女子だって、エースで全国目指したいっ!
第15話 豚トロと柚子コショウ
「お前たち、今日はよくやってくれた。明日勝てば全国だ。これは前祝いってことで、食ったからには何としてでも全国行きを勝ち取ってこい!」
「はい! いただきますっ!」
監督との賭けに勝ったわたしたちは、約束通り、監督の奢りで焼肉にありつけることになった。個室の大部屋を貸し切り、二時間の食べ放題らしい。食べ放題ってところは安っぽさを感じるけど、食べ盛りの中学生が相手だし、しょうがないね。
「高瀬、何頼む?」
「高瀬さん、飲み物持ってこようか?」
わたしは一年生の集まっているところに座ったけど、なんかやたらと持ち上げられている。悪い気はしないけど、なんだかくすぐったくて落ち着かない。
「そういうのいいから。自分でやるし」
「じゃあ適当に頼むぞ」
「あ、豚トロ頼んどいて」
メニューを片手に店員を呼んだ藤宮に、わたしはさりげなく自分の注文を伝えておく。
藤宮はこういうとき、積極的に仕切るタイプなんだ。なんか意外。
「舞祈は本当、豚トロ好きだよね」
「そういう侑樹だって、いつもタンばっかり食べてるじゃん」
そんなことを言いながらメニューを眺めているわたし達に、正面に座る本田俊之介があることを尋ねてきた。
「あのさ、気になってたんだけど……二人は付き合ってるの?」
「どう見ても付き合ってないでしょうが」
確かにそこそこ仲は良いかもしれないけど、どこを見たらそういう風に見えるんだか。
「舞祈と付き合ったら胃がボロボロになるって」
失礼ね。そんなことないでしょうよ。ない……よね?
「侑樹は実際、高瀬さんのことどう思ってるの?」
本田の隣の織田が続けて尋ねた。
「なんだよ、お前ら。舞祈のこと狙ってるのか?」
「誰にも渡したくないってさ」
なんて、わたしの右隣に座る藤宮がからかう。
「そんなこと言ってないだろ」
「高瀬、こいつの待ち受け見たことあるか?」
うろたえる侑樹をよそに、藤宮はそんなことを聞いてきた。
「ないけど……、なんで?」
「いや、だって」
「藤宮っ、てめぇ! 舞祈にだけは言っちゃダメだって!」
わたしの左隣に座る侑樹が慌てて割り込んできた。
そんなに見せられないものなのかしら。まぁ、侑樹も思春期の男子だしね。何に興味があったって、別にどうだっていいけど。
「じゃあ他のやつにはいいんだな?」
「う……それは……」
そこへ、都合よく注文した肉と野菜が届いたので、この話はここまでになった。
「わたし、飲み物取ってくるね」
「ああ、いってらっしゃい」
飲み物はドリンクバーなので、個室を出て自分で取りに行く必要がある。
わたしはお座敷から立ち上がって靴を履き、ドリンクサーバーまで向かう。と、そこには、長くて綺麗な茶髪をポニーテールにしたお姉さんと、わたしと同じくらいの少女の姿があった。
「何やってるの? 氷先に入れるんだよ?」
「後から入れても一緒だろ?」
「後から入れたらはねて飛ぶじゃん」
彼女らはそんなやり取りをしていた。どうやらアイスココアの作り方で揉めているらしい。
そのうちの年下だと思われる方が、わたしに気付いて振り返った。
「あ、ほら、後ろつまってるから。あの、ごめんなさい」
そう言ってもう一人を急かし、自分のグラスを持って一緒に去っていった。
あのルーズサイドテールの子……悔しいけど、かわいいかも……。それに、どこかで見た気がする。どこで見たんだろう。
それを考えながら、わたしもアイスティーを注いで、個室に戻った。
「ああ、舞祈、焼けたから取っといたよ」
見ると、わたしの取り皿には焼けた肉と野菜が盛ってあった。
「わざわざありがとう」
「勝利投手なんだし、偉そうにしてろよ」
「決勝点も高瀬さんだしね」
そういえばそうだったわね。打つ方はあんまり興味ないから気にしてなかったけど。
わたしは取り皿の豚トロに柚子コショウをかけて、口に運ぶ。わずかに歯ごたえを残しつつも、舌の上で溶けるような絶妙の焼き具合。
「あ……」
そこでふと彼女の正体に思い至って、思わず声に出してしまった。
「どうしたの? 舞祈」
「ううん、何でもない」
あの子は……永妻柚莉菜。明日の対戦相手、天竜シニアの投手。どうしてこんなところに……?
