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星月夜の小夜曲

エルトベーレ

六話 部員集め

「先輩、僕たちの勝ちですよね?」
「ええ、そうね。私も、あなたの夢を追いかけさせてもらうことにするわ」
勝負に負けたはずなのに、なぜだかその表情は清々しい。
「人が悪いわ、向葵くんも。こんないい投手がいるならもっと早く紹介してくれれば、私だって素直に言えたのに」
「じゃあ先輩は元々……?」
「そうよ」
それじゃあ勝負した意味ないじゃないか。


「向葵、うちん球、どうやった?」
「ああ、最高だったよ。僕にはシャルしかいないって思った」
うちのエースに相応しいのは。
「なっ、なん言うと?! 急に、そげなこと言われても……」
「急じゃないよ。ずっと考えてた。僕はシャルがほしいって」
うちの野球部には、シャルが必要だ。
「な、なっ、自分がなん言うとーか、わかっとーとっ?!」
なんかさっきからシャルの顔が赤いけど、褒めすぎたか? でも、元々自信はあっただろうし、何をそんなに動揺してるんだ?
「当たり前だろ。シャルの方こそ、どうするか決めてくれないか? 僕は、シャルの答えが聞きたいよ」
「だって、こげな……知り合ったばかりっちゃけん……」
確かにそうなのかもしれない。シャルにとってみれば、一人で野球やってた時間の方が長くて、こっちに踏み出すのは勇気がいるかもしれない。
でも、僕はシャルとなら、また野球をやりたいと思ったんだ。本当に野球が好きなら、僕と一緒にやってほしい。
「あの、二人とも……?」
「まあまあ、面白いからもう少し見てようよ」
紺野先輩と成瀬先輩がそんなことを言っているが、どういうことだろう。
「……わ、わかったっちゃ。うちのこと、好きにして、よかよ……」
おいおい、その言い方じゃ僕が変態みたいじゃないか。
「な、何言ってるんだよ!? 自分が何言ってるかわかってるのか?」
「向葵が言い出したっちゃよ! うちは向葵んこと……こと……」
……ん? もしかして何か重大な勘違いが発生してないか……?
「待て、シャル。僕は野球部に入ってくれって言ってるんだぞ。何か勘違いしてないか?」
「……え? さっきから言ってたんは、そんこと……?」
「そう、だけど……?」
頬を平手打ちされてしまった。痛い。じんじんする。
叩いた方のシャルは涙目になってるし、何なんだよ、もう……。
「……いいと? さっきん言葉、忘れんしゃいね?」
「あ……うん」
さっきの言葉って、何のことだ?
「それで、その……、野球部には?」
「もちろん、入るっちゃよ」
「ありがとう!」


「あの……お二人さん。私達、蚊帳の外なんだけど?」
振り返ると、先輩方が僕たちのやり取りを少し引いた目で見ていた。
「あ、えっと、こっちはシャルロッテ・エルンベルク。僕と同じ一年生です」
「あ、はい、よろしくです」


いったん部室に戻り、それぞれ席につく。
「それじゃあ、向葵くん。みんなにも目標を説明してくれる?」
「はい。部活として練習するにあたって、目標があった方がいいと思うんです」
みんなはそれに頷いてくれる。そして、僕の言葉の続きを待っている。
「僕の提案は、全国出場です。僕は無理だとは思いません」
「あたしはいいけどー、どうしてその目標なの?」
どうしてって言われても……。
「僕の姉ちゃんは新宮しんぐうのエースなんです。僕は姉ちゃんとグラウンドで会いたい。そしてあわよくば、勝ちたい」
「へぇ〜。ってことは、向葵くんって、あの高妻葵咲きさきの弟だったの?!」
やっぱり姉ちゃんは有名人なんだな。さすがは僕の姉ちゃんだ。
「ひとまず向葵くんの目標を部の目標にしようと思うけど、それでいい?」
「はーい、異論ないでーす」
全員一致で可決となった。
ところがちょうどここで下校時刻になり、僕は部室から出されてしまう。



体育館の方で着替えて戻ってくると、ちょうど部室から紺野先輩が出てきた。
「彼女、方言すごいのね。見た目と違って」
「僕も最初はびっくりしましたけど、もう慣れましたよ」
「向葵くん、練習メニューは私で考えるから、部員集めをお願いしてもいい?」
そっちの方が難易度低そう……かな。
「わかりました。努力はしてみます」
すると、他の部員もぞろぞろと出てきた。
「高妻くん、帰ろう?」
「あ、うちも一緒に帰るっちゃ」
こうして、シャルロッテも野球部の一員となった。
早く人数をそろえて試合がしてみたいな。



部員集めをお願いされたはいいけど、紺野先輩が誘っても入らない人たちを僕が誘っても、入るわけないんだよなあ。
それに、できれば経験者がいいし。ってそれは贅沢言い過ぎか。
と、足元に隣の席から消しゴムが飛んできた。
「はい」
「……ありがとう」
えーっと、確か……。
西山にしやまさん?」
「……何か?」
よし、合ってた。
「今、その次のページだよ」
「え? ああ、どうも」
ぼーっとしてたらしい。大丈夫か?



