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女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第12話 夏の地区大会 開幕!

「いよいよ来週から地区大会が始まる。投手に関しては、連投の制限があるため慎重に使っていくつもりだ。いつでもいけるよう準備しておいてくれ」
「はい!」
うちの地区は静岡、愛知、岐阜で一つのブロック。そこで四回勝てばいいんだ。
わたしは何試合目で使われるかな。たくさん投げたいけど。



昼休み。わたし達は先日配られた地区大会の組み合わせ表を眺めていた。
「舞祈、監督の言ってた連投の制限のこと、ちゃんとわかってる?」
「わかってるよ。三日間で十イニングまででしょ? それから四連投もダメ」
三日間の投球回数が十イニングを超えて登板はできない。つまり、二試合連続で完投はできないということ。
「でも、一日空ければその連投の制限は解除されるんだ」
「じゃあ、一日目と三日目だったら完投しても問題ないの?」
「二日目にマウンドに上がらなければね。でも大会は四日間だから、どうだろうね」
なるほど。これはたしかに投手起用が難しそうね。
「一回戦は豊橋とよはしシニアだね。ここって、強い?」
織田の質問には侑樹が答えた。わたしは愛知のことはわからない。静岡のこともわからないけど。
「いや、楽勝だ。二回戦もどこが来ても大丈夫だ」
さすがに強豪ひしめく静岡の中でもそれなりの強さを誇る瀧上シニアは、ある程度の相手なら苦戦なく勝てるらしい。
しかし、侑樹の見立てでは、三回戦が厄介なようだった。
「三回戦で当たるとしたら、この北名古屋シニアだ。ここはたまに全国に行くようなとこで、結構強い」
「この分でいくと、決勝は日曜日か。決勝は俺も応援に行くぜ」
一日目と二日目は学校あるもんね。なら土曜日も来なさいよ。
「決勝の相手はたぶん、ここだな」
侑樹が指差したのは、天竜シニア。
「ここ最近で一番全国に行ってる。今年は永妻桜莉菜さんはいないけど、それでも実力は充分だよ」
まぁ、何にせよ、始まってみないことにはわからないわね。



そして、一日目。公欠を取り、わたし達は豊橋市営グラウンドに来ている。
「今日の先発は麻川。試合の状況によって、リリーフで結祈か舞祈を使う。二人はしっかり準備しておいてくれ」
「はい」
あーあ、今日は先発じゃないのか。
しかし、お姉ちゃんはスタメンでショート。監督も、お姉ちゃんのバッティングをベンチに置いとくのはもったいないと思ってるのね。
整列した後で、わたしは侑樹とブルペンに行く。わたしが先発でないということは、侑樹もスタメンマスクじゃない。捕手は他に三年の山岸がいるから。
「舞祈、もう一つ忘れてたよ」
「何が?」
「コールドにすればいいんだ。四回十点差で成立する」
「あ、それなら完投しても四回しか投げてないから、二試合コールドなら二試合完投できるわね」
さすがに二試合コールドは無理だろうけど。
「今日の相手なら、もしかしたらコールドあるかもな」


侑樹の言った通り、戦況は圧倒的優勢だった。
まず初回に四点を先制し、続けて二回に三点を追加。その裏で一点取られるも、三回にもう三点を追加して、三回終了時点で10一1。
この回で一点以上取り、その裏を抑えれば、試合終了。コールド勝ちだ。
「わたしの出番、ないかな」
「裏で抑えとして投げるかもよ? 一応投げ込みしといたら?」


わたしは侑樹のミットにストレートだけ投げ込んでいると、チームはクリーンナップで見事に二点を取った。
「あーあ、自分が出てない試合ってつまんないなぁ」
「そう言うなよ。あ、ベンチから伝令が来たぞ」
監督の言葉を預かってきたのは、藤宮だった。
「この裏、お前達を使うってよ」
「やったな、舞祈」
「さくっと抑えてこい」
「当然。わたしを誰だと思ってるの?」
わたしが不敵に笑うと、侑樹はいつものニカっとした笑顔を返してくれた。


豊橋シニアはクリーンナップから。
「一年の小娘だと?! 舐められてるぞ! サンドバッグにしたれー!」
サンドバッグ? わたしが? ま、舐めてるのは事実だけどね。
先頭の三番は左打者。侑樹のサインはインローのツーシーム。だけど少し甘いところ。わざと打たせて、引っかけさせるつもりだろう。
わざと甘いところっていうのも、難しいわね。それでもわたしは、侑樹の要求したところに、信じて投げるだけ。
侑樹の目論見通り、打ち気にはやったこいつはあっさり手を出して、ショートゴロ。
「ナイスピー」
「ワンナウトー!」


次の四番は右打者。でも、監督からあの球は見せるなと言われている。侑樹のサインは外低めのツーシーム。
三番とは違ってこれは見逃されたけど、ストライク。
次の外のドロップを空振って、最後はもちろん、高めの釣り球で終わり。
「ストライーック! バッターアウッ!」
「打たせていいぞー!」
「ツーアウトだよー!」
ここまであっさりだと、緊張感がなくてつまらないわね。


最後の五番も右。まずは外角低めのストレート。しかし、やはり手を出さない。インコースでも待ってるのかな。
わたしのそんな予想と裏腹に、侑樹のサインは内角高めのツーシーム。このコースだと、沈んでストライクゾーンを掠めるギリギリのコース。見逃してもらうつもりなのかな。そうすると、決め球はなんだろう。
だけど、これにも手を出さなかった。


