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女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第2話 わたしを認めさせてやる

「わたしは全国優勝投手になるつもりなので、先輩方は足を引っ張らないでくださいね?」


シニアの入団式でのわたしの挨拶だ。
「これはまた可愛がり甲斐のある、粋のいい小娘が入ってきたなぁ」
先輩が睨みつけてきても、わたしは怯まなかった。反感を買うのはわかりきっている。でも、一応言っとかないとね。後々、どっちが上かはっきりさせてやるわ。
お姉ちゃんは侮蔑と哀憐のこもったような目で、そのわたしの様子を見ていた。
「どの口が叩いてんだよ。軟式でも結祈ゆきの控えですらなかったのに」
そんなのわかってる。通用する確信はない。だけど、やらなきゃ何も変わらない。
「お言葉ですが、先輩。あれこれ言うのは今の彼女の球を見てからにした方がいいですよ」
侑樹ゆうきの奴、わたしを庇ってくれてるの……? いつもはわたしを敵にしない代わりに味方にもならないのに。
「きっと彼女の球を見れば、先輩方も彼女の持つ可能性に納得してくださるはずです」
彼の言葉に、先輩方は戸惑いを隠せないといったように一様に黙り込んだ。
「じゃあ来週、一年と上級生とで紅白戦をやろう。ちょうど新入生の実力も知っておきたかったしな」
監督のこの一言で、ひとまず事態は収まった。



そして今日はその紅白戦の日。やっと、わたしの実力をきちんと量る機会がやってきた。
これまでの一週間は、軟式上がりの人のために硬球に慣れる練習中心だったし、変なエラーもないよね。
「先輩方は本気でやってくださいね? わたしは手加減してあげますから」
「何だと、このメスガキ……っ!」
先輩方は怒りに震え、不快感をあらわにする。
……うん、いいね、その表情。紅白戦といえど、やっぱりこれくらいの緊張感がなくちゃね。
「わたしはプロになるためにやってるんです。全国優勝を本気で目指してるんです。そんなわたしを、止められますか?」
「今からその夢をへし折って、泣き寝入りさせてやるよ!」
「じゃあ、全打席三振した先輩方は、今後わたしの言うことは何でも聞くってことでいいですか?」
「おい、舞祈まき。やめとけって」
侑樹がわたしと先輩の間に入って止めようとしたが、逆に先輩に突き飛ばされてしまった。
「上等じゃねぇか、クソガキ。てめぇが負けたらどうなるかわかってんだろうな?」
監督は止めに入らない。どういうつもりなんだろう。
「さあ、どうなっちゃうんでしょうね」
わたしは意地悪く笑顔を振りまいて、ベンチに戻った。今日はいつもの練習グラウンドでの練習試合だから、ベンチといっても適当に椅子や用具が置いてあるだけだけど。
「おい、謝っといたほうがいいんじゃねぇのか?」
「大体、その自信はどこからくるんだよ?」
同じ一年の彼らに口々に言われるも、わたしはそれらをすべて無視した。とりあえず上に従っておくなんて、わたしはしたくないのよ。あんな人たちに、わたしの選手生命を賭けられないわ。


「プレイ!」


試合が始まると、それ以上何も聞かれず、彼らも試合の方に集中する。
向こうの先発はお姉ちゃんかぁ。わたしの打順は九番だし、初回は回ってこないかな。


侑樹は相手チームをよく見ておきたいというので、わたしは八番打者の織田おだ龍之介りゅうのすけにキャッチボールの相手を頼んだ。
「えっ、僕で大丈夫かな……」
なよなよとした頼りがいのなさそうな男ね。ちょっと髪も長くて女みたい。
「キャッチボールだけだから。本気で投げたりしないよ」
今のうちに肩と指を慣らしておきたい。本番で制球ミスは命取りになるからね。ま、お姉ちゃんはよくやってるけど。
高瀬たかせさん、お姉さんもすごい球投げるんだね」
「え〜、あんなの全然すごくないよ。ほら、実際打たれてるじゃん」
いつの間にか、ワンナウト一、二塁になっていた。
「本当だ。でも高瀬さんはすごいよ。全国優勝を本気で目指してるなんて、なかなか言えることじゃないもん」
「どうして?」
「だって、そりゃ目指したいけど、……僕なんかじゃ絶対、全国なんて無理だもん」
わたしはその言葉に、ふと手を止め、つい力を入れて思いっきり投げ返した。案の定、急な出来事に彼は捕り損ねた。
「ちょ、ちょっと、高瀬さん?!」
「……無理だと思うなら、無理でしょうね。そうやって自分の限界決めつけて、何が楽しいの?」
「でも……だって……」
「そういうの、ウザい」
わたしは彼が捕りこぼしたボールを拾いにいく。それでも、これだけは言っておかないと。
「キャッチボール、相手してくれてありがと」



