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星月夜の小夜曲

エルトベーレ

二話 初めての活動

翌放課後、授業が終わって部室に向かおうとすると、緒倉さんに呼び止められた。
「高妻くん。昨日部活見学したんでしょ? どうだったの?」
話ついでに一緒に帰ろうってことかな。でも、あいにく今日は一緒に帰れないんだよな。
「ああ、えっと……入ることになったよ。……野球部」
女子の、だけど。
「そうなんだ! 野球やることにしたんだね。実は私もね、入ることにしたんだ。野球部!」
緒倉さんも野球部かぁ。……ん? 緒倉さんが野球部?
「マネージャーやるの?」
「違うよ~。今度、女子の野球部ができるんだって。そこに入れてもらうことになったの!」
「へ、へぇ~。そうなんだ……」
実は僕も、なんて、なんか切り出しづらい……。
「今日から部活に?」
「うん。一応顔見せしたいから部室来てって言われてるの。高妻くんは?」
「僕は……」
どうせすぐにわかることだし、言っちゃうか。でも、周りに聞かれないところがいい。女子の野球部に入ってるだなんて、恥ずかしくて知られたくない。
「緒倉さん。ちょっといい?」
「え? 部活あるから、すぐ済むなら……」


僕は緒倉さんと部室の方へ歩き出す。その間、会話はない。
そのまま昇降口で靴に履き替え、グラウンドの隅を通って部室へ向かう。
「ねぇ、高妻くん」
この辺ならもういいか。僕は緒倉さんに向き直って、重々しい口を開く。
「緒倉さん、僕、実は……」
「高妻くん……?」
心なしか、緒倉さんの頬が赤くなっている気がする。日が傾き始めているせいか?
でも、僕もなんだか無性にドキドキする。言うのをためらいたくなるけど、でも言っておかなきゃ。


「そんなとこ立ってないで入れば?」
不意に後ろから声をかけられ、僕と緒倉さんはなぜか一気に顔が火照りだした。緊張の糸が切れたからだろうか。後ろから声をかけられるのも、三日連続のことだし……。
「あ、ごめん、お邪魔だったかな……?」
そんな僕たちを見てくすくすと笑うのは、成瀬先輩だった。
「そ、そんなんじゃないですよっ」
「まぁいいから、入った入った」
追い立てられるように部室に入ると、外から見るより中は広そうだ。もっとも、まだ活動初日で荷物が少ないだけかもしれないが。
緒倉さんが適当な席について、僕もその隣に座る。
「高妻くん、あの……、さっき何言おうとしてたの?」
相変わらず顔が赤いまま、緒倉さんは声を潜めて聞いてきた。
「実は、僕もここの部員なんだってこと」
「そっかぁ。……って、え!? そうだったの?」
部室には既に二人の生徒がいて、そこに成瀬先輩と僕と緒倉さんを入れて五人。あと紺野先輩が来れば、これで全員ってわけか。
そんなことを考えていると、部室のドアが開いて、綺麗な黒い髪の美少女、紺野先輩が入ってきた。
「ごめん、遅くなって。あ、もうみんな揃ってるね」


「じゃあ、簡単な自己紹介からしましょうか。私は三年一組の神崎かんざき英子はなこといいます。中学では、軟式のクラブチームに入っていました」
そう上品に話すのは、背の高い、ふわっとしたロングヘアーのお姉さん。んー、この人どっかで会った気がする……。
考え込んでいるうちに見つめてしまっていたのか、にこやかな微笑みを返してもらった。
「私は、は、蓮見はすみ香織子かおるこ、です……」
神崎先輩の隣の少し小柄な子が続けて自己紹介する。気の弱い人なのか、それだけで終わってしまった。
「あ、香織子はあたしと同じ二年五組だよ。あたしは成瀬成美。中学では軟式でやってたんだ。よろしくねー」
その隣の成瀬先輩が自己紹介をしたということは、次はその隣の緒倉さんか。
「一年二組の緒倉陽依ひよりです。中学では軟式の部活に入っていました」
「同じく一年二組の高妻向葵です。……中学の途中まではシニアでやっていましたが、その後は何もしてません」
それでも、皆は拍手で迎えてくれた。女子野球部に一人だけいる男子ということで肩身が狭いが、思ったより拒絶されなくてよかった。
「そして私が、部長の二年一組紺野星空です! あと二十分したらグラウンド使えるから、その間に皆着替えてストレッチしようか」
「はーい」
って、着替えるの? まさか、ここで……?
「向葵くん。悪いけど、体育館の方に備品で買ってもらったボールとか置いてあるから、運んでもらえる? ついでに、そっちで着替えてきてもらってもいい?」
やっぱりみんなはここで着替えるのか。それに、力仕事は男の仕事と相場は決まっている。
「わかりました」
「ごめんね」



僕は体育館の更衣室で運動着に着替え、備品とやらを探す。が、すぐに見つかった。ボールやらグラブやらバットやらが山のように積んである。
これ、一人で運ぶの……?


