女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第11話 侑樹の誕生日パーティー

「ねぇ、侑樹。何か欲しいものある?」
「え? んー……、ないな。ミットもスパイクも新しくしたばっかりだし」
「そっかぁ……」
うう……どうしよう。侑樹の誕生日もうすぐだし、プレゼント何がいいのかな。
「別に、無理に用意してくれなくていいよ。そしたら俺も舞祈の誕生日祝わなくて済むし」
「は? わたしの誕生日を祝うかどうかは別でしょ?」
「冗談だって。また一つ老けたなって祝ってやるよ」
「それは呪ってるでしょ」
とは言え、わたしが考えつくものはこれまでにあらかたあげちゃったしなぁ。
男の子って、何をもらったら嬉しいんだろう。



昼休み。侑樹が委員会の仕事に行ってていない今がチャンス。
わたしは織田とトロにも一応聞いてみることにした。
「ねぇ、男の子って、誕生日に何もらったら嬉しい?」
「なんだ唐突に。くれんのか?」
いや、あんたの誕生日知らないし。
「考えとくよ。で?」
「美少女からもらえるものは何でも嬉しいぞ」
ちょっと意味がわからなかったので、スルーして隣の彼にも聞いてみる。
「織田くんは?」
「僕も、もらえれば何でも嬉しいよ。気持ちが大事なんじゃないかな」
やっぱりこいつも参考にならなかった。
「それはわかってるの。そうじゃなくて、モノとしては何をあげたらいいかと思ってるのよ」
「残るものだと邪魔になるかもだし、食べ物とかでいいんじゃね?」
「あ、手作りのお菓子とかあげたら?」
確かに、無難だし喜ばれそうではあるかも。でも……。
「わたし、料理したことない……」
「えぇー? 高瀬さん、料理できないのぉ? 女子力足りないんじゃない?」
いつの間にか立ち聞きしていたらしいレモンが口を挟んできた。
「やったことないだけで、できないとは言ってないでしょ?」
「やったことないんだから、できないでしょ?」
無駄に上から目線で、口元に嘲笑を浮かべている。こいつ、マジムカつく。相手をイラつかせる才能なら天下一品ね。
「ふん、わたしは天才だから、すぐできるようになるわよ」


「というわけなの! お願いします! お母さん!」
お姉ちゃんに頼ってもムダだと思ったわたしは、仕方なくお母さんに頼ることにしたのだ。
「ふ〜ん? 好きな子にでもあげるの〜?」
お母さんは、からかうようにつついてくる。だから嫌だったのに……。
「そんなんじゃないから」
わたしはエプロンをつけながら、口を尖らせる。
「そうねぇ、じゃあ、クッキーとか、いいんじゃない?」
「うん、そうする」
無難よね。失敗も……しないでしょ。
薄力粉とベーキングパウダー、重曹を合わせてふるっておいて、それからバターと砂糖、塩をすりこむようによく混ぜる。そこに卵を少しずつ分けて入れては混ぜ、入れては混ぜを繰り返す。
「そしたらさっきの粉を入れて、これで混ぜて」
泡立て器の代わりに渡されたのはゴムベラ。これで混ぜるの? 泡立てちゃダメってことかな。
「その間、オーブンを予熱しておくといいわよ」
「はーい」
言われた通り、温度を180℃に設定して、予熱を始めておく。
よく混ざってきたところでバニラエッセンスを数滴入れて、さらに混ぜる。
「うん、そのくらいでいいわね。じゃ、天板に乗っけてくよ〜」
オーブンシートを敷いた天板の上に、適当な量をつまんで、等間隔に生地を並べていく。
「これくらいだと、十三分くらいでいいかな」
十三分っと。これであとは焼きあがるのを待つだけ。
「それにしても、舞祈の方が先に料理を教えてくれって言うとはねぇ〜。孫の顔を見る日も近いかしら」
「なっ!? 気が早すぎるよっ!」


焼きあがったら、ちょっと冷ます。焼きあがったばっかりは、まだ割れやすいんだそうだ。
「よし、できたぁっ! 食べてみて? お母さん」
「うん、いただきま〜す」
見た目は普通のクッキーができた。でも、味はどうなんだろう。
お母さんが天板の上のひとつを口に放り込み、ゆっくり味わう様を、じっと見つめる。
「う〜ん……。舞祈も食べてごらん?」
「え……? はい……」
美味しくなかったのかな……。わたしも天板の上のひとつを取って、かじりつく。
うわ……なんかパサパサしてる。でも、味は悪くないかも。
「ちょっと混ぜ方がよくなかったかな。混ぜすぎるとグルテンができちゃうから、切るようにさっくり混ぜるの」
「うーん、またやってみる。ありがとうね、お母さん」
「彼氏できたら、紹介してね?」
そんなことを言いながらウインクするお母さんをよそに、焼きあがった残りのクッキーを持って、わたしは部屋に帰った。