まぁいいわ。明日、投げあう機会があるかわからないけど、全国に行くのはわたし達よ。
食べたり飲んだり談笑しているうちに、時間はあっという間に過ぎて、決起会はお開きとなった。
「舞祈、今日は早く寝ろよ? あと風呂上りに身体もよくほぐして。それから……」
「もう、わかったから」
全国行きを賭けた試合ということもあって、緊張してるのかな。今日はいつも以上に過保護だよ。
「明日、よろしくね」
「ああ。こっちこそ」
監督の車で近くまで送ってもらい、お姉ちゃんと二人で歩いて帰る。
「ねぇ、お姉ちゃん」
返事はなかったけど、わたしは構わず続ける。
「……勝てるかな」
「……あんたが勝てると思えば、勝てるんじゃない」
そんな投げやりなことを言うけれど、お姉ちゃんだって、わたしに期待してくれているんだ。
「お姉ちゃんも、明日はスタメンなんでしょ?」
「うん。セカンドだって」
「援護、よろしくね」
お姉ちゃんは珍しく、わたしの頭を撫でてくれた。
翌日。今日の決勝戦は静岡市営球場。
空を見上げると、分厚い灰色の雲が空を覆っている。予報では、少し降るかもしれないとのことだった。
さっさとこっちのペースに持っていって、降る前に勢いで決めちゃいたいけど。
アップを済ませたわたし達は、整列して挨拶をする。
先攻は瀧上シニア。
一回の表の攻撃は、一番ショートの藤宮から。天竜シニアの先発は右の大澤で、やっぱりエースをぶつけてきたわね。
それでも藤宮はカウント2-2から、スライダーをセンター前に弾き返した。
「ナイバッチ、藤宮ー!」
「先頭出たぞ! 先制しようぜー!」
藤宮はどうやらセンター返しを得意としているようで、打球はそこに集まることが多い気がする。
そして二番の永山先輩が送りバントを決め、一死二塁に。
三番はサードの桜庭先輩。
彼はミートが上手いはずなのに、この打席は空振り三振。最後は決め球のフォークを振らされていた。
「ドンマイ、切り換えろよ」
ベンチに帰ってくる桜庭先輩に、今日もスタメンマスクを侑樹に譲っている、キャプテンの山岸先輩が声をかけた。しかし、桜庭先輩は無言のままベンチに身を投げ出すように座り込んだ。
桜庭先輩、なんか様子が変ね……。何かあったのかな。
二死二塁になって、四番のライト・原田先輩。
先輩は狙い球を絞っていたのかヤマを張っていたのか、初球から振りにいって、高々と打ち上げた。
内野を越え外野まで届くも、勢いはなく、ライトフライ。これでスリーアウト。
初回は無得点に終わった。
「さて、じゃあ行くか」
「そうね。今日のわたしは完封するつもりだから」
「言うじゃないか。なら俺も、気合入れてリードしないとな」
そんな言葉を交わしながら、侑樹はホームへ、わたしはマウンドへ向かった。
何球か投球練習をして、マウンドの感覚と指先の感覚を確かめる。
今日は暑くない分、疲れにくいかも。ただ、雨が降ってくると足場が悪くなる。足場は怖いな……。特にわたしの場合は。
「しまっていこー!」
侑樹の掛け声に、みんな呼応する。
こっちだって、さくっと終わらせちゃうんだから。
天竜の一番は、ライトの沢口夏生。弟の冬磨も今日はスタメンに入っている。
先頭を出すかどうかは主導権を握るうえでの重要な要素。ちょっと本気で抑えにいこうかしら。
初球は外角低め、バックドアのツーシーム。これは振らない。
初回の一番打者は追い込まれるまでは手を出してこないことも多いし、まずはストライク二つもらうわよ。
二球目も同じところにツーシーム。これも振らずに追い込んだ。
それじゃあ三球目は、インコース低めのドロップ。スライダーほどじゃないけど、ボールゾーンからストライクゾーンに入り、再びボールゾーンへと落ちる。
