妹のいるグラウンド

エルトベーレ

第23話 反省会!

「それじゃあ始めるか。まずは今日の試合、お疲れさま」
さっきまでの喧騒が嘘のように、皆は静まり返ってオレの話に耳を傾けてくれる。
「はっきり言って、ここまでやれるとは思ってなかったよ。これなら、真剣に全国を目指していけると思う」
全国、というワードに、皆の視線がオレに集まる。
あすみヶ丘はもともと強豪校だ。みんな、少なからず意識はしているはずだ。実際、昨年の地方代表校と互角に渡り合えてたんだ。もっと練習していけば、全国でも充分通用するだろう。


「十分やるから、今日の試合で自分の良かったところ、悪かったところを思い返してみてくれ」
そう言うと、皆は一様に静まり返ったままオレから視線を外した。
悪かったところはすぐに、それもたくさん出てくるだろう。しかし、良かったところも思い返して、今後も継続していくことが、成長につながるのだと思う。


「それじゃあそれを踏まえて、今日試合してみて思ったことを、一人ずつ発表してほしい。結祈から順番でいいな?」
「え……、はい……」
結祈は発表するのにあまり乗り気でないようで、僅かに躊躇いを見せた。しかし、少し考えてから、重々しくも口を開いてくれた。
「投球の面では、最後崩れたこと以外はうまくいったと思う。四球も少なかったし。でも打撃の面で……もっと、遥奈を援護してあげたかった」
「結祈……」
何とも言えない感情的な沈黙。
結祈は結祈で、堂々と彼女を認められるくらいには成長したんだろう。大きな進歩だと思う。
「な、何よ……? 絢郁、次っ」
皆の視線をこそばゆく感じたのか、絢郁の背に隠れるようにして、彼女を急かした。


「良かったのは、緩奈ちゃんと打ち合わせしておいたことができたのと、香撫さんと協力して相手を混乱させられたこと」
あのプレーはオレでも度肝を抜かれた。あんなこと、普通できると思えないし、やろうとしないからな。
絢郁を信じきった緩奈ちゃんや香撫ちゃんも大したものだ。
「でも、私自身がもっと周りをカバーしないとって思ったよ。もう少し守備範囲を広げて、みんなの負担を減らせればいいなって」
「そんなことしなくていいよ。絢郁はもう充分貢献してるって」
緩奈ちゃんが身を乗り出して強く主張した。
こんなことを思うのはどうかと思うが、前屈みになった時に見えた豊満な谷間が目に焼き付いて離れない。姉の遥奈ちゃんと違って、意外と大きいんだな。
「そんなことないよ、緩奈ちゃん。私ならもっとできるから。じゃないと全国なんて狙えないでしょ?」
「全国って……」
「ねぇ、本気で全国目指してるの?」
上級生やシニア組でない一年生は驚きを隠せないようだ。シニア組は、彼女らのレベルの高さが分かるのか、今更驚きはしないが。
「私は全国に行かなきゃいけないの。そこで待っている人がいるから。そしてその子に勝って、高校でこそは、頂点に立つんだ」
「絢郁……」
待っている人、か……。
絢郁ほどのプレイヤーにも、そう思えるライバルがいたんだな。


「ごめん、長々と……。次、どうぞ」
「あ、はい……」
言い知れぬ複雑な空気の中で順番を回された綾羽さんは、思ったより落ち着いた様子で話し始めた。
「……絢郁の言う通り、私も全国を目指したい。私はこの夏が最後だけど、だからこそ、みんなと長くプレーしたい!」
彼女のその決意に、誰もが思いを一つにしたことだろう。キャプテンのその一言には、そんな力強さがあった。
「今日の試合で一番足りなかったのは、チームプレイだと私は思う。私ももっと、みんなに声をかけていくべきだったのに……」
「一人だけ出塁できなかったしね」
「結衣さん! どうしてそういうこと言うんです?」
珍しく絢郁が結衣に食ってかかった。
「あ……ごめん……」
この二人の問題も、まだ解決してないみたいだな。早く和解してくれないと、チームプレーどころじゃない。
「まぁまぁ二人とも。あたしはこの試合で、少しだけど、自分の成長を実感したよ。もっともっと練習すれば、強みを活かしていけると思う。だから、よろしくね、絢郁」
「香撫さん……」


