女子だって、エースで全国目指したいっ!
第7話 瀧上vs蓼科 前編
合宿の最後の三日間は、日替わりで練習試合をするらしい。今日はその二日目。
昨日の試合はうちと甲州シニアとの試合で、三年の麻川蓮とお姉ちゃんの継投で、わたしの出番はなかった。結果としては6-4で、惜しくも勝てなかった。ま、お姉ちゃんが失点しすぎたのがいけなかったんだけどね。
今日の二日目は、うちと蓼科シニアの試合。監督から、今日はわたし一人にマウンドを任せると言われていた。
蓼科シニア……。あいつを絶対、三振させる!
「プレイ!」
うちが先攻で、一番はショートの藤宮。
今日は一、二年が中心のスタメンとはいえ、彼は一番打者の素質を見出されたみたい。
「ナイバッチ、藤宮ーっ!!」
ちょっと、耳元で叫ばないでよ……。
藤宮があっさりと塁に出て、続く二番は同じく一年の本田俊之介。彼は送りバントで藤宮を二塁まで進ませる。
ところが、次の三番・桜庭先輩と四番・原田先輩が三振に倒れ、この回は無得点に終わった。
「ドンマイ、ドンマイ」
チームメイトが声をかける中、わたしは聞こえないように舌打ちをした。
先輩のくせに、情けない。
「舞祈、今日もよろしくな」
今日、マスクをかぶってくれるのは侑樹。
実は、わたしが監督にお願いしたのだ。わたしは彼以外の捕手には投げない。あ、月瀬には投げるけど。
「何それ。いつも通りでいいよ」
わたしは投球練習で足場と指先の感覚を確かめ、全国トップクラスの打線を迎えうつ。と言っても、相手も一、二年中心のオーダーだけれど。
一番打者はショートの東郷。
確か、お姉さんが去年まで同じチームにいたはず。わたしと同じサイドスローで、すごい変化球を持っていた。
でも、わたしだって負けない。
インコースのストレートを二球続け、最後は外のシンカー。これでまず三振が一つ。
「ナイスピー! 一つずついこう!」
二番は初貝兄の方。
アウトローのツーシームをひっかけさせて、セカンドゴロに打ち取った。
「いいよー、打たせていこー!」
「無理して三振狙うなよ!」
人の気も知らないで……。次の三番は、あいつ、嵩宮大峨なんだから。
まず初球、月瀬は外から入ったけど、侑樹は真ん中にツーシームを要求してきた。
ちょっと、真ん中って、バカなのっ?!
わたしがなかなかサインに頷かないでいると、侑樹はミットをポンとたたいてグッと構えた。こうして力強く構えられると、信じてみたくなるじゃない。
腕を振り上げ、そのままゆっくり後ろに引く。そして左足を踏み込み、右腕を思い切り、振り抜くっ!
一度浮き上がるサイドスロー特有の軌道で真ん中に進んでいく。奴がこれを見逃すはずはなかった。その破壊的なスイングは硬球を乱暴に殴りつけ、弾き返してみせた。
しかし、打球は藤宮の方へ転がり、あっさりとショートゴロ。ストレートと違い、手元でわずかに沈んだために、ボールの上を叩いたのだろう。
「ナイス、ショート」
この回は、なんとか三者凡退。
「舞祈、信じてくれてありがとう」
ベンチに戻ると、侑樹がいつもの爽やかな笑顔を向けてくる。
「あんなの、もし打たれてたら二度と信用しないわよ」
「舞祈のツーシームはキレがいいから、ストレートだと思って振るんじゃないかと思ってね」
「で、でも、この前の時はツーシームも打たれたんだよ?」
あのシートバッティングの時、初めて見せたツーシームをセンター前まで運ばれてしまったのだった。
「あれは読まれたんじゃないかな。外にちょっと外れたところに投げられたから、内に曲がるだろうって。あとはバッティング練習でもあったし、何でも振るつもりだったのかもしれないけど」
っていうか、侑樹もあれを見てたんだ。見られたくなかったなぁ。だって、カッコ悪いもん。
「さっさと一点取って、舞祈を楽にしてあげるよ」
「八番が、何言ってるの」
結局これ以降、お互いにランナーは出しても還せない、還させないという展開が続き、0-0のまま回は五回と終盤に。
この回の先頭はわたし。相手は二年生エースの越川。前の打席はシュートをひっかけて、ショートゴロだった。
この回はなんとか塁に出て、ノーアウトのまま藤宮に回したい。
初球、低めにストレートが決まった。やっぱり速い。わたしじゃこれは打てないよ。それに速い球に混ぜた変化球に手を出して凡打になりたくないし、狙うとしたら、カーブ。
二球目はまたストレート。今度はインコース。
投手相手だっていうのに、よく平然と投げ込めるわね。そろそろ緩い球投げてくれないかな。このままストレート勝負なら、三振しちゃいそう。
三球目、高めのストレート。釣り球だとわかったけど、止められなかった。
しかし、うまく掠めて後方へのファールにできた。あの球速に、当てられた。
四球目に、やっと緩い球。外側からギリギリストライクに入るカーブ。
そう、これを待ってたのよ。
わたしは思い切って外に手を出し、三遊間へと流し打ちする。いい具合にサードのグラブを掻い潜って、ノーアウトで塁に出た。
「ナイバッチ、舞祈ー!」
どうだ、見たか!