「君、高妻くん?」
またまた後ろから声をかけられた。僕の視野が狭すぎるのか? 背後から声をかけるのが今時の流行なのか?
声をかけてきたのは妙齢の女性。多分先生だろう。
「はい、そうですけど……」
「星空ちゃんから聞いてますよ。男の子でマネージャーなんて大変かもしれませんが、女ばっかりだと、高妻くんがいてくれて助かることもあるんですよ」
たとえば、荷物運びとかね。今からやるけども。
「そこにあるのが女子野球部の備品です。今後は部室で管理してください」
「はい、わかりました」
「あ、そういえば名乗ってなかったですね。顧問の三壁みかべです。家庭科なので、授業で会うかもしれませんね」
まだ仕事があるからと言って、先生はそのまま行ってしまった。手伝ってくれないんだ……。まぁいいけど。


一度に全部は無理だと思ったので、何回かに分けて往復する。二往復でもうキツイ。体力無いなあ。僕もランニングぐらいはした方が良くないか?
少し休憩して、最後の荷物を運びきる。


「ありがとう! 助かったよ」


早速僕の運んだ荷物から適当にボールを取り、キャッチボールが始まる。部員は六人。そのうち一人はマネージャーってことは、キャッチボールは一人余るな。
「高妻君。キャッチボールの相手、いい?」
そう声をかけてきたのは神崎先輩だった。グラブを右手にはめているってことは、左投げか。
「いいですよ」
僕も適当に備品のグローブを取り、まずは適当な距離から、だんだんと距離を伸ばしていく。
「ねぇ、高妻君」
「なんですか?」
「どこかで会ったことない?」
神崎先輩と同じ疑問を、僕もずっと感じていたのだった。でも思い出せない。やっぱり僕は、この人に会ったことがある。
「そんな気がします」
「……覚えてないんだね」
「え……?」
「ううん、何でもないよ」
神崎先輩は覚えてるってことだろうか。早く思い出さないと失礼な気がする。
「お姉さんは元気?」
「え、あ、はい」
姉ちゃんのことも知ってるのか。
「思い出せなくて、すみません……」
「いいよ。そのうち思い出してくれれば」


キャッチボールの次はボール回しをして、内野ノックに移る。外野は他の運動部が使用しているので、今日は使えない。
紺野先輩がノッカー、蓮見先輩がファースト、緒倉さんがセカンド、成瀬先輩がショート、神崎先輩がサードについた。僕はホームで返球を受けることになった。
各ポジションに順番に正面から難しいところまでゴロを打ち、続いてランダムに打つ。正確に打ち分ける紺野先輩のバットコントロールもすごい。
ポジションを順々に変えていき、同様にノックを続けた後で、軽く素振り。素振りはなぜか僕もやらされることに。


素振りの後で、今度はネット相手にトスバッティング。トスバッティングでは、僕は緒倉さんと組むことになった。
「すごいな、緒倉さん。結構上手いんだね」
緒倉さんが野球をやっていたことは知っていたけど、僕は彼女の試合を見に行ったことはなかった。だから、彼女の実力は知らなかった。
「そんなことないよ。私、力ないから飛ばせないし」
それでもしっかり芯で捉えている。僕はマネージャーなのに、こんなことしてていいのかな。
「マネージャーは初めてだから、何かしてほしいことがあったら遠慮なく言ってよ」
「うん。ありがとう」


ペアで交代してやる時も、彼女に続けて打たせる。僕はあくまでサポートだから。
「ちょっと、ペース落としてくれる?」
「あ、ごめん」
さすがにしんどいか……。


トスバッティングの後は一人ずつベースランニングをして、本日の練習は終了となる。
グラウンド整備やボール拾いをして、最後に部室に集まる。
「はい、お疲れ様でした。今日の練習でだいたい皆のデータは取れました。大まかなものだけどね。そこから練習メニューを考えていこうと思います。ひとまず明日は休みにするので、明後日からまた頑張りましょう!」
「はい! ありがとうございました!」
部長の紺野先輩のあいさつで解散となる。と同時に、僕はここから出ないといけない。


すると、紺野先輩も一緒に部室から出て、僕にメモ用紙のようなものを手渡した。
「これ、今日の皆の様子を私なりにまとめたの。向葵くんも色々見てたかもしれないけど、参考にして」
何の参考……?
「私も考えるけど、明後日の昼までに、練習メニューを考えておくこと。いい?」
「は、はい……」
そういうのって、マネージャーの仕事なんだ。
「よろしい。じゃあ、またね。ホントごめんね。更衣室も何か考えるよ」
僕の返事も聞かずに、紺野先輩は部室に入っていった。
入部させられた時もそうだけど、強引な人だなぁ。……僕も、着替えに行こう。

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