妹のいるグラウンド

エルトベーレ

第34話 結祈がエースだよ -side.Haruna- vs川和シニア⑧

四回の表、二死ニ、三塁のチャンスだったけど、美憂は三球で簡単に三振。
でもこの回、緩奈の追加点で五点差にできた。


今日の緩奈は、何やら監督に試されているみたい。だから、さっきの犠牲フライも悔しそうにしてた。本当は、ヒットで繋げたかったんだ。


「遥奈ちゃん、この回はいったんレフトで頼む。もしかしたら、またマウンドに上げることになるかもしれないから、そのつもりで」
「わかりました」
今日は結祈がエースの日。
結祈は自分の投球ができなくて苦しんでるみたいだけど、失点自体はしてない。もっと自信を持っていいと思うのに。
「結祈、緩奈を信じてあげてね」
「わかってる。遥奈も、エラーだけはしないだけはしないでよ」
「もぅ、私を何だと……っ」
「ありがと」
私はその言葉に返せず、レフトの守備につく。
……珍しい。いや、そうでもないか。
結祈はずっと、お堅いというか、キツいというか、そういう印象だった。でもそれは違う。私から見た結祈は、もっと弱くて、でも無理してるような、そんな人。
だから、ライバルである私に素直にお礼を言うなんて、不安なんだ。
私にはわかる。マウンドって、そういう気持ちになることがあるから。



四回の裏。先頭打者はたしか六番。ここからは一応下位打線。ちゃちゃっと、抑えてほしいけど。とか思ったら、いきなりフォアボール!? まったく……らしいといえばそうかもしれないけど。


次の七番は女子選手。男子はともかく、女子には負けてほしくない。
でも、そんな願いと裏腹に、結祈の球はあっけなく弾き返されてしまった。
こっちに飛んでくる。いや、美莱の方が近い。私は後ろに回ってカバーに入る。
あ、でもこれ、美莱でも追いつけないかも……。悪い予感は当たって、美莱のすぐ横でバウンドし、カバーに入った私が止めて、三塁へ送球する。
私だって投手なんだ。結祈みたいにとはいかなくても、それなりの送球はできるはずなんだ。思いっきり投げたら、少し逸れたけど、ちゃんとランナーを三塁までで止められた。


無死のまま、ランナーは二、三塁。
八番はさっき代わったエースの人。この人はバッティングも上手い。普段は三番に据えられるくらいの人だって、昨日のミーティングでは言っていた。
また打球が飛んできた。しかもこっち。これは後ろ下がった方が良さそう。この辺……いやもっと……あ……。
私の目の前で、無情にも打球はフェンスの向こうに落ちた。


緩奈……大丈夫かな。
緩奈はずっと私とバッテリーを組んできた。だから緩奈の配球は、前提として精密なコントロールが必要になる。結祈と組むことで、その弱点が露見して、緩奈も苦しめてるんじゃないかな……。
でも、それでいいと思う。緩奈はもっともっとすごい選手になって、プロになってほしい。
私はきっと、球も遅いし、守備もバッティングも下手だし、プロにはなれないだろうから。


次の九番も女子選手だけど、この子は三振に取った。


そして絢郁が警戒していた一番の人も三振。
ホームランを打たれたのに、落ち着いてる。相変わらず球は荒れてるけど、気持ちが前を向いてる。前の回の結祈とは違う。


ニ番の人も三振。三者連続三振だ。すごい。さすが結祈だ。


結祈が羨ましい。
私にはあんなに速い球は投げられない。速い球はそれだけで有利だと思う。遅いと変化球もバレバレだろうし。それに、結祈は野手としてもすごい。私はピッチングしかできないくせに、そのピッチングだって、緩奈頼り。
私だって、緩奈の役に立てることがあればいいのに。


「お疲れ。気持ち、切れなかったね」
「うん。遥奈の言う通り、緩奈を信じてたから」
なんか、嬉しい。緩奈が頼りにされてるのは、自分のことみたいに誇らしい。
「私も出るから、点取ってよ」
「無茶言わないでよ。私、バッティングはポンコツなんだから……」
自分で言っていて情けない。
結祈は私の言葉を笑いながら、ネクストに向かった。