次は藤宮。わたしに続いて、この回こそ得点しようじゃないの。
藤宮は初球からストレートを叩き、わたしと同じく三遊間へのヒットにした。
「いいぞー! 藤宮ー!」
「続け、本田ー!」
二番の本田はここも送りバント。手堅くランナーを二、三塁へ進める。
初回は二人そろって三振だったけど、今度は犠牲フライでいいんだから、ちゃんと決めてよね。
三番の桜庭先輩は変化球を三球見逃して、カウント2-1からインハイのストレートを右中間に弾き返した。どうやらみんな、ストレートに的を絞っているみたい。
「回れー、藤宮ー!」
藤宮は打球を確認して三塁を蹴り、猛然とホームに突っ込んでくる。わたしはまだホームに辿りついてない。彼の方が足が速いから、後ろから追いかけられてるみたいで嫌なんだけど……。
「よっしゃー、先制!」
思わず全力疾走させられて、肩で息をするわたしに、藤宮は手を差し出した。
わたしはそれに自分の手を合わせ、ハイタッチする。
「ナイスラン。マウンド上がる前に息整えとけよ?」
「はぁ……わかってる、よ……」
身を投げ出すようにして、ベンチに腰掛ける。
「大丈夫か? もう五回だし、ピッチングの方もだいぶ疲労がたまってるだろ」
「たまってはいるけど、まだ大丈夫」
せっかく二点取ってもらったんだ。あと三回凌げば、うちの勝ちなんだ。こんなとこでへばるわけにはいかない。
「少しマッサージしようか? そこに寝て」
わたしは侑樹に言われるまま、ベンチの空いたスペースでうつ伏せに寝そべった。
「変なとこ触ったらぶっ殺すわよ」
「アホか、心配してやってるのに」
侑樹はわたしのユニフォームを少しめくりあげて、腰のあたりを指圧し、ほぐしてくれる。
「痛い痛い痛い」
「うるさい」
だって、痛いものは痛いって!
