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冥界の王が転生してヤンデレ嫁から逃げ…られなかった件。

エルトベーレ

十一話 冥府のお仕事

「次の者、入って参れ」
扉を開けて入ってきたのは、やせ細った男。
「こちら、資料でございます」
「どうも」
“名はスティーブ・クレメンス。享年四十二歳。軍事工場に勤務し、敵国の爆撃に遭い、死亡。生前は妻子を愛し、勤勉であった。”
軍事工場に勤務していたのは金銭的な理由だったりで、家族のためにやむを得ず、とかなんだろうな。
「何か言いたいことはあるか?」
資料だけでも充分善人であることは伝わるが、死者の言い分も聞いておく。
「妻と娘がここに来たときは、同じ場所に居させてください」
ふむ、こいつは本当に妻子思いなんだな。
「わかった。彼女らの行い次第ではあるが、検討しよう」
オレは資料の備考欄にその旨を記入し、この階層に留まることを命じた。冥府といっても様々な階層があり、死者の生前の行いによって、その行き先を決める。上層であればあるほど、その待遇は良い……らしい。
「ありがとうございます!」


「だいぶ様になられてきましたね」
そう言うのは、魔術の女神であり、補佐官でもあるヘカテー。
「さすがにこれだけの数をこなせばな。あとどれくらい?」
「これだけです」
と、彼女は書類の束をひらひらさせる。
「よし、もうひと頑張りだ」


急増した分はひと通り終わって、オレはヘカテーに残りを委託し、ペルセポネの様子を伺う。
「ハデス様、お疲れ様でした」
彼女は声に力もなく、ぐったりしていた。オレが不甲斐ないせいで、ペルセポネの方は激務だったようだ。
「ペルセポネの方こそ、疲れてるんじゃないか? 今日はもう休め。地上には明日帰ろう」
「はい。では、お言葉に甘えさせていただきます」
ペルセポネは少しふらつきながら、寝室に下がっていった。


オレはというと、少し気になるところがあり、宮殿の外に出かける。


やはり、ここにあった。このスーっとする独特の香り。ミントだ。以前オレが夢で見た、植物に変えられてしまった女性。
ハデス様、本当に愛人ではなかったのか?
『……今となっては、どうでもよいことだ』
それ以上のことは言ってくれなかった。
オレはそっと祈りを捧げ、ペルセポネに見つかる前に宮殿に戻った。

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