女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第9話 いつも心に安らぎを

最終日は蓼科と甲州の試合。
月瀬はスタメンマスクだったけど、試合途中で代打を出され、交代。それもそのはず、蓼科の強力打線につかまり、大量失点させてしまったのだ。
結果は12-4。蓼科の圧勝に終わった。


「そういえば、試合中に告られてたけど、あいつと何かあったの?」
帰りのバスの中で、隣の侑樹に唐突に話題を振られた。
「別に、なんもない」
この日のわたしはちょっと不機嫌だった。
昨日月瀬に言われて侑樹を意識しちゃったり、月瀬の試合を観てフラストレーションがたまったり、もう散々。最悪。
「何怒ってんだよ」
「怒ってない」
「怒ってるじゃん」
「怒ってないって」
侑樹はあきらめたのか、ため息をついてそっぽを向いてしまった。
わたしもただずっと、窓の外を眺めていた。



ゴールデンウィークが明けて、今日は校外学習の日。
結局レモンの意見を却下して、紅葉山庭園と登呂遺跡に行くことになっている。そんなわけだから、レモンは来ないかもと思ったけど、しっかり時間通りに来やがった。
「おし、じゃあ行こう!」
ちなみに班長はトロ。織田はカメラ係で、わたしは地図係。レモンはというと、副班長とかいう何をするのかよくわからない役職。
トロのたっての希望で、最初は登呂遺跡を回ることになっていた。
日差しが照ってはいたけど、まだ風が涼しくて、暑くはない。


「ねえ、まだなのー?」
レモンは文句を言ってくるが、その度に、あと少し、と返す。
織田とわたしはこれくらいの距離は走り込みをしているし、トロもサッカー部ということもあって、全然堪えていない。ただわたし達が感じているのは、めんどくさいということだけだ。


そして静岡駅から歩くこと四十分。ようやく着いた。
静岡市在住の中学生は入場料がタダになる、というのもトロが登呂遺跡を推す理由らしい。後付けのような気もするけど。
中に入るなり、
「ふぉぉお~っ!!」
とトロが真っ先に飛びついたのは、弥生時代の生活が体験できる展示室。
その後も一般展示室を回りながら、興奮しっ放しだった。
何をそんなに興奮できるわけ……?


あらかた見学が済んだあと、近くでお昼を食べて、駅の方へと引き返す。目指すは駿府城。今度は優雅に庭園の観賞といきましょう。
レモンはまた文句を言っていたが、わたしはそれを無視した。というか、こいつとは関わりたくない。


庭園に着いて、ゆっくりと見て回る。
梅や松の林に添えられたかぐわしい花々、池と石で表現される絶景。こういうところにいると、なんか無性に落ち着く。心が安らぐというか、洗われるというか。滝の流れ落ちる音も、清涼感を漂わせ、今の季節にはぴったり。
目と、耳と、鼻と、そして心で感じる。……ああ、素晴らしい。


「あ゛~、疲れた。早く行こうぜー?」
「これの何がいいんだか……」
こいつらにはこの良さがわからないらしい。かわいそうに。
「じゃあ隣の駿府城でも見てくれば? わたしはもう少しここにいるから」
「はいはい。まったく、何よ。風流人気取っちゃってさ」
レモンはぶつくさ言いながら、二人を引き連れていった。
よし、これで静かになった。


しばらく眺めていると、隣におばあさんがやってきて、声をかけられた。
「お嬢ちゃん、さっきからずっと見てるけど、これの良さがわかるのかい?」
「わかってるつもりではいます。人工と自然の調和というか、その静寂の中に身を置いていると、心が澄みきっていくような気がして」
「そうか、そうかい。お嬢ちゃんはとても豊かな心の持ち主のようだねぇ。この景色をいつも心に置いておけば、迷ったときに、きっと道は開けてくれるよ」
不思議なおばあさんだ。その言葉はすっとわたしの中に入っていくようで、そして、大事にしなきゃいけないと、そんな気にさせられる。
「はい。ありがとうございます」