沢口夏生はこれに手を出して三振。
「ワンナウトー!」
「ナイス、高瀬ー!」
これくらい、当然よ。
続く二番はショートの志賀。二番は女子選手なんだ。ま、わたしの敵じゃないわ。
初球、インハイにストレートを投げ込み、続けてインローにツーシーム。ここも簡単に追い込めた。
さぁて、お次は……外のシンカー。これで三振を狙う。
志賀はバットを出したが、当たらず、私の目論みどおり空振り三振に倒れた。
「ナイスピー!」
「打たせろよ!」
「三振いらねぇぞ!」
この野次にも慣れてきた。確かに打たせて取る方が球数は少なくて済むんだけど、三振取ると気持ちいのよね。
やっぱりマウンドが一番だわ。
三番はキャッチャーの大橋。
右打者だし、スライダーで決める。まずはインコースにツーシーム。
ところが、これは当てられてしまった。打球は内野を転がって、サードとショートの間へ。だけど思いの外勢いが強くて、止められず、ランナーを出してしまった。
「もう! 打たせろとか言うから打たれちゃったじゃん!」
「カリカリすんなよ。たまたまだろ?」
「ツーアウトだぞ。切り換えろー」
四番はキャプテンでセンターの桜庭成輝。桜庭先輩のお兄さんなのだそうだ。
桜庭先輩も本当は天竜シニアの方が近かったけど、お兄さんと同じチームが嫌で、瀧上シニアに入ったらしい。
四番が左打者なのはちょっとつらいかな。それでも、思い切り行くけどね。
まずは外にスライダー。これに手は出さない。
続けて内角にフロントドアのツーシーム。桜庭はこれを叩き、ライナーでライト前に弾き返した。
「落ち着けー」
「切れんなよー」
……またインコースのツーシームを打たれた。もしかして、狙われてる?
二死一、二塁で、打者は五番の大澤。
完封狙ってるのに、いきなり二連打なんて……。……ちょっと本気出しちゃうんだから。
侑樹のサインに首を振って、わたしは内角高めへスライダーを投げ込む。案の定、大澤は仰け反った。
次は外角低めにツーシーム。そんなんじゃ、ここは遠くて手が出ないでしょ。これは見逃しでツーストライク。
最後は膝下へのシンカー。緩い球はバットを避けるようにして、ふっと沈む。
「ストライーック! バッターアウッ! チェンジ!」
ふふふっ、そう簡単に、このわたしから点を取れると思わないことね。
「はい! いただきますっ!」
監督との賭けに勝ったわたしたちは、約束通り、監督の奢りで焼肉にありつけることになった。個室の大部屋を貸し切り、二時間の食べ放題らしい。食べ放題ってところは安っぽさを感じるけど、食べ盛りの中学生が相手だし、しょうがないね。
「高瀬、何頼む?」
「高瀬さん、飲み物持ってこようか?」
わたしは一年生の集まっているところに座ったけど、なんかやたらと持ち上げられている。悪い気はしないけど、なんだかくすぐったくて落ち着かない。
「そういうのいいから。自分でやるし」
「じゃあ適当に頼むぞ」
「あ、豚トロ頼んどいて」
メニューを片手に店員を呼んだ藤宮に、わたしはさりげなく自分の注文を伝えておく。
藤宮はこういうとき、積極的に仕切るタイプなんだ。なんか意外。
「舞祈は本当、豚トロ好きだよね」
「そういう侑樹だって、いつもタンばっかり食べてるじゃん」
そんなことを言いながらメニューを眺めているわたし達に、正面に座る本田俊之介があることを尋ねてきた。
「あのさ、気になってたんだけど……二人は付き合ってるの?」
「どう見ても付き合ってないでしょうが」
確かにそこそこ仲は良いかもしれないけど、どこを見たらそういう風に見えるんだか。
「舞祈と付き合ったら胃がボロボロになるって」
失礼ね。そんなことないでしょうよ。ない……よね?
