妹のいるグラウンド

エルトベーレ

第6話 いい知らせ

週明けの練習。珍しく遥奈ちゃんが顔を出さなかった。
「緩奈ちゃん、サボりってわけではないんだろ?」
「何か用事があるみたいで、遅れるとは言ってましたよ」
先生に呼び出しでも食らっているんだろうか。表面上は優等生っぽいのになぁ。


「そういえば、例の件はどうだ?」
週末の練習で、早いうちにメンバーをそろえたいので、勧誘に精を出すよう言っていた。しかし、皆の反応は一様に同じだった。
「そうか……。まぁ、こればっかりは仕方ないな」
それぞれの能力を把握するには試合するのが一番手っ取り早い。それまでは、どうしても基礎練習が中心になってしまう。
時間もない現状では、一人一人に合わせたメニューにしたいもんだけど、基礎を固めることは大切なことでもあるし、しばらくは様子見か。



「遅くなりましたぁ。でも、収穫あったんだから褒めてよね」
と、遥奈ちゃんが体操着姿の生徒二人を連れてグラウンドに現れた。その姿を見るなり皆の期待は高まり、練習を中断して彼女らの元へ集まってくる。
「遥奈ちゃん、この子たちは?」
「新入部員ですっ!」
「よくやった!」
オレは思わず遥奈ちゃんの頭を撫でてやった。遥奈ちゃんも少し驚いていたものの、拒んだりせず、満足げに笑みを浮かべている。


一人目はポニーテール少女の緒方おがた美莱みらいちゃん。中学ではバドミントン部に所属していたそうで、瞬発力には期待できそうだ。
二人目は、健康的なショートヘアの平井ひらい美憂みゆちゃん。中学ではバスケ部で、肩には自信があるという。


二人には備品のグローブを貸し、まずは硬球に慣れさせるためにキャッチボールから始める。
二人とも球技の経験者ではあるが、球の特徴はそれぞれとは大きく異なっているため、投げる、捕るの動作はぎこちないが、全くの初心者よりは上手いと言えるだろう。


だいぶグローブの扱いにも慣れたところで絢郁を呼び、軽くノックを行ってみる。
すると、バドミントンをやっていたこともあってか、ライナーやフライなど、美莱ちゃんのノーバウンドの捕球には、光るものを感じた。まず、正確な落下地点予測。そしてそこに、しっかりとグラブを合わせられている。あとは捕れるかどうかだが、時間をかけてグラブを馴染ませていけば、問題なく捕れるようになるだろう。


対して美憂ちゃんだが、初めてだから仕方がないとはいえ、美莱ちゃんと比べると守備は上手いとは言えない。しかし、自負していた通り、確かに肩は強い。そしてなんといっても、その送球の正確さだ。厳しい体勢からでもしっかりとオレの胸元に投げ返してくる。


これは案外いい素材を引き当てたかもしれない。そう思わずにはいられなかった。


その夜、ついに九人揃ったこともあって、オレはポジション決めに没頭していた。これまでのノックの手ごたえ、シニア組の経験、そして今日の新入部員。誰にどこを任せるか、様々なケースを想定して悶々とするのは、楽しくもあった。



翌日の練習、緩奈ちゃんをベンチに呼び、早速昨夜決めたポジションを見てもらう。練習の方は、キャプテンに任せてあるし大丈夫だろう。
「何で私に聞くんですか?」
「分析力は一番優れてると思ったからだよ。不満か?」
「いえ、光栄です」
相変わらず、そんな風に感情もなく淡々と述べる。それでは受け流しているようにしか聞こえない。


オレの組んだポジションは、まずは左利きの遥奈ちゃんをファースト、美莱ちゃんをレフトへ割り振り、キャッチャーはもちろん緩奈ちゃん。セカンドに絢郁、ショートに結祈ちゃんと二遊間は経験者で固め、ライトに肩の強い美憂ちゃん、センターは足の速い香撫ちゃん、サードは目立つ欠点のない結衣に任せることにした。投手の入っているファーストには捕球に安心感のある美聡さん、ショートは結衣に入ってもらい、美聡さんにはそこで空いたサードもこなしてもらう。


「外野が不安しかないですね」
簡単に一蹴されてしまった。
「あと、ポジション二つやらせるのはシニア組の方がいいんじゃないですか? 結衣さんはともかく、美聡先輩の負担は大きいと思いますよ」
「はい……。練り直します……」
「あ……、すみません……」
オレが緩奈ちゃんの酷評に項垂れると、緩奈ちゃんは申し訳なさそうに視線を落とした。表情が変わるのは珍しい。
「聞いたのはオレの方だし、ボロクソ言ってくれた方が助かるよ。ありがとう」
オレの言葉に少し間が空いて、我に返ったように緩奈ちゃんが立ち上がる。
「……じゃあ、私は練習に戻りますね」
「ああ、本当にありがとうな」
とは言え、緩奈ちゃんの指摘に心当りはあった。昨夜考えた時も悩んだ部分だった。早月先生には来週末に練習試合の予定を入れてほしいと頼んであるし、早くポジションを決めて慣れさせておきたい。早々に考え直しておこう。



練習が終わって部屋に戻ると、オレは早速紙面と睨みあう。
投手の二人をどこに置くかに悩まされる。結祈は打撃も守備も期待できるものの、遥奈ちゃんはなぁ……。ただでさえ左利きでポジションは限られるのに。


まだ夜も浅いうち、珍しく部屋に来客があった。
「こんばんは。夜分遅くにすみません」
「理事長。どうしたんですか?」
「理由がないと来ちゃいけませんか?」
追い返す理由もないのでそのまま部屋に迎え入れた。俺が何かしてしまったみたいで緊張したじゃないか。……心臓に悪い。
「なんて、冗談ですよ。練習試合の相手が決まりましたので、お伝えしておこうと思いまして」
もう決まったのか。こっちはまだポジションすら決まっていないというのに。
「それで、相手というのは?」
「青葉台女子高校です。来週の土曜日、午前十時から、あちらのグラウンドで行います」
青葉台女子か……。昨年は見事全国行きを決めたんだっけか。県内の有力校とやれるのはいい経験になるが……。せめていい試合になってほしいものだ。
「もちろん、私も行きますからね?」
「え、理事長もですか?」
「いけませんか?」
拗ねたように上目遣いをされる。この人一体いくつなんだ……?
「いえ。先に言っておきますが、この試合はあくまで、選手たちにチームとしての未熟さと、それぞれの課題を自覚させるためのものです。勝敗は二の次ですから」
「勝つつもりはない、ということですか?」
「そういうわけではありませんが、無理に勝ちにこだわらない、ということです」
それに、県大会で当たるかもしれない相手に、わざわざ情報をくれてやることはない。
「それは生徒たちには?」
「もちろん言いません。やる気が削がれては困るので」
「そうですか……」
理事長は納得いっていないようだったが、これ以上は何も言わなかった。

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