女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第13話 賭けをしないか?

大会三日目。今日の相手は伊豆シニア。
「北名古屋が負けたのか……。侮れないな、このチーム」
偵察にいったコーチの情報によると、伊豆シニアは女子選手が多いチームで、とにかく安打が多いらしい。そしてエースの齊藤さいとう菜摘なつみも多彩な変化球で的を絞らせず、北名古屋に競り勝ったとか。
「今日の先発は高瀬結祈。捕手は加藤でいく」
そりゃ、昨日監督はわたしを先発で使うとは言ってなかったけど、お姉ちゃんはないでしょ。しかも、侑樹がスタメンマスクなんだ。
でも、女子選手の多いチーム相手ってことだから、監督なりに経験を積ませようとしてくれてるのかな。


今日のブルペンは山岸先輩と。
「なんであいつがスタメンなんだ……」
わたしの球を受けながら、先輩はぶつくさ文句を言っている。まぁ、三年なのに一年にスタメンを取られたんじゃ、文句の一つも出るよね。
「先輩、しょうがないですよぉ。投手がお姉ちゃんですから」
「どういう意味だ?」
「侑樹は女子投手の扱いが上手いんです」
「そうかよ」
女の扱いも上手い。ムカつくけど。
「でも、先輩は気にしなくていいと思いますよ。男子相手なら実力は高いし、高校では通用しますよ」
「いいって。気を遣ってくれなくて」
「わたし、気を遣うように見えます?」
先輩ははっとしたようにわたしを一瞥して、ふっと口元を緩めた。
「……いや、見えないな」
「ですよね。実際、麻川先輩を上手くリードしてると思いますよ。ピンチでも最少失点で切り抜けてるし。ただ、女子はストレートで勝負できる男子と違うんです。それを、侑樹は心得てますから」
「なるほどな」
ただ、侑樹は女子投手しかリードしたことがないから、たぶんこのままだと高校では通用しない。全部わたしのせい。嫌だったら見捨ててくれればいいのに、文句の一つも言ってくれればいいのに、侑樹は自分からわたしの専属捕手の道を選んできた。
わたしもいつかは、あいつから卒業しないといけない。



初回のお姉ちゃんは危なげなく三人で抑えた。
お姉ちゃんはストレートを入れて球種が三つしかないとはいえ、変な球投げるから、ちょっと打ちづらいのかな。
「ナイスピッチー! お姉ちゃーん!」
わたしが珍しく声を張っても、お姉ちゃんはちらっと見ただけ。
「お前らホントに仲が悪いのか……?」
「わたしは仲良くしたいんだけど、お姉ちゃんはわたしが嫌いなんですって」
わたしがいじけたように言うと、先輩は苦笑いをしてミットを構え直した。


相手投手の高沢 《たかさわ》は左投手ということもあり、うちの打者もなかなか打ち崩せない。
一方で、お姉ちゃんもランナーは出してもなんとかしのいでいる。


試合は投手戦で硬直状態となり、そのまま回は進んで四回。
お姉ちゃんはいつまで投げるんだろう。わたしはいつごろからかな。


四回の表、伊豆シニアの攻撃。この回の先頭は、四番。
伊豆シニアは三番から六番までは男子で、あとは全員女子。たしかに、なかなか珍しいチームね。
お姉ちゃんは早速先頭にフォアボールを出し、ノーアウトのランナーを出してしまった。
さらに次の五番にはセンター前に運ばれ、一、二塁に。
さらにさらに、六番にもフォアボールを出し、ノーアウトで満塁になってしまった。
お姉ちゃんはスタミナもあるはずだし、これくらいでへばりはしないと思うんだけどな。
「もう、何やってんのよ、お姉ちゃんは……っ!」
この試合、一点が決め手になりかねない。ここは何としてもホームゲッツーか三振に抑えないと。
そうか、このチームはこうやって勝ってきたんだ。


しかし、この状況でも監督はわたしに代えず、お姉ちゃんを続投させた。
続く七番の打席。これまでとは一転して、ストレートを主体としてセカンドフライに打ち取った。
そのまま同じ攻め方で、八番、九番を続けて三振に取った。
「最初から、女子選手でアウトを取るつもりだったのかもな」
受けてくれていた山岸先輩が、返球の際にそう投げかけた。
「えっ?」
「最初のはどうかわからないが、六番に対してのフォアボールはたぶんわざとだろう。女子選手に対してストレートで力押しにしたのも、勝算があってのことじゃないか?」
なるほど、お姉ちゃんのストレートなら……。
「さて、ちょっと本格的にやるか。監督から、お前は五回からだって言われてんだ」
それわたし聞いてないんだけど。
「それ早く言ってくださいよ! ずっと今か今かと待ってたのに……」
「悪いな。忘れてた」
先輩は悪びれる素振りも見せず、再びミットを構えた。
今日もあの球は見せない。そうすると、決め球は、このシンカーかな。リリースポイントはスライダーに近いけど、もっと抜く感覚で投げる。これをインコースに……。



四回の裏も得点はなく、0-0のまま、お姉ちゃんに代わってマウンドに上がる。
「気負わず投げろよ?」
「一つずつな」
「打たせていこうぜ」
内野陣はそれぞれ声をかけてくれるが、少し緊張しているみたい。
それもそのはず、監督があんなことを言うもんだから。