「おい、何やってんだ! 振らなきゃ当たんねーぞ!」
「そうだ! お前の三年間、これで終わっていいのかよ!」
相手ベンチから、味方への声援が飛ぶ。
……ああ、なるほど。最後のバッター、ね。残念だけど、これで終わらせるわ。あなたの三年間。お疲れさま。
最後は膝下へのシンカー。振っても、バットに当たることはなかった。
「バッターアウッ! ゲームセット!」



その帰り道。珍しくお姉ちゃんの方から話しかけてきた。
「明日は私も投げるって。あんたの出番はないわよ」
「お姉ちゃんがボコボコにされれば、あるかもね」
なんてニヤッとすると、お姉ちゃんは相変わらず不機嫌になる。
「でもお姉ちゃん、今日は三安打二打点だったし、野手の方が向いてるんじゃないの? これは本気で」
悔しいけどわたしの見立てでは、お姉ちゃんのバッティングの技術は高い方だと思う。
「今日はみんな打ててたじゃん」
「そうだけどさ、そこそこいい筋してると思うもん」
「……あっそ」
それだけ言うと、お姉ちゃんは自転車を飛ばして先に行ってしまった。
「あ、ちょっと待ってよ、お姉ちゃーん」



二日目。今日の相手は掛川かけがわシニア。
今日は監督から直々に、お前の登板はないと言われた。今日の試合は麻川先輩とお姉ちゃんとで投げ抜き、わたしの出番は三回戦と決勝だと。
自分が出てない試合はつまらない。それに、投げる予定がないんじゃブルペン入ってもしょうがないし。
「高瀬、試合に出ないなら出ないで、味方の応援しろよ」
そう言ってきたのは、御沢聡佑。またわたしにつっかかってきた。
「藤宮ー! さっさとコールドにしちゃってよー!」
これでどう? と言わんばかりに御沢の方を視線を向けると、彼は苛立ちを必死に押し殺そうとしていた。


今日の先発も麻川先輩。五回まで一失点に抑え、六回からはお姉ちゃんがマウンドに上がる。リードは三点。ギリギリどうにかなるレベルかな。
この回は下位打線ということもあり、フォアボールを一つ出した以外はちゃんと抑えた。
「ちゃんと三人で抑えなよー。次はこうはいかないよー?」
ベンチに戻ってきたお姉ちゃんにそう声をかけると、お姉ちゃんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「高瀬、何でそんな風に言うんだよ。もっとこう、褒めたりはしないのかよ」
「褒める? 今のどこに褒める要素があるの?」
「いやだって、ちゃんとノーヒットに抑えたじゃんかよ」
随分とおめでたいやつね。そんなんだから全国なんて行けないのよ。
「この程度の相手で、しかも下位打線。三人で締めて当然でしょ」
皆の顔が引きつるのがわかった。
「それにね、あのフォアボールがなければ次は九番からだから、アウト一つもらってから先頭と勝負できるの。それだけで全然違うのよ?」
結局九番には代打を出されていたけど、それでもこのレベルのチームの代打にすごい打者がいるとは思えないしね。
「次は一番から。一番を塁に出すと四番に回っちゃうけど、大丈夫なの?」
皆は何も言わなかった。わたしの言いたいこと、わかってくれたかな。


この回はうちも下位打線からで、すぐに最終回に入る。
「お姉ちゃん、変化球をうまく使いなよ?」
お姉ちゃんはわたしの言葉を無視して、マウンドへ駆けて行った。
「舞祈、気持ちはわかるけどさ……」
侑樹が間に入ってくれたので、これ以上余計な論争は起こらなかった。
わたしの思った通り、お姉ちゃんは一番にヒットを打たれ、二番を四球で歩かせ、三番に二塁打を打たれて早くも一点を失った。
これでリードは二点。ノーアウトのまま、ランナーは二、三塁。
「落ち着けー! 一つずつだぞ!」


この四番が二塁打を打てば、リードを失うことになる。
すると、ここで監督が動いた。
「審判、選手交代だ」
もしかして、わたしの出番! と思いきや、交代したのは捕手の山岸。ってことは……。
「山岸に代わり、加藤かとう
レガースをつけた侑樹がグラウンドへ向かった。
いきなりの四番相手だけど、大丈夫かな。お姉ちゃんコントロール悪いし、いくら侑樹のリードが良くても、うまくいかないんじゃない?


しかし、この四番をあっさりと三振に仕留めてみせた。
「ナイスピッチー!」
「ワンナウトー!」
さすがに女子投手の扱いに慣れてるだけあるわね。いきなりお姉ちゃんの球の特徴を上手く利用するなんて。お姉ちゃんのストレートは回転数が多いから、男子相手でも使いようによっては使えるのよね。


そして、続く五番も三振。
六番はサードフライに打ち取って、ゲームセット。


「お疲れ、侑樹。よくお姉ちゃんをまともにリードできたね」
「やっぱり姉妹なんだね、二人とも。クセはそっくりだったから。球質も似てるし」
えっ、わたし、クセなんてあったんだ……。
「……加藤くん、ありがとう」
お姉ちゃんは侑樹に感謝を述べる。わたしの意見は聞かなかったくせに、やけに素直じゃない。
「このクソ妹が信頼してるのもわかる気がするよ」
「クソ妹ですって……? カスお姉ちゃんのくせに」
「だって性格クソじゃない」
「そう言うお姉ちゃんも大概だよ」
そんなやり取りを、侑樹は微笑ましそうに眺めていた。なんかムカつく。
これで、あと二勝で全国行き。まだまだ止まるわけにはいかないわ。

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