創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

第54話

東側が動きを見せ始めて二週間経った頃、西側のデール領地の駐屯地には物々しい雰囲気が漂っていた。

「東側が動きを見せてもう二週間。もしかしたら帝国の兵が来るまで時間を稼ぐつもりか?」

駐屯地のテント内にはデュセオ領主ガルムと同じ西側の領主であるフォードとイシュメルが会議をしている姿が見られた。

東側に動きが見られてもう二週間。

一時は東側が攻めてくるものと思い、守りの陣形を取っていたガルム達だったが、その後何も行動しない東側の様子を見て、こちらから攻めるべきではないかという意見が多数あがって来ていた。

ガルム達がデールに来てからもう少しで三週間になる、持ってきた物資も無限ではない。

ガルムは部下達の言葉に背中を押されるような形でついに東側へと攻め込む決意をすると、フォードとイシュメルにも進軍の準備を進めるように伝える。

元より冒険者や野盗等が入り混じった西トーム連合軍は気性が荒く早く暴れたいと思っている連中が多い。

その為、ガルムから出撃の命令に我先にと兵が準備を進めたこともあり、短時間で出撃準備が整った。

ガルムは兵士達の準備が出来たことを確認すると、集まった兵の士気を上げようと檄を飛ばす。

「お前ら良く聞け! この戦いで領主の首を挙げたものは身分に問わず領地とその土地を治める領主の地位をくれてやる! それに敵から奪い取った物を全てお前らの物だ! 好きなだけ殺し、好きなだけ手に入れろ!」

ガルムの檄に対して地鳴りの様な歓声を挙げる西トーム連合軍の兵士達。

その後程なくして、兵士達はガルムの号令にしたがい中央領地ミッテに進軍を開始した。










 



一方東トーム連合軍の兵士達は西側の兵達がこちらに向けて進軍準備をしていることに気付き、ミッテ領主の元に報告を行っていた。

「報告します。デール領地に駐屯していた兵がこちらに進軍してきます。」

「何!? それはまことか! こうしてはおれん。バセルダ殿とゼルター殿に協力を仰がねば!」

ミッテの領主館で東側の他の領主と西側への対応について協議していたミッテ領主は衛兵から話を聞くと、焦った様子で客間にいるバセルダ達の元へと全力疾走していく。

一緒に協議していた二人の領主も同じ様子でミッテ領主の後を追っていく。

ゼェ~ハァ~と激しく肩で息をしながら客間まで辿りついたミッテ領主達は扉を乱暴に開けるとバセルダ達に助けを乞う。

「バセルダ殿! 今西側の兵がこちらに進軍を始めたそうです! どうかお力添えを!」

扉の先のバセルダはソファに寝そべり、ゼルターは優雅に紅茶を嗜んでいた。

ミッテ領主から西側の進軍を聞いたバセルダは慌てる素振りも見せず、ソファから立ち上がるとミッテ領主の元へと歩み寄る。

「だからミッテ領主ともあろうお方がそんなに慌てふためいた様子を見せては駄目だろ? 今進軍準備を開始したばかりならすぐにこっちの軍とぶつかることはないだろ。まずはしっかりと作戦を立てないとな。」