結局、初回は点を取れず、わたしはマウンドに上がる。
見てなさい。絶対に、わたしの存在を認めさせてやる。


一番は二年の桜庭さくらば隼人はやと。左打ちだから、スライダーの使いどころは気をつけないと。変に投げると当てちゃうかもしれないからね。
侑樹のサインはインコースのストレート。うん、悪くないわ。
ゆっくり振りかぶって、腕を大きく後ろに引く。そして、一気に横薙ぎに振り抜く。
桜庭先輩は振らなかった。まずはストライクが一つ。
「ナイスボール!」
「隼人、出鼻くじいたれ!」


次のサインは、インコース低めにドロップ。随分攻めるねぇ。いいよ。そっちがその気なら、わたしもそれに応えないとね。
わたしはサインに頷き、同じフォームで膝下に落ちるカーブを放る。
「ストライーック!」
これも振らなかった。もちろん入っている。振る気ないのかな。それとも手が出ないのかしら。


三球目、侑樹は外のボール球を要求したが、無駄に球数投げる必要もない。わたしはそれに首を振って、次のサインを要求する。
すると、次に出されたのはフロントドアのツーシーム。対角線投球だし、結構勇気いるんだよね、それ。まあ投げるけど、当てたらごめんってことで。
ボールは一球目とほぼ同じ軌道で進み、今度はもっと身体に近いところに向かっていく。が、手元でわずかに沈み、ストライクゾーンに入っていく。見逃せば三振。振れば引っ掛けて内野ゴロが精一杯のコース。
しかし桜庭先輩は、振ったが当たらず、三振。むぅ、予想が外れた。ちょっと過大評価してたかな。でも油断するよりいいよね。
「いいぞ、高瀬! その調子で一人ずつな」
「ナイスピー!」
これでまずワンナウト。


次の二番は、同じく二年の片桐かたぎり紗也さや。この人も左打ち。スライダー使いたいのに、なかなか使えない。まぁわたしは投げてもいいんだけど、侑樹は嫌がるんだよね。当てないから大丈夫だって言ってるのに。


初球、侑樹のサインは、さっきと同じフロントドアのツーシーム。入るかわかんないし、引っかけて内野ゴロになってくれると嬉しいんだけど。
わたしが投じた一球は、だいたいさっきと同じコースに決まった。片桐先輩は見送りでワンストライク。ちょっと中に入っちゃったけど、見逃してくれた。


次のサインは、低め外いっぱいのスライダー。ようやくこの球を投げられるのね。ただ、そのコースは投げにくいんだよね。外れても文句言わないでほしいな。
後ろに引いた腕を横薙ぎに振り抜く。リリースポイントは、右打者を狙うように。
最初はすっぽ抜けたと思うだろう。しかし、近づいてくるにつれて、ぐぐっと曲がってストライクゾーンを掠める。


片桐先輩はこれも見逃しでツーストライク。二球で追い込んだ。
「打たせていいぞ! こっち来い!」
「勝負焦んなよ!」
そうね。これで打たれたらカッコ悪いし。追い込んでいても、油断だけはしないように。


三球目はインコース高めの釣り球。振ってくれれば儲けもの。振らなければ次の外角低めで決める。
予想とは裏腹に、片桐先輩はいとも簡単に高めのボール球に手を出してくれて、またも三球三振。
「ナイスピー、高瀬!」
「ツーアウトー!」


三番は三年生、山口やまぐち貴仁たかひと。この人は右打ちだし、初球からいきたい。わたしは最初に出されたストレートのサインに首を振った。
すると、彼はわたしが何を要求しているのか察したらしく、呆れ気味にあの球のサインを出してくれた。
対右打者でわたしが最も気に入ってる、インハイへのスライダー。打者の肩口を狙って投げると、ぐぐっと曲がってストライクゾーンを通る。打者からしてみれば、ボールが一度周辺視野へ外れて、背中から向かってくるように中心視野に戻ってくるので、結構怖いらしい。
侑樹に打席に立ってもらって練習した成果、見せてあげるわ。


曲がらないとぶつけちゃうし、失投は許されない。何度も練習したリリースポイントで、切るように腕を振る。ボールは一度浮き上がるようにして、首を落とす鎌のように、肩口からぐぐっと斜めに落ちながら曲がった。わたしのは球速がないから、高めに投げると、軌道としてはカーブに近くなる。
山口先輩は身体を仰け反らせてこの球を避けるが、文句なくストライクゾーンを通過していた。
「ストライーック!」
味方と相手との間に異様なまでの沈黙が訪れる。さぞかし驚いたでしょうね。でも、まだゲームは始まったばかりなんだから。


萎縮した彼を仕留めるのは簡単だった。インハイの同じところへのストレート、外低めのドロップで、山口先輩も三球三振に打ち取った。
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
三者連続で三球三振。この回投げた九球はすべてストライク。しかし、一球もバットに当てさせなかった。
あっけないなぁ、もっとわたしを楽しませてよ……!

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