「くっ……あ……ん……」
「へ、変な声出すなよっ」
「だって……んっ……」
痛いけど……気持ちいい。
サイドスローやアンダースローは球の軌道が独特だけど、足腰に負担がかかりやすい。わたしも思った以上に疲労がたまっていたみたい。
「お前ら、ベンチでイチャつくなよ」
そんなふざけたことを言ってきたのは藤宮だった。
「イチャついてないっ!」
「そろそろ準備しとけ」
侑樹がレガースをつけるのを藤宮が手伝っている間、わたしもはだけたユニフォームを直して、軽く身体を動かしてみる。
うん、だいぶ身体が軽くなった気がする。
「侑樹、ありがとうね。この回も0点に抑えるよ」
「ああ、もちろんだ」
五回の表が終わって、結局取れたのは二点止まり。
裏の先頭は八番、初貝の妹の方。前の打席は三振。ここもさくっと抑えてやるわ。
初球はインコースにツーシーム。際どかったけど、これは見送られてボール。
二球目も同じくインコースにドロップ。これも見送られた。低めに外れてボールになる。
「おい、何やってんだ。三振いらねーぞ!」
「そうだよ、こっち来い、こっち!」
わかってるって。こっちだって、ストライク狙ってるつもりなんだってば。
三球目はスライダー。でもこれはうまく曲がんなくて、打者に向かって進んでしまう。打者の腰に当ててしまい、デッドボール。
わたしは帽子を取って、頭を下げる。腕が上手く振れなかったんだ。それに、握力も落ちてきてる。
「タイムお願いします」
すかさず侑樹がマウンドに来て、内野も集まってくる。
「どうした? さっき侑樹に愛のパワーを注入してもらったんじゃないのか?」
藤宮が意地の悪い笑みを浮かべてからかってくる。
「バっ、バカ、そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 舞祈、どこか痛めたのか?」
「痛めてはいないけど、ちょっと細かいコントロールが利かなくなってきてる。……侑樹のリードでどうにかできる?」
「すっぽ抜けるとかはないか?」
「とりあえず、今のところは」
でも、この握力だと、すっぽ抜けることもあるかも。せっかく蓼科に勝ってるのに、わたしのせいで負けるなんて……。
「……ちゃんと腕を振りな。疲れてても、どんなに不格好でもいいから、腕を振りなよ」
そう言ってくれたのは、お姉ちゃんだった。今日はセカンドでわたしの後ろを守ってくれている。
「勘違いしないでよ? 私はあんたが嫌い。だけど、このまま負けるのは嫌だから」
「素直じゃねぇな。高瀬、打たせろ。あとは俺たちで何とかする」
サードの桜庭先輩もそう言ってくれる。
そうね……。わたし一人じゃないんだもんね。
「プレイ!」
侑樹のミットも、バックの守備も、信じて投げる!
九番に対してはストレートとツーシームで押す。ストレートならまだコントロールが利くし、ツーシームで引っかけさせられれば上出来よ。
三球目を思い通りに引っかけてくれて、セカンドへ転がる。
お姉ちゃんが拾い上げ、そのまま二塁カバーに入った藤宮へ。藤宮がキャッチと同時にベースを踏んで、ファーストへ送球。
華麗なダブルプレーで、二死ランナーなしになった。
「ナイス、ゲッツー」
「ツーアウト―!」
わたしは、まだやれる!
昨日の試合はうちと甲州シニアとの試合で、三年の麻川蓮とお姉ちゃんの継投で、わたしの出番はなかった。結果としては6-4で、惜しくも勝てなかった。ま、お姉ちゃんが失点しすぎたのがいけなかったんだけどね。
今日の二日目は、うちと蓼科シニアの試合。監督から、今日はわたし一人にマウンドを任せると言われていた。
蓼科シニア……。あいつを絶対、三振させる!
「プレイ!」
うちが先攻で、一番はショートの藤宮。
今日は一、二年が中心のスタメンとはいえ、彼は一番打者の素質を見出されたみたい。
「ナイバッチ、藤宮ーっ!!」
ちょっと、耳元で叫ばないでよ……。
藤宮があっさりと塁に出て、続く二番は同じく一年の本田俊之介。彼は送りバントで藤宮を二塁まで進ませる。
ところが、次の三番・桜庭先輩と四番・原田先輩が三振に倒れ、この回は無得点に終わった。
「ドンマイ、ドンマイ」
チームメイトが声をかける中、わたしは聞こえないように舌打ちをした。
先輩のくせに、情けない。
「舞祈、今日もよろしくな」
今日、マスクをかぶってくれるのは侑樹。
実は、わたしが監督にお願いしたのだ。わたしは彼以外の捕手には投げない。あ、月瀬には投げるけど。
「何それ。いつも通りでいいよ」
わたしは投球練習で足場と指先の感覚を確かめ、全国トップクラスの打線を迎えうつ。と言っても、相手も一、二年中心のオーダーだけれど。
一番打者はショートの東郷。
確か、お姉さんが去年まで同じチームにいたはず。わたしと同じサイドスローで、すごい変化球を持っていた。
でも、わたしだって負けない。
インコースのストレートを二球続け、最後は外のシンカー。これでまず三振が一つ。
「ナイスピー! 一つずついこう!」
二番は初貝兄の方。
アウトローのツーシームをひっかけさせて、セカンドゴロに打ち取った。
「いいよー、打たせていこー!」
「無理して三振狙うなよ!」
人の気も知らないで……。次の三番は、あいつ、嵩宮大峨なんだから。
まず初球、月瀬は外から入ったけど、侑樹は真ん中にツーシームを要求してきた。
ちょっと、真ん中って、バカなのっ?!
