創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

第12話

「何ぃ~! 先発隊が壊滅状態じゃと!?」

補助隊を率いるバダック少尉は額に青筋を浮かべながら報告を聞いていた。

密偵の話からは簡素な村に百人程度の獣人がいると聞いていたバダック。

バダックは先発隊があっさり殲滅し、自分達は捕虜の輸送をすれば良いだけの仕事だと思い、設営所で優雅に食事をとっていた。

それなのにボロボロの状態で報告しに来た兵士の話によると先発隊がほぼ壊滅してしまったというものだった。

やや膨れた腹部を掻きながらバダックは今後の方針について悩んでいた。

本来ならば、先発隊の救助に向かい、先発隊の代わりに村の殲滅に向かうべきだろう。

しかしたった百人で帝国兵三千をほぼ壊滅状態まで追い込んだ方法がわからず恐怖を覚えていたバダックは進軍に二の足を踏む。

そんな様子を見た副官が助言を行う。

「バダック少尉。相手には魔法に長けた者がいたのでしょう。しかし帝国兵を壊滅に追いこむほどの魔法は宮廷魔法師様でも連発は出来ない。私はむしろ相手が大規模な魔法を使った後の今こそ進軍すべきかと思います。」

バダックは少し考える素振りを見せたが、副官の考えに賛同する。

確かに先発隊を壊滅するほどの獣人の魔法師は脅威だが、先発隊のおかげで獣人の魔法師は魔力を枯渇している状態だろう。

もし捕まえれば褒美は思いのままだ。醜い欲にかられたバダックは急ぎ進軍の準備を進めた。
















バダックが進軍の準備を進めている頃マヒアは次の戦いに向けて部下に弾薬の装填をしておくように指示を出していた。

遠距離魔法に備えていたフィオが興味深そうにライフルと弾薬を見つめながらマヒアに問う。

「ねぇねぇマヒア。さっきのは何?」

「あぁ。これは魔法について大地殿に教えた時に大地殿が試しに作った物でな。なんでもこの弾薬には火魔法の魔力が込められているらしくて。銃を撃つだけで魔力消費無く火の魔法を発現出来る便利な代物だ。大地殿が出発前に大量に作ってくれていたのだ。しかしもうこの弾薬も底をつきそうだがな。」

「え?それって大丈夫なの?」

「さあな。今はまだロケランがあるから大丈夫だろうが・・・私には今後の展開は読めんよ。もしもの時はわかっているな?」

「うん。わかってるよ。もう我儘は言わないから。じゃあ補助隊に備えてゴーレムとガラン達の為の防壁作ってくるね!」

フィオはそういって、城壁を降り、村の外へ出て行った。それを見つめながらマヒアはフィオの無事を祈る。

進軍の準備が整った補助隊は、道中逃げてきた先発隊を加え三千強の軍勢に膨れ上がっていた。

バダックは先発隊から聞いていた赤い閃光に気を付けながら慎重に進む。

しばらく進むと先発隊が攻撃を受けたと思われる場所に土壁で出来た大きな砦がたっていた。

バダックは警戒心を強め魔法師隊に防御態勢を整えるように進み、兵士に偵察に向かわせた。

偵察の兵士より中に誰もいない事を確認すると、バダックは砦内に入り魔法師には前方を警戒させ、他の兵士には前方以外の全方位の警戒にあたらせる。

砦内に入ったバダックは副官に獣人の意図について問う。

「獣人どもは何故こんな所に砦が作ったのだ?」

「多分ですが、私達の進軍が予想より早く、慌てて砦を捨てて逃げたのではないでしょうか?報告にあった赤い閃光の射程範囲に入っても攻撃の気配はありませんし、やはり予想通り魔力が尽きてしまったのでしょう。」