先頭の美聡先輩が一二塁間を抜くゴロで、塁に出た。
結祈は塁に出るって言ってたけど、どうかな。結祈は落ちる球苦手だし。あのエースの人、たしか決め球がフォークなんだよね。
だけどそんな心配をよそに、結祈は追い込まれる前にストレートをセンター前に運んで、ちゃんと塁に出た。


いや、でも私じゃ点取るのはムリだって。監督のサインだって、きっと送りバント……じゃない? “打て”のサイン。何で……。
私に何を期待してるのよ。打てるわけないじゃん、こんなの。


「お願いします」
左打席に入って、構え、初球から振ってみる。
「ストライーック!」
……ダメだ当たらない。でもなんか、タイミングは合ってた気がする。
「遥奈! ボールよく見て!」
緩奈の声だ。緩奈があんなに声を出すなんて、珍しい。
ボールよく見て、か。


二球目。同じスピード。ストレートだ。ストレートってことは、あの角度なら、たぶんこの辺っ。
思い切って振ってみた。キン、という音と、確かな手ごたえ。
「ファール!」
当たった……。私でも、当てられた。何で……?
「遥奈ー! 打てるよー!」
何でみんな、私に期待するのよ。そんなに期待されても、私は打てないよ。でも、やるだけやってみるけどね。


三球目は、さっきより緩いスピード。ストレートよりもやや山なりの軌道。左右に角度はついてない。ならこの球は、ただ落ちるだけの球種。……フォーク!
「ボール」
見送ったら、本当にフォークだった。なぜかボールが見えている。いや、変化球の知識があるおかげかも。出だしの軌道でなんとなく球種がわかるんだ。


四球目。速い。けど、ストレートより遅い。シュートかスライダー。どっちかわかんないけど、振らなきゃ遅れる。
当てられたけど、一塁線へのゴロになった。ファーストが捕り、二塁に送球されてから、一塁に送球されて、ダブルプレー。


「ごめん……」
「当たるじゃん。次もちゃんと打ってよ?」
ちゃんと打つ……。あぁ、私は最初から打てないって決めてかかってた。それじゃあ打てないよね。
私の併殺の間に美聡先輩は三塁まで進んだものの、美莱が三振してチェンジ。



五回の表。この回も結祈がマウンドに上がる。球数ももう八十球を超えているし、監督としてはどう考えているのかな。
とは言っても、私がスタミナないから、あと三回も投げられないのを考えると継投は難しいのかもしれないけど。
でもこの回はクリーンナップから。疲労のたまった結祈には荷が重い相手なんじゃ……。さっきもホームラン打たれたし。


私のそんな心配をよそに、結祈は先頭の三番をショートゴロに打ち取った。
なんだ、全然大丈夫じゃん、と思ったのもつかの間、次の四番、五番は立て続けにフォアボール。


ここでタイムがかかり、内野が集まる。監督がベンチから出て、交代を告げた。
さて、私の出番かな。と思ったら、マウンドに上がったのは美聡先輩だった。そのまま投球練習を始める。
すると、結祈が私のところにやってきた。
「遥奈がファーストだってさ」
「美聡先輩が投げるの?」
「だって、遥奈じゃ残り投げきれないでしょ?」
う……図星なんだけどさ。でも、私としては、それでも私を頼ってほしかった。
「心配しなくても、遥奈の実力はみんな認めてるから。……私もね」
「結祈、何言って……」
急に何言い出すのよ。心の中を見透かされたみたいで嫌だ。
「悔しいけど、エースの座は遥奈の方がふさわしいよ。だから、このまま美聡さんが繋いで、遥奈で締めるのが理想だと、私も思う」
「……今日のエースは結祈だよ。それに、私はふさわしくなんてない」
私はぶっきらぼうにそれだけ言って、一塁に駆けていく。
何でそんなこと言うの……。私の気持ちも知らないで。結祈は私にとってすごい投手でいてほしいのに……。

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