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女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第10話 かわいいは正義ってことね

今日はなんだか気分がいい。なんたって、テストが返ってくるんだから。
中学に入って初めての中間テスト。ここをしっかり取って、いいスタートを切らなきゃ。
「舞祈ちゃん、どうだった? 俺はなんとか平均ってとこだよ」
「ふふん、こんな感じよ」
わたしはトロに、返ってきた答案を見せつける。だんだんと驚愕の表情に変わっていくのが傑作で、わたしも思わず笑みをこぼしてしまう。
「な、なんだ……これは……」
「え、なになに? 高瀬さん、僕も見ていい?」
「いいわよ」
すると、織田も見る見るうちに血の気が引いていったように真っ青になる。普段のなよっとした感じがうそみたいだ。
「……高瀬さん、何点だったの?」
「あんたも教えてくれるなら、教えてあげてもいいよ?」
わたしが自慢げに言うと、レモンも自信ありげに返してきた。
「バカにしないでよ。私だってそこそこいい点とれてるのよ?」
「へぇ、いくつ?」
「聞いて驚きなさい。452点よ! 高瀬さんは?」
ふっと鼻で笑ってしまった。わたしの点数を言ったら、レモンはどんな反応を見せてくれるだろう。
「496だけど?」
「……は?」
「数学と社会で二点ずつ間違えちゃって」
「……へ、へぇ、すごいじゃない。高瀬さん、頭いいんだね……」
レモンは真っ青になって、声からさっきまでの覇気がなくなっていた。



ちなみに校外学習以降、わたしの靴が失くなることはなくなった。
ただ、より苛烈さを増してしまっただけなのかもしれなかった。


ある朝。登校してきたわたしがいつものようにイスに座ると、ふとももの裏に何かが刺さったような痛みを感じた。ふつうに痛くて、立ち上がって確認してみたけど、木のトゲが刺さったわけではないらしい。
イスの方を見てみると、銀色の針のようなものが飛び出していた。画鋲だった。ご丁寧に、座面の裏から針だけ飛び出すように刺してある。
わたしはそれを引き抜いて、壁に刺し戻した。


こういうようなことは何度かあった。
教室移動から帰ってくると、ノートの文字が消されていたり、なんて手の込んだこともあった。


犯人はわかっている。でも、わたしは何も言わなかった。何か言ったところで、何も変わらないと思ったから。こっそり復讐もしなかった。それじゃあ、わたしも同じだから。つまらなくなって、やめてくれれば一番いいと思っていた。



それは体育の授業があった日のこと。
授業が終わり、更衣室に戻ってみると、わたしの着替えはなかった。確かに置いたはずの場所に、ない。
ああ、トイレにでも投げられたかな。なんて思って見てみるが、そこにもなかった。また更衣室に戻れば、レモンがクスクス笑っているんだろう。
あいつは今まで、先生にバレる危険の高いことはしてこなかった。でも、今回は違う。わたしが体育着のまま授業に出れば、何かあったことは明白。誰かがわたしに悪意を持ってやったということが明るみになってしまう。
それとも、靴と同様、意外と見つけやすい場所にあるのかもしれない。まぁ何にせよ、次が昼休みで助かった。
わたしは更衣室に誰もいなくなるのを待ち、部屋中をくまなく探した。でも、ない。
あの間にあいつがどこかへ持ち去ったとか? 今こうしてわたしが探している間、ここにあるのにね、とか言いながら笑っているかもしれない。
あーあ……バカみたい。
どうしてこんな思いまでして、学校って行かなきゃいけないんだろう。どうして集団で過ごさなきゃいけないんだろう。


そのとき、更衣室のドアを叩く音がした。
「誰かいる?」
侑樹の声だ。わたしはそっと扉を開けてみる。
「舞祈。って、大丈夫か……?」
何が……というのはすぐにわかった。
わたしは涙を流していた。そんなつもりじゃなかったのに。侑樹には、見せたくなかったのに……。
「舞祈、もしかしてさ……、着替え、ない?」
「……うん」
このときのわたしには、もうごまかす手立てはなかった。というより、ごまかしきれる自信がなかった。
「ちょっと来て」
と、案内されたのは、隣の男子更衣室。
「ちょっ、何する気!?」
「男子更衣室に女子の着替えがあるんだ。……たぶん、舞祈のだと思うけど」
そういうこと。どうりで探しても見つからなかったはずよ。男子更衣室までは、さすがに行かないし。
恐る恐る入ってみると、中には誰もいない。当たり前か。
そして見せられたそれは、紛れもなくわたしのものだった。
「よかった。じゃあさっさと着替えちゃえよ。俺は外で待ってるから」
「えっ、ここで?!」
「誰もいないんだからいいだろ? 俺が入り口で見張っとくから」
侑樹はわたしの着替えを見つけてくれたし、彼を信じるしかない。
「……わかった」
着替えが終わって外に出ると、入り口で待っていた彼は、ニカッと笑って教室に戻った。