わたしがなかなかサインに頷かないでいると、侑樹はミットをポンとたたいてグッと構えた。こうして力強く構えられると、信じてみたくなるじゃない。
腕を振り上げ、そのままゆっくり後ろに引く。そして左足を踏み込み、右腕を思い切り、振り抜くっ!
一度浮き上がるサイドスロー特有の軌道で真ん中に進んでいく。奴がこれを見逃すはずはなかった。その破壊的なスイングは硬球を乱暴に殴りつけ、弾き返してみせた。
しかし、打球は藤宮の方へ転がり、あっさりとショートゴロ。ストレートと違い、手元でわずかに沈んだために、ボールの上を叩いたのだろう。
「ナイス、ショート」
この回は、なんとか三者凡退。
「舞祈、信じてくれてありがとう」
ベンチに戻ると、侑樹がいつもの爽やかな笑顔を向けてくる。
「あんなの、もし打たれてたら二度と信用しないわよ」
「舞祈のツーシームはキレがいいから、ストレートだと思って振るんじゃないかと思ってね」
「で、でも、この前の時はツーシームも打たれたんだよ?」
あのシートバッティングの時、初めて見せたツーシームをセンター前まで運ばれてしまったのだった。
「あれは読まれたんじゃないかな。外にちょっと外れたところに投げられたから、内に曲がるだろうって。あとはバッティング練習でもあったし、何でも振るつもりだったのかもしれないけど」
っていうか、侑樹もあれを見てたんだ。見られたくなかったなぁ。だって、カッコ悪いもん。
「さっさと一点取って、舞祈を楽にしてあげるよ」
「八番が、何言ってるの」
結局これ以降、お互いにランナーは出しても還せない、還させないという展開が続き、0-0のまま回は五回と終盤に。
この回の先頭はわたし。相手は二年生エースの越川。前の打席はシュートをひっかけて、ショートゴロだった。
この回はなんとか塁に出て、ノーアウトのまま藤宮に回したい。
初球、低めにストレートが決まった。やっぱり速い。わたしじゃこれは打てないよ。それに速い球に混ぜた変化球に手を出して凡打になりたくないし、狙うとしたら、カーブ。
二球目はまたストレート。今度はインコース。
投手相手だっていうのに、よく平然と投げ込めるわね。そろそろ緩い球投げてくれないかな。このままストレート勝負なら、三振しちゃいそう。
三球目、高めのストレート。釣り球だとわかったけど、止められなかった。
しかし、うまく掠めて後方へのファールにできた。あの球速に、当てられた。
四球目に、やっと緩い球。外側からギリギリストライクに入るカーブ。
そう、これを待ってたのよ。
わたしは思い切って外に手を出し、三遊間へと流し打ちする。いい具合にサードのグラブを掻い潜って、ノーアウトで塁に出た。
「ナイバッチ、舞祈ー!」
どうだ、見たか!
次は藤宮。わたしに続いて、この回こそ得点しようじゃないの。
藤宮は初球からストレートを叩き、わたしと同じく三遊間へのヒットにした。
「いいぞー! 藤宮ー!」
「続け、本田ー!」
二番の本田はここも送りバント。手堅くランナーを二、三塁へ進める。
初回は二人そろって三振だったけど、今度は犠牲フライでいいんだから、ちゃんと決めてよね。
三番の桜庭先輩は変化球を三球見逃して、カウント2-1からインハイのストレートを右中間に弾き返した。どうやらみんな、ストレートに的を絞っているみたい。
「回れー、藤宮ー!」
藤宮は打球を確認して三塁を蹴り、猛然とホームに突っ込んでくる。わたしはまだホームに辿りついてない。彼の方が足が速いから、後ろから追いかけられてるみたいで嫌なんだけど……。
「よっしゃー、先制!」
思わず全力疾走させられて、肩で息をするわたしに、藤宮は手を差し出した。
わたしはそれに自分の手を合わせ、ハイタッチする。
「ナイスラン。マウンド上がる前に息整えとけよ?」
「はぁ……わかってる、よ……」
身を投げ出すようにして、ベンチに腰掛ける。
「大丈夫か? もう五回だし、ピッチングの方もだいぶ疲労がたまってるだろ」
「たまってはいるけど、まだ大丈夫」
せっかく二点取ってもらったんだ。あと三回凌げば、うちの勝ちなんだ。こんなとこでへばるわけにはいかない。
「少しマッサージしようか? そこに寝て」
わたしは侑樹に言われるまま、ベンチの空いたスペースでうつ伏せに寝そべった。
「変なとこ触ったらぶっ殺すわよ」
「アホか、心配してやってるのに」
侑樹はわたしのユニフォームを少しめくりあげて、腰のあたりを指圧し、ほぐしてくれる。
「痛い痛い痛い」
「うるさい」
だって、痛いものは痛いって!
