としてしまった。

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