異世界召喚に巻き込まれたんだが、勇者がかなり弱くて人生詰んだ。

ノベルバユーザー210019

010 王との邂逅

「ロン、僕たちにもね、魔法は使えるんだ。」「誰がロンだよ、せめてマイオニーがいいわ」「無理だろ、お前が女でも美少女にはなれない」「そういう事をいってるんじゃないよね?わかる?」
俺たちは今絶賛さくせんかいぎちうなのだ。時刻は朝の4時、まだ結構暗い。寝付けが良すぎて逆に早く目が覚めてしまった訳です。「まぁ、それは捨てといて」「せめて、置いて。お願い、置いて。」「アバダーー」「あかん、それあかんやつ!うっかり発動して俺が死んじゃったらどうすんだよっ!」「生き返るしいいかなと思って」「軽いっ発泡スチロールより軽いぜっ!」「…今のはないと思う。」「そっとしておいてくんねーかな、もう」
まぁ、やる事もないから魔法について俺たちなりに考えてみた。
ステラが魔法を使う所は2回ほど見ている訳で、見た感じ詠唱という詠唱はしてなかった。ヒール、って言っていたがまぁそのくらいなら俺たちにもわかる、回復魔法だ。
詠唱がないなら、行使する魔術を司る名称のようなものがトリガーになっているのだろうか。例えば、サンダー!フレアー!とかそんな感じの。
多分其れも元々は俺が昨日やったみたいに1から全部頭の中でイメージするんだろなぁ。火が、もえるぅううううっ!ボウッ!みたいな。こっちはだいぶマヌケ感がすごいけど、まぁ想像が悪いな今のは。
試しに他の魔術もやってみるかなぁ……
「なぁタクト?ちょっとそこ立って」「……やな予感がするよハリー」「大丈夫、痛くない。」
よし、創造を始めよう。確か昨日は風でエアガンをイメージしたんだったな。なら次は水かなぁ…んー、ピンポン球位の水玉。宇宙空間に漂っているような水の塊を形成。位置は、タクトの頭の上で……そうだなぁ指を鳴らしたら落下とかできねーかなぁ。
とりあえず発動、ウォーターボールっ!
こんな感じかね
「お、すんげ水の玉浮いてらっ!おー…なんか俺の方に来てねぇ、それ?ほら、やっぱりだよっピンポイントで俺の上ーー」
パチィンッ!
「ああぁっ冷てぇえええ!馬鹿なの!死ぬのっ!?」「あ、うん。お疲れ様」「それだけかよ…てかこれどうしてくれんの」
ビッショビショである、面白い。
「いいじゃん、次はお前が魔法使ってみーよ」「そんな言われていきなり出来るかよ」「物は試しや、百聞は一見に如かずだろ?それにほらちょうどいいじゃん、乾燥だぞ乾燥。俺みたいにそれっぽいこと言ったら発動すんじゃね」「はぁ…まぁいいけど。じゃあやるぞっ」
エクスプロージョンっ!
あっこいつ馬鹿だって思った。
バガァンッ!「へぶらぁっ!?」
多分、発動源を体と服に設定したかったんだろな。身体の内部で爆発したみたいで、口から煙出てらぁ。 エクスプロージョン。はい、実は昨日俺はこいつに嘘をついていました。
ーーーーー昨日の英語の授業は自習だった。
「なぁケンジ、この問題答えがわからん。」「ん?ああ、政府はgovernmentだな」「じゃあ、これは?」「お前少しは辞書開けや、乾燥は…explosionだろ」「さんきゅ!完璧に覚えたわエクスプロージョン!」「気にすんな俺とお前の仲だろ(こいつ信じてらぁ)」
ーーーーー
まぁ、ほらエクスプロージョンっていう爆破魔術があるってわかったからよかったね。(後に都市一つを破壊しかねない程の極大魔術の一つだと発覚する)
やっぱりこの世界の魔術ってのは、1から創造して発動するもんであって、それを名称の呼応によってショートカットする事ができるみたいだな。それはまたあれなのか、現象と名称を固定するための魔術のようなものがあるんだろうかねぇ。 
其れがわかれば昨日使ったエアーガン魔術も汎用性が高くなっていいんだけれども。
コンコンコンッ「ケンジ様っ如何なされましたかっ!?」
やっちゃったなぁ、爆発の音が大きかったね。
ガチャッ「おうシーリスさん、ごめんご。ちょっとタクトが爆発しただけよ、気にせんでくれ」「ば、爆発!?大丈夫なんですね…?」「おん、体質やねんごめんな」
流石に応えたらしく昨日のようなポーカーフェイスが嘘のように焦り顔で狼狽していた。物凄くイイ…イイですねシーリスさん!まぁ、冗談はここまでにしておこう。
「そ、そのタクト様は気絶したり爆発したり大変なんですね…?」「う、うん暖かく見守ってやってくれ」
笑いそうになるのを必死に堪えた。だって普通信じるかよ、いくら異世界人と言ってもそんな体質のやついたらやべーよせっかくだから親密を深めておこう。