「そうかそうか! 先発隊がやられた時はどうしようかと思ったものだが、所詮は獣人。こちらが油断しなければなんてことはないな!」

満足そうに笑みを浮かべるバダック。赤い閃光の事を魔法だと勘違いしているバダックは射程範囲に入ったのにも関わらず魔法を撃ってこない段階で相手の魔法師の魔力が枯渇しているのだと疑ってなかった。

その為、自分が死地に招かれているとは夢にも思っていなかったのだろう。

ガラン達はバダックが砦に入ったのを確認すると部下に左右から囲むように指示を出し、その場でマヒアからの合図があるまで待機する。

マヒアはガランから帝国兵が砦に入ってから五分後に襲撃を行うという指示に従い、残りの火の魔法の弾薬を打ち込む準備を進める。

「お前たち準備は出来たかい?」

マヒアの部下達はマヒアを見ながら頷く。

マヒア達は前方の魔法師に向けてライフルを構える。

一時の静寂の後、マヒア達は一斉に引き金を引き始める。

赤い閃光は瞬く間に魔法師達の眼前に現れ、頭部を打ち抜いていく。隣の仲間が頭を撃ち抜かれ燃える様を見て、帝国兵は初めて敵襲に気付いた。

「敵襲だ! 例の赤い光線で攻撃されているぞ!」

バダックはないものと思っていた赤い閃光に襲われていると聞き、取り乱し始める。

「どういうことだ! 例の魔法は魔力枯渇でもう使われることはなかったのではないのか!」

「そんなはずはありません! あれだけの威力であれば消費魔力もかなりのものになるはず。そう長くは出来るはずがありません。」

副官も予想を裏切られたとばかりに苦々しい顔をする。

帝国の魔法師はすかさず、属性に応じて様々な魔法障壁を展開させ、赤い閃光を防ぐ。死に物狂いで魔法師が防いだ結果、赤い閃光が止み、九死に一生を得る帝国兵達。

バダックと副官も冷や汗をふきながら自身の無事に歓喜の声をあげたと同時に、赤い閃光を放った獣人に憎悪の念を覚える。

砦から顔を出し、状況の確認を行うバダック。辛うじて助かった兵士達だが、さっきの襲撃で三分の一の兵士が死んでいた。自分の隊の散々たるありさまに額に青筋を浮かべながら号令を出す。