次の体育の時間。わたしは着替えるのをためらっていた。
遅れてでも、最後に着替え終わる。そして、必ず最初にここに戻ってこなければ、また何かされるだろう。着替えをどうにかされるのは、さすがに困る。お母さんにもバレるし。
わたしが更衣室に入らずにいると、侑樹はちらと見ただけで、男子更衣室に入っていった。
……薄情者。ちょっとくらい、何か言ってくれてもいいじゃん。
気が付いたら、侑樹に頼り切っている自分がいた。ダメだ、こんなんじゃ。あいつに頼ってもらうどころか、心配かけてばっかり。


すると、侑樹が男子更衣室から顔を覗かせて、手招きしてきた。何を考えてるの……?
わたしは誘われるまま男子更衣室に近づいていくと、そのままぐっと腕を引っ張られ、中に連れ込まれた。男子更衣室には、当然着替えている男子もいる。わたしはできるだけ見ないようにして、侑樹に抗議する。
「ちょっ、ちょっと、侑樹!?」
「静かに。隣に聞こえるだろ」
そんなこと言ったって……。
「ここで着替えろ」
「……は? 何言ってんの?」
わたしが困惑と疑いの目を向けると、侑樹はわたしを真っ直ぐ見据えて、淡々と話しだした。
「こいつらに事情を話した。そしたら、こっちで着替えたらいいじゃんって話になってさ。手は出させないし、隠しながら着替えればいい。こいつらは見られる分には構わないと言ってるし、見られて嫌だったら隠すとも言ってる。だから……どうだ?」
どうだ? じゃないよ、何を勝手なことを……。
更衣室内の男子を見まわしてみる。その全員と、目が合った。
「……下心は、ないのね?」
みんなは無言でうなずいた。
「だいたい、俺たちも新山あらやまさんたちがやってることは知ってたんだ。ただ、こう、なんていうか、なかなか言えないし。それで、何か舞祈ちゃんの力になれればいいって思ってさ」
トロにしては、なかなかいいことを言う。っていうか新山さんって誰? レモンの苗字かな?
「でもさ、何でわたしを助けようとするわけ? あんたたちもいじめに加わろうとは思わないの?」
そうでなくても傍観者を気取るのが普通じゃないの? ここであえて敵対するようなことをしなくても……。
「いや、あのウザいのに高瀬さんがビシッと言ってるのがスカッとするんだよ。侑樹も熱心に説得してくるしな」
わたしの問いには、別の男子が答えた。
侑樹が……?
「い、いや、それは……その……」
まごついている侑樹をよそに、さらに別の男子が口をはさむ。
「それに、高瀬さん、可愛いしな」
「ホントに下心はないんだよね?!」
でも、こいつらを味方につけられるとしたら、わたしの学校生活は一転するんじゃ……。これは、またとない機会かもしれないわね。
「どうする? 脱ぐ? 脱がない?」
「わかった、着替えるから。その言い方やめてよ」
わたしはブラウスのボタンに手をかけ、一つずつ外していく。
ふと、感じる視線。
「……ねえ」
「その……慣れれば意識しなくなるから。最初はしょうがないだろ?」
何がしょうがないんだか……。
ブラウスを脱いで、いざキャミソール姿になると、ごくり、という生唾を飲む音が聞こえた気がして、何か急に恥ずかしくなってきた。今更だけど。
その上に体育着を被り、下はスカートの下を通して履く。
着替えも済んで、振り返ると、男子の一部と目が合う。
「……なに?」
「あ、いや……見惚れてた」
もう! 何なのよ、こいつら。
恥ずかしさと嬉しさと呆れが一気に込み上げてくる。
「舞祈、行こうぜ。遅れるぞ」
「あ、うん」
侑樹は小学校のころから一緒だし、今更わたしの着替えなんか見ても、何とも思わないんでしょうね……。

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