「次の回は一番から。残りは三回。点差はない。お前ら、一つ賭けをしないか?」
「賭け……ですか?」
唐突だった。その三つの条件が一体なんだって言うのだろう。
「そうだ。たとえこの試合に勝っても、舞祈を三回を超えて投げさせるわけにはいかない。明日の試合で完投できなくなるからな。だから、残りの三回以内に試合を決めろ」
監督は最初から、わたしが今日三回、明日の決勝で七回投げることを構想してたんだ。それに、明日はわたしに任せてくれる、ということも。
「そして、ちょうど一番からだ。パーフェクトなら、一巡で終わるよな?」
「監督、賭けっていうのは……つまりどういうことですか?」
訳がわからないようで、たまらず桜庭先輩が聞いた。
「残りの三回を舞祈がパーフェクトに抑える、かつ、その三回で一点以上取る。そしたらお前らの勝ちだ。だが、もしできなければ明日の試合、どうなるかわからん。舞祈の先発もなくなる」
「わたしたちが勝ったら、どうなるんですか?」
わたしにとっては、これが一番気になっていた。
「お前たちが勝ったら、今夜、焼肉をおごってやる。好きなだけ食べていい。明日に向けての決起会ってわけだ。どうだ、できるか?」
「できます!」
わたしが即答すると、他の面々は一様にうろたえだした。
いやまぁ、焼肉に釣られたわけじゃないよ? うん。
「お、おい、高瀬……」
「わたしはできるわよ? 残りの三回で一点くらい、取ってみせてよ。じゃなきゃ全国なんて、到底無理だわ」
「面白そうじゃねぇか。確かに、このまま一点も取れねぇなんて、不甲斐ないよなぁ」
そう乗ってくれたのは、四番の原田先輩だった。それに皆も続く。
「決まりだな」
パーフェクトに抑えるにあたり、スライダーの許可ももらった。それでも、できれば使わないでいきたい。この球に頼りすぎるのもよくないし。


一番はセカンドの剣持けんもち莉菜りな。お姉さんが女子プロ野球選手で、見た感じでは守備は結構上手かった。だからと言ってバッティングも上手いとは限らないけど、用心するに越したことはないわね。
まず先頭を切れるかどうかは、この後の勢いを作るか殺すかにつながるもの。


初球は、外角低めにストレート。守備はショート、セカンド、ファーストをやや左に置いた左打ち警戒。
しかしこの球は振らず、左打ちシフトは杞憂に終わった。


二球目のサインは膝元へ落ちるシンカー。ここで使うの? まぁ、何か考えがあるんだろうし、信じるけどさ。
対角線に投げて、身体に当たりそうになりながらも、避けるようにして沈む。これも振らなかった。だけど、これでカウントは2-0。
「追いこんでるぞー! 勝負焦るなよ!」
「莉菜ー! ボールよく見てー!」


三球目、やや高めにストレートを外して、四球目の決め球はスライダー。外の遠いところからストライクゾーンに入る、バックドアスライダー。一見すると、すっぽ抜けのように見えるだろう。
外からぐぐっと曲がって、その時に入ると気づいても、もう遅い。バットは空を切り、三振。
「ナイスピー!」
「打たせろって言ってるだろ!」
なんで味方に野次られるのよ……。


次の二番はセンターの生村おいむら愛花あいか
今度は右打者ね。さっきはスライダーを使っちゃったけど、ここはシンカーを決め球にしたいな。
そうなると一球目は、外のドロップ。いつもよりちょっと高く、ちゃんとストライクゾーンに入るように。
でも、思いの外手を出してくれて、空振りが一つ。


二球目はストレート。高めギリギリに、外す。これに手を出してくれれば、次はもうシンカーを使う。
さすがに手を出してこなかったかぁ。ならもう一球、高めのストレート。今度は少し低く、ストライクゾーンに入れてみる。さっきと同じだと思って見逃がすか、ちゃんと見極めて打ってくるか。
たぶん最初のドロップに手を出した感じからして、向こうも早く一点がほしくて焦ってる。見極めが甘い。一番の時はそれほど感じなかったけど、この人はそれが顕著ね。さっきの釣り球にも反応はしてたし。
だから、この高めのストレートも見逃した。追い込んでしまえばこっちのもの。焦ってる打者には、ストライクはいらないもの。


四球目、インコース低めのシンカーで三振。
この程度じゃ前哨戦にもならないわ。女子相手じゃ歯ごたえがないわね。
「いいぞ、高瀬!」
「舞祈、ナイスボール」


そして次の三番からは男子。少しは面白くなりそうかしら。
初球はフロントドアのツーシーム。さすがに侑樹も、男子相手にストレートは怖いってことね。
ところがこれは、インコースに上手く決まったはずだったけど、しっかり腕をたたんで合わせられた。
打球はフェアグラウンドを転がって、ショートの藤宮が捕り、一塁へ送球。
これでスリーアウト。まずは三人、しっかり抑えた。


「よっしゃ! 俺たちも攻めてこうぜ!」
「ああ。あいつが抑えたんなら、俺たちも点取ろう!」
ホントだよ。泥くさくても、みっともなくてもいい。
わたしが投げてれば、一点あれば、勝てるんだから。

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