本の購入希望書に悩みを書かないでください。
2-1 最悪の事件
「佑馬くん」
昼休み、隣のクラスから真白がやってくる。
「お昼、一緒に食べない?」
「ああ、いいよ」
オレと彼女は今、付き合っていることになっている。というか、そうなっていないと困るというか、そんな関係である。つまり、本当は彼女とは付き合っていない。
「佑馬くん、また購買のパンなの? ……今度さ、私が作ってきてもいい? お弁当」
だが、彼女の健気さが時折それを忘れさせ、うっかり本当に惚れてしまいそうになる。
「え、いいの? あ、でもムリはするなよ? 早起きしなきゃいけなかったりで大変だろ?」
「一人分が二人分になるだけだから、全然大丈夫だよ」
「そっか、二人分になると、その分食費かさむよな……。タダで作ってもらうのも悪いし……」
「もう、タダで作ってあげるってば。その代わり、今度……デートとか、したいな」
彼女はどこまで本気なんだろう。本気でオレを好きになってくれてるのか? それともやっぱり、恩返しのつもりなんだろうか。でもデートって……。嬉しいけどさ。
「わかったよ。ありがとう」
「ほら、ひとくち食べてみて? ……私の料理、口に合わなかったら嫌だから」
幼さの残る顔立ちから、純粋な眼差しを向けられる。……断れない。
「あ、うん……」
オレの最初の印象では、真白はもっと奥手な方かと思ったのに、案外積極的だよな。
上手な箸づかいで、彼女はオレの口までミニ春巻を運んだ。うん。春巻ってより、中身は餃子っぽいな。美味しい。
「ど、どう……かな?」
「美味しいよ。一生オレの飯を作ってほしいくらいだ」
いや、割とマジで。それくらい美味い。
「ほ、ホント!? ありがとう! じゃあ、明日から作ってくるね」
こんなんだから、誰も本当は付き合ってないなんて思わないだろう。いつまで続けるかは別として、ひとまずはこれでいいのだろう。
そして放課後、いつものように、いつもの場所に向かう。
そういえば、オレが愛読書にしていた本の六巻目が棚に並んでいた。オレの希望も通してくれたらしい。あとで読もう。
図書委員となったオレは、斎藤先輩から放課後毎日カウンター係をやるよう命じられている。その分先輩は昼休みにやってくれているので、何も文句は言わないが。
他の委員は仕事しないのだろうか。まぁオレは一年だから押し付けられても仕方ないけどさ。
だが、今日は何か異質だった。いつもの先輩ではなく、ジャージ姿だったのだ。
「どうしたんですか? 気分転換ですか?」
「これを見て」
オレの質問には答えず、これ、と言われて見せられたのは、数枚のはがきサイズの紙。本の購入希望書である。ただ、例にもよって用途を守られていないのだが。
先輩の見せたそれらの紙には、共通して同じことが書かれていた。
「制服一式が、盗まれた……?」
そういえば、裕暉からそんな噂を聞いたことがあった気がする。半信半疑で聞いていたが、まさか本当だったとは。
「そう。体育の時間とか、部活中とか、時間は様々だけど、被害は共通してる。一回上手くいったから、味をしめて犯行を繰り返してるのよ」
用紙に性別は書かれていないが、恐らく被害者は全員女子生徒なのだろう。
「もしかして先輩……」
「……そうよ。わたしも被害に遭ったの。佑馬くん、何としてでも犯人を捕まえるわよ」
先輩の目は本気だった。こんなに感情を表に出す人じゃなかったと思うけど、事件が事件だからな。
「でもこういうのって、先生とか警察に任せた方が……」
「最初の事件があった時、もちろん先生には伝わっているはずよ。それでもこの有様なの。それに、もうすぐ水泳の授業が始まるわ」
「あ、そしたら……」
制服一式どころか、下着まで盗まれる可能性が高い。
「そういうこと。……彼女さんは大丈夫なの?」
「今のところは……たぶん。っていうか、彼女じゃないですけどね」
先輩だけは、真実を知っている。そう仕向けた張本人なのだから。
「どっちでもいいでしょ。とにかく、放課後もわたしがカウンター係やるから、早急に犯人を特定しなさい。わかった?」
「は、はい……」
「わかったら、早速行ってきて」
そう追い立てられるように、オレは司書室を出た。
調べるって言っても、犯行現場が女子更衣室じゃ、堂々と入って調べるわけにもいかないしなぁ。それこそ、オレが犯人扱いされてしまう。というか、先輩が自分で調べればいいのでは?