「侑樹は実際、高瀬さんのことどう思ってるの?」
本田の隣の織田が続けて尋ねた。
「なんだよ、お前ら。舞祈のこと狙ってるのか?」
「誰にも渡したくないってさ」
なんて、わたしの右隣に座る藤宮がからかう。
「そんなこと言ってないだろ」
「高瀬、こいつの待ち受け見たことあるか?」
うろたえる侑樹をよそに、藤宮はそんなことを聞いてきた。
「ないけど……、なんで?」
「いや、だって」
「藤宮っ、てめぇ! 舞祈にだけは言っちゃダメだって!」
わたしの左隣に座る侑樹が慌てて割り込んできた。
そんなに見せられないものなのかしら。まぁ、侑樹も思春期の男子だしね。何に興味があったって、別にどうだっていいけど。
「じゃあ他のやつにはいいんだな?」
「う……それは……」
そこへ、都合よく注文した肉と野菜が届いたので、この話はここまでになった。
「わたし、飲み物取ってくるね」
「ああ、いってらっしゃい」
飲み物はドリンクバーなので、個室を出て自分で取りに行く必要がある。
わたしはお座敷から立ち上がって靴を履き、ドリンクサーバーまで向かう。と、そこには、長くて綺麗な茶髪をポニーテールにしたお姉さんと、わたしと同じくらいの少女の姿があった。
「何やってるの? 氷先に入れるんだよ?」
「後から入れても一緒だろ?」
「後から入れたらはねて飛ぶじゃん」
彼女らはそんなやり取りをしていた。どうやらアイスココアの作り方で揉めているらしい。
そのうちの年下だと思われる方が、わたしに気付いて振り返った。
「あ、ほら、後ろつまってるから。あの、ごめんなさい」
そう言ってもう一人を急かし、自分のグラスを持って一緒に去っていった。
あのルーズサイドテールの子……悔しいけど、かわいいかも……。それに、どこかで見た気がする。どこで見たんだろう。
それを考えながら、わたしもアイスティーを注いで、個室に戻った。
「ああ、舞祈、焼けたから取っといたよ」
見ると、わたしの取り皿には焼けた肉と野菜が盛ってあった。
「わざわざありがとう」
「勝利投手なんだし、偉そうにしてろよ」
「決勝点も高瀬さんだしね」
そういえばそうだったわね。打つ方はあんまり興味ないから気にしてなかったけど。
わたしは取り皿の豚トロに柚子コショウをかけて、口に運ぶ。わずかに歯ごたえを残しつつも、舌の上で溶けるような絶妙の焼き具合。
「あ……」
そこでふと彼女の正体に思い至って、思わず声に出してしまった。
「どうしたの? 舞祈」
「ううん、何でもない」
あの子は……永妻柚莉菜。明日の対戦相手、天竜シニアの投手。どうしてこんなところに……?
まぁいいわ。明日、投げあう機会があるかわからないけど、全国に行くのはわたし達よ。
食べたり飲んだり談笑しているうちに、時間はあっという間に過ぎて、決起会はお開きとなった。
「舞祈、今日は早く寝ろよ? あと風呂上りに身体もよくほぐして。それから……」
「もう、わかったから」
全国行きを賭けた試合ということもあって、緊張してるのかな。今日はいつも以上に過保護だよ。
「明日、よろしくね」
「ああ。こっちこそ」
監督の車で近くまで送ってもらい、お姉ちゃんと二人で歩いて帰る。
「ねぇ、お姉ちゃん」
返事はなかったけど、わたしは構わず続ける。
「……勝てるかな」
「……あんたが勝てると思えば、勝てるんじゃない」
そんな投げやりなことを言うけれど、お姉ちゃんだって、わたしに期待してくれているんだ。
「お姉ちゃんも、明日はスタメンなんでしょ?」
「うん。セカンドだって」
「援護、よろしくね」
お姉ちゃんは珍しく、わたしの頭を撫でてくれた。
翌日。今日の決勝戦は静岡市営球場。
空を見上げると、分厚い灰色の雲が空を覆っている。予報では、少し降るかもしれないとのことだった。
さっさとこっちのペースに持っていって、降る前に勢いで決めちゃいたいけど。
アップを済ませたわたし達は、整列して挨拶をする。
先攻は瀧上シニア。
一回の表の攻撃は、一番ショートの藤宮から。天竜シニアの先発は右の大澤で、やっぱりエースをぶつけてきたわね。
それでも藤宮はカウント2-2から、スライダーをセンター前に弾き返した。
「ナイバッチ、藤宮ー!」
「先頭出たぞ! 先制しようぜー!」
藤宮はどうやらセンター返しを得意としているようで、打球はそこに集まることが多い気がする。
そして二番の永山先輩が送りバントを決め、一死二塁に。
