本の購入希望書に悩みを書かないでください。
断章:おすすめの本
放課後になって、今日は図書室を臨時で閉め、昇降口に降りる。
すると、その姿はすぐに見つかった。
「じゃあ、行こうか」
「どこ行くんですか?」
「駅前の本屋だよ」
信用していいんだよね……?
高校生になってまだ日の浅いわたしにしてみれば、一つ上というだけでも大きな存在に見える。何かあっても、たぶん逃げられない。
「斎藤さん」
「ひゃ、はいっ」
不意に呼ばれたので、驚いて変な返事になってしまった。
「斎藤さんは、本好きなの?」
ちらと彼の方を見ると、目が合って、ふっと笑みを向けられる。
やっぱりこの人、なんか危ない気がする。なぜってなんとなくだけど、身の危険を感じてしまう。
「まぁ……はい」
「普段はどんな本を読む?」
「そうですね……、ミステリーとか、エッセイとか、ですかね。恋愛小説も読みますけど」
「へぇ~、僕はミステリーは敬遠してたんだけど、良ければおすすめを教えてよ」
なんだ、案外普通の会話だった。心の中で身構えたわたしがバカみたい。
「いいですよ」
駅前の書店に着いて、わたしは頼まれた通り、おすすめのミステリー小説をいくつか紹介する。と、彼はそのすべてをカゴに入れていく。
「ちょ、ちょっと、先輩。全部買うんですか?」
「うん。自分で読んでみて、特に気に入ったものを贈ることにするよ」
「そうじゃなくて、そんなに買ったら、結構な額になりますよ……?」
十冊買うだけでも一万近くなってしまうというのに、先輩は既に十数冊をカゴに入れていた。
「お金のことは気にしないで。それとも君は、これらの本にそれだけの価値がないとでも言うのかい?」
「そんなことは……!」
「ふふっ、ならいいじゃないか」
うやむやにされてしまい、彼の会計を後ろから見ているしかできなかった。
「斎藤さん、今日はありがとう」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
相変わらず爽やかにお礼を告げられたのが、なんだか気に入らなくて、わたしは素っ気なく返してしまった。
「でも君にはまだ聞きたいことがあるから、また図書室に遊びに行くよ」
「来なくていいです」
聞きたいことってなんだろう。おすすめの本は教えたし、……できればこれ以上、わたしに関わってほしくない。
「そう冷たいこと言うなよ。暇なときでいいからさ、相手してくれよ。じゃあな」
言いたいことだけ言って、彼は駅の方へ入っていった。
それ以来、変な投書がたびたび来るようになった。
きちんと用途を守られたものではない、悩み相談のようなものだ。わたしは彼の一件もあり、また面倒なことになってはたまらないと、それらを無視することに決めていた。
そんなある時、彼が図書室に顔を出した。
「やあ、斎藤さん」
「図書室では静かにしてください」
「あいさつしただけなんだけど……」
明らかな敵意を向けると、彼は落ち込んだようにして、さっと二枚の紙を差し出す。
一枚には、メールアドレスらしきものが書かれていて、もう一枚には、“君のアドレスを教えて”と書かれていた。
顔を上げてみると、いつもの笑顔。
対等な交換条件などと言いたいのだろう。
仕方なく、わたしも自分のアドレスを書き、彼はそれを持って図書室を出ていった。
……やってしまった。あんな男に連絡先を教えることになるなんて。何をされるかわからないのに。
家に帰ると、早速メールが届いていた。一通だけ。一言だけ。
『君以外の図書委員は、どうしたの?』
すると、その姿はすぐに見つかった。
「じゃあ、行こうか」
「どこ行くんですか?」
「駅前の本屋だよ」
信用していいんだよね……?
高校生になってまだ日の浅いわたしにしてみれば、一つ上というだけでも大きな存在に見える。何かあっても、たぶん逃げられない。
「斎藤さん」
「ひゃ、はいっ」
不意に呼ばれたので、驚いて変な返事になってしまった。
「斎藤さんは、本好きなの?」
ちらと彼の方を見ると、目が合って、ふっと笑みを向けられる。
やっぱりこの人、なんか危ない気がする。なぜってなんとなくだけど、身の危険を感じてしまう。
「まぁ……はい」
「普段はどんな本を読む?」
「そうですね……、ミステリーとか、エッセイとか、ですかね。恋愛小説も読みますけど」
「へぇ~、僕はミステリーは敬遠してたんだけど、良ければおすすめを教えてよ」
なんだ、案外普通の会話だった。心の中で身構えたわたしがバカみたい。
「いいですよ」
駅前の書店に着いて、わたしは頼まれた通り、おすすめのミステリー小説をいくつか紹介する。と、彼はそのすべてをカゴに入れていく。
「ちょ、ちょっと、先輩。全部買うんですか?」
「うん。自分で読んでみて、特に気に入ったものを贈ることにするよ」
「そうじゃなくて、そんなに買ったら、結構な額になりますよ……?」
十冊買うだけでも一万近くなってしまうというのに、先輩は既に十数冊をカゴに入れていた。
「お金のことは気にしないで。それとも君は、これらの本にそれだけの価値がないとでも言うのかい?」
「そんなことは……!」
「ふふっ、ならいいじゃないか」
うやむやにされてしまい、彼の会計を後ろから見ているしかできなかった。
「斎藤さん、今日はありがとう」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
相変わらず爽やかにお礼を告げられたのが、なんだか気に入らなくて、わたしは素っ気なく返してしまった。
「でも君にはまだ聞きたいことがあるから、また図書室に遊びに行くよ」
「来なくていいです」
聞きたいことってなんだろう。おすすめの本は教えたし、……できればこれ以上、わたしに関わってほしくない。
「そう冷たいこと言うなよ。暇なときでいいからさ、相手してくれよ。じゃあな」
言いたいことだけ言って、彼は駅の方へ入っていった。
それ以来、変な投書がたびたび来るようになった。
きちんと用途を守られたものではない、悩み相談のようなものだ。わたしは彼の一件もあり、また面倒なことになってはたまらないと、それらを無視することに決めていた。
そんなある時、彼が図書室に顔を出した。
「やあ、斎藤さん」
「図書室では静かにしてください」
「あいさつしただけなんだけど……」
明らかな敵意を向けると、彼は落ち込んだようにして、さっと二枚の紙を差し出す。
一枚には、メールアドレスらしきものが書かれていて、もう一枚には、“君のアドレスを教えて”と書かれていた。
顔を上げてみると、いつもの笑顔。
対等な交換条件などと言いたいのだろう。
仕方なく、わたしも自分のアドレスを書き、彼はそれを持って図書室を出ていった。
……やってしまった。あんな男に連絡先を教えることになるなんて。何をされるかわからないのに。
家に帰ると、早速メールが届いていた。一通だけ。一言だけ。
『君以外の図書委員は、どうしたの?』
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