「くそ。獣人どもめが。楽に死ねると思うなよ。全兵士に告ぐ! 獣人どもを皆殺しにしろ!」

しかし、兵士達が獣人の村まで進軍することは叶わなかった。

隊列を整えようとした瞬間、左右の密林よりガラン達がロケランを発射した。

白煙を上げながらひし形の弾頭が砦を襲った。

ひし形の弾頭は着弾と同時に爆炎をあげ、すさまじい破裂音と共に全てを破壊した。

爆撃跡には何も残っておらず、赤い閃光から辛うじて命を拾ったバダックを含む二千の兵士はその命をあっという間に消滅させていた。

ガラン達は爆撃跡を確認し作戦の成功を喜ぶ。

ガランも軽く肩で息をすると、トーム連合共和国がある方角を向き「ありがとうな」と小さくつぶやいた。








しかしその歓喜はつかの間のものとなっってしまった。

帝国兵が進軍してきた先から急に大きな光が現れたのだ。

それを見たガランはその光を見た瞬間、背筋が凍る感覚を覚え、光に気付かず砦近くでいまだに喜んでいる獣人達に叫んだ。

「みんな、密林の中に逃げ込め!」

ガランが叫んだと同時にその大きな光がはじけた。

はじけた光は砦跡や獣人の村を含んだ広範囲に渡り矢のように降り注ぐ。

ガランは木々の間に入り光の矢から身を隠すが、砦跡の方からは獣人達の悲鳴が聞こえた。

ガランは「くそ!」と作戦が成功し、一瞬でも警戒を怠った自分に苛立ちを覚えながら村の方角を心配そうに見つめていた。

同時刻マヒアも目の前に現れた大きな光に気付いていた。

マヒアもガラン同様に嫌な予感がした為、部下に身を隠すように指示を出そうとした時に光が弾けていた。

マヒアは辛うじて城壁を盾にして身を守ることに成功したが、部下は光の矢に撃たれ半分以上が絶命または負傷していた。

マヒアは負傷した部下の治療を行いながら、村の確認を行い絶句する。

建物は全て半壊か全壊しており、村のいたるところから悲鳴が聞こえていた。

「マヒア! マヒア! 生きてるならお願い返事して! マヒア!」

大声で自分を呼ぶ声に気付いたマヒアは自分の場所を叫ぶように伝える。涙目になり混乱した状態のフィオがマヒアの元に駆けつける。

「マヒア! 無事でよかったぁ !死んじゃったかと思ったよぉ! 」

「フィオか。そっちの被害はどうだ。」

「こっちと同じで半分以上の人達があの光に・・・・」

「そうか。とりあえずは負傷した彼らを城壁裏に連れていくぞ。大地殿が作ってくれた城壁ならさっきの光にも耐えられる。」

「わっわかった!」

マヒアとフィオは無事だった部下達と一緒に負傷した獣人を城壁裏に連れていく。

全員を城壁裏に移動したマヒアはフィオに治療を任せ、ゼーレとガラン達の無事を確認するために再度城壁に上る。

密林を見てマヒアは安堵の表情を見せる。ガランやレイにルルの姿を確認出来たからだ。

しかしガラン達の方もかなりの被害が出ている様子が見て取れた。

次にマヒアは村の方を見ながらゼーレやパーキ達の姿を探す。しかしいくら探しても見つからない。

マヒアがゼーレ達の事をガラン達に伝えようと密林の方を向いた時、マヒアに戦慄が走った。

ガラン達の一キロ先に帝国の本隊が来ていたからだ。

マヒアは急いで城壁裏で治療を続けるフィオに状況を伝える。

「フィオ! 残念だけどもう敵の本隊が来てしまった。しかしゼーレの姿が確認出来てない。私は今からガラン達に合流してルルに戻ってきてもらうように伝えるから、フィオはゼーレやパーキ達を探してきて。そしてルルと合流次第ここより反対側に逃げなさい。」

「負傷している人がこんなにいっぱいいるのに逃げるわけにはいかないよ!」

負傷兵の治療をしながら、マヒアの指示に拒否を示すフィオ。

頑なに拒むフィオに対して語気を強めて説得するが、フィオは一向に首を縦にふろうとしない。

そんな様子を見て負傷した獣人が力を振り絞るように話し出す。

「フィオ・・俺たちのことはいいから・・逃げろ」

「本当に・・・最後まで聞き分けがない奴だな・・・・・」

「俺たちのせいでフィオまで死んだら俺らは死んでも死にきれねえぞ。」

「みんな・・でも・・・・・」

フィオは目に涙を溜めながら、何かを言おうとするが言葉に詰まってしまう。マヒアはそんなフィオの頭を優しく撫でる。

「フィオはどんなにつらい時でも優しかったし明るかった。そんなフィオが私を含めみんな大好きでたまらないんだ。だからフィオにはどんなに辛くても笑って生きていて欲しい。フィオ。私の最後の我儘聞いてくれないかな?」

「・・・・・・うん。私もマヒアが大好きだよ。」

我慢していた涙腺が崩壊しマヒアの腕の中で泣きじゃくるフィオ。

負傷した獣人達もそんな二人の様子を微笑ましく見つめる。

泣き止んだフィオはこれまでには見た事のない真剣な顔つきになる。

「私がゼーレとパーキ達を絶対に探してくるから。」

「頼んだぞフィオ。」

フィオは「うん!」と勢いよく返事をすると住宅地の方へかけていった。

マヒアはそれを確認すると無事だった兵に一言声をかけ、胸の中に広がる不安を圧し殺しながらガラン達のもとへ向かった。


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