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女子だって、エースで全国目指したいっ!

エルトベーレ

第4話 席替えと書いて悪夢と読む

学校生活において席替えほど憂鬱な出来事があるかしら。
ないわ。ないに決まってる。次の席替えまでの間、わたしがどんな思いで学校に行かなきゃならないのかが決まる出来事でもあるんだもん。
「あ、高瀬さん。よろしくね」
しかも今回は、このなよなよした女みたいな男、織田龍之介の隣だなんて。
「……よろしく」
昨日あったこと、あんまり気にしてないのね。ちょっと強く言っちゃったし、気にしてるかと思ったけど。



早速、新しい班での行事。今度、校外学習があるらしい。行った後は、班で一つの模造紙にレポートとしてまとめ、廊下に掲示するとか。
その調べるテーマと回る場所を、絶賛話し合い中なんだけど……。
「私、お茶がいい! やっぱり名産品だし、調べやすいと思うの」
「あー、でも俺は、登呂とろ遺跡行ってみたいなぁ。博物館もあるから資料も集まるだろ」
「えー、そんなとこ行ってもつまんないよぉ」
……あーあ、めんどくさい。わたしはパラパラとガイドブックをめくってみる。
どこでもいいじゃん、こんなの。
「高瀬さんは、どこがいい?」
隣の生意気そうな女が聞いてくる。
「え? あー、今見てる」
「織田くんは?」
っていうか、なんで仕切ってんの? この女。中学生のくせに毛先にパーマなんかかけちゃってさ。名前、何ていったっけ……たしか、レモン……?
「僕は、別に……。みんなの行きたいとこでいいよ」
うわぁ、何でそう火に油を注ぐようなこと言うかなぁ。
「じゃあ、お茶と登呂遺跡、どっちがいい?」
レモンもちょっとイラついてるみたいだし。
「男なら、登呂遺跡だよなぁ?」
……は? 何、その理屈。
「え、あ、いや……その……」
織田龍之介の答えを待つ二人はじっと彼を見つめる。しかし、織田龍之介は黙ってしまって続きを言わない。
……最悪。こいつらと仲良くやっていくとかムリでしょ。
沈黙を破るように、わたしはパタンとガイドブックを閉じて、机に置いた。
「高瀬さん、決まった?」
「うん。紅葉山もみじやま庭園がいい」
これは単純に興味が湧いた。ガイドブックの写真もきれいだったし。
「えっ、庭園?」
「登呂遺跡とは駅を挟んで向かいだし、両方いけるんじゃない?」
っていうか、一日中登呂遺跡とか、やだよ……。
「高瀬さん、わかってるなー。やっぱ登呂遺跡だよな?」
こいつはなんでこんなに登呂遺跡を推してくるわけ?
「高瀬さん、僕もそこ行ってみたい」
なぜか織田龍之介も乗ってきた。そうなると、孤立したのはレモン。
「えー、お茶はー?」
「……あのさ、お茶ってどこ? 具体的に言ってくれない?」
わたしのこの言い方が癇に障ったのか、レモンはあからさまに不機嫌になった。
「私はただ、調べやすいし、書きやすいから言ってるのに。だいたい、庭園で何書くって言うの?」
わたしはすかさず反論する。
「あんたバカ? 調べやすいとか書きやすいっていうなら登呂遺跡でも充分でしょ。お茶にこだわる理由は何かって聞いてんの」
騒がしかった周りが段々と静かになり、こっちに視線が注がれていく。
「な……っ!? て、庭園は何なのよ!」
「庭園のすぐ隣は駿府すんぷ城があるの。歴史とあわせて書けるんじゃない? 書きやすいって言うけど、何を書くの? どうやって調べるの? どこに行くの?」
これ以上反論できないと考えたのか、レモンはいじけたように戦意を捨てた。
「……あーはいはい、わかった。あんたの言う通りでいいわよ」
「わかってくれて何よりね」
正面の男子二人は、今のやり取りに唖然として声も出せずにいた。
……やっちゃった。でもいつかこうなっただろうし、しょうがないよね。



昼休み、侑樹がわざわざわたしの席までやってきた。たぶん、さっきのやり取りのことだろう。
「早速やっちまったのか、舞祈」
そんな呆れたように言われるけど、わたしは間違ったとは思ってない。
「別に、仲良くするつもりないし」
「でも、なんかカッコよかったよ、高瀬さん」
隣の織田龍之介も話に混ざる。
「あんたはカッコ悪かったけど」
織田龍之介はしゅんと落ち込んでしまったが、すぐに顔を上げて、わたしの方を向き直った。
「そうだよね……。僕がはっきり言えないから、高瀬さんが言うことになったんだもんね……」
「は? 違うけど?」
何でこいつの中では、わたしが助けてあげた、みたいになってるの?
「ま、ちょっとウザかったからな。言ってくれて助かったのは事実だろ」
斜め後ろの登呂遺跡男も混ざってくる。
「誰が何て言おうと、登呂遺跡に行こうと言ってくれたお前はいい奴だよ」
だから何なの、その登呂遺跡推し!
「こうなった以上、これからは波風立てないようにするのか、それとも慣れ合わずにいくのか。その二つしかないだろうな」
「そんなの、もちろん後者でしょ」
わたしがニヤッとして答えると、侑樹はやれやれとため息をついた。
「で、名前、なんだっけ?」
わたしが聞くと、登呂遺跡男は目をパチクリさせて、徒労そうにもう一度名乗ってくれた。
前原まえはら壮也そうやだ。覚えとけ」



その夜、お風呂から上がってベッドに腰掛ける。
あれからまた、お姉ちゃんと会話はない。この状態も今に始まったことじゃない。ちょっと前からずっとこうだから、あまり気にならなかった。


不意に、ケータイが震えた。侑樹からだった。
「どうしたの? こんな時間に」
「ああ、ごめん。今、都合悪かった?」
「ううん、大丈夫だよ」
すると、いつになく真面目な声色が返ってきた。
「舞祈、何かあったら、必ず俺に言えよ? 俺だけは、何があってもお前を見捨てたりしないからな」
……わかってるよ。だから、わたしはこうして学校に行くんだもん。
「ありがとう。でもね、わたしが悪いときは、見捨ててくれたっていいんだからね」
「バカ、そういうわけにいくかよ。お前に何かあったら……」
侑樹はそこまで言って、続きは言ってくれなかった。
「とにかく、何かあったら遠慮しないで俺に頼れ。いいな?」
「はいはい。じゃあ、また明日ね」
侑樹の言いたいことはわかる。……去年のこと、忘れたわけじゃないよ。でも、侑樹を巻き込みたくないんだ。
悪役は、わたしだけでいい。

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