「くっ……あ……ん……」
「へ、変な声出すなよっ」
「だって……んっ……」
痛いけど……気持ちいい。
サイドスローやアンダースローは球の軌道が独特だけど、足腰に負担がかかりやすい。わたしも思った以上に疲労がたまっていたみたい。
「お前ら、ベンチでイチャつくなよ」
そんなふざけたことを言ってきたのは藤宮だった。
「イチャついてないっ!」
「そろそろ準備しとけ」
侑樹がレガースをつけるのを藤宮が手伝っている間、わたしもはだけたユニフォームを直して、軽く身体を動かしてみる。
うん、だいぶ身体が軽くなった気がする。
「侑樹、ありがとうね。この回も0点に抑えるよ」
「ああ、もちろんだ」
五回の表が終わって、結局取れたのは二点止まり。
裏の先頭は八番、初貝の妹の方。前の打席は三振。ここもさくっと抑えてやるわ。
初球はインコースにツーシーム。際どかったけど、これは見送られてボール。
二球目も同じくインコースにドロップ。これも見送られた。低めに外れてボールになる。
「おい、何やってんだ。三振いらねーぞ!」
「そうだよ、こっち来い、こっち!」
わかってるって。こっちだって、ストライク狙ってるつもりなんだってば。
三球目はスライダー。でもこれはうまく曲がんなくて、打者に向かって進んでしまう。打者の腰に当ててしまい、デッドボール。
わたしは帽子を取って、頭を下げる。腕が上手く振れなかったんだ。それに、握力も落ちてきてる。
「タイムお願いします」
すかさず侑樹がマウンドに来て、内野も集まってくる。
「どうした? さっき侑樹に愛のパワーを注入してもらったんじゃないのか?」
藤宮が意地の悪い笑みを浮かべてからかってくる。
「バっ、バカ、そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 舞祈、どこか痛めたのか?」
「痛めてはいないけど、ちょっと細かいコントロールが利かなくなってきてる。……侑樹のリードでどうにかできる?」
「すっぽ抜けるとかはないか?」
「とりあえず、今のところは」
でも、この握力だと、すっぽ抜けることもあるかも。せっかく蓼科に勝ってるのに、わたしのせいで負けるなんて……。
「……ちゃんと腕を振りな。疲れてても、どんなに不格好でもいいから、腕を振りなよ」
そう言ってくれたのは、お姉ちゃんだった。今日はセカンドでわたしの後ろを守ってくれている。
「勘違いしないでよ? 私はあんたが嫌い。だけど、このまま負けるのは嫌だから」
「素直じゃねぇな。高瀬、打たせろ。あとは俺たちで何とかする」
サードの桜庭先輩もそう言ってくれる。
そうね……。わたし一人じゃないんだもんね。
「プレイ!」
侑樹のミットも、バックの守備も、信じて投げる!
九番に対してはストレートとツーシームで押す。ストレートならまだコントロールが利くし、ツーシームで引っかけさせられれば上出来よ。
三球目を思い通りに引っかけてくれて、セカンドへ転がる。
お姉ちゃんが拾い上げ、そのまま二塁カバーに入った藤宮へ。藤宮がキャッチと同時にベースを踏んで、ファーストへ送球。
華麗なダブルプレーで、二死ランナーなしになった。
「ナイス、ゲッツー」
「ツーアウト―!」
わたしは、まだやれる!
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