堅牢堅固のゴーレムさん ~二度目の異世界転生はゴーレムでした~

秋月 紅葉

一章:レムさん誕生す  三話:魂なにそれ美味しいの?

魂にもいろいろある。
魔族だろうと天使だろうと魂はある。
生き物には魂が宿る。
ただ魔族や天使なんかの魂は使い勝手が悪い。
魔族は魔核、天使は天輪に魂があるとされるがいずれも物理的に存在する為、付与には適さないのである。
故に核を持たず、気体のような魂を持つ人族と付与は相性が良い。
逆に人族からするとこの魔核や天輪を武器や防具の素材として珍重される。
刈取った魂の行先は霊峰と名高いダレイオス山の頂上。
そこには死んだ魂の園がある。

by カオティックエルダーリッチロード・ベルデス

魂の事は魂の専門家に聞くのが良いだろう。
そんな訳で集魂の魔法陣の作者である死霊公ベルデスの著書から、その一文を見つけ出してセルティは溜息を吐いた。

「はぁ……この研究結果だけはベルデスを評価するのじゃ。しかし毎回十万づつ狩っておいてこれしか成果がないのはやはり脳筋馬鹿じゃたのだろうのぅ……さて妾の騎士に相応しい魂のぅ……」

ブツブツと次の行動を口にしながらセルティは自身の従者に相応しい魂の選定をする為、人族の英雄譚などを流し読みしながらうーんと唸る。

「何故、どれもこれも姫とハッピーエンドか!  気に食わぬ」

そう英雄譚などは最終的にハッピーエンドで締めくくられており、幸せに暮らしましたとさなどと終わる。

幸せに人生を全うした魂は幸せな成功体験を引きずっているかも知れないし、果たして二度目の人生……と言ってもゴーレムなのだからゴーレム生とでも言えばよいのだろうか。
それを受け入れ、しかも魔族として生き支えてくれるだろうかなどの不安が残る。

ならば直接契約で縛るという方法も魔族にはない訳ではない。
所謂、願いを叶える代わりに魂を寄越せである。
すっかり古めいた手法だが意外と人族には有効な手段である事は確かなのだが、如何せんセルティ自身がこの方法を拒否している。
魔族の考え方としては少々特殊な方であるとセルティ自身も認識している。
だがしかし、折角自分の生涯の友を作るのならばその関係は友好的であった方が楽しかろうというのが彼女の考え方であり、それもまた尤もな所だ。
セルティ自身が作りたかったのは決して使い魔や従者ではないのだ。

「では下調も済んだ事だし、ちょっと人間領域へと向かうかの」

そう言って彼女は部屋に作った隠し通路から城下へと抜け出て行くのだった。


――セルティが向かったのはベルデスが記したダレイオス山の頂上だ。
しかしそこに辿り着くには人同士が争いを続けている人間領域を越えていく必要がある。

魔族はそこを人間領域と呼んでいるが、人間達もまたレンブラント王国の南にあるフラメルの長城より南は魔族領域、通称魔界と呼んでいた。
これは当代の魔王であるフラメルが一度人間達を追い払った後に長城という形で境界線を引いた事に起因している。

「これより南は我等魔族の地。侵入する事罷りならん」

そう人族に通達をして長城を越えて来るものには死を越えぬ者には寛容をという政策の下、実に六百年の治世を築いたのだ。
しかし、共通の敵が居なくなった事で始まったのが人間同士による争いである。
隣国を弱小と見るや一方的に攻め込んだり、はたまた国家間で謀略が渦巻きいくつもの国と人が滅んでいったらしい。

魔族でそれをやると実に何世代も拗れる。
下手に長生きな分だけ拗れるし、仇を討つ事は称賛されど非難されたりはしないという気風も相まって、最悪両者の一族郎党皆殺ししてやっと解決に至る程に熾烈である。

過去にそうやって拗れた結果多くの死者を出した魔族はその時の教訓から、魔王は立候補または推薦という形を取っている。
その辺りは人族よりも平和的なのである。
ちなみにセルティも今代魔王候補であるのは、いくつか有力な貴族から推薦を得てしまったが為である。


さてセルティは異界へと繋がっていると言われているダレス山脈の中でも最も険しいとされるダレイオス山の頂上へと来ていた。
彼女は普段街へ抜け出すような恰好に加えて、魔法使いの様なローブを身に纏い頭をすっぽりと覆うフードを目深に被っている。
その姿は街中で見れは不審者にしか見えない。
しかしこのローブは耐寒性に非常に優れた性能を誇っており、このダレイオス山では必須アイテムと言える。

ダレイオス山はほぼ大陸中央に位置する山で純白の霊峰として全ての種族の信仰の対象であり、現在は人間達の領域に属している。

名こそ霊峰などと呼ばれているがここは初代異世界勇者と魔王の決戦の地と言われており、その時に使用した大規模魔法によって大きく環境が歪められた結果、今も
ここだけは四季を失ったように降りやまない雪のせいで、見渡す限り白銀の世界となっている。

殊、セルティの目には未だに渦巻き続ける初代勇者と魔王の魔力のうねりが見て取れる。
そしてもう一つ他人には見えない物が見えている。
それは蜃気楼の様に揺らめく時空の歪みであり、世界の切れ目とも言うべき大きな穴が上空に存在していた。

セルティはその切れ間を見据えてると、ニヤリと笑って一人呟く。

「世界の壁の向こうに果たして異世界の住人の魂はあるのかの?」

そう言って世界に走った亀裂の隙間に自身の魔力をねじ込んで、異世界の魂を手に入れるべく捜索を始める。
感覚としては手さぐりに近く、セルティの魔力に触れた何かを優しく包み込むとそれを一気に引き上げに掛かったのだった。

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