「さ、次どうぞ」
「は、はい」
香撫ちゃんが、優しく隣の美莱ちゃんの肩を叩いてバトンタッチした。
「今日の試合、私は全然打てなかったから、バッティングをもう少し頑張りたいです」
「オレは綾羽さんについてもらって、守備を鍛えた方がいいと思うけどな」
この子の守備はまだまだ上達する。外野は元々不安だらけだから、彼女の技術向上は、チームにとってかなり大きいことだ。
「そ、そうですか……」
「まぁ、点取られなきゃ、一点取るだけでも勝てるしね」
少し落ち込んだ様子の美莱ちゃんを、オレの意図を汲んでくれた緩奈ちゃんがフォローしてくれた。
やっぱり頼りになるというか、いてくれると助かるな、緩奈ちゃんは。


「ほら、美憂の番だよ」
「う、うん……」
今日の三失策を気にしてか、美憂ちゃんはさっきから口数も少なく、おとなしい。
「あの、今日はごめんなさいっ。最後だって、結祈の失点じゃなくて、私のせいだし……」
深々と頭を下げた美憂ちゃんに投げかける言葉を、オレはすぐに見つけた。
「あのな、美憂ちゃん。チームスポーツの野球で、一人のせいなんてことはないよ。みんなのせいさ」
「でも……」
まだ腑に落ちないようで、視線は俯いたままだ。
「試合中にも言ったが、そのミスを改善しようとしなかったり、いつまでも引きずって同じことを繰り返したら、それは自分のせいだぞ」
これは美憂ちゃんだけじゃなく、オレも含めた全員に言えることだ。それがわかっているのか、福原姉妹は一様に表情を隠すように俯いた。
「は、はい……。あの、私も美聡先輩に守備を教わってもいいですか?」
「だってさ、綾羽さん」
「えっ? 私は別に構いませんけど……」
練習試合の前からも綾羽さんに教わっていたし、実際、綾羽さんの教え方は丁寧でわかりやすいからな。


「緩奈ちゃんは、何かあるか?」
「そりゃ、ありますよ」
あまり思い詰めてないといいけど。遥奈ちゃんを大量失点させてしまったのは、自分のせいだと思ってるみたいだし。
「まず、軽率なリードで初回に大量失点させちゃったのはまずかった。あれさえなければ完封ペースだったのに」
確かに、二回以降の被安打は異常に少ないからな。それを考えると、実力は互角以上だったのかもしれない。
「それから、絢郁の存在も大きかった。出塁率も高いし、素人目にはわからないかもしれないけど、あの走塁、盗塁の技術はプロでもそうは真似できないもの」
「買いかぶりすぎだよ、緩奈ちゃん。今回はたまたま上手くいっただけだし……」
「その"たまたま"を呼び込んだのは、紛れもなく絢郁の実力だよ」
そう言われると、絢郁は何も言い返せなくなってしまった。
緩奈ちゃんも、あれはたまたまなんかじゃないことがわかっているんだな。絢郁は相手の様子をよく観察して、心の隙を突いたんだ。一瞬の油断が命取りだと、自らのプレーで証明して見せた。まったく、とんでもない奴だよ、ホント。


「あとは、私も四番みたいに打てるといいんですけど……」
「ちょっと、あたしの仕事は取らないでよ?」
結衣は今日はよく打ったからな。しっかり役目を果たしてくれた。
「結衣じゃ不安なんだろ、緩奈ちゃんは」
「見てなさいよ、四番は譲らないからね」
やっぱり結衣は期待されるのが嬉しいんだろう。プレッシャーを力に変えられるのは、四番の適性は充分にあると言える。
「私は何も言ってませんが……」
「まぁまぁ、競争相手は必要だろ? 絢郁みたいに勝てない相手じゃなくてさ」
「まぁ、そうですね」


「結衣は置いといて、遥奈ちゃんはどうだ?」
「うーん……、ちょっと慎重になりすぎたかな。通用するか心配だったから」
コントロールのいい遥奈ちゃんにしては珍しく、フォアボールを出してしまったからな。緩奈ちゃんのリードも含めてのことだろう。
「私としては、遥奈が打てたことに驚いたけど」
「何よ、バカにしてるの? どーでもいいとこでばっかり打つくせに」
「打たないよりマシでしょ」
「そのへんにしとけ、二人とも」
この二人もどうにかならないもんかな……。


「リリィ先生はどうですか?」
「えっ、私ですか? そうですね……、まだ野球のことはよくわからないんですけど、見てて楽しかったですよ。そういうプレーができるっていうのも大事ですよね」
その通り。自分も見ている人も楽しめるようなフェアプレーは、絶対に忘れちゃいけない。
「自分の課題、自覚しているようで何よりだよ。大会までもう時間はない。気合入れていこう!」
「はいっ!!」

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