創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

第29話


「はぁはぁ・・はぁはぁ・・」

ジョゼより帝国への報告を命じられたワーレンは両手両足から燃焼ガスを噴出させながら林を凄まじい速さで飛行していた。

その後ろからはワーレンを追う声が聞こえてくる。

「あっやっと姿が見えてきた! 待てぇ!」

「ちっここまで追いすがってくるとはな! 相手は魔獣使いか・・・。虎如きの脚力で俺に付いてこられるなら、付いてきてみやがれ!」

後ろから犬斗が追いかけてきている事に気付いたワーレンは更に高圧縮した燃焼ガスを噴射することで莫大な推進力を得て、急加速を始める。

「えぇ! 早すぎだよ! 白虎でも追えないことはないけど時間かかりそうだよなぁ。疲れるから同化はしたくなんだけど・・・」

犬斗は愚痴っぽくつぶやくと白虎にワーレンを負わせながら、朱雀との同化を始める。

白虎の背中で犬斗は全身に炎を纏う鷹の獣人に姿を変える。

「よ~し! 白虎お疲れさま! 後は僕はやるからお前は離れた場所へ避難しときな。」

朱雀スタイルになった犬斗は背中の翼を大きく広げると、白虎の背中から飛び立ち、高速でワーレンの後を追いかける。

「あれはなんだ!」

後ろから迫ってくる犬斗の姿に、焦りの表情を浮かべるワーレン。

剣山の林の中を高速で抜ける赤い二つの影の距離が徐々に狭まってくる。

「ふぅ~なんとか追いついた! もう逃がしませんからね!」

「くっ! お前ら一体何者なんだよ!」

追いつかれたワーレン腰に差していたタガーを両手に装備すると、そのタガーに炎を纏わせ、隣を飛行する犬斗に切りかかった。

「変な獣人の恰好なんかしやがって、死ね!」

「えぇ! 朱雀スタイルかっこいいじゃないですか!」

犬斗とワーレンは空中を高速で進みながら、武器を交わし続ける。

剣山に金属同士のぶつかる音が響きわたった。

ワーレンはタガーによる斬撃とガス爆発を起こす魔法を巧みに組み合わせて犬斗を攻めたてる。

一方犬斗は朱雀スタイルの翼の使い方にまだ慣れておらず、速度を維持しながらの攻撃が単調になっていた。

「うわ! あぶな!」

「ちょこまかと面倒くさい奴だな! 早く落ちてしまえ!」

ワーレンはタガーの攻撃を避ける犬斗の動きを予測すると、犬斗の避けた先にガス爆発を起こす。

ガス爆発に左肩を抉られた犬斗は速度を少し落とす。

ワーレンはその隙にさらに速度を上げて逃げ切りを図る。

速度を上げ犬斗から距離を取り、後方の確認を行うワーレン。

すると後ろにいるはずの犬斗の姿が見えない。

「あいつは何処に行った!」

「いてて・・・ここです。」

「なっ! なんでお前が隣を飛んでるんだよ!」

「朱雀スタイルは速さと再生に特化したスタイルなんで、即死するようなダメージを喰らわない限りは死にません。痛みがあるのが難点なんですけどね・・・」

速度を落としたはずの犬斗が隣を飛行している状況に唖然とするワーレン。

犬斗の抉られたはずの左肩は傷跡もなく綺麗な状態に再生している。

犬斗は命のやり取りをしているとは思えない緩い表情で、ワーレンの隣に密接するように飛行を続ける。

ワーレンは再度タガーと爆破魔法を仕掛けていく。

いまだ飛行に慣れていない犬斗はタガーの斬撃は避けるも、死角を襲ってくる爆破に巻き込まれていく。

しかし爆破により生じた傷は纏っている炎に包まれたかと思うと元通りに治ってしまう。

「くそぉ・・痛いなぁ! やっぱり朱雀スタイルは操作性に難があるな。今度しっかり練習しとかないと。」