バセルダはミッテ領主の耳元でそうささやくと会議室の方へと向かう。

戦場ではなく会議室に向かおうとするバセルダにミッテ領主は思わず声を荒げる。

「何処に行かれるんですか!作戦なんて今はそんなことしている暇なんて―――――」

「あのな。こういう時だからこそ一回落ち着いて作戦を再度確認する必要があるんだよ。悪いようにはしねぇから。」

振り返ることなくミッテ領主に言い放ったバセルダの威圧感にそれ以上何も言えずバセルダの後についていき会議室に入るミッテ領主達。

しかしその会議室で会議が行われることはなかった。

会議室に入って数分後、会議室から三つの悲鳴が響く。

その後出てきたのは両手を真っ赤に染め、怪訝そうな表情を浮かべるバセルダだけだった。

「わざわざ殺さなくてもまだ利用価値はあったのでは?」

「はぁ? この程度で狼狽える奴らなんか帝国に必要ねぇだろ? それにしても歯ごたえの無い奴らだったぜ・・・」

会議室の隣にはゼルターが出発の準備を整えた状態でバセルダを待っていた。

「それではそろそろ始めますか?」

「そうだな。待ちわびたぜ・・・」

会議室の扉の横でゼルターがバセルダにそう告げると、バセルダは今度こそ強敵と戦えると愉快そうな表情を浮かべる。

その後二人はミッテの領主館を出発すると人知れずミッテの街から姿を消していた。












バセルダ達が姿を消して間もなくした頃、進軍してきた西トーム連合軍がミッテ領地まで侵攻してきていた。

「領主様からはまだ何の命令も出ていないのか!?」

「それが会議室に鍵をかけた状態で他の領主達と籠っているようで、声をかけても反応がないそうです!」

領主より指示があるまで動くなと言われていた東トーム連合の兵士達はもう目の前まで来ている西トーム連合軍を見ながら苛立った様子を見せていた。

「しかしこのままでは・・・仕方ない。お前ら領主様から指示がない以上ここから先は私がこの軍の指揮をとる。全軍陣形を保持しながら前進せよ!」

将の一人が指揮権を宣言し全軍に命令を出すと、これまで指示がなく動くに動けなかった兵士達は待ってましたと言わんばかりに横並びの陣形のまま、雄叫びを挙げながら西トーム連合軍に突撃していく。

ミッテに侵攻する西トーム連合軍とそれを阻止しようと進軍する東トーム連合軍。

ついに両軍が激突するとミッテの領地は金属のぶつかり合う音や魔法による炸裂音が響き渡り、凄惨な戦場へと変わっていった。

短時間の間に躯と化していく両軍の兵士達。

最初は拮抗していた戦況も数の差や対応が遅れたこともあり、時間が経つにつれて、徐々に東トーム連合軍が押され気味になっていく。

「兵士達は前線を維持しろ! 魔法師は後方から魔法攻撃を放て!」

「しかしもう既に深くまで切り込まれています! これ以上の維持は困難です!」

東トーム連合の将の一人が必死に指示を出すも、西トーム連合軍の侵攻速度は速く、既に軍の中腹あたりまで深く切り込まれていた。

「攻めろ攻めろ!」

「領主の首を挙げれば俺達は貴族様になれるぞ!」

西トーム連合の士気は高く、どれだけ周りの仲間達が犠牲になろうとも、侵攻するその足を緩めることがない。

冒険者や万年平兵士の彼らにとって今回の戦争は貴族へと成り上がる千載一遇のチャンスでもある。

何の褒章もなくミッテ領地を守っている東トーム連合軍の兵とは今回の戦争に対しての思い入れが違った。

そんな事を知らない東トーム連合軍の兵士達はいくら倒されても引くことをしようとしない西トーム連合軍に恐怖にも似た感情を植え付けられてしまう。

兵の士気で大きく勝る西トーム連合軍は、そのままの勢いで東トーム連合軍の後方に位置する敵将がいる指令室のあるテントまで迫る。

「お前達引くな! 戦線を維持しろ!」

「もはや我が軍は中央を切り進められ分断された状態です。戦線の維持は不可能です。」

東トーム連合軍の将はテント前で戦況を見ながら怒号を発するが、東トーム連合軍は既に左右に分断されており、その左右に分断された軍も囲うように配置された西トーム連合軍によって各個撃破されていた。

東トーム連合軍の中には逃げ出す兵士も出てきており、もう勝敗は喫したかのように思えた時、東トーム連合軍の将は両軍の南側の密林から大きな軍が迫っている事に気付いた。

深紅の旗を掲げた軍。

それは東トーム連合軍が待ちわびていた帝国の軍団であった。

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