とりあえずここは、オレの帰りを待ってまだ校内に残っているであろう彼女を呼び出すことにする。
すると、程なくして彼女はやってきた。
「委員会の方はいいの?」
「ああ、色々あって。それより、制服一式が盗まれる事件があったって、知ってたか?」
その話題を出すと、途端に彼女は顔色を落とした。
「あー、うん……。友達も被害に遭ったって」
「真白は大丈夫か?」
「うん。心配してくれてありがとう」
何でだろう。真白が被害に遭ってなかったと聞いて、ひどく安心したのは。そうでなかったらと、そわそわしてしまったのは。
「それで、犯人探しを頼まれてるんだけど……入るわけにいかないだろ?」
「あ、それで私ってこと?」
そういうこと。だけどまぁ、正直真白にはあまり期待していない。彼女は先輩と違ってごく普通の女の子だ。彼女の探し方で見つかるようなら、とっくに犯人が見つかっているだろう。
一応、中を調べるだけ調べてもらったけど、やはり何も見つからなかった。
昼休み、隣のクラスから真白がやってくる。
「お昼、一緒に食べない?」
「ああ、いいよ」
オレと彼女は今、付き合っていることになっている。というか、そうなっていないと困るというか、そんな関係である。つまり、本当は彼女とは付き合っていない。
「佑馬くん、また購買のパンなの? ……今度さ、私が作ってきてもいい? お弁当」
だが、彼女の健気さが時折それを忘れさせ、うっかり本当に惚れてしまいそうになる。
「え、いいの? あ、でもムリはするなよ? 早起きしなきゃいけなかったりで大変だろ?」
「一人分が二人分になるだけだから、全然大丈夫だよ」
「そっか、二人分になると、その分食費かさむよな……。タダで作ってもらうのも悪いし……」
「もう、タダで作ってあげるってば。その代わり、今度……デートとか、したいな」
彼女はどこまで本気なんだろう。本気でオレを好きになってくれてるのか? それともやっぱり、恩返しのつもりなんだろうか。でもデートって……。嬉しいけどさ。
「わかったよ。ありがとう」
「ほら、ひとくち食べてみて? ……私の料理、口に合わなかったら嫌だから」
幼さの残る顔立ちから、純粋な眼差しを向けられる。……断れない。
「あ、うん……」
オレの最初の印象では、真白はもっと奥手な方かと思ったのに、案外積極的だよな。
上手な箸づかいで、彼女はオレの口までミニ春巻を運んだ。うん。春巻ってより、中身は餃子っぽいな。美味しい。
「ど、どう……かな?」
「美味しいよ。一生オレの飯を作ってほしいくらいだ」
いや、割とマジで。それくらい美味い。
「ほ、ホント!? ありがとう! じゃあ、明日から作ってくるね」
こんなんだから、誰も本当は付き合ってないなんて思わないだろう。いつまで続けるかは別として、ひとまずはこれでいいのだろう。
そして放課後、いつものように、いつもの場所に向かう。
そういえば、オレが愛読書にしていた本の六巻目が棚に並んでいた。オレの希望も通してくれたらしい。あとで読もう。
図書委員となったオレは、斎藤先輩から放課後毎日カウンター係をやるよう命じられている。その分先輩は昼休みにやってくれているので、何も文句は言わないが。
他の委員は仕事しないのだろうか。まぁオレは一年だから押し付けられても仕方ないけどさ。
だが、今日は何か異質だった。いつもの先輩ではなく、ジャージ姿だったのだ。
「どうしたんですか? 気分転換ですか?」
「これを見て」
オレの質問には答えず、これ、と言われて見せられたのは、数枚のはがきサイズの紙。本の購入希望書である。ただ、例にもよって用途を守られていないのだが。
先輩の見せたそれらの紙には、共通して同じことが書かれていた。
「制服一式が、盗まれた……?」
そういえば、裕暉からそんな噂を聞いたことがあった気がする。半信半疑で聞いていたが、まさか本当だったとは。
「そう。体育の時間とか、部活中とか、時間は様々だけど、被害は共通してる。一回上手くいったから、味をしめて犯行を繰り返してるのよ」
用紙に性別は書かれていないが、恐らく被害者は全員女子生徒なのだろう。
「もしかして先輩……」
「……そうよ。わたしも被害に遭ったの。佑馬くん、何としてでも犯人を捕まえるわよ」
先輩の目は本気だった。こんなに感情を表に出す人じゃなかったと思うけど、事件が事件だからな。
「でもこういうのって、先生とか警察に任せた方が……」
「最初の事件があった時、もちろん先生には伝わっているはずよ。それでもこの有様なの。それに、もうすぐ水泳の授業が始まるわ」
「あ、そしたら……」
制服一式どころか、下着まで盗まれる可能性が高い。
「そういうこと。……彼女さんは大丈夫なの?」
「今のところは……たぶん。っていうか、彼女じゃないですけどね」
先輩だけは、真実を知っている。そう仕向けた張本人なのだから。
「どっちでもいいでしょ。とにかく、放課後もわたしがカウンター係やるから、早急に犯人を特定しなさい。わかった?」
「は、はい……」
「わかったら、早速行ってきて」
そう追い立てられるように、オレは司書室を出た。
調べるって言っても、犯行現場が女子更衣室じゃ、堂々と入って調べるわけにもいかないしなぁ。それこそ、オレが犯人扱いされてしまう。というか、先輩が自分で調べればいいのでは?
とりあえずここは、オレの帰りを待ってまだ校内に残っているであろう彼女を呼び出すことにする。
すると、程なくして彼女はやってきた。
「委員会の方はいいの?」
「ああ、色々あって。それより、制服一式が盗まれる事件があったって、知ってたか?」
その話題を出すと、途端に彼女は顔色を落とした。
「あー、うん……。友達も被害に遭ったって」
「真白は大丈夫か?」
「うん。心配してくれてありがとう」
何でだろう。真白が被害に遭ってなかったと聞いて、ひどく安心したのは。そうでなかったらと、そわそわしてしまったのは。
「それで、犯人探しを頼まれてるんだけど……入るわけにいかないだろ?」
「あ、それで私ってこと?」
そういうこと。だけどまぁ、正直真白にはあまり期待していない。彼女は先輩と違ってごく普通の女の子だ。彼女の探し方で見つかるようなら、とっくに犯人が見つかっているだろう。
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