わたしはもう少しこの眺めを焼き付けて、三人のもとへ向かった。
「遅いぞ、まだ景色にうっとりしてたのか? 景色じゃ腹は膨れないぞ?」
みんなは一度静岡駅に集合していた。
「何なのよ、急に……」
トロは少しイライラしているようだった。心の貧しいやつね。
「そんじゃあ、龍之介、明日カメラ忘れるなよ?」
「うん。じゃあね」
と、トロは一足先にバスに乗り込んでいってしまった。
「え、もう解散なの?」
と言ってみるものの、時計を見れば、もう午後四時になろうとしていた。
「まぁ、時間も時間だしね。あ、僕はこのバスだから。二人とも、また明日」
織田も行ってしまい、駅にはわたしとレモンの二人が残された。
「……あんたは帰んないの?」
「高瀬さんには関係ないんじゃない? 散々無視しといて」
あー、根に持ってたのね。
「だってわたし、あんた嫌いだし」
特別感情も込めずに言うわたしに、レモンは驚きを隠せないようだった。
「……どうして面と向かってそういうことが言えるの?」
「わたし、言いたいことははっきり言いたいの。だってめんどくさいじゃん」
それにしても、思ったより早く終わっちゃったし、どうしようかな。
「わたし、バッティングセンター寄ってくけど、あんたも来る?」
「はぁ? 高瀬さん、私のこと嫌いなんでしょ? なのになんで……」
「別に嫌いだけど、それだけだから。今はね」
あれくらいのことは小学校の時にもあったし、慣れてしまったんだろう。それに、そういうことをするこいつのことが、むしろ哀れに見えてしまう。
だから別に、好きにはなれないけど、それ以上でもそれ以下でもない。というか、わたしにとって別にどうでもいい存在なんだ。こいつは。
「意味……わかんない……」
「まぁ、わたしは天才だから仕方ないって。で、行くの?」
「行かないよ」
「そっか。じゃあね」
彼女は返事を返さなかった。


バッティングセンターには、藤宮の姿があった。
絶対誰かしらここに寄り道しているだろうとは思ったけど、今のところ藤宮だけみたい。
「お、高瀬」
「藤宮も寄り道?」
「まぁな。早く終わったんで、寄って帰ることにしたんだよ」
「うちもそんなとこ」
藤宮はわたしの前の右打ち用のボックスに入る。
「あれ、左じゃないの?」
「俺は両打ちだ」
そっか。紅白戦のお姉ちゃんも、この前の越川も右投手だったから左で打ってたんだ。
「お前も、もう少しバッティング磨けよ。あと走塁もな」
「わかってるよ……」
弱いところをピンポイントでつかれた。ムカつく。足はしょうがないよ。元々がそんなに速くないんだもん。バッティングは……言い訳できないけど。
わたしも隣の左打ち用のボックスに入る。と、ボックス越しに藤宮が話しかけてくる。集中を乱させるつもり?
「あのさ、今度勝負してくれよ」
「え?」
「あのスライダー、右打席で見てみたい」
こいつも根っからの野球人なんだろう。ふつう、あんなの見たくないと思うんだけどなぁ。
「はいはい、どうせわたしはスライダーしか脅威じゃないですよぉ」
「そういじけんなよ。この前の試合は普通にすごかったぜ?」
「それはどうも」
それはそうと、さっきからなかなかいい当たりにならない。当てられる。転がせる。だけど、たぶんこれ全部内野ゴロだよ。
わたしの理想は、内野の間を抜く強いゴロ。
「それで、今のは併殺の練習してんのか?」
「違うよっ! 内野を抜くような、強いゴロを打ちたいのっ」
「それじゃあそもそもスイングスピードが足りてないって。素振りしてるか? してないだろ」
……ムカつく。確かに、してないけどさ。
「バランスよくやれよ。何事も」
「はいはい。そうですか」
筋トレかぁ。お姉ちゃんみたいに腕太くなりたくないしなぁ。でも、やった方がいいのかな、やっぱり。

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