もう一つ口に放り込んでみる。うん。食感は悪いけど、食べれなくはない。次こそは……。
するとそこに、お姉ちゃんが帰ってきた。
「お姉ちゃん、食べる?」
「……何それ。毒?」
失礼な。見た目は普通でしょ。
「わたしが焼いたの。お母さんに教えてもらって、初めて作ったんだよ?」
そう言うと、お姉ちゃんは恐る恐る手を伸ばして、ひとつを取り、半分ほどかじる。
「……うわ、パサパサしてる」
「うん……。そうなの……」
「でも、味は悪くない」
何でわたしとまったく同じ感想なの。やっぱり姉妹ってことなのかな。
「今度はちゃんとマシなの作るから、また食べてくれる?」
「毒入りじゃなければ」
「毒なんて入れないよ!」
でもこれで、侑樹の誕生日プレゼントは決まりね。あの二人にもお礼を言っておかなくちゃ。



そして、今日は侑樹の誕生日。カバンには、幾度の失敗作を経て完成させた自信作を忍ばせている。
これをいいタイミングを見つけて渡そう。
とか思ってたけど、結局タイミングを逃して渡せないまま、一緒に帰路についている。今渡せばいいのに、会話がないせいで切り出しづらい。
「……あのさ、舞祈。今日、暇?」
先に沈黙を破ったのは、侑樹だった。ただ、視線はこっちに向けられていない。
「えっ……うん」
「よかった……。母さんがうちでパーティーやるって言うんだけど、来ない?」
あ、そのときに渡せば……。よかった、なんとか渡せそう。
「もちろん行くよ。ありがとう、誘ってくれて。着替えてから行くね」
「ありがとう、待ってるよ」
……何着てこうかな。


結局、腰元に大きなリボンの装飾がついた、白のワンピースにした。いつものサイドアップの結び目には、同じく白のシュシュ。
うーん、透けないかな。下着も白系だし、大丈夫だよね。一応パーティーだから、白か黒がいいと思うの。夜になると寒くなるかもだし、黒のカーディガンも羽織っていこう。
化粧は……いっか。
「何してんの……?」
不意に声をかけられて、思わずビクッと身体が跳ねる。姿見越しに見えたのは、訝しげにこっちを見ているお姉ちゃんだった。
「デートでも行くの?」
「そ、そんなんじゃないよっ」
わたしはポーチにクッキーの袋を入れて、あわてて家を出た。


