妹のいるグラウンド

エルトベーレ

第3話 自称エースの実力

「絢郁はそのままセカンド、香撫さんショート、美聡さんはサードに入ってもらえませんか?」
「はーい」
これじゃあ誰がキャプテンかわからないな。
「監督は審判お願いしますね。まずは結祈から投げるんで、防具つけた方がいいですよ」
「お、おう……」
「私は?」
「遥奈は元々ファーストくらいしかできないでしょ?」
「は、はい……」
確か、緩奈ちゃんの方が妹だよな? 遥奈ちゃんは妹には頭が上がらないのか。なんて、プロテクターをつけながら微笑ましく思う。


「外野いなくていいの? 飛ばしちゃうよ?」
「へぇ、楽しみですね」
緩奈ちゃんの答えに苛立ちを隠すことなく、結衣は舌打ちをしてバットを構えた。


まず、第一球目。緩奈ちゃんの要求は内角低め。
ワインドアップから勢いよく右腕を振るって放たれた剛球は、呻りをあげてミットに収まる。
結衣は思わず飛び退いたが、球の勢いに臆したのではない。デッドボールになるボール球を避けたのだ。
「ちょっと、当てる気?」
「ご、ごめんなさい」
結祈ちゃんが素直に謝った。彼女も先輩には弱いのかもしれない。
しかし、思っていたより速いな。120キロは出てるんじゃないか? 高一の春でこれなら充分すぎる。


緩奈ちゃんは次に外角低めを要求した。だが、あの位置に本当に来たならボールになる。外れることを予想してのリードだろうか。
再び振りかぶって、少し緩やかなボールが放たれる。緩奈ちゃんの要求とは大きく外れたほぼど真ん中。これを見逃す手はない。結衣は勢いよく振り抜くが、空しい風切り音とともにミットに収まる乾いた音が響く。
「ナイス、結祈ー!」
コントロールを意識して遅くしたのではない。変化球だった。ボールも大体要求通りのところに来ている。カーブかスライダーか? 途中まではストレートかチェンジオブペースのように見えたが、急激に変化した。
結衣もミットに収まったボールを悔しそうに睨みつけている。


次はどこへ要求するだろう。当然ストライクが欲しいし、セオリーならインコースに速球だけど、甘いコースなら打たれる危険は大きい。何より、結祈ちゃんのコントロールでコースを狙えるかは微妙だ。
結局、緩奈ちゃんの要求はやや内寄りの真ん中。間違いなく甘いコース。変化球なのか?
結祈ちゃんは一度深く息を吐き、二球目と同じ少し緩やかなボールを放った。ボールはまっすぐ結衣に向かって伸び、手元で大きく曲がってストライクゾーンの内側ギリギリを通る。
今の球に、結衣は上体を少し仰け反らせた。手前で変化すると分かっていても、やっぱ怖いよな。


「バッター手出ないよー!」
「ナイスピッチ!」
守備陣の掛け声に、結衣は鋭い目線を向けて黙らせた。
でもこれでカウント1-2に追い込んだ。結衣は変化球を捉えられてないみたいだし、速球を見せて変化球で決めるか?


四球目。緩奈ちゃんの要求は真ん中低めのボール球だ。やはり速球か?
勢いよく投げ放たれたのは速い球。だが、緩奈ちゃんの要求より高く浮いている。緩い変化球を二球続けているとはいえ、危険なコースだ。
結衣もこの絶好球を逃さずタイミングよく踏み込んで、物凄いスピードで振り抜いた。当たればかなりの飛距離になることは、そのスイングを見ただけでもわかる。……当たればの話だが。
ボールはまたもベース手前から消えるように落ち、バットに掠ることはなかった。その落差は、真ん中あたりからベースでワンバウンドするほどで、緩奈ちゃんもよく捕ったものだ。


「内野にも飛びませんでしたね」
緩奈ちゃんが結衣に聞こえるようにつぶやいた。
「もう一打席だ! もう一勝負!」
「いいですよ。私たちが勝ったら、来週は毎日練習に参加してもらいますからね」
「じゃあ、あたしが勝ったら来週はフルで休む」
今の打席を見てどちらが勝つ見込みが大きいかで言えば、緩奈ちゃんの提案を受けるのも悪くないだろう。


二打席目の初球。速球が真ん中高めに外れてボール。さっきはこの後にやや緩いカーブを投げたが、今度はどうだろう。


二球目はインコース低めにまたしても速球。しかし、これも外れている。


「ストライク投げられないの?」
「結祈はもともとノーコンですから」
「それならしょうがない」
うわ……、結祈ちゃんがちょっと可哀そうになってきた。


三球目も速球。今度は低めにしっかり決まったが、結衣は振らなかった。恐らく、ボールになると思ったのだろう。実はオレも思った。


「打たないんですか? 入ってますよ?」
「……まさか、ストレートしか投げないつもり?」
「どうでしょうね。打たせてあげてもいいですよ?」


四球目は外角低めに速球。これも入っている。今度は結衣も振りにいった。が、バットの先に当たり、ボールは絢郁の正面に転がっていく。絢郁はこれを綺麗に捌き、セカンドゴロ。


「月曜からお待ちしてますね。もちろん土曜日からでもいいですけど」
いい性格してるな、本当……。
最後の一球は、手元で小さく変化して芯を外す球だろう。直前の会話も、前の打席が変化球中心だったし、ああ言っといて変化球を投げるつもりだろうと思わせて、僅かに反応を遅らせただろうしな。


「あぁ、結衣さん。セカンドに入ってもらえませんか?」
「ちぇっ、はいはい」
何だかんだ言いながら、結衣も素直に従っている。
「結祈がサードで美聡さんはファーストお願いします」
つまり、投手は遥奈で、セカンドを外れた絢郁が打者、と。
「絢郁のバッティングも見たいんじゃないかと思ったので。余計なことしました?」
「いや、ありがとう」
会って間もないけれど、よくわかってるじゃないか。


「さて、次は私の番ね」
マウンドの遥奈ちゃんは、早く投げたくて仕方ないようだ。
「緩奈ちゃん、私が打っていいの?」
「だから、ちょっといい?」
「え?」
緩奈ちゃんと絢郁が二人で何か相談している。遥奈ちゃんの投球を見る以外に、この勝負に何か意味を持たせようとしているのだろうか。

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