「本当に不死身なのかよ・・・何なんだよお前はぁ!」

ワーレンは目の前の理不尽な存在に激昂しながら、爆破魔法を犬斗の前方に多数並べる。

犬斗が設置しておいた爆破魔法の範囲に入った瞬間、並べられた多数の爆破魔法が犬斗の飛行に合わせたタイミングで連鎖的に発動する。

進む先々に爆破が生じる状況に陥る犬斗。

爆破の音が鳴り止んだ頃、ワーレンは一度立ち止まると、冷や汗を拭いながら周囲を見渡し犬斗の姿を探す。

右左と何度も周囲を確認するが、犬斗の姿は見えない。

「どれだけ不死身でもあれだけ爆破を喰らえば、微塵も残るわけが―――」

「痛たたた・・・全身が猛烈に痛いよ・・・」

「・・・マジで化け物じゃねえか・・・。」

自身の真上に自分を抱きしめるような恰好をする犬斗を見つけたワーレンは自分の相手が規格外の化け物なのだと実感していた。

本人も気づかないうちにワーレンは全身から冷や汗を噴き出していた。

すると先程まで自分で自分を抱きしめる痛々しい姿を見せていた犬斗がワーレンに向かって喋り出した。

「あのすみません。ちょっといいですか?」

「なんだ化け物?」

「化け物って酷いな・・・。なんで帝国は他の国を侵略して獣人や他の種族の人達を無下に扱うんですか?」

「さぁな。俺は与えられた命令をこなしているだけに過ぎん。お偉いさんの考える事は俺にはわからん。ただ・・・・」

「ただ、何ですか?」

「俺は帝国民であり帝国兵士だ。獣人を殺せと命じられれば獣人を殺すし、人間を殺せと命じられれば人間を殺す。

そして今回命じられたのは、メリア大佐の裏切りとボレアス領地に異変が起きている事を帝国に報告することだ。」

「つまりどうあっても帝国に報告するってことですか・・・」

「あぁそうだ。もし説得することで何とかなると思っていたなら、それはお前の自惚れだ。いくら相手が化け物だとしても俺は命令の遂行を遵守する。」

「そうですか・・・・」

ワーレンに勝てない事を悟らせた後に説得を試みる事で話を聞いてもらおうとしていた犬斗。

しかしワーレンから命令を遵守するという強い意志を聞いて、話し合いの余地がないことを知ると、大きくため息を着いた。

話が終わったワーレンは再び、両足から燃焼ガスを噴出させ、空中に浮かぶと戦闘体勢を取り出す。

さっきまでの戦闘のやり取りで逃げ切ることは不可能だと判断したワーレンは、ここで一か八か犬斗を仕留めるつもりだった。

ワーレンは犬斗から数メートル距離を取ると、犬斗の接近に備え、自分と犬斗の間に魔力のほとんどを使い爆破魔法を大量に仕掛ける。

ワーレンは爆破魔法の設置を終えると両手にタガーを構え、犬斗の一挙一動に気を張る。

すると犬斗が急に静かに語り出した。

「僕は帝国の人だろうと、こちらの話に理解を示してくれるのであれば、大地さんに嘘をついてでも逃げてもらおうと思ったのですが。

ボレアス領地のみんなに危害を加えるつもりであれば、もう手加減は出来ません。

最後にもう一度聞きますが、ここでの事を黙ったままでいる事は出来ませんか?」

「それは無理な相談だな。俺は必ず帝国に報告する。」

「そうですか。非常に残念ですが、あなたをボレアス領地の敵として排除させてもらいます。」

「出来るならやってみろ。」

犬斗は残念そうな顔をしながら翼を広げると、纏っていた炎が翼に集まっていく。

纏っていた全ての炎を吸収した翼は真っ赤に燃え上がると、燃え盛る羽をマシンガンのようにワーレンに撃ちこむ。

距離を詰めることなく遠距離攻撃を仕掛けてきた犬斗に、苦々しい顔をしながら前方に設置していた爆破魔法を発動させるワーレン。