侑樹の家に着くと、パーティーはもう始まっていて、織田とトロも来ていた。
「あ、舞祈ちゃん! 来てくれたじゃんか、よかったな」
誘導されるまま、ソファの侑樹の隣に腰を下ろす。
「どういうこと?」
「いや、こいつが、誘いたいんだけどうまく誘えないって泣きついてきてさ」
「あ、おいっ、言うなって!」
……なんだ。侑樹もわたしと一緒だったのね。
あ、そうそう。
「あ、その、これ……。お誕生日、おめでとう」
わたしはポーチからクッキーの袋を取り出して、彼に差し出す。
「えっ、これ、舞祈が作ったの?」
「うん……まぁ。だから、美味しくないかも」
わたしとしては、精一杯やったつもり。でも、侑樹の口に合うかはわからない。
侑樹は早速袋を開けて、取り出したひとつを口に放り込んだ。
「うん、美味しいよ。ありがとう」
お返しに、優しい笑みを向けられた。
……こういうところがずるい。上手く手懐けられてるみたいで、むず痒い。
「舞祈、その格好、可愛いよ。舞祈じゃないみたいでびっくりした」
侑樹は表情に余裕があるのに、顔は真っ赤だ。ちょっとかわいいかも。
「ありがとう。……こういう格好、好き?」
「うん。でも、舞祈が着てるからかもしれないけど」
「何それ」
なんて、二人して笑っていると、トロがソファの裏から間に顔を出した。
「お二人さん、ポッキーゲームって知ってるか?」
ポッキーゲーム。二人がポッキーの両端をそれぞれ咥えて、食べ進んでいくってやつ。先に口を離したり、折ったりした方が負けってルールだったと思う。
「それで? まさか、やるって?」
「そうだよ。お前らバッテリーなんだろ? この機会に、どっちが度胸があるのか白黒つけたらどうよ」
なんか、上手く丸め込まれてる気がするけど……。
「舞祈、どうする? ビビってるならやめてもいいよ?」
なっ!? 侑樹のくせに、わたしを挑発するなんて。
「いいわよ、受けて立つわ」
「そうこなくっちゃ」
お互いに向き合って、それぞれ両端を咥える。
近いって。もうこの時点で結構ドキドキしてるんだけど……。
「目を瞑って。よーい……スタート!」
とりあえず無難なペースで食べ進んでみる。
侑樹はどれくらいだろう。ぜんぜんわからない。自分の心音がやけにうるさくて、他のことにまで気が回らない。
「チャンスは一瞬だぞ。絶対逃すなよ」
トロがこそこそとそんなことを言ってるのが聞こえた。何のこと?
ふと、温かくて、柔らかくて、みずみずしい感触。
えっ……これって……!?
目を開けると、すぐ目の前に侑樹の顔があった。わたしはつい、侑樹の肩を突き放してしまう。
「いや〜、引き分けか」
侑樹と、キス……しちゃった。
侑樹はただの幼なじみで、ただのクラスメート。ただ同じチームで、ただバッテリーを組んでるだけ。なのに、なんでこんなに身体が熱くて、ドキドキが止まらないんだろう。
「舞祈、ごめん」
そう言って頭を下げてくるけど、侑樹はどう思ったのかな。……嫌だったりした、かな。
今、侑樹の顔、見れないからわからないよ……。
「……いいよ、たかがゲームだし」
「うん、よく撮れてる。ははっ、耳まで真っ赤だな」
そんな不穏な言葉を耳にして、織田の持つスマホを奪い取ろうとすると、トロがそれを防いだ。
「おっと。これをばらまかれたくなかったら、大人しくするんだな」
脅迫じみたセリフとともに突きつけられたのは、ちょうどわたしと侑樹の唇が触れた瞬間を捉えた写真。
「なっ、ちょっ、消してっ!」
さっきのチャンスは一瞬だぞって、こういうことだったのね。
「ヤだね。何かあったときはこれを盾にとるんだから」
トロは何度言っても頑なに消してはくれなかった。悪用しないことを祈るしかない。


パーティーも盛り上がってきたところで、侑樹のお母さんがケーキを持って現れ、ロウソクに火を灯す。
「お誕生日、おめでとう〜!!」
みんなの声を合図に、侑樹がふーっと一息に火を吹き消した。
ケーキが切り分けられていくと、トロが何やら耳打ちしてきた。
「舞祈ちゃん、侑樹も誕生日なんだし、あーんしてやれよ」
「なんでよ」
「俺がやっても喜ばないだろ」
それは確かに。でも、わたしがやっても喜ばないと思うけど。
「女の子は舞祈ちゃんだけなんだし、やってやれって」
「わかったよ……」
何で今日のトロは、わたしと侑樹をやたら絡ませたがるんだろう。わたし達が付き合ってると勘違いしてるんじゃないの?
わたしはショートケーキを切り崩し、一口サイズをフォークに刺して、侑樹に向ける。
「侑樹、あーんして?」
「あ、あーん……」
その口にそのままケーキを突っ込む。
あれ、やってみると意外と恥ずかしくないな、これ。
侑樹の方は、呆けたようにただ口の中のケーキを咀嚼している。
「……嫌だった?」
「いや、びっくりしただけ。ありがとう、ここまでしてくれて」
なんか、言われて急に恥ずかしさがこみ上げてきた。なんなのよ、もう。


「今日は、来てくれてありがとう」
パーティーはお開きになって、侑樹は玄関まで見送ってくれた。
「こちらこそ。呼んでくれてありがとう」
「遅くなっちゃったね。送ろうか?」
外はすっかり暗くなっていた。でも、家までそう遠くないし、大丈夫だろう。
「ううん、大丈夫。また明日ね」
「うん、じゃあね」
今日はなんだか、らしくないこといっぱいしちゃったな。それもこれも、全部トロのせい。
でも、侑樹も喜んでくれてたし、いっか。

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