女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第5話 高瀬舞祈の受難

「合同合宿?」
昼休み、わたしはいつものように侑樹と織田龍之介、それから登呂遺跡男もとい前原壮也と机を囲んで話をしていた。
「そう。ゴールデンウィークを使って、他のシニアと合同で合宿するんだってさ。……聞いてなかったのか?」
あー、そんなこと言ってたような気もする。
「希望制だし、保護者の許可がないと行けないっていうけど、舞祈はどうする? 俺はもちろん行くよ」
お姉ちゃんが行くなら、わたしも行っていいって言われるだろうけど。
「合同ってどことやるの?」
「さあ、そこまでは」
「でも、全国区の強いところとやるって言ってたよね……」
「行く!」
「だと思ったよ」
全国区のシニアと合同合宿なんて、今からテンション上がってくるじゃない。わたしの目指すライバルたちの実力をこの目で見て、そして奴らには、わたしの存在を嫌でも意識させてやる……!
「舞祈ちゃんたちは同じチームなのか?」
この登呂遺跡男……前原には、なれなれしくも、名前呼びされている。こうして数日過ごして、こいつは一言で言うとチャラいということがよくわかった。
「そうよ。だから侑樹はともかく、あんたはわたしの足を引っ張らないようにもっと頑張りなさい。じゃないと、レギュラーになんてなれないわよ」
すると、わたしの視線の先の織田龍之介は、いつものなよっとした様子でそれに返す。
「レギュラーなんて、僕にはまだ無理だよ……」
「だーかーらー、無理って言ったら無理なの! わたしの前で無理って言うの禁止ね」
「えぇ!? そんなぁ……」
「でも、舞祈ちゃんの言うこともわかる気がするけどな。人間、気持ちを強く持っていれば、たいていのことは何とかなるもんだぜ?」
こいつはホントにそうやって生きてきたっぽいもんね。このポジティブさを織田龍之介にも少しは見習ってほしいよ。
「ところで、舞祈。何か変わったことはない? 大丈夫?」
「大丈夫だって。そんなに心配しなくてもいいのに」
「侑樹ってもしかしてさ……」
「お、おいっ、壮也、てめぇ」
何かを言いかけた登呂……前原を、侑樹が強引に黙らせた。
ダメ……登呂遺跡の印象が強すぎて、なかなか本名が覚えられないわ。もういっそ、こいつのことはトロと呼ぼう。うん、覚えやすい。
ここでチャイムが鳴り、みんなそれぞれの席に戻った。



帰りのホームルームも終わり、侑樹と一緒に昇降口まで降りる。
すると、わたしは下駄箱の前で、ある異変に気付いた。
「……あ、わたし、委員会の仕事あったの忘れてた。ごめん、侑樹、先帰って」
「ああ、図書委員だっけ。お前、意外なことに本好きだもんな」
「一言余計だって」
わたしはできるだけ自然を装って、図書室ではなく教室へと向かった。
今日は、わたしの当番の日じゃないもん。
教室は誰の姿もなく、ただオレンジの陽が差し込んでいる。この閑散とした静寂、わたしは好きだ。本を読んでいるときも、こういう静寂を味わえる。
……はぁ、どうするかな。どうやって帰ろう。
わたしは机に突っ伏して、そのまま意識を落としてしまった。


「おい、舞祈。起きろって」
ようやく聞きなれてきた声変わりした声に、わたしは重々しく顔を持ち上げる。
……あ、やば。跡ついてるかも。
「もうすぐ最終下校時刻だぞ」
「……先帰ってって言ったじゃん」
委員会の仕事あるって、嘘ついたのもバレちゃったし。
「ほらよ」
侑樹は、わたしの髪と同じ、濃い茶色のローファーをわたしに差し出した。
これ……、どうして……。
「帰ろうぜ?」
涙が出てきそうだったのをごまかそうと、わたしは悪態をついてみせる。
「余計なことしないでよ」
侑樹はやれやれとため息をつくが、怒ったりはしなかった。


「じゃあな」
別れるまで、侑樹は何も言ってこなかった。何も聞いてこなかった。
わたしから話してほしいのだろう。頼ってほしいのだろう。でも、頼ってなんかやらないんだ。頼ってばっかじゃダメなの。わたしはあいつに借りがいっぱいある。これ以上、あいつに頼りたくない。今度はわたしに頼らせてやるんだ。お願いします舞祈様って、言わせてやるんだ。



翌朝、教室に着いて、いつも通り自分の席に座る。
教室にはいつもより早いのに、すでに女子が数人登校してきていた。男子は、まだわずかしか来ていない。
ふと、何か嫌な予感がして、机の中を……覗いてみた。そのあまりのおぞましい光景に、わたしは思わずスクールバッグを取り落としてしまった。
泣きそうだった。一瞬腰がすくみ、足が震えた。でも、そんな姿は見せられない。
「どうしたの? 高瀬さん」
後ろの席のレモンは、くすくすと笑いを抑えられないらしい。
何がそんなにおかしいの? これを見て笑えるのは、これを仕掛けたやつだけ。
わたしはレモンを一瞥し、
「……つまらない女」
とだけ言い捨て、ごみ箱を持ってきて、机の中のものを吐き出すように捨てた。どさどさっと、黒いカタマリがいくらも出てくる。本当に気持ち悪い。
そして雑巾を絞ってきて、机の中を拭く。
「高瀬さん、手伝ってあげようか?」
相変わらず嘲笑を含みながら、わたしをゴミ箱のそれと同等に見るように、レモンはわたしを見下げている。
「触るな」
殺してやりたい。心から思った。
わたしのコントロールなら、あいつの顔面を狙えるかな……。いや、生き物の死骸を弄ぶなんて、それじゃあこいつと一緒だ。
「なに怒ってるの? 私がやったんじゃないのに」
ちょうどその時、トロや織田龍之介たちが登校してきた。
彼らもこの教室の険悪な雰囲気を察したのか、そして渦中の人物がわたしとレモンであることを悟ったらしく、声をかけてきた。
「舞祈ちゃん、何かあったの?」
「別に、大したことじゃないよ」
わたしは無理やり笑顔を作って見せる。これでも作り笑顔は得意な方だと自負してるんだ。たぶんバレない。……侑樹以外には。
「なんだ、ただならぬ雰囲気だったからさ」
「まぁちょっと、女って醜いなぁって思ってただけだから」
「って、舞祈ちゃんも女じゃん……」
「……わたし、醜い?」
「いや、かわいいよ」
そう、こいつはこういうことを平気で言えるやつなのだ。
こうして、この件はこれまでになる。


しかし、これ以降は靴がなくなることが増えた。
あるところによると、“靴隠しゲーム”というのが横行しているらしい。誰が最も見つけるのに手間取らせられるかを競うもので、見つけられないと失格になるのだそうだ。

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