妹のいるグラウンド

エルトベーレ

第16話 救援 vs青葉台女子⑦

折り返しとなる四回の表、七番の美莱ちゃんからだが、次に繋がる攻撃にしたい。三人で終わっても次の回は絢郁からになるが、どうせなら塁に出てもらって、絢郁で勝ち越したい。
美莱ちゃんは動体視力がいいのか選球眼が非常にいい。ただ、ストライクだとわかっても、当たらないのが難点だ。
守備練習で手一杯でバントの練習もしてないし、ここは振らないでフォアボールを狙うしかないか。
だが、それで歩かせてくれるほど甘くはない。フルカウントまで粘ったものの、結局見逃し三振。


こうなると、次の美憂ちゃんもフォアボールの線はないな。逆に、彼女にはどんどん振らせた方がいいかもしれない。前の打席は全球フルスイングでの三球三振だったし、ここはボール球で振らせにいくんじゃないか?
一球目は待てのサインを出すと、美憂ちゃんは指示通り、全く打ち気を見せずに見送った。
案の定、この球は際どいが外に外れたボール球。
「ピッチャー荒れてるよー!」
「落ち着いてボール見てこう!」
二者続けてこれなら四球狙いの待球作戦だと思うだろ。なら次は、カウントを取りにストライクゾーンに投げ込んでくるはずだ。これを空振ったら、作戦がバレてこの打席も捨てることになる。ここは賭けだが、それを上手く捉えてもらおう。何もしないよりは打てる確率も上がるはずだ。


やはり、次はストライクに入れてきた。しかもこれは、インコース高めの甘いストレート。美憂ちゃんの豪快なフルスイングは、この球の少し下を叩き、打ち上げてしまう。
しかし、緩く上がった球はサードを追い越して、レフトが差し出す手の手前に落ちるポテンヒットになった。
「よし、よく打った!」
「貴重なランナーね。でも次は……」


一塁にランナーを置いて、打者は遥奈ちゃん。……送るか。
遥奈ちゃんはシニアの出身だから硬球も怖くないだろうし、三振してアウトを無駄にするくらいなら、試してみてもいい。
遥奈ちゃんはサインに従って、最初からバントの構えを取る。
「打ったって当たらないんだから、せめてしっかり転がしなさいよー?」
なんて、結祈が野次を飛ばす。……激励してるつもりなのか?
そんなに自信があるのかは知らないが、バントの構えを見せると、初球はインコース高めにストレートを投げてくれる。リリィ先生がこの試合のデータを取ってくれているおかげで気づいたことだ。
どこにくるかあらかじめわかっていれば、いくら遥奈ちゃんであろうと送りバントくらいは問題なくできるだろう。
データ通り、インコース高めへストレート。これは少し浮くように感じるから、リリースポイントから判断した着弾点よりも高めにズラせば上手く転がる。
美憂ちゃんもきっちり二塁に進み、送りバント成功。
これで文句ないでしょ、と言わんばかりの綺麗なバントだった。
「ナイスバント!」
ランナー二塁で打者が絢郁なら、一点は返せる。一点返せば勝ち越しだ。


ベンチみんなの期待が絢郁にかかるも、相手バッテリーは大きく外れたボール球を四球続け、絢郁は敬遠されてしまった。
「向こうも本気になってるみたいですね」
「あぁ。ランナー還せなかったのはつらいな」
前にランナーがいれば引っ掻き回されることもないし、次の香撫ちゃんの方が打てる可能性は低い。当然の選択か。


ツーアウトでランナーは一、二塁。次は緩奈ちゃんだし、点は返せなくても何とか次につなげたい。
彼女にできる、一番塁に出る確率が高い方法……。その足を活かしてセーフティーを狙うしかない。
香撫ちゃんは今日の打席、ずっとバントだし、バント警戒でまたインハイにストレートを投げてくれるだろうか。一球様子見てみるのもありだな。


香撫ちゃんにバントの構えをさせたが、初球は内角高めのストレートだった。
だが、ここは構えを見せるだけ。初球は引いて見送りだ。ランナーもスタートを切るそぶりを見せるが、すぐに自分の塁に戻った。


これが思わずやや外れてボールになったため、バッテリーは見極められて見送られたと思うかもしれない。こちらとしては、バントの構えで揺さぶりをかけて、自滅を狙っている、と思ってくれるかもしれない。なんせ、下位打線からその戦法を続けているからな。
そうなると、次は変化球あたりでストライクを取りにくる可能性が高い。それも一番多く投げている、スライダー。
多く投げているってことは、それだけスライダーに自信があるんだ。こういう確実にストライクを取りたい場面では、そういうボールを投げたいはずだ。
せっかくの機会だ。仕掛けてみるか。