三番はサードの桜庭先輩。
彼はミートが上手いはずなのに、この打席は空振り三振。最後は決め球のフォークを振らされていた。
「ドンマイ、切り換えろよ」
ベンチに帰ってくる桜庭先輩に、今日もスタメンマスクを侑樹に譲っている、キャプテンの山岸先輩が声をかけた。しかし、桜庭先輩は無言のままベンチに身を投げ出すように座り込んだ。
桜庭先輩、なんか様子が変ね……。何かあったのかな。
二死二塁になって、四番のライト・原田先輩。
先輩は狙い球を絞っていたのかヤマを張っていたのか、初球から振りにいって、高々と打ち上げた。
内野を越え外野まで届くも、勢いはなく、ライトフライ。これでスリーアウト。
初回は無得点に終わった。
「さて、じゃあ行くか」
「そうね。今日のわたしは完封するつもりだから」
「言うじゃないか。なら俺も、気合入れてリードしないとな」
そんな言葉を交わしながら、侑樹はホームへ、わたしはマウンドへ向かった。
何球か投球練習をして、マウンドの感覚と指先の感覚を確かめる。
今日は暑くない分、疲れにくいかも。ただ、雨が降ってくると足場が悪くなる。足場は怖いな……。特にわたしの場合は。
「しまっていこー!」
侑樹の掛け声に、みんな呼応する。
こっちだって、さくっと終わらせちゃうんだから。
天竜の一番は、ライトの沢口夏生。弟の冬磨も今日はスタメンに入っている。
先頭を出すかどうかは主導権を握るうえでの重要な要素。ちょっと本気で抑えにいこうかしら。
初球は外角低め、バックドアのツーシーム。これは振らない。
初回の一番打者は追い込まれるまでは手を出してこないことも多いし、まずはストライク二つもらうわよ。
二球目も同じところにツーシーム。これも振らずに追い込んだ。
それじゃあ三球目は、インコース低めのドロップ。スライダーほどじゃないけど、ボールゾーンからストライクゾーンに入り、再びボールゾーンへと落ちる。
沢口夏生はこれに手を出して三振。
「ワンナウトー!」
「ナイス、高瀬ー!」
これくらい、当然よ。
続く二番はショートの志賀。二番は女子選手なんだ。ま、わたしの敵じゃないわ。
初球、インハイにストレートを投げ込み、続けてインローにツーシーム。ここも簡単に追い込めた。
さぁて、お次は……外のシンカー。これで三振を狙う。
志賀はバットを出したが、当たらず、私の目論みどおり空振り三振に倒れた。
「ナイスピー!」
「打たせろよ!」
「三振いらねぇぞ!」
この野次にも慣れてきた。確かに打たせて取る方が球数は少なくて済むんだけど、三振取ると気持ちいのよね。
やっぱりマウンドが一番だわ。
三番はキャッチャーの大橋。
右打者だし、スライダーで決める。まずはインコースにツーシーム。
ところが、これは当てられてしまった。打球は内野を転がって、サードとショートの間へ。だけど思いの外勢いが強くて、止められず、ランナーを出してしまった。
「もう! 打たせろとか言うから打たれちゃったじゃん!」
「カリカリすんなよ。たまたまだろ?」
「ツーアウトだぞ。切り換えろー」
四番はキャプテンでセンターの桜庭成輝。桜庭先輩のお兄さんなのだそうだ。
桜庭先輩も本当は天竜シニアの方が近かったけど、お兄さんと同じチームが嫌で、瀧上シニアに入ったらしい。
四番が左打者なのはちょっとつらいかな。それでも、思い切り行くけどね。
まずは外にスライダー。これに手は出さない。
続けて内角にフロントドアのツーシーム。桜庭はこれを叩き、ライナーでライト前に弾き返した。
「落ち着けー」
「切れんなよー」
……またインコースのツーシームを打たれた。もしかして、狙われてる?
二死一、二塁で、打者は五番の大澤。
完封狙ってるのに、いきなり二連打なんて……。……ちょっと本気出しちゃうんだから。
侑樹のサインに首を振って、わたしは内角高めへスライダーを投げ込む。案の定、大澤は仰け反った。
次は外角低めにツーシーム。そんなんじゃ、ここは遠くて手が出ないでしょ。これは見逃しでツーストライク。
最後は膝下へのシンカー。緩い球はバットを避けるようにして、ふっと沈む。
「ストライーック! バッターアウッ! チェンジ!」
ふふふっ、そう簡単に、このわたしから点を取れると思わないことね。
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