普通に勧誘してもダメだ。それは紺野先輩が散々やって、それで集められる人材は既に集め終わったと言える。なら、普通じゃない探し方をしないといけない。
適当に校内を巡回してみる。もしかしたら、目ぼしい人材に行き当たるかもしれない。
二周してみたが、残っているのは委員会や文化部の活動がある人たち。運動してみたそうな人は残っていない。
校外にも探索範囲を広げた方が良さそうかな。やりたくないな。校外ってどれだけの範囲があると思ってるんだよ。


一応、帰る前に部室に顔を出しておこう。
僕はバカだった。昨日はちゃんと気を付けたじゃないか。ご丁寧にドアノブには“入室の際はノックしてください”という札が掛かっていたのに。
ドアを開けると、目に入ったのは肌色と可愛らしい装飾。
「出てけぇえーっ!!」
そう聞こえたのが最後、腹部に激痛を感じて、意識が飛んだ。



目を覚ますと、見慣れない天井。薬のにおい。このベッド、保健室か?
うう……まだズキズキする。僕が悪いとはいえ、硬球は痛いって……。
窓から差し込む茜色の光に目が眩んで顔を背けると、目が合った。
「あ……えっと、……大丈夫と?」
シャルは……水色だった。って、何思い出してんだ。忘れろって。最低だ。
「ごめん……」
「いや、うちは気にしとらんよ。やけん、次から気ぃつけりぃよ?」
「うん……」
でも、綺麗だったな……。思ってたより大きかったし、ウエストも引き締まってて細かった。ついでに腹筋も割れてたし。僕だって割れてないのに。
忘れなきゃって思っても、焼き付いて離れないよ。忘れられない。同級生と先輩の下着姿は、僕には刺激的すぎた。
「なん?」
水色……か。
「ごめん……本当に」
……最低だ。



翌日、僕は一人一人に謝ってまわり、許してもらった。一日経ったこともあってか、みんなはそんなに怒ってなかった。だけど、これからは本当に気をつけなきゃいけないな。


僕は部活を早引きして、校外の探索を始める。
今日はバッティングセンターの方面を見てみよう。バッティングセンターに行っている人なら、脈があるかもしれないし。


「あれ、西山さん」
「……何か?」
「今帰り?」
「そうよ」
西山さんとはなかなか会話を続けられない。あんまり積極的に話したいタイプじゃないようだ。
でもクラスメートだし、席も近いし、これも何かの縁。仲良くはしたい。
「西山さん、知り合いで野球したそうな人いない? ああ、うちの生徒でね」
「……いないわね」
返答にほんの少し間があった。一応、考えてみてはくれたのかな。
「そっか、ありがとう。またね」
西山さんは返事を返さず、行ってしまった。



少し遠くまで来た。そろそろ引き返すか。そう思った時、民家の間、狭い路地に視線が引き寄せられた。
二人の女子生徒と、一人の男子生徒。男子生徒はボロボロで、地面に倒れ伏している。一方の女子生徒の一人の手には、金属バット。
カツアゲってやつか。怖いな。なんて思いと裏腹に、気がついたら僕はその路地に入っていっていた。
「やめろよ」
「あ? なんだお前」
染めた茶髪にピアス。鋭い目つきに怯みそうになるが、僕は引かなかった。
「それはそうやって使うもんじゃない」
僕にはそれが許せなかった。野球の道具を、そんな風に扱う奴を。
君を助けたわけじゃないんだ。ごめん。僕は視線で倒れている彼に謝る。
「それを持つなら野球をやれ。やらないなら持つな」
「お前、野球部か? 命令すんなよ、ウゼぇな」
隼子じゅんこさん、こいつもやっちゃいますか?」
隼子さんと呼ばれたリーダー格の女子生徒が、僕の瞳を覗き込んでくる。その鋭い目で。
僕も負けじと、彼女の瞳を見つめ返す。怖いけど、逃げ出したいけど、僕は引かない。真っ向から、受けてたってやる。
この人、なんでこんな哀しそうな目をしてるんだ……?


「おい、野球やれとか言ったな。来い」
隼子さんは持っていた金属バットを手放して、前を歩く。僕ともう一人の女子生徒がその後をついていくと、たどり着いたのは、月島バッティングセンター。
「隼子さん、何を……?」
もう一人の女子生徒にとっても、予想外の出来事のようだ。
「一打席ずつ勝負だ。アタシが勝ったら、二度と関わるな。いいな?」
「わ、わかった」
例のフリーバッティングコーナーに入り、僕の先攻。
バッティングは苦手なんだよなぁ。この人は一体どんな球を投げるんだろう。
隼子さんが振りかぶって投げる。ど真ん中。速い。
僕は思わず見送ってしまった。
「おい、打たねぇならやらねぇぞ?」
僕は無言で構え直す。
この人、結構やるな。経験者か? フォームも素人とは思えない。
二球目も同じ真っ直ぐ。僕はこれを空振り。
「あーあ、だっせぇ。次で終わりだな」
また同じ真っ直ぐだ。今度は当てたが、結果は隼子さんの前に転がるピッチャーゴロ。
いや、まだだ。僕が抑えればいいだけだ。
「……目障りなんだよ。そんなんでも野球やってられるお前らが」
……え? この人、もしかして……。


僕は足場を確かめ、振りかぶって投げる。
一球で、勝負はついた。
角度のついた打球。僕の頭上を越えて、奥のネットまで一直線に。
……僕の、負けだ。
「約束だ。もう二度と、アタシ達に関わるな。行くぞ、瑠海るみ
「あ、待ってくださいよ〜」
なんて実力だ。確かに僕だってカスみたいな実力かもしれないが、あれは素人の飛距離じゃない。
間違いなく、経験者だ。
……二度と関わるな、か。この程度で僕が諦めると思うなよ。

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