本の購入希望書に悩みを書かないでください。
1-4 図書委員会
「それで……そっちも上手くいったみたいね」
オレの隣に座る、ご機嫌な松岡さんを一瞥して、先輩が切り出した。
「まぁ、おかげさまで」
「しばらくは、その関係を続けといた方がいいわよ。別れたと噂になれば、すぐさま飛んで来るだろうから」
「はい。ありがとうございました」
松岡さんは先輩にも改めて頭を下げた。
「松岡さん、オレはもう少し先輩と話があるから、先に帰っててよ」
「あ……はい」
何故だか少し落ち込んだ様子で、彼女は席を立った。
松岡さんが司書室を出ていったところで、にやりとした先輩の方から口を開いた。
「いいの? せっかく可愛らしい彼女さんができたのに」
「仮初めの、ですよ」
「でも、見事だったわ。あそこまでできると思ってなかったもの」
「本当はもっと、いいやり方があったんじゃないですか? 本当は、先輩が話をすれば済んだことだったんじゃないですか?」
先輩は、オレが堀本先輩について知らないから、あえてオレと松岡さんをくっつけようとしたんじゃないか? 堀本先輩の態度を見れば、考え直させること自体はそんなに難しくなかったように思う。あの時、話をつけるのは難しいと、そう思わされただけだったのだろう。
「さあ。済んだことをとやかく言っても仕方ないわ。それで、委員会は決まったのかしら?」
「……図書委員会、以外で考えます」
「あら、どうして? てっきり、ここに入ってくれると思ったのに」
先輩がオレに協力させたときから、こうなることはわかっていた。正直、興味はあるし、いい思いもさせてもらった。だけど……。
「先輩のその、何もかも見透かしたような態度が嫌です。今だって、どうせここに入ると思っているんでしょう? ええ、実際そうなるでしょう。その、人を弄ぶような態度が気に入らない。オレはあなたの駒にはなりたくないんです」
先輩は眉一つ動かさず、オレの言葉を聞いていた。
「……それで?」
声音も変わらない。やはり、先輩の余裕は崩れない。
「ありがとうございました」
オレは頭を下げて、席を立った。
「もし気が変わったなら、いつでも歓迎するわ。待ってるわよ」
オレはその言葉を背中に聞きながら、司書室を出た。
きっと先輩は、確信に近い予測ができているはずだ。オレがここに戻ってくるって。だからこのとき、振り返れば意地の悪い笑みを拝めただろう。
司書室の前では、松岡さんが壁に背をもたれて待っていた。
「あれ、帰ってなかったの?」
「……うん。一緒に、帰ろうよ?」
松岡さんの本心もわからない。彼女は負い目を感じてはいないだろうか。助けてもらったから、その恩返しのつもりで、なんてことはないだろうか。もしそうだったら、そういう好意は受け取れない。
「わかったよ」
でも今のオレに、それを確かめる術はない。
「あ、それから、佑馬くん。……真白って、呼んで?」
もしかして、それでさっきは落ち込んでたのか。たしかに、あんなことがあったのに、いきなり他人行儀になったら気持ち悪いか。
「ごめん。真白は、自転車?」
「ううん。電車だよ」
「オレも。あっちなんだけど」
「あ、私はあっち……」
「じゃあ、駅まで一緒だな」
「……うん!」
彼女がそっと指を伸ばしてくるから、オレはその手をしっかり取って、歩き出した。
そして、四月最終日。この日までに、部活、委員会、生徒会のどれかに所属する旨を学校に届け出なければならない。
オレの足は、いつもの場所に向かっていた。
重々しい木の扉を開ければ、静寂の中に、あの日拝めなかった意地の悪い笑みがあった。
「君なら、ここを選んでくれると思ってたよ」
オレは彼女の駒にはなりたくない。彼女にオレを認めてもらうんだ。オレがここを任せてもらえるように。
オレの隣に座る、ご機嫌な松岡さんを一瞥して、先輩が切り出した。
「まぁ、おかげさまで」
「しばらくは、その関係を続けといた方がいいわよ。別れたと噂になれば、すぐさま飛んで来るだろうから」
「はい。ありがとうございました」
松岡さんは先輩にも改めて頭を下げた。
「松岡さん、オレはもう少し先輩と話があるから、先に帰っててよ」
「あ……はい」
何故だか少し落ち込んだ様子で、彼女は席を立った。
松岡さんが司書室を出ていったところで、にやりとした先輩の方から口を開いた。
「いいの? せっかく可愛らしい彼女さんができたのに」
「仮初めの、ですよ」
「でも、見事だったわ。あそこまでできると思ってなかったもの」
「本当はもっと、いいやり方があったんじゃないですか? 本当は、先輩が話をすれば済んだことだったんじゃないですか?」
先輩は、オレが堀本先輩について知らないから、あえてオレと松岡さんをくっつけようとしたんじゃないか? 堀本先輩の態度を見れば、考え直させること自体はそんなに難しくなかったように思う。あの時、話をつけるのは難しいと、そう思わされただけだったのだろう。
「さあ。済んだことをとやかく言っても仕方ないわ。それで、委員会は決まったのかしら?」
「……図書委員会、以外で考えます」
「あら、どうして? てっきり、ここに入ってくれると思ったのに」
先輩がオレに協力させたときから、こうなることはわかっていた。正直、興味はあるし、いい思いもさせてもらった。だけど……。
「先輩のその、何もかも見透かしたような態度が嫌です。今だって、どうせここに入ると思っているんでしょう? ええ、実際そうなるでしょう。その、人を弄ぶような態度が気に入らない。オレはあなたの駒にはなりたくないんです」
先輩は眉一つ動かさず、オレの言葉を聞いていた。
「……それで?」
声音も変わらない。やはり、先輩の余裕は崩れない。
「ありがとうございました」
オレは頭を下げて、席を立った。
「もし気が変わったなら、いつでも歓迎するわ。待ってるわよ」
オレはその言葉を背中に聞きながら、司書室を出た。
きっと先輩は、確信に近い予測ができているはずだ。オレがここに戻ってくるって。だからこのとき、振り返れば意地の悪い笑みを拝めただろう。
司書室の前では、松岡さんが壁に背をもたれて待っていた。
「あれ、帰ってなかったの?」
「……うん。一緒に、帰ろうよ?」
松岡さんの本心もわからない。彼女は負い目を感じてはいないだろうか。助けてもらったから、その恩返しのつもりで、なんてことはないだろうか。もしそうだったら、そういう好意は受け取れない。
「わかったよ」
でも今のオレに、それを確かめる術はない。
「あ、それから、佑馬くん。……真白って、呼んで?」
もしかして、それでさっきは落ち込んでたのか。たしかに、あんなことがあったのに、いきなり他人行儀になったら気持ち悪いか。
「ごめん。真白は、自転車?」
「ううん。電車だよ」
「オレも。あっちなんだけど」
「あ、私はあっち……」
「じゃあ、駅まで一緒だな」
「……うん!」
彼女がそっと指を伸ばしてくるから、オレはその手をしっかり取って、歩き出した。
そして、四月最終日。この日までに、部活、委員会、生徒会のどれかに所属する旨を学校に届け出なければならない。
オレの足は、いつもの場所に向かっていた。
重々しい木の扉を開ければ、静寂の中に、あの日拝めなかった意地の悪い笑みがあった。
「君なら、ここを選んでくれると思ってたよ」
オレは彼女の駒にはなりたくない。彼女にオレを認めてもらうんだ。オレがここを任せてもらえるように。
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