「時にシーリスさんステラの三つ上ってことは19なんかな今?」
「いえ、私は冬の3刻の生まれですからまだ18歳なんですよ」
因みに暦やらなんやらは昨夜教わった。1年は360日のようだ。そして月だが、春の3刻、夏の3刻、秋の2刻、冬の4刻と季節毎にリセットされるようで、要するに12ヶ月で地球と同じだな。
因みに今は秋の2刻らしい。俺らの世界では2月だったんだがな11月に戻っちまった。
時間は同じで0〜24の1時間60分の60秒。
「おーじゃあ俺らの、一個上なんだな」「あら、そうなのですか?ふふ、てっきり一つ上か同じ歳だとばかり思っていました。」「…そんなに俺老けとる?」「いえ、とても落ち着いていらっしゃるのでそういう印象を受けただけです。ふふ、少しむくれた表情は年相応なのですね」「そういう自分は慌てた時の顔は年上とは思えんくらい可愛かったけどなぁ?」「あら本当ですか?照れてしまいますね」
そう言って少し恥じらう彼女はなかなかに破壊力が高いもので、なかなかに心にくる。もうちょっと慌ててくれるかと思ったけど若干上目遣いなのが凄まじい。これはこれで全然ありです…
「そうだ、タクトの服さ、ビショビショなんだけど乾かしたりできる?」「はい、勿論です」
ドライ。
おお、乾いてる。なんか当てずっぽうで唱えれば大体の魔法も使える気がしてきたなぁ。威力とかは何に依存しているんだろうか。
「そういえばシーリスさんさっきすぐにこっち来たけどさ、ステラの侍女じゃなかった?」
「ええ、そうですね。もしかするとケンジ様が早くお目覚めになられるかもしれないと思いましたので昨夜お嬢様に、お願いして近くの部屋で待機させて頂いていました。」
すげぇ、できる子すぎるぞこの人。あのポンコツ馬鹿たれ子とは大違いだなぁ。
「そっか、ごめんな。ちゃんと寝れた?」「ええ、普段から4時には起きていますので。何も心配はいりませんよ?」「そか。おい起きろタクト」
タクトの時間を加速してやる
「ん?んー、おっおお乾いてらっ!すげぇ」「よかったなタクト、流石だよお前」「ハリー、やっぱ君って天才かも」「まだ言ってんのかよそれ、いい加減怒られるからやめて」何のことやらさっぱりなシーリスが?マークを浮かべっぱなしだが、可愛いのでそのままにしておくことにした。
ーーーーー
「それで今日は王様に会うんだよな?」「はい、そうですね。陛下の体調によりますが大丈夫であれば朝食を一緒に食べて頂く事になります。」「緊張するなぁ、ケンジ粗相すんなよ」「今日のおまゆう」
コンコンッ「ステラです、起きてますか?」「んー、入っていいぞ」「はい、では。ってシーリス何をしているんです?」「朝早くに起床なされていましたので少し世間話を。」「どうしてそれをいわないのですかーっ!」「お嬢様、言ったところであなたが4時にお目覚めになられますでしょうか?」
こりゃぐうの音もでないってやつですね
「うぐっ…もーっいいです、いいですよっ!ケンジ様タクト様、父上の体調が今朝は優れておられますので今から大丈夫ですか?」「ん?うんお腹減ったしいいよ」「そだなー、行こうか」
ーーーーー
とりあえず黙ってステラとシーリスの後ろをついていく俺たち、道中衛兵やなんか偉そうな人らが会釈していくもんだから気持ちがいい。
どうやらついたようだ、晩餐室のようなものか。テーブルの一番奥の席に痩せこけた壮年の男性が見えた。あれがステラの父、そしてこの国の王。病がどれほどのものなのかは見ればわかる。しかしそんなものを感じさせないほどのものが彼にはあった。彼がこの国の長である事は疑いようがない、ソレ。背筋が凍るようなただならぬ威圧感。こちらを射抜くような眼力に全てを包み込むような大きな存在感。
「其方らが、召喚されし勇者タクト・ミネギシ殿にケンジ・イイジマ殿だろうか…此度は私の元へ赴いて頂き感謝する。私達の都合により、このような事に巻き込んでしまった事、そして此度其方達を襲った想定外の事態による勇者の異変、誠に申し訳ない。この命削る事に何の戸惑いもない。虫が良すぎるのも承知の上でお願いしたい。私達、ユーグストス家の命を以ってして懇願する、どうかこの国そして民を守ってはくれないか。」
そう言って、自ら地に頭をつけてまで、自分たちの命を捨ててまでも民を守ろうとする一国の王の姿に、国の化身に圧倒され、俺たちは暫く何も言い出す事ができなかった。
いや違うな、動く事ができなかったんだ。



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