香撫ちゃんはまたリリース直後からバントの構えを見せる。すると、やはりファースト、サード、ピッチャーが前進してくる。
ランナー二人も、リードはいつも通りだったが、投手がリリースするや否や、二人同時にスタートを切る。
バント警戒で前進されたとき、それを突破する策を、オレは香撫ちゃんに授けていた。
倉田さんが要求していたのは、外から真ん中低めに入ってくるスライダー。バットを引いた香撫ちゃんは、これを上から叩くようにして強引にバウンドさせた。
ベース手前でワンバウンドし、跳ね返ったボールは高く上がる。その滞空時間の間に、香撫ちゃんなら一塁にたどり着ける。


前進してきた向こうの内野手はボールが落ちてくるのを立ち尽くして待つだけ。前進していたサードがやっと落ちてきたボールを迷わず一塁カバーに入ったセカンドに投げるも、香撫ちゃんの方が一歩早く、セーフ。
その間に美憂ちゃんはホームを陥れようと飛び出すが、ネクストの緩奈ちゃんがそれを制して三塁に返した。
それもそのはず、一塁に入ったセカンドからホームに鋭い送球が飛んできたのだ。
「なんであの肩でセカンドやってるかな……」
隣の遥奈ちゃんも思わず苦笑いしている。
「こういう時のためだろ、たぶん……。でも流石だな、緩奈ちゃんは。よく止めたよ」
前の絢郁の打席でも、セカンドはいい送球をしていた。肩も強いみたいだし、今のタイミングだったらアウトにできていただろう。
緩奈ちゃんの冷静な判断に助けられた。
「自慢の妹ですから」
「お姉ちゃんにもしっかりしてもらいたいものだな」
「むぅ……」
拗ねてしまった。子供みたいに素直な子だな。
「ほら、次はその自慢の妹の打席だぞ」
「頑張れー! 緩奈ー!」


不細工な当たりながら、ツーアウト満塁。
緩奈ちゃんはさっき敬遠されたが、結局それで結衣に打たれることになってしまったわけだ。ここは勝負してくれるだろう。


初球はインコース低めにスライダーが食い込んでくる。
しかし、緩奈ちゃんであろうとこのクロスファイヤーには手が出ない。


二球目は外の高めにストレート。随分と気合いが入っているようで、淡々と投げ込んでくる割には力強い球が放たれる。
緩奈ちゃんはこの球の下を叩いて、ボールは後方に高く上がった。しかし打球が速く、キャッチャーは追いつけずになんとかファウルになった。
「緩奈ー、ボールよく見てー!」


追い込まれた三球目、インコース低めにカーブ。緩急をつけられたが、緩奈ちゃんは踏みとどまって右へカットする。
「今のは結祈なら三振だな」
「まったくです」
「悪かったわね……」


四球目。インコース高めへのストレートを、またもファウルする。
緩急をつけられているせいか、なかなか捉えきれない。
ボール球が一球もないまま、続く五球目。今度は高めにスライダー。これは真ん中から内に食い込んでくる。
ついにこの球を捉え、強い打球が前に飛ぶが、ショート正面のライナーになってしまった。
「あぁ……、ツイてない……」
満塁ではあったが、このチャンスを掴みきれずに終わってしまった。
これで流れが変わってしまわなければいいが……。



四回の裏、青葉台女子の攻撃は六番から。
この回も緩奈ちゃんは厳しいコースを要求する。
しかし疲れからか、遥奈ちゃんの制球力は僅かに落ちてきているようで、フルカウントからフォアボールを出してしまった。


「タイム」
オレはすかさずタイムを取り、守備位置の変更を伝える。
ランナーを出したら交代。緩奈ちゃんとの約束だ。


『あすみヶ丘高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャーの福原さんに代わりまして、レフト、高瀬さん。ピッチャーの福原さんが、レフトに入ります』


「もっと投げられる……けど、初回の四点は私のせい。また迷惑をかけるわけにはいかないから……」
ボールを受け取りにマウンドに上がってきた結祈に、遥奈ちゃんはボールを強く握ったまま呟いた。
「だから、……あとは任せるよ」
そして、正面から真っ直ぐに結祈を見据えて、ボールを彼女に差し出す。
「遥奈……。大丈夫。絶対に、負け投手にはしないわ」
結祈もしっかりとそれを受け取り、緩奈ちゃんと投球練習を始めた。

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