妹のいるグラウンド
第36話 失点 vs川和シニア⑩
六回の裏。この回もマウンドに上がるのは美聡。
遥奈ちゃんは切り札にしたいから、いけるところまでは美聡でいきたい。それに、この回は下位打線。三人で抑えて、最終回を遥奈ちゃんが締めるのが理想的な継投かな。
先頭の七番は高城佳央里ちゃん。オレの親友の妹で、オレは来年のクリーンナップ候補として目をつけている。それだけに、油断は禁物だ。
美聡の持ち球はストレートとカーブのみ。一応それでも緩急はつけられるが、あの子は美憂ちゃんより当たるフリースインガーってとこだからな。バットに当てさせず、三振に取れればベスト。当てられると外野まで運ばれる。
初球は外角低めにストレート。決して悪くないコースにいったのだが、簡単に打ち返されてしまった。しかし、これはファール。ライト方向へ大きく逸れた。
「先輩、打たせていいよ!」
「ショート来い、ショート!」
みんな声は出てるな。これなら美聡も落ち着いて投げられるんじゃないか?
そんな思いと裏腹に、美聡はストライクが入らず、結局歩かせてしまった。
「タイム、お願いします」
すかさず緩奈がマウンドへ行く。
直に受けているのは彼女だ。美聡が投げられなさそうなら、緩奈の判断で交代させてもいい。だが、緩奈は少し話をした後、マスクをかぶり直して再び座った。
「プレイ!」
どうやら大丈夫なようだ。
八番はエースの氷月。篠岡と代わっての八番だが、こいつは元々クリーンナップに据えられるほど、打力のある打者だ。さっきも本塁打を打たれたし、油断は禁物。
しかし、緩奈は立ち上がり、ボールを外させた。まさか……敬遠か?
「ボールフォア」
フォアボールでランナーを二人ためて、迎えるのは九番、高城愛依里ちゃん。
この子は一番めんどくさいタイプの打者だ。打率は高くないが、出塁率は高い。しかも、打てる球でもわざとファールで粘る。
美聡の初球は、ど真ん中にストレート。まずは一球、見逃しでストライク。
二球目は、カーブをまた真ん中に。これはカットされて、ストライクが二つ目。あと一つがなかなか遠い。
三球目はストレート。これもカットされる。
もう一球ストレートを続けると、この回初めてフェアグラウンドにボールが転がった。打ち損じた打球はピッチャーの横、ショートの正面に転がる。
「サード!」
結衣が拾い上げて、三塁に送球。二塁ランナーはフォースアウト。
「ファースト!」
二塁は無理と判断した緩奈の指示で、美憂ちゃんがファーストに送球する。惚れ惚れする肩で、バッターランナーも封殺。
あっさりとアウト二つ取ってみせた。
「ナイス、サード!」
絢郁がそう声をかける。今の併殺は美憂ちゃんの貢献度が高いことを、絢郁はわかってくれているのだ。女子としては足の速い愛依里ちゃんを刺せたのは、ひとえに美憂ちゃんの肩の強さと、正確な送球があってのことだからな。
さらに言うなら、咄嗟にそれを見越して指示を出した緩奈も素晴らしいのだが。
ツーアウト、ランナー二塁で、打者は一番、真木凛太郎。
ここを凌いで、最終回だ。
真木は一番の要注意打者だ。何よりミートが上手い。付け焼刃のバッテリーじゃごまかしが効かないかもしれない。本来なら歩かせて、二番との勝負を選んでもいいが、せっかくの練習試合だ。それにツーアウト。単打であれば点が入る可能性は低いし、勝負してみるのも面白い。
オレはその旨を緩奈にサインで伝える。と、間髪入れずに了解のサインが返ってくる。もしかしたら緩奈も、そう考えていたのかもしれないな。
真木に対する美聡の初球は、アウトローへのストレート。初球の入りとしては、無難なところだろう。真木はこれを見逃してストライクが一つ。
次ぐ二球目は、インコースへのチェンジアップ。これは入らず、ボールになってしまった。
だが、それでも1-1だ。
三球目、高めにストレートを放るが、これも入らず、2-1。打者有利なカウントになった。もう一つストライクが取れれば、また違うんだけどな。
そう気が急いたのか、緩い球が真ん中めにいってしまった。投げ損ないだろうか。こんな甘い球を見逃してくれるはずはなかった。
容赦のない快音とともに、鋭い打球が一二塁間へ飛ぶ。打球が一塁よりだったため、絢郁は届かない。遥奈ちゃんも捕れない。そしてあろうことか、ライトの香撫ちゃんも打球を後逸し、ボールはフェンス際まで転がっていってしまった。
「ごめん!」
「ボールバック! 急いで!」
もたもたしているうちに、二塁ランナーの氷月は悠々生還。真木は一塁を蹴り、二塁を蹴って三塁まで到達していた。
「バックホーム!」
中継の結衣にボールが届いた時には、真木は三塁すら蹴って、本塁へ還ろうとしていた。結衣も慌ててホームへ送球するも、間に合わない。
「よっしゃ! ランニングホームラン!」
「一点差!」
一点ならまだ良かったんだけどな。
エースからもう点は取れないだろう。あとアウト四つで、一点のリードを守りきらなきゃいけない。
「先輩、切り換えて!」
「美聡さん、リードしたままこの回を締めましょう!」
バックは口々に声をかけるが、美聡には届いているだろうか。
次は二番の佐野。こいつは長打は得意じゃない。内野ゴロで仕留められれば上出来だ。
しかし、初球からセーフティバントを試みてきた。焦っていたのはオレも同じだった。バント警戒も頭に入れておくべきだった。
美憂ちゃんのスタートが遅れたため、緩奈が前に出て捕り、一塁へ送球するも、難なくセーフ。
「……タイム、お願いします」
ここですかさず緩奈がタイムを取った。
足のあるランナーを出してしまったことだし、かき回されるのは目に見えてる。ここで一旦冷静になるのは賢明な判断と言えるだろう。
本当はこの回もってもらいたかったが、仕方ない、か。
「守備の変更だ。綾羽美聡がファースト、ファーストの福原遥奈がそのままピッチャー」
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