爆破により撃ちこまれた炎の羽を防いでいくワーレンだったが、際限なく放たれる炎の羽に、事前に設置していた爆破魔法を発動せざるをえない状況に追い込まれてく。

そして少しの膠着状態を経て、ついに爆破魔法を使い切ってしまったワーレンの右肩に炎の羽が突き刺さった。

「がはっ!」

小さい呻き声をあげたワーレンは、その後も迫りくる炎の羽を身体に受けながら林の中にある大木へと避難する。

全身には炎の羽が刺さっており、痛みに耐えながら背中を預けるように座る。

身を隠している大木も炎の羽による攻撃により、既に半分以上が燃えており、長い時間は持たないだろう。

それ以上に全身を羽に貫かれ、既に浅い呼吸をしている自分の命が持たないことを悟ったワーレンは今後帝国の大きな脅威となるであろう犬斗に一矢報いようと考える。

「ごほごほ!・・・くそ。命令の遂行はもう無理か。ならば!」

後ろの大木が炎の羽に耐えられず倒壊していく。

ワーレンは大木が倒れた時に舞った雪煙に紛れ、自分の背中に爆破魔法を放つ。

後ろで起きた爆破により背中に致命傷を受けながらも爆風による風圧を受けたワーレンは犬斗がいる方角へと一直線に向かう。

ワーレンはモイヤーが取った行動と同じ自爆魔法を行おうとしていた。

帝国の暗部組織である彼らは、組織の性質上、生きたまま敵に捕まる事や敵国に暗部組織の正体がばれる事が許されなかった。

その為自分達が敵わない相手と対峙した時や捕まってしまった際には、自爆するように教えられていた。

その自爆魔法はワーレンが開発した魔法であり、もちろん自分自身にも自爆魔法をかけている。

ワーレンは爆風を利用して近づき、自爆魔法の有効範囲に犬斗が入った瞬間に自爆するつもりであった。

「自爆魔法をするつもりなんですね。」

「何故それを!」

ワーレンの行動を読んでいた犬斗は炎の羽を射出させながら、両手を前に掲げていた。

行動が読まれていたことに驚くワーレンにもの悲しげな表情を向ける犬斗。

犬斗は前に掲げた両手から火炎放射器のように炎を噴射させると、その青い炎をワーレンに向けて放出させた。

放出された青い炎は驚くワーレンを飲み込み、目の前の林を巻き込むと一瞬にして灰にしていく。

犬斗が青い炎を収めた後には、林を突き破る黒く焼け焦げた一直線の道が出来ていた。

『メリアさんでしたっけ? 自爆魔法の情報を教えて頂いてありがとうございます。おかげで無理なく対処が出来ました。』

『お礼を言うなら、念話であたしとあんたが話が出来るようにセッティングしていたあいつに言いなさい。』

『確かに、大地さんの抜け目の無さにはいつも助けられてます。メリアさんは今どちらに居ますか?』

『それがね・・・私ここの地理詳しくないから迷ってしまったっぽいわ・・・』

『それでは今から迎えに行きますね。ここの魔獣は全て僕の従魔になるので、すぐに発見できると思います。』

『えっちょっと待って? あんた魔族なの?』

『いや人間ですよ。それがどうかしました?』

『・・・・まぁ詳しい話は後で聞くわ。あんたといいあの男といい、ここには普通の人間はいないのかしら。』

『何言ってるんですか!? 大地さんも僕もごく一般的な人間ですよ! あっ従魔がメリアさんを発見したみたいです!今から向かいますね!』

『はぁ・・・・とりあえず待ってるわ。』

犬斗がメリアと念話で話していた間に白虎が戻って来ていた。

朱雀スタイルを解除した犬斗は白虎に飛び乗ると大地に念話で報告を行いながらメリアの元へ走っていった。

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