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冥界の王が転生してヤンデレ嫁から逃げ…られなかった件。

エルトベーレ

二十話 十二粒の柘榴

雪がちらつき始めたある日のことだった。


彼女の背に、あの黒い霧がかった扉が開く。
「もう、時間がないみたいです……」
彼女はこれから四ヶ月間、暗い冥府で過ごさなければならないのだ。
「最後に、これ。覚えていらっしゃいますか? わたしにこれを差し出してくださった時のこと」
彼女が差し出したのは、十二粒のザクロ。
キミはあの時、これを四粒だけ食べてくれた。だから、四ヶ月はオレと過ごすことができる。そう思っていたのに、今となってはそれが恨めしい。
「ああ、覚えているよ」
「あの頃、わたしがお母様の元へ行くときのあなたは、こんな気持ちでいらっしゃったのですね。今はそれが、よくわかります」
そうだね。春が来るたび、愛しいキミがオレの元からいなくなってしまうことを、オレはいつもいつも嘆いていたよ。
「ハデス様。次は、いつお会いできますか? 四ヶ月後なんて、わたしは……待てませんよぉ……」
堪えきれず、涙を落とす彼女を優しく抱き寄せる。
「ああ。わかってる。ごめんな」
「その間に浮気なんかなさったら、本当に怒りますからね? くれぐれも、わたしがいないからって……」
「わかってるって。そんなつもりは最初からないよ」
疲れた、なんて言ったけど、やっぱりオレにはキミがいないとダメみたいだ。
「ああ、ハデス様。信じていますからね。離れていても、わたしの愛は変わりません。それから、それから……」
ペルセポネの涙につられて、オレも目の奥が熱くなってくる。
「……大好きです」
その笑顔を最後に、重苦しい扉は閉められた。


オレにはまだやることがある。
父さん。母さん。学校のみんな。それから、蘭。
……みんな、ごめん。


この日、オレ、羽出崇馬は死んだ。


その遺体の側には、ザクロの実が八つ、転がっていたそうだ。

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